真夏の夜の夢。
トヨタスタジアムに浦和レッズを迎えた一戦は、序盤の均衡が名古屋グランパスの先制点によって大きく傾き、結果としては6-2の圧勝となりました。
得点は前田4、シミッチ1、シャビエル1という内訳。ただ、得点こそありませんでしたが、この日の勝利は、金崎夢生の存在なくしては成しえませんでした。
相手CBに勝利し続けたセンターフォワード
彼の試合を通したスタッツはこのようなものでした。
(引用元:Sofascore https://www.sofascore.com/team/football/nagoya-grampus-eight/3136)
この数字でもあまり本日の彼の凄みは見えてこないでしょう。しかし、今日の金崎はこの数字以上に、ビルドアップの出口として、チームのボール前進に貢献していました。前半45分だけ手元で集計してみましたが、
- 相手DFを背負ってボールを受け、ファウルをもらう(2回)
- 相手DFを背負って足元でボールを受けて反転(1回)
- 中央からサイドに流れてボールを引き出す(3回)
- 浮き気味の味方のキックを頭で味方に繋ぐ(2回、うち1回はシャビエルの得点につながる)
- こぼれ球を拾ってドリブルし、味方の押し上げの時間を作る(2回)
さすがに、ここにないプレーでスローインやハイボールに競るシーンでは連戦連勝というわけにはいきませんでしたが、周りの状況をしっかり把握しながら、狡猾に相手の嫌がるポジションに動いてボールを受け、鈴木とデンを寄せ付けませんでした。前半をもって鈴木が替えられてしまった、それ自体が金崎の勝利の証明ともいえるでしょう。
ビルドアップの変化と求められる資質
前線で巧妙に動き回ってボールを収め、チームのボール前進に貢献し続けている金崎。ただ彼単独で相手CBを出し抜いているかというと、恐らくそうではありません。
お気づきの方も多いと思いますが、今季のビルドアップは昨季の風間監督時代とは大きくやり方を変えています。型の面では昨季あれほどまでに、不必要な場面でも行っていたCHがCBのラインまで降りる形(サリーダ・ラボルピアーナ・いわゆるサリーダ)、中でもCB2枚の間にCHが入る形の組み立ては、ほぼ見ることがなくなりました。CHは極力相手の1列目と2列目の間のスペース、悪くとも1列目の脇でボールを受けることを要求されているようです。その形で上手くいかずCBと同じラインに降りる場合でもCB2枚の外側に降りることが約束事になっている様子。その場合は本来CHがボールを受けようとするエリアにトップ下(阿部やシャビエル)が入って前進を助け、サイドも活かしながら前進を試みる形になりました。
そしてもう一つ、考え方の部分で大きく変化しているのが、「必要に応じてリスクの低い、長いボールを蹴ることが許容されている」ことではないでしょうか。ビルドアップが苦しくなる前、やや苦しい時、状況に関わらず、以前はあまり多くなかった、やや不確実性の強い長いボールが、ビルドアップ時の選択肢に織り込まれているように感じます。
そうなると、自然と前線の選手に求められる資質は変化します。具体的には、前監督時代のセンターフォワードには、どっしり構えてボールが届くのを待ち、そのボールを決めきることが求められていたのが、裏に抜けたり、相手のラインの間に入ってボールを引き出す動き、つまりは機動力が求められます。
そこで身体の強さだけでなく、機動力、技術、必要なポジションを見極める力、それらを併せ持った存在としてワントップに起用されているのが金崎夢生、というわけです。
浦和戦で見られた象徴的なシーン
この浦和戦でも、象徴的なシーンがありました。前半5分くらいのシーン、相手の攻撃をGKがキャッチして押さえ、サイドに開いて丸山が受けた時のポジションがこちらの図。
ここで丸山は前方中央の稲垣シミッチへのコースは切られ、大外の吉田はパスこそ通りそうですが前進するには窮屈な位置取り。もう一人の相手守備にコースを切られてサイドチェンジも容易ではない状況にあります。ただし、相手守備はコースを切ること優先で丸山に圧力は掛かっていないことを察知し、前にいる攻撃陣が選択肢を作りに動きます。具体的には、マテウスがサイドバックの裏へ抜け、そのポジションへシャビエルが移動、シャビエルがいたあたりに金崎が降りてきました。
そこで丸山は金崎へのフィードを選択。やや大きくなって相手DFにはじき返されますが、蹴った瞬間にしっかりポジションを詰めたCH2枚の内、稲垣がセカンドボールをきっちりキープ。相手と交錯しつつも逆サイドの成瀬につなぎ、最終的には成瀬の縦パスを受けて反転して抜け出そうとした前田がファウルをもらう形で、しっかりと前進に成功します。
今季、自陣でビルドアップを行う場合、多くの場合はCB、SB、CHの3人で三角形を作り、その自陣側の頂点にCBの丸山か中谷がいることが多くなります。この場合パス交換の中で、彼らがSBかCHからバックパスを受けて前を向いてボールをもらうことが増えます。ここで彼らがもらうタイミングに合わせて、前線のSHであるマテウスや前田、CFの金崎は、間に降りるもしくは相手サイド奥に流れ、CB2人に長いボールを蹴る選択肢を作る動きを行うことが今季は非常に多くなっているように見受けられます。
その後のセカンドボールへのCH2人のポジション取り方詰め方もスムーズなことと照らし合わせると、地上戦でのビルドアップが手詰まりになりそうな時の仕込みとして、こういう縦への長めのボールが組み込まれているということなのかもしれない、そう思わせる程度には再現性を感じるプレーになっています。実際に、これに近い形で相手守備を背負ってボールを受けたり、逆に裏に抜けてボールを収めたりと、この試合でも金崎は色々な形でボールを引き出していました。
金崎を活かし、金崎に活かされるビルドアップ
この形で前進していくことを考えると、CFには機動力と、相手と駆け引きをしながらタイミングを合わせてポジションを動かしていく賢さが必要です。相手に先じて動き自分の有意なポジションを抑えることで、例えば競り合ったり相手を背負ったりする場合の勝率を高めていくわけですね。
そういう意味で、この試合の金崎が浦和CB陣を圧倒した理由は、本人の技術もありますが、ビルドアップ隊との連携で、彼が勝てる可能性が高いタイミングでのプレー機会を増やせていたということが大きいのではないでしょうか。金崎が頑張って周りを活かしていることがこの試合の攻撃力につながりましたが、その前にビルドアップ隊との連携、タイミングの同期が、金崎の能力を最大限活かすように働いている、そう感じています。
本人は得点という目に見える形での貢献がなくまだまだ不満を感じているでしょうが、この役割を果たしつつ、少しずつ自らがゴールに迫れるようになってきているのも事実です。すでにチームの中でなくてはならない役割を担う金崎夢生。その苦労が報われる、歓喜の瞬間を早く見たいものです。