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名古屋グランパスについて語り合うページ

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ありがとう。

2019年、夏。グランパスから色んな選手が移籍していきました。現体制になってから(あるいはDAZN参入の影響で移籍市場も賑やかになったせい)なのかな、とにかく移籍が多くて。改めて思うけれど、夏の移籍って辛いですね。2017年からの戦友、将来を嘱望された若者達、太陽みたいなムードメーカー。ベンチを守っていてくれたメンバーをほぼ放出する形になった戦力面もさることながら、彼らの居ないトヨスポ練習場はなんだか静かで、寂しい。

半年後のチーム事情や契約都合がどう転ぶかなんてわからないし、金井さんの言葉を借りるなら

「家出みたいなもの」

だから、期限付き移籍の期間満了で戻ってくるかもしれないし、きっぱりさよならを言ってしまうにはまだ早いんでしょう。夏からそんな悲しい覚悟を決めなくたって、すぐに次の試合がやって来るし、シーズンも過ぎて行きます。

子どもの頃からこのクラブの応援席に居た私としてはいい加減ちょっと慣れた部分もあり、そもそもが選手ファーストな部分もあり。個人的には移籍する選手については、どうせ出ていくなら目一杯活躍して欲しいな、行った先でやりたい事が出来れば一番良いなと思っています。出て行った選手が時々名古屋のことを思い出してくれるなら、それはもちろん、とても嬉しいけれど。

それでもただ1人、17年のチーム再結成からずっとこのチームを支えてくれていた、私にとってとりわけ大切だった、大好きな選手。この人が完全移籍でチームを去ったことについてはそう簡単に片づけられないというのが正直なところで、1週経った今もまだ、気持ちを片づけられないままでいます。

だから、小林裕紀の話を、思いっきりさせてください。

小林裕紀(練習着)
小林裕紀(練習着)

私にとっての、彼の話

ある選手を応援してるって言うと、

「どんな選手ですか。どんな所を好きで応援しているんですか?」

とよく聞かれます。後者はスタジアムで初めましての方との定番のやり取りでもありますよね。話してみて、同じ価値観が共有出来そうであればきっと良いお友達になれるし、そうでなくても新しい視点が持てたりすれば、楽しい。

小林さんの移籍についても、沢山の大分トリニータサポーターさんとグラファミさんとの会話を目にしました。色んな意見があって面白くて、では私にとっての小林さんってどんな人だったかなと考えると、これが未だに一言二言では収まらないんです。

(あまり面倒くさいのでお友達から「説明大変な時は顔が好きって言っときゃ良いんですよ!」なんてアドバイスを頂いたことがありますが、顔の話をするなら私は断然武田が好きですね。彼はプレーも相当な男前だけど。)

初めは、よく分からない人

出会いまで遡ると、移籍してきた時にはそれ程感情を動かされた選手でもなかったんです。初めて経験するJ2への不安。それ以前にチームが無くなってしまうんじゃないかと思うほど入替のあった選手たち。沢山の人がチームを追われて、残った若手も不安を吐露していた中、自身で残留を掴んでおきながら1人カテゴリを落としてまで名古屋にやってきた新潟のキャプテンは、『よく分からない、不思議な人』でした。新体制発表会、盛り上げようとはしゃぐ人もいる中で随分クールな、控えめな挨拶だった。

残留争いのライバルチームからの移籍を、私も素直に受け止められない、ちょっと拗ねたような感情もあったのかな。以前に対戦した時の、フェイスガード姿の怖いボランチのイメージのまま「新潟さんのパンダさん」なんて呼んでいた時期がありました。

努力の人に目を引かれた日

パンダさん…小林さん本人も話す通りに印象的だった、2017年2節の前半途中での交代(特段ミスらしいミス………があった訳じゃなかったけれど、どこかで風間さんの地雷を踏み抜いちゃったらしい)。それで代わって入ったワシントンがいきなりとんでもないミスキックを披露してね、大丈夫かこのチームなんて頭を抱えたのも、今だから笑って話せる思い出です。そのワシ君もレノファ山口さんを経て、今はまた母国で頑張っていると聞いています。そんな、たった2年半前のことが懐かしく感じるくらい、沢山、沢山のことがあった時間でした。

その交代以降ぱったり試合のメンバーから外されて、移籍早々に苦しい思いをすることになった中、1人トヨスポで黙々と、熱心に練習を重ねる小林さんの姿を目にして。

小林裕紀(ボール扱い)

小さなズレに眉を顰めては確認し直す姿に

「上手くなりたい、誰よりも」

と話す理想の高さを見せられて。どうやら合格判定が出たらしいプレーを見せられた時は思わず自然と感嘆の声を上げていました。とても優しくボールを扱う人でした。クールダウンで走っている時にもボールを手放さない人。そんな、ちょっと気になる選手から、上手いな、早く試合出てこないかなと、気に掛ける選手になるまでに、それ程時間はかかりませんでした。…スタメン復帰がまさかCBとしてっていうのは想定外だったんですけど(笑)。失点にピッチを叩いて悔しがる意外と熱い姿が印象的だったな。

チームを繋いでくれた人

苦しい時を経て中盤の真ん中に帰ってきた小林さんのプレー、それぞれのグラファミに色んな思い出があるんだろうけど、自分として1番初めにくる感想は『楽しかったな』でした。技術的に優れているだけじゃなくて、ピッチに出れば本当に気の利く人で。危ないスペースを潰し、欲しい所に顔を出し、チャンスと見ればゴール前まで飛び出していく。居て欲しい所には彼が居たし、欲しい所にはボールを届けてくれました。

私個人はどちらかというと心配性なので、選手皆の自由過ぎるポジション取りを筆頭に「いや、いや…」って言いたいことは沢山あった筈なんだけれど、小林さんのおかげで「このチームを好きになれるかもしれない」、そう思えたことが嬉しかった。ネーム無しのまま着ていたユニフォームに17のマーキングを入れたのもこの頃でした。ピッチ上の皆が自分の長所を発揮できて、深く息をする時間を作れる選手。このピーキーな個の集まりを、繋げてチームにしてくれた人でした。

”名古屋の鼓動”

”俺たちの肝臓”

”肺みたいな人”

いくら真ん中を心臓と呼ぶチームにあっても、よくそんなに内臓のあだ名ばっかり付けられたなと思うけど、それだけ大切な働きの人。加入からじっくり1年待ってお披露目されたこのチャントも、本当に格好良くて大好きでした。

私のお気に入りのプレーは、細かいパス繋ぎと、丁寧な動き直しで相手ブロックを動かして持ち上がっていく推進力と、狭いペナルティエリアを切り崩してからの針の穴を突き通すようなクロスです。涼しい顔してバランス取りながら存外に攻撃型で、勝負所はそう易々とは譲らない不屈のファイター。派手な選手ではなかったし、ハイライト動画では見る機会も多くない、でも本当にチームの為に走る人でした。

神戸戦の小林裕紀
神戸戦の小林裕紀

小林さんを評して、苦労感の似合う(すみません)、この人がいれば大丈夫と安心出来る背中に楢さんみたいだって言う人もいたし、その実直さに中村直志を思い出すって言う人もいました。矢野貴章? それもとても、よく分かる。2018年からの背番号4で闘莉王を思い出したグラファミも多いでしょうね。きっと多くのグラファミにとって少なからず思い入れのある番号のはずの、かつて闘将が背負った潔い背番号も本当によく似合う背中でした。最終的には小林裕紀は小林裕紀で、他の誰の代わりでもないって結論になったんだけど、そんな大事な思い出を掘り起こしてくれる、どこか懐かしい人でもありました。

キャプテンマークの小林裕紀
キャプテンマークの小林裕紀

そりゃ、良いことばっかりじゃなかったけれど。ぎりぎりの戦力でスタートを切った新シーズンは冗談みたいな量のタスクを一手に引き受けることになって、過密日程とも重なって

「小林過労死しちゃうだろ!」

なんて会話は毎試合お決まりの話題でした。勝てない時期にキャプテンマークを巻いていた彼は嫌なヤジに晒される場面も多かったし、2018年の夏には怪我だってしました。それでも、決して言い訳をしない人でした。

2017年の最終節の小林裕紀
2017年の最終節の小林裕紀

見てるだけのこっちもくらくらするような炎天下のトヨスポで、テーピングでがちがちに固めた足で復帰を急ごうとフィジカルトレーニングを始めた姿を見た時には、そんな所は楢さんに似てほしくなかったなと思わされて。でも、足りないところだらけだったチームが彼を必要としていたのも確かでした。半ば祈る様な気持ちで豊スタへ通った夏、その足でぼこぼこチャンスボールを配給し始めた時には正直どうかしてるよって思いましたけどね。素敵だったな。

ジェットコースターみたいな思い出話

楽しかった。焼野原だったチームがだんだん1つになっていく様も、重たい荷物を抱えさせてしまっていた泰士君が本当に楽しそうに笑っていた、近年最高とまで言われた素敵なコンビも。出来過ぎた冗談みたいに振り切った夏、必死に上位を追った秋。昇格PO、最後のひと枠を掴み取るために全力で走ってくれたPO決勝終了間際の鬼プレス。戻ってこれたJ1でなかなか勝てなかった時期も、問題意識の強い彼の練習を見にいくのは答え合わせをする様で、当たっているとちょっと面白かった。お天気にも散々邪魔されてどんどん詰まる日程に青くなったりもしたけど、広島戦、嬉しかったな。チームや会社の人の為に残れればなんでも良いよと言った、小林さんの真っ直ぐな不器用さが報われたような、残留を知った時の奇跡みたいな瑞穂の優しい優しい空気。本当にあっという間で、大切な2年。

皆に囲まれて、よく笑う人

小林さんの周りには、よく人が集まった。本人とお話しする機会なんかそう多くはなかったけれど、とにかく色んな人から名前を挙げられていました。

注目選手ですよって挙げた西村さん。あらあらーって楽しそうにお話してくれた渡邉のおばちゃん。移籍加入してきた選手から

「ご飯連れてってくれたり面倒見が良いんです」

なんて聞くのはしょっちゅうだったし、今年のルーキーが某イベントで

「小林裕紀選手の姿勢が〜」

って壇上から名指し始めた時には、そういう新人教育とかされてるの? なんて思って笑ってしまった。なんだかんだで後輩のことが可愛いらしく、よく構う姿を見ていたから、私個人としては『本当に楽しそうにサッカーをする、よく笑う人』って印象が強かったりします。加入した年のキャンプでは随分人見知りを発揮していたらしいから、受け入れる側になって、気遣いもあったんでしょうか。

笑顔
笑顔。
杉森考起たちと
杉森考起たちと

練習場で、あの考起が小林さんの背中にぺたんと貼り付いて満足そうに笑ってる姿を見たときはなんだか感慨深かった。片想いだなんて抗議していいと思うな、知らんけど。

ファンサービスの話…は、正直あんまりピンときていなかったりします。愛想がないというよりは照れ屋なのと、とにかく練習の時間を惜しんでいた熱心さだったんじゃないかなぁ。イベント事なんかでは人の良さを隠しきれていない瞬間が結構あって、

「コバユあいつ本当にそういう所やぞ、ズルい…!」

て震えてるのは女子に限らない話だったので、結局皆そういう小林さんも好きだったような気がします。

それから、今年

玉さんとの2度目の別れ、楢さんの引退、寿人もチームを去りました。小林さんにとっても苦しい半年になった今シーズン、それでも本当に腐らない人でした。

ベンチの小林裕紀。
ベンチの小林裕紀。

仲間の負傷に、もどかしいプレーにどうしたってじっとしていられなくってベンチから立ち上がってはボールの行方を追い、メディカルスタッフを呼びに走り、時計が止まる度にボトルを手渡しながら熱心にアドバイスや激励を送っていたこと。チームが勝てずに苦しんでいた長い梅雨の間、ウォーミングアップエリアで準備する小林さんがいつも、脛当てまで付けて、丁寧な足のテーピングをしていつだって出られる状態で見守っていてくれたこと。時にはビブスさえ着ずに注意を受けていた、そんな姿。

米本拓司と
米本拓司と

力になれなかったと本人は言うけれど、彼はいつだってその時その時居る場所で出来る事に真っ直ぐで、全力で戦ってくれていた。小林さんの作った3点が無かったらルヴァンだってとっくに敗退してるわけで、そう力が足りなかったなんて言われても困るんですよね。そんな姿が頼もしくって、大切で。きっと皆そうだったんだと思う。

今シーズンこれだけ出場の限られた選手としては意外なくらい、小林さんを待ち望む声は多かったです。例えば試合中の声援に紛れて聞こえてくる、出場を期待する声。あるいは4番を着ていた私や友人に直接

「今日は絶対に小林の日だった、コバユが居たらなんとかしてくれた」

なんて声をかけてくれたファミリー達。

今までのキャリアでずっとレギュラーを張り続けてきた小林さんが、どちらかと言えば途中出場を不得手としている事を分かってはいても、彼に期待せずにはいられなかった。いつだってよく準備しているこの人は、なんだかんだでベンチメンバーとしての役割だってきっちり勤めあげていました。悔しかったのと同時に、この2年で積み上げた信頼がそう思わせるようで、本当に代えがたい人だなと感謝せずにはいられませんでした。

アップ中
アップ中
若手にアドバイス。
若手にアドバイス。

いつも通りの、お別れの朝

2019年8月10日、川崎戦の3点目が決まった瞬間、メンバー外選手達の観覧席を降り仰いで思い切り手を突き上げた、そんなチーム想いの姿がたまらなかった。満員のスタジアムで、あの素晴らしい空気の中でリーグ戦としては実に3ヶ月ぶりにピッチを走る小林さんの姿が見られたのは嬉しくて。泣いたり笑ったり、知らない人同士でハイタッチしたり忙しい夜でした。

そんな勝利の翌日に報じられた移籍報道にショックを受けなかったといえば嘘になります。分かっていたつもりでも、やっぱり随分甘えてしまっていた事を失ってから突きつけられたのは悲しい。同時に、小林さんをちゃんと見ていて、評価してくれているクラブがあった事、それが大分さんだった事は素直にとても嬉しかった。

お別れの言葉は、あまりに普段通りでした。

「自分のためだ」

「たまたまだよ」

「僕は勝手だから」

「あいつが凄かっただけだよ」

そんな事を言ってはゆるく笑っていた小林さんが、実際の所どう思っていたかは知る由もないけれど。シャイな彼の謙遜だったのかもしれないし、時々びっくりするくらい自分の評価の怪しい人だったから、本気で言っていたのかもしれない。それはちょっと、どうしようかな、淋しい。

拘りが強くって、褒め言葉を素直に受け取ってくれないし不器用で甘え下手で、そんな所も楢さんに

「面倒くさいやつだよ」

なんて言われた理由だったのかもしれない。

そんなこと、もう答え合わせの機会もないけれど。それだって構わないと思う。感情って片側だけのものじゃない。受け取った側の人がこれだけ裕紀君裕紀君って慕うのは理由があった筈だし。ファミリーだって、きっと皆この人のこと大好きだった筈。少なくとも私はあなたが居てくれて本当に嬉しかったんだって、その感情は本当だからそれで良いって、そう思うんです。

櫛引一紀と。
櫛引一紀と。

最後に、エールを

私がぐずぐずしている間にも時間は進む。手早く前を向いた彼の歩みは早くて、新天地でのデビューはあっという間にやってきました。

傍から見ていても丁寧に作られた、賢い、リスペクトに足る素敵なチーム。まだ手探りな様子も見て取れたけれど、周りがよく見えて働き者の小林さんのプレーはきっと大分さんにぴったりだろうな、って思う。努力家の彼はまた大概の壁は越えて見せてくれるんでしょう。上手くなりたい、その気持ちに真っ直ぐな彼の新しいチャレンジの先で、どんなサッカーを見られるんだろうっていうのは、いちファンとしては楽しみで仕方ないんです。綺麗な青いユニフォームがあんまり似合うのが少し寂しいけれど、このまま転んでたって、泣けばすっ飛んできて手を引いてくれた心配性の「お母さん」はもう居ない。今のこのチームで、前に進んで行かなくちゃ。

円陣。
円陣。
交代で入る。
交代で入る。
ゴールセレブレーション
ゴールセレブレーション
シャビ、赤崎と。
シャビ、赤崎と。

大切なファミリーだった人。何度繰り返したって足りないくらい、沢山ありがとうって言いたい人。素敵な笑顔の人でした。旅立つ背中に、今はただ思いっきり、持てるだけ精一杯のエールを。お互いの選んだ先で、ここで歩く今が最高に楽しいんだって、そんな風に笑ってまた会えますように。

小林裕紀、名古屋を支えた確かな鼓動。

あなたの事が、きっとずっと、大好きです。

About The Author

ハコネタカアキ
愛知県うまれ転勤族育ち、本業は会社員。豊スタの隅っこに居ます。ねぼすけ。トマトが好きです。

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