
デスク「どうもデスクです。」
喋る机:用語解説:スポーツ紙や夕刊紙に登場する「デスク」の異称。『日刊ゲンダイ』の記者室に生息するとされるものが有名で、現地取材なしに「記者と机の対話」だけで記事を構成する省力化(?)スタイルで一世を風靡した。記事は「記者と無機物たる机の高尚な対話の記録」という体裁をとる。
野暮を承知で補足すると、その実体は新聞社で取材の統括や校閲・承認を担う実在の役職者である。
記者「どうも記者です。デスクよろしくです」
打たずに終わる苛立ち、打って終わる苛立ち
記者「グランパスを見ていると、『なんでそこでシュートを打たないんだよ!』って言いたくなること、ありませんか」
デスク「あるよ。
ゴール前まで行って、もう1本パスを出して、それが引っかかって終わるとね。さっき打てたんじゃないか、とは思う」
記者「でも、打ったら打ったで、『そこから打っても相手に当たるだろ。もう少し崩してくれ』とも言いたくなるんですよね」
デスク「どっちなんだ、と言われそうだな。ただ、その2つは場面が違えば両立する。打てるときには打ってほしいし、無理なら周りを使ってほしい」
記者「そうすると、結論は『バランスが大事』になるんですが。それで話を終えると、何を見て判断するのかが残ります」
デスク「じゃあ、両方の立場から考えてみよう。まず、何に腹が立っているんだろう」
記者「『打て』と言う側には、チャンスを逃した苛立ちがあると思います。せっかくゴール前まで来たのに、何も起こせず終わった。相手が戻る前に勝負してほしかった、と」
デスク「全部が『とにかく打てばいい』という意味ではないわけだな。今あった機会を使ってくれ、ということか」
記者「はい。一方、『崩して』と言う側には、チャンスを十分に使わず終えた苛立ちがある。味方が動いているのに、正面の相手にぶつけて終わる。それなら、もう1本つないでほしかった、と」
デスク「同じ攻撃を見ていても、片方は『待ちすぎて失った』と感じ、もう片方は『急ぎすぎて失った』と感じているんだね」
記者「どちらも、得点につながる攻撃をしてほしいんですよね。そこは共通していると思います」
思考実験① そのパスは、何を良くするのか
記者「ここからは架空の場面で考えましょう。特定の試合や選手の再現ではありません。
ゴール正面、ペナルティエリアの少し外でボールを持っています。
体勢は整っていて、今はシュートコースがある。
ただ、守備者が寄せてきています」
デスク「それなら打ってほしいな。もう少し待ったら、コースを塞がれそうだ」
記者「横には味方がいます。パスも出せます」
デスク「その味方は、今のボール保持者より良い状態で打てるの?」
記者「受けてもゴールまでの距離はほとんど変わらず、相手も近くにいます」
デスク「だったら、パスを加える理由はあまりない。受け手がボールを整える間に、相手も寄せられる。今あるコースを使ったほうがよさそうだ」
記者「パスが通ることと、攻撃が良くなることは別ですね」
デスク「ただつながっただけなら、その間に打てる機会を逃すこともあるからね。
時間をかけるということは、守備が戻る時間を与えることになる。」
記者「では、味方の状態だけを変えます。横の味方はエリア内でフリー。パスコースも空いていて、受けたら今より近い位置から打てそうです」
デスク「それならパスを考える。今でも打てるけど、そちらに渡せば、もっと良い形になりそうだ」
記者「今度は私が『でも、パスをミスしたら終わりますよ』と言ってみます」
デスク「それはそうだよ。でも、今のシュートも入るとは限らない。パスだけに失敗の可能性を持ち出すと、比較が偏る。どちらも成功と失敗を含めて考えないと」
記者「逆に、『パスさえ通れば決定機』と言う側も、その『通れば』を軽く扱えませんね。守備者の足元を通す難しいパスなら、話は変わります」
デスク「そう。パスを選ぶ理由は、味方がいることだけでは足りない。そのパスが通りそうか、受けた後に本当に良くなるかまで見たい」
思考実験② シュートの後を変えてみる
記者「次は、シュートがブロックされるかもしれない場面です。
ボール保持者の前に守備者がいて、十分なコースはありません」
デスク「それだと、打っても相手に当たるかもしれないな」
記者「ただ、周囲には味方がいて、こぼれ球を拾いに行ける。
後方にも、相手のカウンターに対応する選手が残っています」
デスク「それなら、ブロックされたら即座に攻撃終了、とまでは言えないね。
拾ってもう一度攻められる可能性はある」
記者「では、シュートを打つ選手と守備者の位置はそのままにして、味方の配置を変えます。こぼれそうな場所に味方がいない。相手に拾われたら、前へ運ばれそうです」
デスク「同じシュートでも、そちらは選びにくくなる。
直接の得点を期待しにくいうえに、失った後の危険もあるから」
記者「『打てばこぼれ球がある』という主張も、拾う人がどこにいるかまで考える必要がありますね」
デスク「『打ったらカウンターを食らう』という主張も同じだよ。
打つたびにそうなるわけではない。
誰が回収できて、誰が相手を止められるかで変わる」
記者「パスも、そこをそろえて比べないといけませんね。
中央へのパスを奪われて、相手が前を向いて走り出せるなら、パスにも危険があります」
デスク「ボールを失うかもしれない、だけでは決められないな。どこで、どう失うか。
その後に味方が対応できるかまで含めて、両方を見たい」
思考実験③ 結果だけを入れ替えたら
記者「最初の、コースが空いていて打つ理由があった場面に戻ります。
選手がシュートを打ちました。でも、枠を外しました」
デスク「見ている側は、『横に出せばよかったのに』と言いたくなるかもしれない」
記者「同じ体勢、同じコース、同じ味方の位置で、今度はゴールが決まりました」
デスク「それなら『よく打った』となるよね。でも、選んだ時点の条件は同じだ」
記者「結果が違うだけで、選択の評価まで全部変えてよいのか、ということですね」
デスク「シュートを選ぶ判断と、そのシュートをうまく蹴れたかは、分けて考えたい。
打つのが妥当でも、キックを失敗することはある」
記者「パスも同じです。より良い位置の味方を使う判断は妥当だったけれど、パスがずれた。その場合には、判断と精度を分けて検討できます。」
デスク「ただ、いつも通せないような難しいパスを選んでいるなら、精度だけの話でもないよね。自分たちが実行できるかどうかも、選択に含まれる」
記者「はい。『判断は正しかった』で毎回済ませることもできません。
何度も同じ形で失敗するなら、狙い方や受け手の動きも見直す必要があります」
デスク「それでも、失敗したから間違い、入ったから正解、と1回の結果だけで決めるのは避けたいな」
記者「見ている側には、パスを奪われたという結果が見えています。でも、『あのとき打っていたら』の結果は見えません。そこを、入ったかもしれないシュートとして想像してしまう」
デスク「逆もあるね。シュートが外れると、出していれば通ったはずのパスを想像する。
実際には、そちらも失敗したかもしれないのに」
記者「選ばなかったプレーを、成功するものとして扱わない。
両方の立場に必要な注意ですね」
「打て」と「崩せ」を、もう少し具体的にする
デスク「ここまで考えると、やっぱり場面次第ではある。ただ、最初の『バランス』より、見るところははっきりしたかな」
記者「今のシュートで何が期待できて、パスを加えると何が改善し、その途中で何を失うか。それを比べることになりますね。
ただ、もう一つ加えたいことがあります。相手のDFも、こちらが何を選ぶかを読んでいるということです」
デスク「この選手は打ってくる、この選手はパスを出す、この選手はドリブルで来る。そう分かっていたら、守る側も対応を絞りやすい。
U21日本代表でも、U23韓国代表は日本の武器が横山夢樹のドリブルと読まれていたな。」
記者「はい。シュートを選ぶと読めれば、コースを塞ぐ準備をしやすい。
パスを選ぶと読めれば、受け手やパスコースに注意を向けやすい。
ドリブルなら、突破する方向を限定したり、味方のカバーを使ったりする準備ができます」
デスク「もちろん、分かっていても止められない選手はいる。
得意なプレーを繰り返すこと自体が悪いわけではないけど、相手がほかの選択肢をほとんど気にしなくてよいなら、守りやすくはなるだろうね」
記者「そこをもう1つ思考実験してみましょう。
エリアの手前でボールを持っていて、前にDFがいる。
横には味方もいる場面です。DFが『この選手はここから打たない』と思っていたら、シュートへの対応を後回しにして、パスやドリブルを警戒できます」
デスク「でも、そこから打つこともある選手なら、同じ守り方では済まない。
寄せてシュートを止めたいけど、近づけばドリブルで抜かれるかもしれない。
パスを切ろうと位置をずらせば、打つコースができるかもしれない」
記者「相手に複数の対応を考えさせられれば、寄せ方や立ち位置に迷いが生まれることがあります。
相手の行動から、なにを警戒しているのかを見て、こちらが打ち手を選べるようになるといいわけですね。」
デスク「さっきまでは『空いているコースを使うか』を考えていたけど、相手に別の選択肢を意識させて、コースを作ることも考えたいな」
記者「たとえば、シュートを打てる体勢を見せて、ブロックに動いた相手の脇へパスを出す。
横へのパスを意識させて、相手がそちらを気にした瞬間に自分で運ぶ。
ドリブルで進みながら、相手が下がれば打つ、寄せてくれば味方を使う。
そうした選び方です」
デスク「パスかシュートかの二択にしていたけど、自分で運ぶことも含めて、相手の対応を変えるわけだね。ボールを持っていない味方の動きも関係しそうだ」
記者「はい。味方が受けられる位置に動けば、DFはそのパスも気にする必要があります。逆に、受け手がいなければ、ボール保持者がパスを出すそぶりを見せても、相手はあまり気にしないかもしれません」
デスク「ただ、『相手を迷わせるために、ときどき無理なシュートも打て』という話になると、最初に考えたリスクを忘れてしまうな」
記者「そこは気をつけたいですね。相手が警戒するのは、実際に得点や突破につながりそうな選択肢です。打てる体勢やコースがあり、パス先の味方も使える。そのうえで、どれを選ぶかを早く読ませない工夫が必要になります」
デスク「順番にシュート、パス、ドリブルを選べばよい、ということでもないね。その場面で無理なことを混ぜれば、こちらがボールを失うだけになりかねない。
大事なのは相手がどう守ろうとしているのかを読み取れるようになって、その裏をかくことだと思う。」
記者「それに、相手を迷わせることと、自分が迷ってプレーを遅らせることも違います。
複数の選択肢を持ちながら、相手の反応に合わせて決める。判断を先延ばしにすれば、その間にコースを塞がれることもあります」
デスク「残り時間と得点差も、その判断に関わるだろう。負けていて時間がなければ、もう一度作り直す間に試合が終わるかもしれない」
記者「はい。ただ急いで打つとしても、相手に準備されているコースへぶつけ続ければよいとは限りません。
今ある機会を使うことと、その機会をどう作るかを、両方考えたいですね」
デスク「そう考えると、『打たない選手は消極的だ』と気持ちだけで評価するのも、やっぱり違うと思う。
シュートを警戒させてからパスを選んでいることもあるだろうし」
記者「逆に、パスを出したというだけで、相手を崩せたとも言えません。
相手が予想したとおりにボールを動かしているだけなら、パスが通っても守備はほとんど動いていないかもしれません」
デスク「打ったか、出したかだけでなく、相手がどう反応したかも見たいな。
シュートコースを塞ぎに来たのか、パス先を気にしたのか、抜かれるのを警戒して下がったのか」
記者「『打て』と思ったら、どのコースが空いていて、相手が打たせまいと動いていたのか。『崩せ』と思ったら、誰にどう出せば相手を動かせたのか。
そこまで考えると、その選手の、その選択を理解できるようになりますし、その選択の是非を語れるようになると思うのです。」
デスク「もちろん、画面や座席から見えることには限りがある。
選手の視界も、DFが何を警戒していたかも、全部は分からない。
その前提で、映像を見直したり、別の見方を聞いたりしたいね」
記者「私も次の試合で、『そこは打ってくれ!』と言うと思います。
でも、その後で、打たないことに相手が慣れていなかったか、パスの前に相手を動かせていたかも見てみたいです」
デスク「俺も、打ってほしかったという気持ちは残ると思う。
ただ、『もっと打て』だけで話を終えると、相手もそれに備えればよくなる。
打てる、出せる、運べる。その選択肢を相手に意識させたうえで、どこに隙ができたかを見てみたい」
記者「バランスという言葉にも、その相手との駆け引きを含めたいですね。
こちらが何を選ぶかで相手の守り方が変わり、その守り方を見て、こちらも選び直す」
デスク「うん。『なんで打たないんだ』の先で考えたいのは、その場面で何ができて、相手が何に備えていたかだね。
そこまで見て、それでも打つべきだったのか、別の選択で相手を動かせたのかを話せれば、批判も建設的になると思う」
記者「『自分は素人だから』と考えるのをやめずに、『なんでそこでパスなんだろう?』という疑問から始めてもいいかもしれませんね。
選手から見た景色は私たちには見えませんが、スタンドやテレビの向こうにいる私たちは、引いた位置から、選手本人には見渡しにくい周囲の配置を見られることもありますからね。」
デスク「その場では良い選択だったとしても、実行で失敗することはある。
そこも理解したうえで、次は成功するように応援したい。
失敗を責めるばかりで、選手が次に挑戦しにくくなるような応援にはしたくないな」
記者「すべてはグランパスの勝利のために。ですね。応援しましょう。」

