始まりましたGW。我らファミリーにとってGWとはもちろんグランパスウィークまたはグランパスウィンの略です。グランパス公式戦史上3回目となる4万人の観客の前で繰り広げられたサンフレッチェ広島との熱戦は1-0でグランパスの勝利。この試合をご覧になった方の多くが、特に後半、「アレ? グランパス劣勢?」と思われたのではないでしょうか。なぜ劣勢となってしまったのか、いくつかの要素を基に考えてみましょう。
試合後の監督コメント
広島の城福監督が、試合後コメントで率直に重要な点を語ってくれていると思いますので、少々長いですが、引用します。
内容としては前半、ボールを持たれる時間があったのは予測していました。ただ、自分たちの中に入れさせないというところに重きを置いたので、ちょっと後ろに重かったのかなと思います。保持率はまったく意識はしていませんでしたけど、もう少し前でサッカーができると良かったのかなと思います。後半は点差がどうであれ、ああいう展開になるのは分かっていたので、勝点1を持った状態で後半を迎えたかったなと思っています。
--前半と後半は違う様相になったが、ハーフタイムにどういう指示を与えたのか?
特別、劇的に何かを変えるような指示はしませんでした。だいたいわれわれが思うシチュエーションのゲームになると。30分過ぎから自分たちの時間が作れるようになると思っていましたし、後半はもっと押し込めると、ハーフタイムはもう1失点をしないというところを強調しました。自然と攻めていくことはできると思っていた。
引用元→ https://www.jleague.jp/match/j1/2019/042805/live/#coach
コメントの要点を整理すると、
- 特に試合開始から30分くらいまでグランパスにボールを持たれるのは想定内。
- 自陣の守備を固めた結果、後ろが重たくなった。
- 思ったよりもボール保持できなかった結果、失点した。できれば無失点で折り返したかった。
- 30分過ぎから後半にかけては自分達が攻撃できると思っていた。
の4点になろうかと思います。
試合展開
Sofascoreでみてみると、驚くほど城福監督のコメントどおりだったとわかります。
前半30分まではグランパスの攻勢、その後段々と広島が盛り返して行き、後半はほぼ広島の攻勢でした。そういう前提を踏まえて、『ボールの奪取位置および回数』からはどのようなことが読み取れるでしょうか。
広島の陣地(赤枠内)で計14回のボール奪取に成功しています。対する広島はグランパス陣地で5回しかボールを奪えていません。一方、自陣のPA付近でボールを奪った数(=この場合、そこまで攻められたと解釈すべきかと)は、グランパスが計10回、広島が計20回。単純に言えば、グランパスが広島の倍だけPA付近まで攻め込んでいたということです。ボール奪取位置および回数から見ても、前半はグランパスのゲームだったと言ってもいいでしょう。
ところが後半では、グランパスの、広島の陣地でのボール奪取回数は計6回へ減少。さらに自陣PA付近でのボール奪取回数は23回へ増加。『前で奪えなくなって』『危ないところまで攻められていた』ことがよくわかる結果ではないでしょうか。
前後半を並べてみると一目瞭然ですね。ただし、広島の自陣PA付近でのボール奪取回数(=グランパスがそこまで攻め込んだ)は前半20回、後半19回。劣勢ながら、グランパスも攻撃していたことがわかります。
グランパスの攻勢
グランパスはいつもどおりの形で攻撃していました。
基本配置はこうで、ビルドアップ時には次のようになります。
広島は引いた時の中盤4枚の内、野津田が比較的前目に残ってシミッチや右CBの中谷をチェックしていました。
その結果、グランパスの右サイドにはかなりのスペースが与えられ、完全に押し込んだ状態では宮原だけでなく中谷まで相手PA付近に顔を出していました。城福監督の「想定内」とのコメントから推測するに、それで充分守れるとの想定だったのか、或いはグランパスの右サイドはある程度捨てても大丈夫との想定だったのかもしれませんね。グランパスはその右サイドを起点にゴールを奪ったので、相手の想定を上回ったと言ってもいいのかも知れません。
一方、広島が自陣でボールを奪った後、例えば前節の磐田のようにグランパスの背後へ蹴っ飛ばす攻撃をあまり選択しませんでした。これまた城福監督のコメントから推測するに『自分達でボールを保持』するためにボールを繋ごうとしていたのでしょう。しかしながら、『後が重たく』なっていた広島は攻撃の速度をなかなか上げられず、グランパスの守備に対して脅威を与えられませんでした。
グランパスの劣勢
ここ最近、如実に現れてきたグランパスの傾向として、『相手からボールを奪い取ったらそのまま攻撃し切る』ということがあります。やや極端かつ単純に言えば『奪ったら速攻』→『奪われたら相手陣地で奪い返す』→『奪ったら速攻』のループですね。その結果、上手くいっている場合にはむしろ連続した激しい動きが選手に求められ、上手くいっている時ほど消耗してしまうのでは、と推測されます。城福監督の「30分過ぎから後半にかけては自分達が攻撃できると思っていた。」とのコメントは、グランパスのそういった傾向を事前に把握した上でのものではなかったでしょうか。グランパスの選手達が消耗し始めるとどうなるか、それは特に守備面で顕著です。
今年取り組んでいる『前から守備』によって、グランパスの両SHには相手のサイドの選手へのパスコースを切ることが求められます。消耗によって守備の動きが落ちると、切れていたパスコースが切れなくなり、パスを通されてしまう。『そこを通さない守備』をやろうという設計なので、通されてしまうと一気に危ないことになる。城福・広島はグランパスの傾向をよく把握し計画的に攻勢に出てきていたと思われます。
それでも崩壊しなかった
結局、最後はミッチ・ランゲラックが防いだ(DAZN週間ベストセーブ選出おめでとう!)
明治安田 #J1 第9節 #DAZN週間スーパーセーブ🙌広島戦後半の柏選手ヘディングを防いだ #ランゲラック のセーブが選出👏
復帰し即クリーンシートを達成したミッチの試合を通したプレーはぜひ #DAZN(@DAZN_JPN)で▶️https://t.co/RU14fsQZ32 #WATCHDAZN #コトシハJガハンパナイ pic.twitter.com/HXNIUsD5uo
— 名古屋グランパス / Nagoya Grampus (@nge_official) April 30, 2019
であるとか、DFラインの個の頑張りであるとか、所謂『個の力』でなんとか守りきったと言えるかもしれません。しかし、優秀な個が持てる能力を発揮しているならば、それは監督の運用が適切な証左で、そういった選手を連れてきた編成の手柄で、チーム全体の力です。なんとか崩壊しなかったこと、それ自体が去年からの成長の証だと思います。脚が攣るまで走りきったアーリアに拍手、そのアーリアに代わって出てきた小林裕紀の頑張りにも拍手。チーム全員に拍手です。(編注:早めの相馬勇紀の交代と、和泉竜司に「最終ラインとの距離を縮めろ」と言ったと想像される試合途中の指示も効果があったと思われます。Sofascoreのアタックモメンタムでもそのあとしばらくは名古屋の時間に切り替わりました。)
最後に
今のグランパスは相手陣地でボールを奪い取り、攻撃し続けるように設計されています。前でボールを奪い取り損ねると、その時点で守備プランが崩れているため、脆さを見せる。特に後半については『前で取れなくなった』『だから自陣でブロック守備をせざるを得なかった』と、去年の悪い時のグランパスそのもののような劣勢具合でした。風間監督のその設計の是非については言及しません(できれば自陣に撤退した後もボールの奪いどころを設定して欲しいですが、それができれば苦労は無いと言うかスーパーチームだ………)。そういう設計だからこそ、体力の管理は重要だという事実を突き付けられた一戦ではなかったでしょうか。これから温度湿度が上がっていきます。真夏に今と同じ戦いをやろうとしても無理でしょう。だからこそ、やはりゲームコントロール。試合のペースを場合によっては落ち着かせ、速攻と遅攻を使い分けるような戦い方を見につけて欲しい。トメルケールに加えて、相手を手玉に取るような狡猾さを見せて欲しい。一戦一戦が成長です。次の試合にも期待しましょう。