みなさん、こんにちは。グラサポのレフェリー・ルール担当、OTC公式(@Gram_Leorep)です。いやー、色々と厳しいですね。(突然)昔からのサポーターは2018〜2019シーズン、ないしは2016シーズン以前を思い出す方も多いのでは。
でもサポーターは、どんだけ逆転負けしようが、切り替えて勝利を信じ後押しするしかないですね。
日産スタジアムでの敗戦を綺麗さっぱり忘れて次に切り替えるのもよし、ちゃんと消化するのもよしですが、いずれにせよ、胸につかえていることはありませんか?
そう、藤井陽也の幻のゴールです。ということで、本日のテーマは「オフサイド」!
今回はオフサイドについての解説と横浜FM戦でおきたオフサイドの事象、さらには「何故、幻のゴールでVARが介入したか」「何故、オンフィールドレビューで判定が覆ったか」についての考察もしていきたいと思います。
実はオフサイドのルールについて、例外も含めてかなり詳しく書こうと思ったのですが、難しくなり長文すぎるので、今回の事象に関連する箇所にフォーカスして書きますね。
毎度のごとく、「ルールなんて堅苦しくて、難しいことは知らない!」という方にも、極力分かりやすく動画を交えながら説明しますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
なお、1〜3章はオフサイドの反則に係る解説ですが、徐々に難しくなっています。頑張って読み進めましょう!
(オフサイドの解説は不要、今回の事象についてのみ教えてという方は、4章からお読みください)
第一章:オフサイドってなに?
ルールは良く分からないけど、ジーニアス柿谷のカッコよさに惹かれてグラサポになったそこのあなた!オフサイド、分かりますか?
サッカー経験者の諸君、「オフサイドってどんな反則?」と聞かれたらどう答えますか?
オフサイドってサッカー初心者にとっては理解するのが難しい「壁」となっている複雑なルールです。それもそのはず、サッカーの競技規則には「オフサイド」だけで章があり、3ページ丸々オフサイドについて記載があるほか、図で7ページに渡って解説が掲載されています。
そんな複雑なオフサイドをどうにか簡単に理解しようとした言葉、それが、おそらく聞いたことがある「待ち伏せ禁止ルール」です。
オフサイドポジションにいる選手に、味方からボールが出てきたらオフサイド!
うん、これだけだと単純ですね。比較的分かりやすい!
オフサイドポジションは簡単にいうと、相手のゴールラインと、相手の後方から2番目に近い位置にいる競技者の間のポジションのこと。念のため、下図で解説します。
ここまでは大丈夫ですね?
せっかくなので、「待ち伏せ禁止」以外にもう一つ、大切な要素を覚えましょう。それが、
「邪魔しちゃダメ!妨害禁止」です。
これからは、オフサイドとは何か?と聞かれたら、「待ち伏せ&妨害禁止」ルールだと覚えてしまいましょう。
第二章:オフサイドの「妨害禁止」ってなに?
さて、ただでさえ理解するのが容易ではないオフサイドにおいて、余計複雑にさせる原因がこの「妨害禁止」です。でも、妨害されたかどうかって、本人じゃないと分からなくないですか?
前回特集したハンドとは違い、ある程度何が妨害か定義されているんです。(前回のハンド特集はこちらを参照ください。)実際妨害されたかどうかは本人しかわからないけど、第三者が判断しやすいように、明文化されているんですね。
何が妨害にあたるのか、ルールを簡単に咀嚼してみました。
- 相手競技者の視線を遮ることで、プレーまたはプレーする可能性を妨げる
- 相手競技者にチャレンジする(例えば、空中戦で競り合う、タックルする等)
- 相手競技者に影響を与える
- 相手競技者がボールにプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動を取る
①や②は分かりやすいですね。でも③④って何?って思いませんか?
「影響を与える」って何だよと。俗にいう、「インパクトを与える」という表現のやつです。
「インパクト」を定義すると、また4つの要素があります。
(サッカーって「4要素」って多いですよね・・・)
4要素全て満たしたら、③④にある「影響を与えた」と見なされます。
(競技規則には記載がないので、あくまでも「判断基準」的なものと捉えてください)
- オフサイドポジションにいる
- ボールがオフサイドポジションにいる選手の近くを通過する
- オフサイドポジションの選手が、影響を与える相手選手の近くにいる
- オフサイドポジションの選手がボールにプレー(またはボールを避けようと)する
上記はインパクトを与えているか判断する際の基準のため、全て当てはまれば結果的にオフサイド、どれか一つでも欠ければノーオフサイドになることが多いです。ただし、例外もあります。(そこは、レフェリーの判断が分かれるところです)
分かりましたか?分かりませんね?
文字ばかりはきつい!百聞は一見に如かず、実際に映像で確認しましょう。
第三章:オフサイド(インパクト)事例集
オフサイド事例集に行く前に、オフサイドかどうかを判断する簡単なチャート図を作りました。これを片手に映像を見てみてください。
まずは、ノーオフサイドの事例から。
ノーオフサイドの事例
2020年 24節 広島 vs 横浜FM (動画上は0:40~)
2021年 34節 FC東京 vs 清水 (動画上は2:25~)
上記2映像はオウンゴールした選手に対して、チャレンジ(競り合う等)していないのでノーオフサイド。
さらにもう一つ。
2019年 7節 G大阪 vs 浦和
GKの視界を遮っていない、相手競技者へチャレンジしてもいないので、「インパクト判断」となります。ボールが近くを通り、GKの近くにいたものの、ボールを避けようとしておらず、プレーしようとしてもいないため、最後のステップで「ノーオフサイド」となったものです。
続いて、オフサイドの事例です。
オフサイドの事例:
2020年 15節 柏 vs G大阪 (動画上は0:40~)
日本代表 W杯アジア最終予選 ベトナム vs 日本
事例(4)と(5)について、上のフローチャートに照らし合わせてみましょう。
ボールがオフサイドポジションの選手の近くを通過し、ボールを避けようと動き、インパクトを与える選手の近くにいるので、オフサイドです。
さぁ、いかがですか?5つの映像を確認できました。
一つ気が付くことがあると思います。
そう、「妨害したかどうか」の判断はレフェリーの主観なんです。
だから前の章で説明したような単純なオフサイドは、「オフサイドポジションにいた」という事実で判断すればいいのですが、このようにインパクトを与えたかどうかは、レフェリーによって判断が分かれるものという点を覚えておいてください。
最後に、意見が分かれる「どちらともいえる」オフサイドを見ておきましょう。
去年の名古屋の最終戦ですね。
2021年38節 名古屋 vs 浦和 (動画上は2:20~)
チャートに照らし合わせてみると、視線を遮っていないし、相手選手にチャレンジしていないので「インパクト判断」です。GKの近くにいて、ボールも近くを通っている。でも、ボールにチャレンジしてないので、ノーオフサイドでは?となりますよね?
この場合は、「ゴールエリアでGKと重なる位置にいる=影響を与えている」と見なして、レフェリーはオフサイドにしたのでした。
「いやいや、ちょっと待ってよ。事例(3)とどう違うんねん!」
「むしろ、事例(3)の方がオフサイドっぽいじゃないか!」
「そもそも、4要素全て満たしていないじゃないか」
お気持ちはお察しします。ここからも分かる通り、結局は主審の判断なんです。
あくまでも、4要素はインパクトを与えているか判断をするための目安なんですね。
ただし、4要素すべてを満たしていたら、オフサイドを取られる可能性が高いものなのです。
第四章:横浜FM vs 名古屋 幻のゴール
2022年 12節 横浜FM vs 名古屋
主審:佐藤隆治(PR・国際) 副審:西橋勲(PR・国際)、田中利幸 四審:日比野真
VAR:清水勇人(PR) AVAR:渡辺康太(国際)
GW最後の試合、まずは審判団に驚きました。
豪華すぎやろ・・・
PR(プロフェッショナルレフェリー)とは、日本の中で最高峰のランクのプロのレフェリー。国際(FIFA)レフェリーは、日本を代表して国際試合を担当できるレフェリー。
いやー楽しみでした。
https://twitter.com/Gram_Leorep/status/1522787320524550144?s=20&t=HYN4h_x4TKfN1qC_6phMUA
さて、試合は一進一退の攻防(?)で幻のゴールを迎えました。
幻のゴール (動画上は2:48~)
私はゴール裏2列目で見てました。いやー、沸きました。
しかし、VARチェックに時間がかかり、その瞬間でDAZNで確認。
えっ、分からない・・・。何がどうオフサイド?
その後VARが介入し、オンフィールドレビュー(OFR)に。
そのタイミングで取消になることを悟り、瞬時にこのツイートをしました。
https://twitter.com/Gram_Leorep/status/1522839248986009601?s=20&t=HYN4h_x4TKfN1qC_6phMUA
当時は、オフサイドポジションにいた丸山や仙頭の動きは、相手GKには影響を与えていないだろうなと思ったものの、試合が終わり、冷静にリプレイを何度か繰り返してみたら、オフサイドだと理解しました。瞬時に判断するレフェリーは本当すごい。
ここでポイントは以下の2点かと思います。
- 相手選手にインパクトを与えているのか?
- オフサイドだとしても、誰一人オフサイドと言っていないのに、VARが介入してゴール取消とするべきものなのか?
さて、フローチャートを再掲します。
さあ、どうですか? オフサイドですね。
丸山の近くにボールが通過し、影響を与えた選手(相手GK)の近くにいて、ボールを避けようとした(少なくとも、動いていた)。インパクトの4要素全て満たしてしまいました。(後の一つは、オフサイドポジションにいるということなので省略)
つまり、競技規則やインパクト判断の指針通り、このプレーを見たらオフサイドなんです。詳しく言うと、
- 相手競技者がボールにプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動を取る
に該当するのです。ここで重要なことは、相手GKが「インパクトを与えられた」と思っているか否かは関係ないということです。レフェリーが「オフサイドがなければ、相手GKは実際とは別のプレーをする可能性がある」と判断したら、オフサイドになるのです。
逆にどういうケースだったらオフサイドじゃなかったかというと、
- 丸山はオフサイドポジションにいなかった(当たり前ですが)
- 丸山は動いていなかった(ボールを避けようともせず、いるだけ)
- 丸山の場所とは全く関係のない場所をボールが通過した
- 相手GKは丸山と離れている場所にいた(例えば藤井の背後とか)
とすると、不運でしかないですね。仕方ない・・・
でも、CKでニアでそらしてシュートした場合、同様の事象って発生しやすいですよね?
現実的には、走りこむタイミングを遅らせる等するしかないですね。
第五章:VAR介入は妥当?
では、次の論点。「誰も気づいていないのにVARが介入するべきこと?」ですね。
(VARってなに?どんなルール?という方は、過去のVAR特集をお読みください)
もう皆様はVARの介入条件、言えますか?
得点、退場、PK、カードの人間違いにおける
- はっきりとした明確な間違い
- 見逃された重大な事象
でした。これは、「はっきりとした明確な間違い」か?荒探しじゃん!!
と言いたくなる気持ちもわかります。
おそらくですがこのVARは「見逃された重大な事象」により介入されています。
「見逃された重大な事象」は、フィールド上にいるレフェリーが全く見ることのできなかった事象のこと。例えば、「ハンドで得点した」「見えないところで殴った」等、レフェリーが判定していないことを指します。
ここからは私の推測です。おそらくこんなやりとりでしょう。(このシーンでVARが介入するカラクリは以下の通り)
以下、OTC公式の想像したやり取り
主審:ゴール (アシスタントレフェリーも、そもそも名古屋の選手がオフサイドポジションにいないと思っている)
VAR:チェックします。複雑なので、時間ください
主審:(選手たちに)時間かかるから、少し待ってね
VAR:佐藤さん、名古屋の仙頭と丸山はオフサイドポジションなんですが、どうジャッジしましたか?
主審:オフサイドポジションにはいないという認識。
VAR:丸山がGKの近くで、ボールも近いし、動いていてインパクト与えている。
主審:そこは見れなかった。
VAR:(ん?フィールドのレフェリーは見ていないのか・・・オフサイドポジションにいるし、影響与えてるよね?リコメンドしよう。)「VAR to Referee, I recommend On Field Review. Possible Offside」
こうして介入して、映像を見せられた以上、オフサイドとせざるを得ない。そんな流れかと推測できます。
結論的には、「VAR介入は間違いではない」です。
ただし、ジャッジリプレイでは家本さんも「現場が混乱していないので、競技規則やVARの精神的には、介入しないことも可能」とコメントした通り、VAR的にも介入すべきか「どちらとも言える」事象だったわけです。
この「どちらともいえる」ゾーン、仕方ないですね。VARというテクノロジーを使用して判断するのは人間ですので。
では、実際、介入するVARと介入しないVAR、どっちが多いのか気になりますよね。私の想像としては、介入するVARの方が多いと感じます。
もちろん、レフェリーとVARのコミュニケーション次第ではありますが、基本的にレフェリーは性質上、ルールに則り試合をレフェリングしていき、VARも同様です。
そして、国際審判であれば、FIFAからパフォーマンスがモニタリングされ、通常の審判でも毎試合評価されています。その評価では、競技規則を適切に運用して試合をコントロールしたかが問われます。
その前提で、「フィールド上は誰一人文句言っていないので、オフサイドだったけど、ゴールでいいです。競技規則の精神ではVARは現場が混乱した時に使うものなので、客観的にはオフサイドだと思うけど、みんながゴールと言うのであれば、、、」とは言いにくいですよね。
(たぶん介入しないとしたら、福島主審ぐらい。そのぐらい、特徴があり受け入れられているレフェリーじゃない限り、介入するかと思います。)
仮に、主審とVARの会話で「オフサイドポジションにいて、ボールは近くを通過したけど、そもそも、GKからしたらノーチャンス。だからゴールを認めます」的な会話があれば、
(指針的にはインパクトを与えているけど)「インパクトを与えていないという判断はサポートできるな」とVARが介入しない可能性もあったわけです。
改めて、VARも奥が深いなと感じます。
(VARの出現で、一つの判定をとっても、論点が増えましたね)
終わりに
さて、今回はオフサイド特集でした。いかがでしたか?難しいですよね、オフサイド。
実は、論点がオフサイドは多くて、ハンドと同じぐらい複雑だと感じています。
(個人的には、オフサイドのインパクトの判断の方が苦手です)
今回は残念ながら、幻のゴールとなってしまった藤井陽也のゴール。
本当無念ですが、仕方ない。
VARはいい面もあれば悪い面もありますね。トレードオフです。
そして、こういうシーンって続いたりするんですよね。
VARで取り消されたり、似たようなシーンでVAR介入せずに失点したりと。
でも大切なのは一つ一つ、理解して咀嚼して、次に向かうこと。
いかに、自分自身にベクトルを向けて、強くなれるかが何よりも重要です。
陽也、また決めればいいじゃないか。日産スタジアムの遠いピッチじゃなくて、
ホームの豊スタのサポーターの目の前で決めてくれ!
ということで、今回は幻のゴールとオフサイドに関する解説でした。
お読みいただきありがとうございました!