名古屋グランパスっていっつも同じスタメンだよね、って他のクラブのサポーターから言われます。印象はデータで検証しみよう、ということでコナカ先生 @konakalab に検証していただきました。
好調名古屋グランパス,過密日程で心配なのは…?
この原稿執筆時点(10月15日)では22試合で勝点42を積み上げ,すでに2019年の37を超えました.私も久々の瑞穂現地観戦(10月10日C大阪戦&10月14日札幌戦)で連続完封勝利を目撃して気分は上々です.
このままのペースが続けばシーズン通算の勝点が65に近づき,実現すれば2005年(18クラブ34試合制)以降ではクラブ史上3番目の高水準です(勝点72:2010(優勝),同71:2011(2位),同59:2008(3位)).
そんな好調グランパス.でもサポーターの心配事は尽きることはありません.特に今シーズンは過密日程をこなさなくてはならず,そのために特別に選手交代が5人まで認められています.そんな中,
- 連戦なのにスタメンが大体同じような気がするけど,他のチームはどうなんだろう?
- 連戦で選手のプレーの質が落ちてしまわないだろうか?
- 連戦で選手がケガをしたりしないだろうか?
- ケガで長期離脱した選手が出てしまった場合,代わりの選手が活躍できるのだろうか?
- 5人の選手交代を有効に使えないだろうか?
という疑問をお持ちかもしれません.少なくとも私は気になっています.個人的な直感としては,名古屋はスタメン固定気味で選手交代も消極的な印象を持っています.
「印象はデータで検証しよう!」という標語(今考えました)に則りまして,この記事ではまず,選手の出場時間の集中度合いをはかるための指数を考えてみます.そして,その指数をJ1全クラブの過去にさかのぼって算出し,順位との関係を眺めてみることとします.
出場時間の集中度合いをどのようにはかるのか?
サッカーは(選手交代が無ければ)11人の選手が90分プレーするスポーツです.選手交代も無く,1シーズン全試合同じ選手がプレーするのが「最も出場時間が集中している」状況と考えられます.
実際には選手交代や試合ごとのスタメンの変更があり,出場時間は選手の間で分配されます.通常,J1のチームは1シーズンで30名前後の選手を起用することが多いので,ひとまずここでは「30人の選手が1シーズンの試合時間をすべて均等に分け合う」状況を「最も出場時間が集中していない」ことと定義しましょう.
これらの状況を表したのが下の図です.図では,試合の出場時間が長い順に並べ替え,さらにその時間を順に積み上げて棒グラフにしています.灰色が11人のみがフル出場,青色が30人が均等に出場している場合です.横軸は出場時間が多いほうからの選手の順番,縦軸は合計の出場時間数です(34[試合]×90[分]×11[人]=33660).
実際の選手起用は灰色よりは短く(下)で青よりは長く(上)になります.そのとき,青色の図形からはみ出た面積を灰色で見えている部分の面積で割ることで,選手の出場時間の集中度合いをはかることとしましょう.実際に11人フル出場であれば1.0,30人が均等に出場していれば0.0であり,実際の値は必ず0.0から1.0の間の値となります.そして,実際の出場時間が灰色に近い程1.0に近い値が出てきます.この値をここでは「出場時間集中係数」と呼ぶこととします.
言葉の説明ではわかりにくいので,今シーズンの名古屋の出場時間を利用して図を描いて出場時間集中係数を算出してみます.以降,出場時間はすべてJ1リーグ戦のものです.また,データはSoccer D.B.(https://soccer-db.net/)さまで公開されているものを利用しています.
この図で,名古屋の選手の出場時間を大きい順に並べて,さらに順に足し合わせて描いた棒グラフが赤い図形です.1分以上出場している選手は22人でした(22人目は札幌戦で今シーズン初出場を果たした藤井選手).青からはみ出ている赤い部分の面積を,最初の図の灰色の図形の面積で割ると0.891と算出されました.赤い図形はかなり灰色の図形に近いように見えます.
さて,「この値が大きいのか小さいのか?」が重要です.今シーズン独走中の川崎フロンターレ,および出場時間集中係数が最小となった横浜F・マリノスの図を示します.
川崎は出場選手数は22人と名古屋(22人)と同じですが(実は現時点で出場選手数は少ないほうの1位タイ),名古屋と比べて選手間でより出場時間が分配されていることが分かります.攻撃陣は複数のユニットが使い分けられ,後半に交代でより強力になるイメージがあります.象徴的なのは三笘選手で,先発4試合,交代出場15試合で836分と出場時間自体は長くありませんが,10得点/836分=1.08得点/90分と90分換算で1点を超える異常な得点ペースを達成しています.
川崎とは変わった形で出場時間を分配しているのが横浜F・マリノスです.28人の選手を起用しており,1名を除き90分以上の出場時間を記録しています.今シーズンのチーム単位での走行距離の上位は軒並み横浜F・マリノスが占めており(https://www.jleague.jp/stats/distance.html 執筆時点では走行距離トップ10のうち7試合が横浜F・マリノス),このあたりのチームのスタイルと出場時間の分配は関係あるように思われます.
順位との関係を調べてみる(2005年以降)
検証しましょう.18チーム34試合制が確立した2005年以降のJ1で出場時間集中係数を算出しました.順位との関係を図示してみます.
青は過去(2005年から2019年),橙は2020年(10月15日時点),赤四角は名古屋のデータです.橙の点のみを見ると,名古屋(執筆時点で4位)は今シーズン最も出場時間が集中しているクラブであることが分かります.選手を相当固定しているのではないか…という直感をお持ちだった皆さん,正解だったようです.
緑丸線は順位と出場時間集中係数との間の近似直線です.この線より右は「その順位としては選手起用が集中している」,左は「その順位としては選手起用が分散している」ことを意味します.
順位と出場時間集中係数の間には相関が認められます(決定係数=0.33).大まかな傾向としては以下が言えそうです.
- 上位チームでは主力選手に出場時間が集中する(0.8以上のチームが多い)
- 出場時間を分散させながら上位であるチームは多くない.今シーズンの川崎F,FC東京(執筆時点で2位)はかなり例外.
- 降格圏またはそれに近いチームでは出場時間が分散している.
ただしこれらは必ずしも因果関係を示さないことに注意が必要です.また,出場時間集中係数の大小は優劣ではなく特徴を示しているに過ぎないことにも注意してください.
具体的には,下位チームは成績が振るわない→選手を補強して起用する→出場時間が分配される,というように,成績不振が先にあって出場時間の分配へ影響していることも考えられます.上位チームでも,主力選手がケガが無くパフォーマンスが落ちなかった→出場時間が集中した,というように,チームマネージメントがうまくいっているからこそ出場時間が集中している場合もあり得ます.
名古屋の過去を振り返ると,優勝年(2010年)でも出場時間が(この順位の割には)抜きんでて集中していたとは言えないことがわかります.ただし,上位進出年(2010年:優勝,2011年:2位,2008年:3位)では必ずその順位の平均よりも出場時間が一部の選手に集中しており,「出場時間を多数の選手で分けながら上位進出を実現したことがない」という事実が明らかになりました(若干つらいですね…).出場時間の集中は若手の育成と関連付けて考えられることも多いようですが,その場合は出場している選手の年齢の方が重要になるでしょう.
今シーズンの名古屋は特定の選手に出場時間を集中させる方針でここまで戦ってきました.そんな中,10月10日のC大阪戦で,残念ながら吉田選手が負傷し,長期離脱が濃厚となっています.14日の札幌戦で負傷退場となってしまったシャビエル選手については,執筆時点では怪我の程度が報道されておらず,心配です.
次戦は首位川崎Fとのアウェー決戦です,奇しくも前回(第12節.8月23日.名古屋 1-0 川崎F@名古屋.https://nagoya-grampus.jp/game/result/2020/0823/live__12vs_4.html )同様,川崎Fが10連勝後の対戦となりました.監督がどのような選手起用を選ぶのか,出場した選手がどのような活躍を見せてくれるのか,に注目したいと思います.