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[コラム] 報酬とモチベーション – 選手の減俸提示について考えたこと

これを読まれている方のなかには、社会人で現在働いている方も多いと思われます。
社会人は仕事をすることでその対価として報酬を得ます。今、毎月20万円もらっていて、それが25%減で15万円になるよ!と、言われたらどうなりますか。
人間は今あるものを失うこと、減らされることに不満を覚え、ストレスを感じます。不満とは「満たされず」という意味です。今得られているものが失われるから満たされないのです。
その不満を解消するには、我慢するか、失われたものを得られるように行動するか、それしかないでしょう。たとえば転職、副業・・・

ただ、単純に減らされるのではない場合はどうでしょうか?
今まで毎月20万円でしたが、これからは15万円です。その代わり、1年間しっかり働いて、良い成績をあげれば今までと変わらない20万円、もしかすると前より多くなるかもしれません。

そうなったとき、自分に自信がある人ならば、比較的受け入れやすいでしょう。ただ、受け入れるのであれば、ちゃんと良い成績をあげるための環境、サポートが欲しい、と思うのは当たり前ですよね。
そうじゃなければ、良い成績があげられなくなるわけですから、それを要求するのは当たり前です。
自分に自信がない人だったら・・・そうしたら、不安でおしつぶされてしまうかもしれません。

2015年12月2日付けの中日スポーツで、楢崎選手の減俸が報じられています。
http://sp.chunichi.co.jp/gra/news/sp_gra_news_kiji.php?file=CK2015120202000122_3&genre=kei_chu_sp2_graminfo(有料記事)

その中に以下のような一節がありますので部分引用します。

金額面では基本給が他の選手と同様に約3割減となった一方で、全選手に導入される出場給が楢崎はチーム最高額に設定された。「もともと試合に出ること、勝つことのモチベーションが高まるようにしていた」と、昨年までも出来高をつけていたが、来季は勝利給とともに減額分をより取り返しやすい契約となる。
24日に泣きながら帰郷した闘莉王を見送った際にはフロントへの怒りもにじませていたが、今は経営安定化のためという説明を受け、「オレは落ち着いているよ。辛いなって思うことはあるけど」と、あくまで冷静にチーム全体を見渡している。

少し日本語がわかりづらいので整理します。
通常、Jリーグの選手は基本年俸+出場給+勝利給が収入のもとになります。肖像権による収入が発生する選手も居ますが、それはかなり特別な選手だけだと思われます。
もともと名古屋は、数年前に出場給を廃止して、基本年俸+勝利給のシステムになっていました。今回闘莉王選手の報道でも「勝利給が減らされる」という報道がありましたが、今日の報道ですと「出場給」を復活させ、その分「勝利給」を以前なみの水準に戻されるということなのでは、と想像します。言葉のマジックですね。
どうやら、減俸はするものの、出場給と勝利給を合わせていけばそれなりの報酬は得られるということになりそうです。

この新制度の狙いは?

この新制度の狙いは、おそらくですが試合に出場できないと大幅減俸と同じ扱いになる、ということかと思われます。
死にものぐるいで試合出場の座を勝ち取れ、という小倉新監督のメッセージなのではないでしょうか。久米社長が、控えメンバーの必死さが足りない、という発言を度々繰り返しています。競争を激化させようという狙いなのでしょう。

この新制度のリスクは?

この新制度に潜むリスクは、競争を激化させると「負けた」と思った人間が腐る可能性があるということです。人間のいる組織ではどこでも発生する問題ですが、上司と部下、監督と選手、相性があります。実力関係なく、気に入った選手が出てくれば、その選手を重用することになります。これまでのドラガン・ストイコビッチ監督や西野監督のように、比較的メンバー固定タイプの監督になると、新制度では固定メンバー以外の選手は確実にノーチャンス。そうなると人間は簡単に腐ります。

では、どうしたらいいのでしょうか。キーワードは信賞必罰です。
信賞必罰とは、功績があれば必ず賞を与え、罪があれば必ず罰すること。賞罰のけじめを厳正にし、確実に行うこと。です。

新監督は、これまでの監督以上に選手を見て、良いプレーをした選手にちゃんとチャンスを与える必要があります。逆によくないプレーがあれば、それが闘莉王であっても楢崎であっても罰する必要があります。
あ、俺にもチャンスがあるんだ、と全員が思えば競争が生まれて、そこに成長が発生します。監督に求められる要素はとても大きなものになることは間違いありません。

若手選手はどうなるのか

今回、一番気になっているのが本多勇喜選手のような比較的中堅層、若手の選手であっても減俸提示されていることです。

モチベーション管理についてはハーズバーグの動機づけ・衛生理論という理論があります。
これはアメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した仕事における満足と不満足を引き起こす要因に関する理論です。
内容としては、人間が仕事に満足感を感じる要因と不満足を感じる要因は全く別物であるとする考え方です。
人間には2種類の欲求があり、苦痛を避けようとする動物的な欲求と、心理的に成長しようとする人間的欲求という別々の欲求があるとし、「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」はこの考え方を元にしています。

http://www.motivation-up.com/ よりハーズバーグの動機付け・衛生理論の作用
競争は成長しようとする人間的欲求において良い作用を表す(動機づけ要因となる)と思われますが、給与を(結果として)減らすということは不満(衛生)要因となります。

もうひとつモチベーション理論として、マズローの欲求5段階説というものがあります。これは下層の要求が満たされないと、上層の要求を持たないという理論でもあります。

http://www.motivation-up.com より引用 マズローの欲求5段階説

第一階層の「生理的欲求」は、生きていくための基本的・本能的な欲求(食べたい、寝たいなど)で、この欲求を充たせれば、次の階層「安全欲求」を求めます。「安全欲求」には、危機を回避したい、安全・安心な暮らしがしたい(雨風をしのぐ家・健康など)という欲求が含まれます。「安全欲求」を充たすと「社会的欲求」(集団に属したり、仲間が欲しくなったり)を求めます。この欲求が満たされない時、人は孤独感や社会的不安を感じやすくなります。ここまでの欲求は、外的に充たされたいという思いから出てくる欲求です。そして次に「尊厳欲求(承認欲求)」(他者から認められたい、尊敬されたい)という欲求が芽生えます。ここからは外的なモノではなく、内的な心を充たしたいという欲求に変わります。そして、最後に「自己実現欲求」(自分の能力を引き出し創造的活動がしたいなど)の欲求が生まれます。

この考えからすると、安全欲求が満たされなければ、それ以上の社会的欲求、尊厳欲求などは発生しないということになります。ある程度の余裕のある中堅以上の選手を除けば、生活に困窮することになると仕事に専念することも難しくなります。サッカープレイヤーにとってのプレーは、自己実現にほかなりません。そう考えると、生活が苦しくなるような状態に追い込むような減俸提示は、若手に対しては避けたほうが良いのでは、と思います。

About The Author

グラぽ編集長
大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

Comments & Trackbacks

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  1. 中日スポーツの報道、ちょっと煽り過ぎじゃない?

  2. 出場給が無かったって事は、長期の怪我で戦線を離脱してても満額もらえてたのか。
    今期は対象者が多かったから、仕組みを変えるのは当然か。

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