質問箱からです。
「グランパスの選手の記事など見てると「走り負けない」とかよく出ますが、ミシャ式になりスペースがいい意味でも悪い意味でもできる、作るサッカーのためより走らなきゃいけないのにデーターで見るとグランパスって全チームの中で見てもそこまで走行距離やスプリント多くないですよね?先生はこの点どうお考えでしょうか??」
数字を見ると、たしかに名古屋グランパスは「とにかく走るチーム」ではないんですよね。
J1百年構想リーグのポゼッション時のスプリントは20チーム中10位。攻撃のときは平均的ですね。
1位の鹿島が平均89回に対して名古屋は10位で平均57回。
ちなみに最下位の横浜F・マリノスが平均34回。
1試合平均のポゼッション時総走行距離もポゼッション時32kmで20チーム中9位です。
名古屋はゆったりボールを持つチームというより、ボールを奪ったら一気に前へ出る場面も多いので、もう少し上位なのかなと思っていました。個人的にはちょっと意外な数字です。
ただ、選手ごとに見ると少し印象が変わります。
中山克広と木村勇大、この2人だけでチームのスプリントのかなりの割合を占めています。
つまり名古屋は「全員が均等に走る」というより、走る役割がある程度はっきりしているのかもしれません。
中山が大外を走り、木村が背後へ走る。そのランニングで相手を動かしたり、時間を作ったりしている間に、ほかの選手が前へ出ていく。
そう考えると、速攻型なのにチーム全体のスプリント数が10位というのも、それほど不思議ではなくなります。
名古屋は走らないのではなく、「誰が走るか」がかなり決まっている。
そんな見方もできそうです。
ただ、もっと気になるのは被ポゼッション時です。
J1百年構想リーグでは、1試合平均の被ポゼッション時スプリントが最も多いマリノスが約92回。それに対して名古屋はなんと最下位!約38回で、半分以下です。1試合平均の被ポゼッション時走行距離も32kmで20チーム中17位です。
この数字だけを見ると、「走り負けない」という言葉から想像するような、相手がボールを持ったら全員で猛烈に追い回すチームではないことは確かだと思います。
ただ、ここで「マリノスは92回、名古屋は38回だから、守備時の運動量が2倍以上違う」とするのも少し乱暴です。
チームによってボールを持たれている時間が違うからです。
そこでAPT(アクチュアルプレイイングタイム)とボール保持率から、実際に相手がボールを持っている時間をざっくり計算してみます。
名古屋はAPTが53分08秒、平均保持率が52.1%。なので、実際の非保持時間は1試合あたり約25分27秒になります。
この約25分半の間に38回スプリントしているので、非保持10分あたりでは約14.9回です。
一方のマリノスはAPT50分18秒、平均保持率48%。非保持時間は約26分09秒です。
そこに92回のスプリントがあるので、非保持10分あたり約35.2回。
こうして実際に相手がボールを持っている時間で補正しても、マリノスは名古屋の約2.4倍スプリントしています。
なので、「名古屋はボールを持っている時間が長いから守備時のスプリントが少なく見えるだけ」という説明では、この差は埋まりません。
これは結構面白い数字だと思います。
ちなみにマリノスはポゼッション時のスプリントが20位なのに、被ポゼッション時は1位。
ボールを持っているときはあまりスプリントせず、失ったら一気に走る。数字だけを見ると、かなり特徴がはっきりしています。
これはこれで考察しがいがありますが、今回は名古屋の話なので置いておきます。
では、名古屋は守備で走っていないのか。
ここでもう一つ注意したいのが、「スプリント回数=守備の運動量」ではないということです。
Jリーグのスプリントは一定以上の速度まで上がった走りがカウントされます。
たとえばボールを失った瞬間に5mだけ強く寄せる、進路を切るために急加速する、横へ素早くスライドする、いったん止まってまた寄せる。
こういう動きはかなりしんどいですし、守備では重要ですが、必ずしもスプリントとして記録されるとは限りません。
特にミシャ式の4-1-5からビルドアップ時にボールを失った場面を考えると分かりやすいと思います。清水エスパルス戦も、北海道コンサドーレ札幌戦も、この状態から失点しています。
前に5人いる状態でショートカウンターを受けたら、その5人が全員全力疾走で自陣へ戻っても間に合わないことがあります。
そこで必要になるのは、近くにいる選手がまず相手の前進を止めることです。
奪い切れなくてもいい。少し外へ追い出す、縦へのコースを切る、相手のスピードを落とす。
その数秒で後ろの選手が戻る。(この遅らせる、が一瞬失敗してしまった=戻る前に攻めきられたのが清水エスパルス戦でしたよね)
こういう「遅らせる守備」が多いのであれば、守備の負荷は高くてもスプリント回数にはそれほど表れない可能性があります。
後ろの選手も同じです。
相手がカウンターで向かってきたとき、毎回前へスプリントして奪いに行くわけではありません。むしろ下がりながらコースを限定して、味方が戻る時間を作ることも多い。
これもスプリント数には出にくい動きです。
だから自分は、
「ミシャ式だからたくさん走るはず」ではなく、「必要な場所、必要なタイミングで動けているか」
だと思っています。
それと、守備時のスプリントが少ないこと自体も、良いとも悪いとも言えません。
極端な話、立ち位置が悪くて毎回慌てて自陣へ全力疾走しているチームなら、守備スプリントは増えます。
逆に、後ろの人数がちゃんと揃っていて、近くの選手が相手を遅らせ、後方が慌てず対応できているなら、そんなにスプリントしなくても守れます。
なので名古屋の「非保持10分あたり14.9回」を見て、
「走っていないからダメ」
とも、
「効率よく守っているから素晴らしい」
とも、言えません。
ただ、マリノスと比べても明らかに少ないので、名古屋は非保持時にスプリントを多用する守り方ではない、というところまでは言ってよさそうです。
問題は、そのやり方で相手のカウンターをちゃんと止められているのかです。
たとえば、
- ボールを失ってから何秒でシュートまで持っていかれたか
- カウンターから何本シュートを打たれたか
- どこで相手の前進を止められたか
- ボールを失った直後の数秒で誰が動いたか
このあたりと一緒に見て初めて、「14.9回」の意味が分かってくると思います。
「走り負けない」という言葉も、相手より何km多く走るとか、スプリント回数で上回るという意味ではないんじゃないでしょうか。
ボールを失った瞬間に寄せる。空いた場所を埋める。前線へ飛び出す。誰かが走ったことで空いた場所へ次の選手が入る。
そういう勝負どころの一歩をサボらない。
自分はそのくらいの意味で捉えています。
なので今のところの自分の考えは、
「名古屋は走らないチーム」ではなく、攻撃では走る選手がかなり偏っていて、守備ではスプリントを多用しないやり方をしている可能性が高い
というものです。
それが効率的な役割分担なのか、それとも本来走らなければいけない場面でも走れていないのか。
そこはまだこの数字だけでは分かりません。
むしろ、その答えを探すために「誰が、いつ、どこで走っているのか」を見ていくと、今のグランパスのサッカーがかなり見えてくるんじゃないかなと思っています。




