中谷進之介というディフェンダー
1996年3月24日生まれ。まもなく23歳になるディフェンダー。2018年の夏、グランパスに移籍をしてレギュラーを掴み、以来出場停止の1試合を除いて、レギュラーの座を守り通している。
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中谷進之介には数多くのライバルがいる。
櫛引一紀
1993年2月12日生まれ。26歳と、一番脂がのりきっている世代のディフェンダー。2017年シーズンより北海道コンサドーレ札幌より移籍して、一時はレギュラーの座を掴んだ。止める蹴ると言われる基本のスキルはライバルの中でも随一と言える。そのためサイドバックで起用されることも多い。しかし、サイドからのクロス、斜め後ろから走り込まれるプレーなど、守備のシーンで苦手なケースがあり、失敗をする度にレギュラーの座を奪われてきている。しかしその度に復活を遂げている不死鳥とも言える漢である。
新井一耀
1993年11月8日生まれ。櫛引一紀と同年生まれながら学年違いのディフェンダー。188cm、80kgの恵まれた体格を活かした高さと強さを兼ね備える選手でもある。2017年の夏、グランパスに移籍をしてレギュラーの座を掴むが、アンハッピートライアドとも言われる「前十字靱帯断裂」「内側側副靱帯損傷」「半月板損傷」を負ってしまう。翌年、横浜F・マリノス戦で、復帰をするも数試合で離脱。その後、2018年前半戦折り返しのころになって復帰したものの、100%は言えない状態のまま残りの半年を過ごすことになった。アンハッピートライアドの後に復帰するには9ヶ月は短すぎた。現在ジェフユナイテッド市原・千葉に期限付き移籍中。
参考までに、アンハッピートライアドがどれだけ厳しいものなのかは、同じく膝に重傷を負った比嘉厚平がどうなっていったのかの記事をご覧になると、これよりもひどい怪我だった場合どう大変なのかについてご理解いただけると思う。
千葉和彦
1985年6月21日生まれ、33歳でチーム最年長のディフェンダー。サンフレッチェ広島時代に3度(2012年、2013年、2015年)のリーグ優勝を主力として経験をしている。最大の特徴は守備ではなく、攻撃面。組み立て能力も高く、縦につけるパスや展開力もある。グランパスの攻撃能力を活かすには、彼のパス出しのセンスが必要と考えられて2019年シーズンに備えて獲得されたものと思われる。
それに加えて、30代後半の選手をバッサリ切ったことで、チームには年長者の重みを感じさせる選手がいなくなっていた。チームのためを思って動くことが出来る選手が必要、という要素もあったに違いない。
ジョアン・シミッチが入ったことでなにが変わったのか
以前、グラぽでも「2019年のグランパスの変化」という記事を書いたが、これまで守備から攻撃に切り替わるときのボールの出所がディフェンスラインから、センターハーフのジョアン・シミッチと米本拓司の2人の位置まで10m程度前方に変わったと書いた。
するとなにが変わるのか?
DFの4人が、相手FWらの守備を避けて、後ろでボールを回す必要がなくなる。よく動くジョアン・シミッチと米本拓司の2人は良いポジションを取ってくれるので、簡単に預けることができる。
守備をする選手としては、2つの理由であまり低い位置でボールを保持したくはない。
- 中盤の選手と距離が開くと、相手選手にプレッシャーが掛からず、味方選手のサポートがしづらい
- ゴールに近いところでボールを保持していると少しのミスが決定機に繋がる
理由2から、守備の4人の並びがペナルティーエリア内(ゴールから16.5m)に入ることはまずありえない。
理由1から、セントラルのMFとの距離は20m以内に設定される。(この距離がこれ以上に広がってしまう状態を、「間延びしている」と呼ぶ。)
なぜ20m以内なのか。風間八宏監督の言説を引用する
https://jr-soccer.jp/2019/02/09/post109121/
「例えば、10メートルを守れる選手が1人、30メートルを守れる選手が9人いるとします。これでチームを作ると10メートルの選手のところが穴になりますから、そこから崩れてしまいますよね。そこでよくやるのは、10メートルの選手に合わせたチーム作りです。横幅を守るのに10メートルを基準にすると4人が必要になります」
国際規格のフィールドの横幅は64〜75メートル。1人あたり左右に10メートルの守備範囲なら、4人いれば横幅は十分カバーできる。実際にはボール方向に10メートル守ればいいので、4人で作るラインの長さは30メートル程度だが、横幅4人は実感として違和感がないと思う。4-4-2のフォーメーションを想起すればいい。ただ、これは風間さんにとって、「小さいパイ」に合わせたチーム作りだ。
「小さいパイに合わせてチームを作ると、まとまりは早いですけどチームが大きくならない。なので、ひとつでも大きなパイがあるなら、私はそれに合わせてチームを作ります。30メートルを守れる選手が2人いるなら、横幅を守るのに4人は必要なくて2人で足りますよね。小さいパイに合わせるのではなく、大きいパイに合わせて周囲を大きくしていく。そうでないと進化しませんから。現状で名古屋はパイが揃っているとは言えませんが、やっていけば選手は伸びていきます」
相手をきちんと守備側の「円」のなかに入れて、網にかけるには狭いゾーンのなかに追い込むしかない。今年のグランパスが取り組んでいる戦術はこういうものだ。
このディフェンスラインの位置を、セントラルのMFと近い位置に設定する戦術を「ハイライン」と呼ぶ。そのあたりはラグさんのガンバ大阪戦レビューもお読みいただけると嬉しい。
ただこの戦術も万能ではない。狭い中盤をロングボールで通過させることができたら意味が無い。ちょうど、せっかく落とし穴を掘ったのに、それをぴょーんと飛び越えられたことを想像してもらえばいい。実際ガンバ大阪はそういう戦術を序盤から取ってきた。
組み立てを中盤に任せられると、守備はシンプルに守りに集中できる
名古屋の攻撃の組み立てが、去年の丸山祐市からではなくてもジョアン・シミッチと米本拓司で出来てしまうと、センターバックの2人の役割が変わってくる。
- ジョアン・シミッチと米本拓司にボールを繋げる
- ジョアン・シミッチと米本拓司にプレッシャーが掛かっているときに逃げ場所としてボールを受けられる
- 敵FWとの駆け引きをする
これだけになる。
ディフェンスラインには上図のように大きなスペースができる。その20mくらいのディフェンスラインの裏のスペースをみたら、だいたいのフォワードはその裏を突こうと考える。そうなると役割(3)、敵FWとの駆け引きになる。
ハイラインのデメリットは機動力で対処する
ハイラインを敷くということはデメリットも勿論ある。
ハイラインといえばジェフユナイテッド市原・千葉、ジェフユナイテッド市原・千葉といえばハイライン、ということでジェフともさんのブログに、ハイラインのメリットとデメリットが詳しい。
ボールの位置に合わせてスライドさせなければなりません。なので、逆サイドというのは基本捨てないといけません。
そうなると、仮にサイドチェンジをされたときに、ボールを受けた選手は時間を与えてもらうことができてしまいます。そして、その選手がハイラインの裏に他の選手を走らせてゴールまでということができる可能性がとても高くなります。これがハイライン最大のデメリットと言えます。
名古屋の場合は、じぇふともさんが書かれているほど、ボールサイドに全部選手が寄らない。とはいえ、ガンバ大阪は大外の選手を活用しようという取り組みをしていた。
では結局どうやったら対処ができるのか。結局はDFラインのスプリント勝負になっている。
スプリント勝負
鳥栖戦、この段階からかなりラインの高さは感じていたが、ここでも守備の選手のスプリント回数は4人トータルで75回という驚異的な数字となった。トーレス、金崎夢生は常に裏を狙っていただけにこの結果も止むなしだろう。
セレッソ大阪戦は少なめになった。セレッソ大阪FW都倉賢は、スピード系の選手ではない。その影響が見て取れる。
ガンバ戦がもっとも顕著に結果が表れていたと考えられる。キム・ヨングォンと三浦弦太2人を合わせたスプリント回数は、中谷進之介1人でしていたことになる。敵FW(ファン・ウィジョとアデミウソン)の2人は常にディフェンスラインと駆け引きをしていた。その結果がこの数字に表れているのだろう。
トータル3試合で中谷進之介のスプリントが43回(1試合平均14.3回)、丸山祐市のスプリントが36回(1試合平均12回)。これはそれだけ裏を攻められていたという証拠になるだろう。対戦チームを見て貰えればわかるが、相手のセンターバックはそれほどスプリントをしていない。
中谷進之介が何故生き残ったのか
右センターバックということで言えば、完全な状態であれば新井一耀、そして攻撃型センターである千葉和彦という選手がライバルになっただろう。
2018年、中谷進之介は高さという点では新井一耀に劣っていたが、怪我明けの新井一耀には望むべくもないアジリティ(敏捷性)があった。
セントラルのMFの守備が弱く、露出しがちだったグランパスのディフェンスラインとしては、複数の相手アタッカーを相手しなければならないことが多く、アジリティは重要だった。後半戦、新井一耀が復帰した後も中谷進之介が使い続けられたのはそこが理由だったと思われる。
そして今年のキャンプ、大敗したトレーニングマッチFC東京戦までは千葉和彦がレギュラーとして君臨していた。それは首脳陣が中谷進之介のビルドアップに不満を感じていたということを意味している。ところがその後ジョアン・シミッチがフィットしはじめて、彼を中心にゲームを組み立てるようになると、状況は一変した。組み立てる必要がなくなれば千葉和彦である必然性が薄れたことも中谷進之介には味方した。ジョアン・シミッチをサポートするためにディフェンスラインが高くなり、そうなるとスピードのある中谷進之介がポジションを勝ち得た。
春のディフェンスラインの勝者は、中谷進之介になった。
ポジションは安泰ではない
しかし、せっかく勝ち得たレギュラーポジションも、今の名古屋グランパスでは安泰ではない。
昨年絶対的なレギュラーに君臨していた前田直輝と金井貢史がベンチ外となっている。
風間八宏監督は、大敗をしたあとには動きのよくなかった選手を必ず入れ替える。その時を狙って、千葉和彦も、普段は左センターバックをこなす櫛引一紀も手ぐすねを引いて待っている。
ディフェンスラインのハイレベルな争いを楽しみにしている。