空白の2年間に君臨したU-18戦士 加藤玄
加入内定は突然に
2024年12月12日(木)
「加藤 玄選手、2025.シーズン加入内定のお知らせ」
名古屋グランパス公式からの突然のリリースに私は驚きを隠し切れませんでした。
なぜなら、加藤玄選手は現在筑波大学3年生。本人からのコメントには「大学卒業を待たずにプロサッカー選手として勝負する」とあり、まじかよ!と再び驚き、それと同時に胸の高鳴りが!!
グランパスのアカデミーを追いかけている私にとって、この世代においては加藤玄選手と真鍋隼虎選手(明治大学3年)のグランパス帰還は、必ず果たされるであろうミッションと考えておりましたので、あまりにも突然に訪れた加藤玄選手の帰還には嬉しさとともに安堵感がありました。
グラぽ編集長からのDMが届いたのはそんな折でした。
「加藤玄選手のU-18時代の記事を書けませんか?」
私としては書きたい気持ちはやまやまでしたが、
「当時はコロナ禍ということもあり、現地観戦が思うようにできず、限定的にYouTubeで配信された数試合を確認するのが精一杯という環境だったので、本当にイメージというか、さわり程度になってもよろしいでしょうか・・・」
とお返ししました。
すると、
「そうなんですよね。誰も書けない・・・」
と編集長。
2020年の頭から2021年の年末にかけての2年間というのは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の初動対策に社会全体が振り回されていた2年間でした。
学生スポーツの世界においても、公式戦の中止は当たり前。何とか開催にまでこぎ着けたとしても無観客試合になる場合が多く、私たちサポーターにとっても選手たちにとっても苦難と試練の2年間となりました。
ですから、2020年、2021年は現場での目撃者がほとんどおらず、このとき編集長がおっしゃった「誰も書けない」という言葉は、空白の2年間を表す言葉として私の中ではとても重く響きわたりました。
若鯱たちの躍動は確実にそこにあって、そしてそこで闘っていて、何としてでも彼らの息遣いを記録に残したいと心に決めた瞬間でもありました。
U-18時代の加藤玄選手のプレースタイルを探しに
それでも現地観戦は難しくとも、配信があれば可能な限りにU-18の試合を追い続けていた私としては、加藤玄選手に対する強いイメージは持っておりました。
編集長には執筆する旨をお伝えし、私が抱いている加藤玄選手のイメージをより強く呼び戻すために、ひとまずTwitterでの自分の過去ログを振り返ってみることにしました。
コロナ禍で世界が大混乱に陥っていた2020年は、2年生ながら本職のボランチでチームの中心的役割を担っていた加藤玄選手。
2021年のアカデミー最終学年になると、本職であるボランチからは早々に離れ、初夏を迎える頃には「4-4-2」の左センターバック(CB)へとコンバートされ、大きな飛躍のときを迎えたのでした。
コンバートの理由については「チーム事情」と古賀聡監督が語っています。
その年の夏、日本クラブユースサッカー選手権U-18大会において、グランパスU-18は見事優勝を果たします。そして大会MVPに輝いたのは、なんと不慣れな左CBで参戦した加藤玄選手でした。
当時の古賀聡監督のコメントからも加藤玄選手に対する絶大なる信頼感をうかがい知ることができます。
そして、さらにTwitterの過去ログを読み進めていくと「加藤玄選手の代名詞」とも言える圧巻のプレーに辿り着きました。
「加藤玄」と聞いて私がまず真っ先に思い浮かべるプレー映像がこちらです。
自陣の低い位置でボールを受けると、チェイスをかける相手を引き剥がし、そのまま一気に持ち上がります。迫力満点のドリブルでセンターサークル付近にまでボールを運ぶと、相手DFの背後を狙う甲田英將選手へと鋭いスルーパスを通します。
U-18時代の加藤玄選手は、恵まれた体格を活かしたダイナミックなプレーというのがとても強く印象に残っています。
対人守備では米本拓司選手のようにズバッと刈り取るタイプというよりは、長い足を活かして鋭く寄せて相手とボールとの間に身体をねじ込ませて引き剥がして奪い取るタイプだと感じています。
安易に飛び込むことはせず、ジワジワ相手との距離を詰め「機を見て鋭く寄せて奪い取る」そんなイメージです。
パスで魅せる加藤玄
そして、なんといっても加藤玄選手の最大の武器はキックの精度ではないでしょうか。
決定的なパスを配球できる視野の広さも見逃せません。
高校3年時のプレミアWESTで魅せた素晴らしいパス映像を血まなこになって探してきましたのでご覧ください。(加藤玄選手は背番号5です)
2021.プレミアリーグWEST第1節 vs. サガン鳥栖U-18
119秒から 一気に前線に通すスルーパス 映像:JFATV
170秒から 前線のポストプレーヤーにつける組立てのパス 映像:JFATV
2021.プレミアリーグWEST 第8節 vs. ガンバ大阪ユース
※上記動画の再掲 : 17秒から 相手のプレスを剥がして30mくらいをドリブルで持ち上がり、甲田英將にスルーパス 映像:JFATV
193秒から 相手のプレスをかわして右サイドにサイドチェンジのパス 映像:JFATV
2021.プレミアリーグWEST 第17節 vs. ガンバ大阪ユース
376秒から 相手の枚数の多い中盤にズバッと縦パスをつける 映像:JFATV
センターバックのときよりもボランチ(第1節)での加藤玄選手の方が魅力的に映るのは私だけでしょうか。
ボランチからセンターバックへとコンバートされても遜色なくプレーでき、そのような不慣れなポジションにもかかわらずクラ選の大会MVPを獲得してしまうわけですから、戦術理解と状況判断能力はずば抜けているのだろうと思います。
実際のプレー映像を視ても、瞬時のパス判断や、ボールを落ち着かせて持ち運ぶ判断など、迷いのない的確なプレー選択ができており、高校年代からこのレベルでやれているのは本当に凄いなと感心します。
ボールを預ければ安定した足もとの技術でゲームメイクし、大きな身体を活かして相手を剥がす、また状況に応じて鋭い縦パスを配球したりと、基本技術の高さとプレースケールの大きさを見るにつけて、将来どのようなキャリアを積み上げていくのか本当に楽しみになってきます。
そして、U-18時代の映像を見返せば見返すほど、アンカーポジションでの加藤玄選手を見てみたいと、そんな思いに駆られるのでした。
名古屋の未来のために頼むぞ加藤玄!!
写真提供:🐼 @sakupnd96 さん
コロナ禍での選手たちの写真は超貴重
執筆後記
ちなみに私が加藤玄選手のプレーを生で観戦できたのは、2021年11月3日のプレミアWEST ジュビロ磐田U-18戦が最初だったと記憶しています。
ホームのトヨタスポーツセンターではコロナ対策を万全に行った上で、事前申込制による100名限定の有観客試合として開催されました。
その当時の感動は筆舌に尽くしがたいものがありました。
私たちが当たり前に観ていた世界が失われ、それを限定的ながらも何とか取り戻すことができた瞬間でした。
有観客での試合開催を実施するにあたり尽力されたスタッフの皆様には本当に感謝します。
COVID-19という見えない敵に翻弄され続けた2年間、私たちYBの闇夜を照らし続けてくれた若鯱たちには心から感謝します。
2021年12月5日 プレミアリーグWEST最終節
最後にみんな、笑顔で集まることができました。本当によかった。
これからも、それぞれの道で頑張れ!!