「ガブリエル シャビエル選手、契約満了のお知らせ」
昼休み、スマホの通知を確認すると、そこには知りたくない情報が載っていた。
出会いも別れも、いつだって突然訪れる。
スマホを鞄に投げ入れ、椅子に深く腰を掛け、天井を眺める。そしてグランパスの一時代が終わった事を悟った。
魔法に魅せられて
5シーズン
日本人選手と比べて結果が求められる助っ人外国籍選手の中で、この在籍年数は長い部類だろう。
5年前、2017年はDAZNでのJリーグの放送が開始された年であった。
2017年以前の私は、グランパスの試合結果はチェックしていたものの、地上波でのテレビ中継か、年1回行けるかどうかのスタジアム観戦でしか試合を見る機会が無かった。J2に降格が決定し、地上波での放送が無くなってしまった。
そんな中で、いつでもJリーグの試合が手頃な値段で見られるDAZNの登場は渡りに船であった。2017シーズンに合わせてDAZNに加入すると、フレッシュな新生グランパスに期待と不安を抱きつつ、毎週末パソコンの前で試合結果に一喜一憂する日々を過ごしていた。
まずまずのスタートダッシュを切ったものの、途中から思うように勝てなくなり、23節終了時、グランパスは2位のアビスパ福岡に勝ち点差9の5位になっていた。
2017明治安田生命J2リーグ 順位推移グラフ 【第23節】
「J1昇格は難しいかもしれない」
そう思っていた矢先、彼は突然やってきた。
ガブリエル シャビエル選手、期限付き移籍加入のお知らせ|ニュース|名古屋グランパス公式サイト
記者会見の内容からスピードのあるテクニシャンという事は伝わってきた。
ガブリエル シャビエル選手移籍加入記者会見|ニュース|名古屋グランパス公式サイト
「この選手がフィットすれば、来年にはJ1昇格できるかな。」
そんな風に考えていた自分の認識の甘さを数日後に痛感することになる。
24節の京都サンガ戦のスタメンに彼はいた。
「ブラジルから来日して数日の選手をいきなりスタメンで使うなんて、監督は気でも触れたのか?」
正直、そう思った。
そんなことはなかった。
コンディションが万全でなくても、明らかに他の選手と比べて圧倒的なクオリティであることが数プレー見ただけでわかった。
極めつけは、ゴールシーン。
押谷のパスに抜け出したシャビエルは菅野の股を抜いて、簡単そうにゴールを決めて見せた。
彼のプレーが衝撃的すぎて、負けたことすら忘れてしまうほどだった。
そこからの活躍は凄まじかった。
正確無比のプレースキック、爆発的なスピードとテクニックで翻弄するドリブル、相手を欺くトリッキーな足技、ひとたび彼がボールを持てば何かが起こる。そう感じさせてくれる選手だった。
パソコンのディスプレイ越しにも、その魅力は伝わってきた。
そして、抗えなかった。生でプレーが見たいという欲求に。
強引に予定を調整して、訪れたパロマ瑞穂スタジアム。
カメラ越しでは伝わり切らなかった魅力がそこにはあった。
一度その味を知ってしまったら最後、ディスプレイ越しのプレーでは物足りなくなってしまい、現在ではほとんどのホームゲームはスタジアムで観戦している。つまり、私にとって、シャビエルはスタジアム観戦をするきっかけになった選手である。
私と同じようにシャビエルのプレー見たさにスタジアム観戦をする人がいたのかはわからないが、加入後の来場者数はほとんどの試合で1万人を越えていた。
シャビエルは、お金を払ってプレーが見たい、まさにお客が呼べる選手であったと思う。
そんなシャビエルの最終的な成績は7ゴール14アシスト、半年だけでアシスト王になっていた。ゴール、アシストに限らず、キーパスなども含めると、加入後ほとんどのゴールに彼が関わっていた。
その圧倒的な能力ゆえに、チームのシャビエルへの依存も気がかりでもあった。負傷離脱中に行われた昇格争いのライバルであったV・ファーレン長崎戦でイマイチ噛み合わない攻撃を見て、その存在の大きさを痛感した。
この個人的な懸念は昨シーズン払拭された。
2020シーズン27節FC東京戦、立て続けに金崎夢生、山﨑凌吾が負傷離脱し、CF不在の中で迎えた大一番。前線の阿部浩之、シャビエル、マテウス、前田直輝というテクニシャン4人が連動して想像性溢れるプレーを見せてくれた。
この時、シャビエルと伍する選手が3人もいたことにチームとしての積み重ねを感じるとともに、何よりも躍動するシャビエルを見ることができて本当にワクワクした。
J1昇格、J1残留、ACL出場権の獲得、そしてルヴァンカップ優勝。
シャビエルとともに歩んだ5シーズンはグランパスにとっての変革期であり、幾つもの困難を乗り越えながら、ついにJ1上位まで戻ってくることができた。来季以降も継続して上位進出、タイトルを獲得することで、シャビエルの貢献が報われるのだと私は思う。
最後に
J1昇格を果たし、期限付き移籍延長が決定した際に、シャビエルはこんなコメントをしている。
“期限付き移籍延長について、とても幸せに思っています。今年は、J1復帰を果たせて、幸せな1年となりました。
2018年は、多くのタイトルを獲得するために全力を尽くします。なぜならば、名古屋グランパスはそれに値するクラブだからです。偉業を成し遂げられるよう、共に闘いましょう!”
ガブリエル シャビエル選手、期限付き移籍延長のお知らせ|ニュース|名古屋グランパス公式サイト
この後,2年間残留争いをしたせいか、契約延長の際にタイトルに言及することはなくなってしまった。
しかし、最後の最後に、たった一つではあるが、シャビエルと共にタイトルを獲得できて本当に良かった、本懐を実現できて良かったと心から思う。
幸いなことに、あと1試合、しかもホームでシャビエルのプレーを見ることができる。
今までたくさんの魔法で魅せてくれたシャビエルに、
テレビの前から、パソコンの前から、スタジアムから、私たちが最高の雰囲気、最高のスタジアムという魔法をかけてあげたい。
彼のプレーを網膜に灼きつけ、最後は万雷の拍手で送り出したい、あの屈託のない笑顔とともに。
あとがき
DAZNによる放送開始後にシャビエルは加入したため、全試合のハイライトがYoutubeで確認できたことは幸運だった。しかしながら、ハイライトを見るのに夢中で、本文の方は遅々として書き進まなかった。4年半という月日の長さと濃厚さを実感した。
昨夜、偶然見かけたシャビエルは、栄のどのイルミネーションよりも輝いて見えた。