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ミッチから見たピッチ、その瞳には何が映る サンフレッチェ広島戦に見る名古屋の守備とゴールキーパーの役割について #grampus #sanfrecce

2020年11月11日、独身の日
名古屋グランパスはサンフレッチェ広島に0-2、と惜敗しました。

珍しいことに2失点とも、ランゲラック(ミッチ)が関与していました。
1失点目はビルドアップの縦パスを奪われて失点。
2失点目は森島のFKがバーに当たった後、ミッチにあたりゴールに入ってしまう不運にも見舞われました。(おそらく全世界の独身の嫉妬によるものでしょう)

ミッチはこの3年間、グランパスのゴールを死守してきました。
そんな彼が、この試合でなぜ失点に絡んでしまったのか、ミッチの目に映るピッチの様子の違いから紐解いていきたいと思います。

現代のゴールキーパー

ゴールキーパー(GK)はピッチ上で唯一、手でボールを触れることが許された特殊なポジションである。そのため、GKはシュートを止めることが仕事、と他のフィールドプレイヤーとは戦術的に切り離して考えられきました。

しかし、たった1人のニュータイプによってこの概念は覆されました。

①スイーパーキーパー

マヌエル・ノイアー、バイエルン・ミュンヘンに所属するドイツ代表のGKある。

ノイアーの出現によって、GKにスイーパーのような役割を与えたり、低い位置でのビルドアップに参加することが求められるようになりました。

②シュートストッパー

そうは言ってもGKは最後の砦、従来のようなシュートストップに重きを置くチームも少なくありません。

その最たる例が、アトレティコ・マドリードに所属するスロベニア代表GKのヤン・オブラクでしょう。リーガエスパニョーラにおいて178試合でクリーンシート100試合を達成、2015-16シーズンは平均失点率が0.47と現代において最高峰のシュートストッパーです。

彼は足元の技術も備えていますが、チームの方針でノイアーなどのように積極的にビルドアップに組み込まれたり、広大なスペースをカバーすることはなく、ペナルティエリア内に留まってシュートストップに専念しています。

ヤン・オブラクのスタッツ

現代サッカーにおいてGKの役割は1.広大なスペースをカバーし、高精度のキックでビルドアップにも参加する「スイーパーキーパー」と2.ビルドアップにはあまり関与せずにペナルティエリア内でシュートストップに専念する「シュートストッパー」に大別されます。

JリーグにおけるGKのトレンド

この傾向はJリーグも例外ではありません。

1.「スイーパーキーパー」の役割をいち早く組み込み、もはやお家芸と化している横浜Fマリノスが顕著であるでしょう。

この3年間でマリノスのゴールマウスを守ってきたパクイルギュ(鳥栖)、梶川裕嗣(マリノス)、そして飯倉大樹(神戸)のヒートマップを見ると、ペナルティエリアを飛び出してディフェンスラインの裏のスペースをカバーしていることがわかります。
パクイルギュのスタッツ梶川裕嗣のスタッツ飯倉大樹のスタッツ

2.われらが守護神、ランゲラックは「シュートストッパー」です。
パスの精度やビルドアップへの関与を考えると武田洋平の方が優れていると思います。
しかし、ランゲラックはボールハンドリングやポジショニング、状況判断に秀でており、ことシュートストップに関してはリーグ屈指です。
ベガルタ仙台のヤクブ・スウォヴィクも同じようなタイプです。

ビルドアップに積極的に関与するわけではないが、非凡なシュートストップ能力を持っていることはグランパスサポーターも良く覚えていることでしょう。

彼らのヒートマップを見ても、前述の1.スイーパーキーパーとは異なり、ペナルティエリア内に留まり、2.シュートストップに専念していることが分かります。

ヤクブ・スウォビィクのスタッツミッチェル・ランゲラックのスタッツ

ランゲラックの特徴を考えると無理にビルドアップに組み込んだり、広大なスペースをカバーさせるよりも、ペナルティーエリア内に留まってシュートストップに専念させた方が彼の真価を発揮させることができる、と私は思います。PAGE_BREAK: PageBreak

Runs out

sofascoreでミッチのスタッツを見ているとある項目が気になりました。

それはRuns outです。

下の表は今シーズン13試合以上出場した、つまりレギュラーGKのスタッツです。

主力GK陣の中で、ランゲラックだけが”Runs out”が0です。

「はて、この”Runs out”とはどんな意味だろうか?」

そう思った私は、人類の叡智の結晶に助けを求めました。そうgoogle検索です。

sofascoreの定義はこうです。

“A goalkeeper makes a successful run out when he comes off his line/out of his area, wins the ball and wins possession for his team.”

これを、やるせない鯱のガバガバ翻訳にかけると

”run out”の成功とは、GKがペナルティーエリアから飛び出してボールを取り、マイボールにすることである。

と、こうなります。

つまり、

今シーズンのミッチは一度もペナルティーエリアから飛び出してボールの処理をしていない、ただ一人のGKなのです。

今シーズンの守備とミッチ

今シーズンのグランパスの失点数は27、平均失点数は1を切っています。(2020/11/13現在)

過去5年のグランパスの失点数は2015シーズンから48、58、65、59、50、平均失点数は2弱。

今シーズンの失点数は例年の約半分、守備が大幅に改善されたことが伺えます。

それでは昨シーズンまでと今シーズンとで何が変わったのでしょうか。

一番顕著に変化しているのは「被枠内シュート数」でしょう。

下の表は過去3シーズンのランゲラックのセービングに関する数値をまとめたものです。(FBRefより)

試合数に違いはありますが、2020年の被枠内シュートは2019年の2/3、2018年の半分以下と激減しています。ミッチのセーブ率が変わっていないことから、被枠内シュート数が減少したことで失点も減少したことが推測されます。

ランゲラックのスタッツの経年変化

それではなぜ今年の被枠内シュート数が激減したのか

ここで、2019年と2018年のRuns outを比較してみましょう。

次の表は上から2018年と2019年のレギュラークラスのGK(15試合以上出場)のスタッツです。

2018年のトップは飯倉大樹(当時横浜Fマリノス)、Runs out は50回。2位のキムジンヒョンの3倍以上、前人未到の金字塔を打ち立てています。

この年、横浜Fマリノスの監督に就任したアンジェ・ポステコグルー監督は自身の攻撃的な戦術を実現するため、GKにスイーパーキーパーの役割、つまり高い位置を取るディフェンスラインの裏の広大なスペースをカバーする事、ビルドアップに貢献することを求めました。

その結果、飯倉は勇猛果敢にペナルティエリアを飛び出してボールを処理したり、フィールドプレーヤーと錯覚してしまうほど高い位置でビルドアップに絡むようになりました。

後に「飯倉チャレンジ」という隠語が発生するほど、彼のプレーは一大旋風を引き起こしました。この飯倉のプレースタイルは今のマリノスの戦術の基礎を築いた、と言っても過言ではないでしょう。

2019年のトップはその飯倉から正GKの座を奪ったパクイルギュの40回、2位の西川周作の3倍です。飯倉同様、パクイルギュも攻撃的なスタイルを取るチームの弱点をスイーパーキーパーの役割を担うことで補い、優勝に貢献しました。

2019年のゴールキーパーのスタッツランキング

さて、ランゲラックのRuns outの回数を見ると2018年は8回、2019年は6回と中位からやや上位程度の位置にいます。

2017-2019年は風間監督の「ボールを取られなければ、守備をする必要はない」という偉大な教えの下、ボールを保持した上でほとんどの選手が相手陣地まで侵入して攻めまくるという革命的なフットボールをしていました。

その半面、ボールを奪われてカウンターを食らうと、ディフェンスラインの裏には陽当たり良好で開放感のある空間が広がっているため、GKと1対1、ないしは1対3などの状況を作られることが日常的に発生しました。

こんなこともありましたね。
0:3の地獄の状態
(画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=3xuYU5uoEJI )
見ている側としてはジェットコースターの如く、ハラハラドキドキする試合展開の連続で、麻薬的な依存性と魅力があったものの、当事者、特にGKは気が気でなかったと思います。

2018年に加入したランゲラックも常に1対1+αを強いられてきました。それでもランゲラックは持ち前のセービング技術とポジショニング、状況判断力で幾度となくゴールを防いできました。

しかしながら、どんなに優れたGKであっても、何度も1対1の状況を作られると失点してしまいます。さらに、ランゲラックは前述の飯倉やパクイルギュのようにスイーパーキーパーのような役割を得意としていないことも不運でした。

守っても守っても失点の山。ランゲラックが抱えるストレスは夜中うなされるてしまうほどでした。

今シーズンはフィッカデンティ監督の下、「攻撃のためには良い守備を」ということで守備が整理されました。その結果、ディフェンスラインが極端に高い位置を取ることや攻撃に極端な人数をかけることが無くなりました。

この結果、グランパスの被枠内シュート数は川崎フロンターレに次ぐ2位の少なさ、川崎の場合は攻めている時間が長いことを考慮すると、最もシュートを撃たせない守備が出来ているとも言えるでしょう。

戦術的な変化と守備ユニットが向上したことで、ディフェンスラインの裏にスペースが出来て狙われることも、ランゲラックが純粋に1対1の場面を作られることはほとんど無くなりました。

今シーズン、裏に抜けて独走されて失点を許したのは確認した限り、ルヴァンカップのFC東京戦のアダイウントンに許した3失点目くらいだと思われます。

これらの守備における変化は今シーズンのランゲラックのRuns out が0というデータに結びついていると推察されます。

ランゲラックがペナルティエリアから出る必要が無くなり、ゴール前でセービングに集中できるようになったことで、実力を最大限発揮できるようになったと思います。これはリーグ最多の12試合でのクリーンシートというデータからも裏付けられます。

広島戦での異変

長い長い前振りがようやく終わり、ここからが本編です。

広島戦は今シーズンの試合の中でも異色のゲーム展開でした。

違和感を覚えた方も多かったと思います。

その理由は以下の2点であると思います。

  1. ランゲラックがビルドアップに組み込まれていたこと
  2. 意図的にボールを持たされたこと

1.ランゲラックがビルドアップに組み込まれていたこと

普段は近くの丸山、中谷に繋ぐか、大きく蹴るかであまりビルドアップには関与しないランゲラック。この試合は低い位置での数的優位を確保するためかビルドアップに組み込まれていました。しかし、前述のようにランゲラックはあまりパス回しを得意としておらず、1失点目は彼のパスがカットされて生じたものでした。

このあたりの事はゆってぃさん( https://note.com/yutty2525/n/n44d60aff3214 )やレビューでラグさん( https://grapo.net/2020/11/13/13126/ )が分かりやすく説明してくれているので割愛します。

2.意図的にボールを持たされたこと

今シーズンのグランパスはボール支配率が50%を割ることが多く、相手を待ち構える時間の方が長くなっていました。

ところが、広島戦での名古屋のボール支配率は今シーズン最大の63.7%。

今シーズン、ボール支配率が60%以上だったのは第1節ベガルタ仙台戦、第16節横浜FC戦、第24節ベガルタ仙台戦、そして第7節サンフレッチェ広島戦。

この4試合の結果は1勝1分2敗と負け越しています。さらに、第1節ベガルタ仙台戦、第16節横浜FC戦、第24節ベガルタ仙台戦のシュート数は20、14、17となっており、決定力を欠いたor撃ち合いに負けた結果であり、得点のチャンスを作ることができていました。

第7節サンフレッチェ広島戦のシュート数は3。

これまでのボールを支配した試合とは様相が異なり、相手にボールを持たされ、攻めあぐねたという表現の方が正確でしょう。

5-3-2のブロックを敷く相手に攻めあぐねたグランパスのディフェンスラインは点を取るため、次第に高い位置を取るようになります。その結果、ディフェンスラインの裏に広大なスペースが生まれ、前に飛び出してボールを処理するランゲラックや、相手を追走する守備という今シーズンほとんど見られなかった光景がこの試合では何度か見られました。

この試合のランゲラックの変化はヒートマップを見ても分かります。他の試合ではペナルティエリア内に留まっているが、広島戦(右端)ではペナルティエリア外まで出ていることがわかります。

ランゲラックのヒートマップの変化(右端広島戦)

twitterでこの試合の事を「悪い時の風間監督時代の試合を見ているようだ」とつぶやいていた方がいらっしゃいましたが、このディフェンスラインの位置と強固なブロックを前に停滞する攻撃から想起されたのではないかと思います。

この試合は、ランゲラックが得意ではないビルドアップに参加し、皮肉な事に、そのミスから先制点を奪われてしまいました。

最初に触れたアトレティコ・マドリードのヤン・オブラクはインタビューでこう語っています。

「先制されると、試合はグッと難しくなる。相手が守りに入る場合もあるからね。だから失点しない、最低でも先制点を与えないことが大切なんだ。僕はどんな試合でも、そのために100パーセント集中している」

ヤン・オブラク 世界最高への長い道【雑誌SKアーカイブ】

どんなチームでも先制して守勢にまわった相手の牙城を崩すことは難しい事です。

この言葉が表すように、広島戦は先制されてしまったことで難しくなってしまったと思います。

しかしながら今シーズン、グランパスは14試合で先制点をあげて、試合を優位に進めてきました。この結果にランゲラックが多大なる貢献をしていることは言うまでもない事であり、上位進出を目指す上で彼の力は必要不可欠です。

昼下がりのコーヒーブレイクのようにシュートをセービングするので忘れがちであるが、ペナルティエリア内でのシュートストップこそがランゲラック最大の武器である。

ペナルティエリア内でシュートストップに専念すれば、今後もランゲラックは美しいセービングでチーム窮地を救ってくれることでしょう。

頑張れ!ミッチ!
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About The Author

やるせない鯱
お初にお目にかかります。やるせない鯱(
@xuyzRSLkBfdhAYC
)と申します。
簡単に私の自己紹介をさせていただきます。
生まれも育ちも大都会豊橋、名古屋市在住のB自由席が指定席のグラサポです。
中学校にサッカー部がなかったため、サッカーは小学校年代までで、それ以降は軟式テニスをずっとプレーしてきました。
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