ここまでの2022年シーズンレビュー
ここまでラグさん、NeilSさん、OTC公式さん、ダンコバさんのシーズンレビューをお送りしました。本来なら22年末に編集長とゆってぃさんのシーズンレビューをお送りしようと思っていたのですが、想定外の吉田豊の移籍もあって遅くなりました。
そもそもファストブレイクってなんだっけ?
ファストブレイクの要素は以下のようなものになります。
- 相手の攻撃の選択肢を狭めて奪い、確実にマイボールにする
- マイボールにした瞬間にボールホルダー以外の選手を含む複数で速攻をかける
- アウトナンバー(3:2や2:1で、オフェンスが数的に有利な状態)を作り出してシュートに持ち込む
簡単に言えば、「1)守備から攻撃への切り替え早く」「2)相手の守備陣形が整う前に」「3)複数枚で攻めにかかり」「4)フィニッシュまで持ち込む」という4要素を実現するのがファストブレイクということになります。
このとき重要になる「2)相手の守備陣形が整う前に」の部分だ。これを実現するには攻撃に時間を掛けられない。ロングカウンターだと距離が長くなる分時間がかかる。可能であればできるだけ前でボールを奪いたい。
しかしグランパスの現状がどうだったか、というと、ブロックを作って守ってはいるものの、相手の攻撃をはじき返すだけで、ずっと相手ボールの時間帯が続くという試合が多いと言えるのではないでしょうか。終盤のアウェイ京都戦は後半45分ずっとこの状態で本当につらかった。これはここ数年変わっていません。
ここで注目したいのはKAGIという指標です。
Football LABでは、「守備の際にどれだけ相手を前進させなかったか、相手を自陣ゴールに近づけなかったか」という観点から、チームの新守備指標「Keep Away from Goal Index」、略して「KAGI」を集計して公開します。具体的には、
1)相手の攻撃時間のうち、自陣ゴールから遠い位置でボールを持っていた時間の割合が高い 2)相手の攻撃が始まってから、自陣のペナルティエリアまで到達するのにかかった時間が長い
場合に高い評価となるように指標化しています。
出典:KAGI,AGIとは | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB
こちらの値の統計を見てみましょう。データの引用元はFootball LABです。
グランパスは49.2と悪化しています。ボール支配率も低いので、相手にボールを握られてかつ、押し込まれているというデータになるでしょう。
名古屋グランパス 2022 チームスタイル[攻撃セットプレー] | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB
チームスタイル指標を見ると、本来ファストブレイクをしやすいショートカウンター(敵陣ゴールに近い位置からのカウンター)の指数は41。これは18チーム中15位(下にいるのは柏・磐田・清水)です。
一方でロングカウンターの指標は55、全体の7位です。
問題はロングカウンターの際にシュート率13.4%、ゴール率に至っては1%です。
名古屋グランパス 2022 チームスタイル[ロングカウンター] | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB
シュート率だけで言うと14位・下から5番目(下にいるのは京都・福岡・鳥栖・磐田だけ)です。指数の50以上のチームでは鳥栖・福岡・名古屋・鹿島が15%未満のロングカウンター時のシュート率=ロングカウンター遂行率が低いグループになります。
結論:ファストブレイクは成立していない
見出しの通りで、上記を総合するとファストブレイクは定義通りのプレーを成立できていないと考えます。では、どうするべきなのでしょうか?
ロングカウンターを磨くのか、それとも高い位置でボールを奪う本来目指していた姿に回帰するのか
上記のデータから名古屋グランパスが採れる戦術は、間違いなくカウンターになります。
後は現状通りロングカウンターのままそれを磨くのか、ファストブレイクを目指してショートカウンターに回帰するのか。どちらを目指すのか決めていく必要があります。
グランパスの今年は最終ライン38、コンパクトネスが43と、守備の4人が自陣ゴールに近くに構えて、あまりコンパクトではない状態だったことが上記データからわかります。
最終ライン | コンパクトさ | ハイプレス | ショートC | ロングC | |
横浜FM | 73 | 47 | 53 | 61 | 56 |
川崎 | 51 | 39 | 48 | 51 | 38 |
広島 | 58 | 39 | 63 | 74 | 57 |
鹿島 | 49 | 61 | 34 | 54 | 64 |
セレッソ | 45 | 46 | 56 | 53 | 60 |
FC東京 | 48 | 37 | 41 | 43 | 31 |
柏 | 54 | 58 | 66 | 40 | 63 |
名古屋 | 38 | 43 | 49 | 41 | 55 |
まず、川崎フロンターレやFC東京のようなポゼッション志向のチームはここで取り上げた指標は全部低くなっています。横浜F・マリノスはポゼッションとカウンターをうまく使い分けているイメージですね。
ロングカウンターが強いチーム、柏レイソル、セレッソ大阪、鹿島アントラーズは「コンパクトさ(最終ラインと前線のラインが拡がっていない)」を保つことでボールを奪う鹿島のようなパターンか、「ハイプレス」で相手のボールを思い通りに展開させない柏やセレッソのようなパターン分けができそうです。
ショートカウンターを成立させるためには、ロングカウンターのようにボールを奪う型を確立するだけでなく、高い位置(相手ゴール近く)でMFやFWがボールを奪う=「ハイプレス」をするか、そもそも最終ライン(DFの位置)が自陣ゴールより遠い=「最終ライン」を上げてカウンターの起点から終点までを短くするか、そのどちらかが必要というパターン分けができそうです。ショートカウンターの指数が高いのは横浜Fマリノスとサンフレッチェ広島で、前者は最終ラインの高さ、後者はハイプレスの値が高くなっており、2つのパターンを裏付けていると考えられます。
カウンターを成功させるには、なんらかボールを奪う型を持っている、ショートカウンターを成功させるにはさらにプラスアルファが必要という仮説が立てられそうです。
ですが名古屋グランパスの場合は極端に自陣ゴールに近い位置で守るが鉄壁な最終ラインと、これまた鉄壁な守護神の頑張りでマイボールにすることでロングカウンターを成功させている、といえそうです。
本来最終ラインを低くすると、相手の攻撃回数を多くすることになるわけで、そうするとDFのミスが発生する可能性が高くなります。名古屋の守備陣と守護神でなければ成り立たない再現性の低い仕組みだとグラぽは考えます。現在の守備陣と守護神の誰かが長期離脱するようなことがあれば崩壊する可能性があります。
カウンターを戦術の軸に据えるなら、現状の守備陣と守護神に頼り切りの戦術を脱却し、以下が必要になると考えます。
- ロングカウンターを軸とするのか、ショートカウンターを軸とするのか
- それに必要な要素を洗い出し、チームに組み込んでいく
もちろんサンプル数が少なすぎますし、これらの値の相関を探るにはこれらのデータが2019年以降しか公開されていないので検証が不完全になりますから、仮説に過ぎません。
ですが、改善ポイントとして検討する価値はあるのでは、と考えます。
ファストブレイクにこだわるならば
ファストブレイクにこだわるならば、横浜F・マリノスタイプか、サンフレッチェ広島タイプの2つのロールモデルのうちどちらかを目指すべきだと考えます。横浜F・マリノスはほとんどすべての指標が高いため、このタイプは一朝一夕では実現することは難しいでしょう。ならばサンフレッチェ広島の型「最終ラインを高めに、ハイプレスでショートカウンターを仕掛ける」を磨きたいところです。
課題は明らかになった、あとは改善のみ
では現状低い最終ラインとハイプレスはなぜ低いのでしょうか。
なぜ最終ラインが低いのか
一般論として、最終ラインが低くなる理由は以下のパターンに類型できます。
- DFのなかにスピードに不安がある選手がいて、スピードで裏を取られる不安がある(例:闘莉王がいたときのグランパス)
- MFが相手のボール保持者を捕まえきれず、フリーに近い形でボールを持たれている(相手FWとの駆け引きもしなければならないのでズルズルと押し下げられる)
- 攻撃側のボール回しの技術が守備を完全に上回っていて、守備側の陣地内なのにボールを奪い取れない(例:川崎フロンターレ相手のとき)
- DFラインの裏にロングボールを蹴り込まれる(対応するために一旦下がらなければならない。例:2022年のグランパス対策の定番)
名古屋グランパスは守備ラインを低く設定しているわけでなく、低くさせられているのだと考えます。上でも挙げた4つめの名古屋を押し込む定番、サイドバック裏にロングボールを蹴り込む、そうすると中盤の選手がボールに寄ってしまい、2つめの「MFが相手のボール保持者を捕まえきれない」という状況が発生しているのではないか、と見ています。
稲垣祥の走行距離が高いのは、それだけボールに絡みに行っているから、ということだと思いますが、レオ・シルバや永木亮太との組み合わせですと彼らもボールに絡みに行ってしまいます。稲垣祥を外すことが現実的ではない以上、どうしてもタイプの違う中央を任せられる選手が欲しい、というのが山田陸の獲得の一因ではないでしょうか。
なぜハイプレスの値が低いのか
今シーズン序盤、酒井宣福と仙頭啓矢がハイプレスをかけようとしているのにそれ以外のメンバーが連動していない、というシーンが目立ちました。
酒井宣福が離脱したり、仙頭啓矢を中盤で使うことが増えると、永井謙佑の加入までハイプレスはほとんどありませんでした。これが数値として低い理由だと考えます。
ハイプレスに関するより細かいデータがFootball LABから出ています。
名古屋グランパスの場合は年齢層の高さもありますがハイプレッシングの試行回数は高いほうではありません。守備成功率は下から5番目です。ハイプレスを上げていくには平均回数を増やし、守備成功率を上げるしかありません。
平均回数を増やすには、より運動量の多い選手に入れ替えるということが考えられます。守備の成功率を上げるには守備の型を仕込む必要があり、これはコーチの腕の見せ所でしょう。
2023年は勝負の年
2024年には榊原杏太、倍井謙らの黄金世代が加入することが予想されます。おそらく債務超過の解消もされているでしょうから勝負に出ることが予想されます。
長谷川健太監督とそのスタッフにとっては、今年結果を残さなければ延長はなくなるでしょう。崖っぷちの状況に追い込まれた中で、どういう改善を見せてくれるのかが楽しみです。