NeilSさんが出してくれたシーズンレビュー(1)、皆さん読んでいただけただろうか?
今回の私からのシーズンレビューはNeilSさんのレビューからの二次考察をさせていただきたい。
以下はNeilSさんのレビューにある表だ。
この表が指し示してくれているものはたくさんあるのだが、私からは以下の2点に注目したい。
ポイント1:2022→23の変化
マクロで見てみると、マテウス移籍前のサッカーは2022年から2023年で数値の傾向は同じであることがわかる。
- 横ばい:KPI1(30mライン侵入率)とKPI3(シュート到達率)
- 改善:KPI2(PA侵入率)、KPI4(枠内シュート率)、KPI5(枠内シュート得点率)
- 悪化:なし
ではKPI1から考察していこう。
KPI1(30mライン侵入率):横ばい
こちらのチームスタイル指標の値でも、ロングカウンター一辺倒であることがわかる。
意外なのは、サイド攻撃の値が悪いこと。これはシュートまで行けた数(丸のなかの数字)が悪いことも影響しているかもしれない。
【ポイント】ロングカウンターである=そもそも攻撃試行回数が少ない=必然的にNeilSメソッドのKPI1(30mライン侵入率)が悪くなる
KPI2(PA侵入率):改善
ペナルティエリアに侵入するためには以下のいずれかが必要だ。
- キーパス(シュートを放った選手にパスやクロスボールを届けたプレー)に反応してエリア内に侵入する
- ドリブルで侵入する
そこに寄与できるのは
- キーパスを出せる選手
- ドリブルで切り込める選手
だ。
キーパスについてはNeilSさんも触れているように、大きな要素としては米本拓司の復帰と復調が挙げられると思われる。そこまでマテウス・カストロ頼みだったキーパスが、2方面から出るようになったことは大きな影響があったと考えられる。
世間の米本拓司に対するイメージは、あきらかに偏っていて、守備面ばかりがフォーカスされることが多い。しかし、2019年風間八宏と出会ったことでパス出し、チャンスクリエイトに進歩を見せた。
米本拓司 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2023 |
所属チーム | FC東京 | 名古屋グランパス | |||
監督 | 長谷川健太 | 風間八宏 | フィッカデンティ | 長谷川健太 | |
ビッグチャンス起点 | 0 | 3 | 2 | 0 | 2 |
平均キーパス数 | 0.2 | 0.9 | 0.7 | 0.3 | 0.8 |
2020年、21年とサッカーが変わるなかでそこに適応できず、このまま復調できなくなるのでは?と心配されたが、2023年に復活を見せた。攻撃面でも2019年に近い数値を出せるようになってきたわけだ。
- 2021年のMF:相馬勇紀・マテウス・前田直輝・柿谷曜一朗・稲垣祥・米本拓司・長澤和輝
- 2023年前半のMF:稲垣祥・米本拓司・森下龍矢・内田宅哉・和泉竜司・マテウス
2021年は米本拓司がパス出しをしなくてもマテウスだけでなく、柿谷曜一朗などもいた。仮説に過ぎないが、「米本拓司は自分がパス出しをしなければ!という意識を強く持っているときにその秘められたチャンスクリエイト能力が発揮されるのかもしれない。
もちろん、米本拓司だけでなくマテウス・カストロの数値も大きい。
内田 | 米本 | 稲垣 | マテウス | |
ビッグチャンス起点 | 1 | 2 | 2 | 11 |
平均キーパス数 | 0.3 | 0.8 | 0.6 | 1.9 |
ここについてはNeilSさんの考察を別データで検証した形になる。
【ポイント】キーパスを出せる選手がいるか、ドリブルで切り込める選手がいれば、KPI2(ペナルティエリア侵入率)は改善できる
KPI3(シュート到達率):横ばい
シュート到達率を高めるために必要な要素として、以下のいずれかが必要だ
- シュートを打てるだけの崩しを見せられる
- もしくは普通ではシュートを打てない状況でもシュートに持ち込める選手がいる
名古屋では、後者の典型的な例としてマテウス・カストロがいたため、彼の在籍中はずっと高いレベルの数値だった。
今年のマテウス・カストロのシュート数は、ハーフシーズンしか在籍していないにも関わらず75本と、全シュート408本中18%を占めている。フルシーズンに換算すると当然倍近くになるだろう。それが1位の理由だと推察される。
さて、愛用させていただいているFootball LABさんにはAGI・KAGIという指標がある。
KAGI
そこで当サイト『Football LAB』では、「守備の際にどれだけ相手を前進させなかったか、相手を自陣ゴールに近づけなかったか」という観点から、チームの新守備指標「Keep Away from Goal Index」、略して「KAGI」を集計して公開します。具体的には、
相手の攻撃時間のうち、自陣ゴールから遠い位置でボールを持っていた時間の割合が高い
相手の攻撃が始まってから、自陣のペナルティエリアまで到達するのにかかった時間が長い
場合に高い評価となるように指標化しています。
AGI
また、「KAGI」と対になる指標として、「攻撃の際にどれだけ相手ゴールに近づけたか」を「Approach Goal Index」、略して「AGI」として公開します。「AGI」は「KAGI」とは逆に、
攻撃時間のうち、相手ゴールに近い位置でボールを持っていた時間の割合が高い
攻撃が始まってから、敵陣のペナルティエリアまで到達するのにかかった時間が短い
場合に高い評価となるように指標化しています。
https://www.football-lab.jp/pages/kagi/
この定義からすると、シュート到達率の高さに応じてAGIはかなり高い数値になるはずという仮説が立てられる。
しかしながらAGIの向上は2%程度に留まった。これはAGIが様々な要素の合成指標のためと考えられる。またマテウス・カストロがいなくなった後の後半戦の数値もならしてあることが大きいと考えられる。
【ポイント】シュートを多く打てる選手がいればKPI3(シュート到達率)は改善できる
【ポイント】良き位置でシュートを打てている=ゴール期待値が高い場合は、それだけ「崩せている」と考えることができるので、この場合もKPI3(シュート到達率)は改善できる
KPI4(枠内シュート率)とKPI5(枠内シュート得点率):改善
シュートに行けているものをゴールに繋げるには、良い形でシュートに行けること=相手の守備陣形を崩せていることが影響する。
もちろんシュート技術が高いFWがいれば、すべて解決できることになる。
今年前半のグランパスの場合、改善理由は明らかで、キャスパー・ユンカーの加入が大きい。
- 平均シュート数:2.3
- 平均枠内シュート数:1.4
- 枠内シュート率:61%
これだけのシュート技術の高い選手がいれば、シュート到達が苦しい形であってもゴールに結びつけることができるようになる。
【ポイント】良き位置でシュートを打てている=ゴール期待値が高い場合は、それだけ「崩せている」と考えることができるので、この場合もKPI4(枠内シュート率)は改善できる
【ポイント】シュート技術の高い選手がいればKPI5(枠内シュート得点率)は改善できる
ポイント2:マテウス離脱による変化
ここについて考察してみよう。
- 横ばい:KPI5(枠内シュート得点率)
- 改善:KPI1(30mライン侵入率)
- 悪化:KPI2(PA侵入率)、KPI3(シュート到達率)、KPI4(枠内シュート率)
KPI5についてはキャスパー・ユンカーのシュート技術に因るところが大きいので考察外とする。
KPI1(30mライン侵入率):改善
こちらについては、「持たされたのでは?」という仮説をNeilSさんが立てていた。
改善する理由としては以下が考えられる。
- グランパスにボールを持たせても怖くないのでボールを持たせた
- ボールを運んでくれるマテウス・カストロがいなくなったことで、チーム全体でボールを持ち上がるように変更した
実際にはどちらかではなく、両方なのでは、と考察する。
たとえば引分けに終わった31節サガン鳥栖戦では、ボール奪取位置が40m越えと、かなりのハイプレス気味であったことがわかる。32節の湘南ベルマーレ戦では敗戦したものの、まさかのDFまで全員敵陣に攻め上がる様子が見られた。
当然ながらDFが攻撃参加すれば、守備ブロックが甘くなる。当然失点も増加することになる。
失点数/試合数 | 平均失点 | |
マテウス離脱前 | 20失点/21試合 | 0.95 |
マテウス離脱後 | 16失点/13試合 | 1.23 |
約30%も失点が増加している。
【ポイント】DFの攻撃参加が増えると、当然前線はより高い位置を取ることになり、KPI1(30mライン侵入率)は改善できる
【ポイント】低リスク(マテウス・和泉・森下任せ)で30mライン侵入できていた前半戦に比べてリスクが高くなっている
KPI2(PA侵入率):悪化
【再掲】ペナルティエリアに侵入するためには以下のいずれかが必要だ。
- キーパス(シュートを放った選手にパスやクロスボールを届けたプレー)に反応してエリア内に侵入する
- ドリブルで侵入する
マテウス・カストロはこの両方を担うことができる選手だった。
内田 | 森島 | 稲垣 | マテウス | |
ビッグチャンス起点 | 1 | 3 | 2 | 11 |
平均キーパス数 | 0.3 | 1.4 | 0.6 | 1.9 |
後半戦の中盤は内田・森島・稲垣が主軸になっていたが、森島司の数値は高めなものの、キーパスの数は多くてもビッグチャンスを作れるか?という点では及ばない。
平均キーパスの高い値を誇っていたマテウス+数試合の間米本拓司が抜けたことで、少なくともキーパスの数が減少している。これが数値の悪化の一因だと考察する。
【ポイント】ドリブルで切り込めるマテウス・カストロ、キーパスを出せるマテウスと米本が離脱したことでKPI2(ペナルティエリア侵入率)は悪化した
KPI3(シュート到達率)とKPI4(枠内シュート率):悪化
【再掲】シュート到達率を高めるために必要な要素として、以下のいずれかが必要だ
- シュートを打てるだけの崩しを見せられる
- もしくは普通ではシュートを打てない状況でもシュートに持ち込める選手がいる
- シュートに行けているものをゴールに繋げるには、良い形でシュートに行けること=相手の守備陣形を崩せていることが影響する。
名古屋グランパスのシュート到達率の高さは、ひとえに後者の「普通ではシュートを打てない状況でもシュートに持ち込める選手=マテウス・カストロ」が居たからと考察できる。
そうなるとシュートを打てるだけの崩しが必要になる。
では、ゴール期待値が試合ごとにどう変化をしたのかをまとめてみる。ゴール期待値はFootbal-LABのものを使用している。
まず1つ目のターニングポイントは新潟戦と考える。
前半で素晴らしい出来を見せていた和泉竜司が負傷し、また相手に大怪我を負わせてしまった米本拓司を次の試合から暫く外すことになった(その後練習中の怪我で長期離脱)。
マテウス・カストロがいなくてもドリブルで持ち込める和泉竜司の離脱はかなり痛かったと思われるし、キーパスを出せる米本拓司の離脱したことも痛かった。ここから
極端に悪化しているのはポイント2、セレッソ大阪相手にVARで先制ゴール取消、失点するも追いついたが、また後半終わり近くに失点を繰り返して敗戦をした試合あたりからはじまったどん底期にハマっていく。
テクニカル面では中核となる和泉竜司・米本拓司を欠いた上で、チームにまだ馴染んでいない森島司をぶっつけ本番で使わざるを得ない状況だと、ギクシャクしてしまうのは間違いない。
メンタル面では、よりどころになる選手がいなくなったことで、選手の気持ちがまとまらない部分があったのではないかと想像する。
いずれにしても腰の引けた戦いが続く。
上向きになるターニングポイント3はサガン鳥栖戦、開き直ってDFも攻撃参加をするようになり、それによって劇的にゴール期待値も回復をする。ただしその代わり失点も増えた。
【ポイント】和泉と米本が離脱したことでKPI3(シュート到達率)とKPI4(枠内シュート率)は悪化した
【ポイント】運べる選手がいなくなったなら、全員で運ぶしかない
まとめ
2023年シーズンの最終形は、23年前半までの外国籍選手頼みのサッカーから、全員で運び、全員で攻め、そして全員で守るという形態に落ち着いた。(もちろんまだ完成度は高くない)
攻撃面ではディティールを詰める必要はあるものの、最後の4試合レベルのゴール期待値が出せるのであれば問題ない。
問題は実はそれによって増えた失点をどう対策するのかなのではないか、と考える。
見えかけていたタイトル2つを犠牲にして、至極真っ当なサッカーに舵を切った名古屋グランパス。
DFの攻撃参加と、守備への切り替えをもう1段階レベルアップすることがもとめられる2024年になりそうだ。
それだけの選手は揃った。期待して応援しよう。