関西では春一番が吹き、日立台でも風のようなシュートがゴールネットの左右へ突き刺さる試合となりました。
数字上では3-0の完勝ですが、キャスパーの0から1を無理矢理作り出すゴールが無ければという恐怖も混在していた試合。
勝利の中に隠れていた難しさは何だったのでしょうか?
試合情報
試合後の長谷川監督のコメント「352で来る事を予想していた。それに対応した布陣を引いた」
とのコメントがあった通り、最終ラインに変化を加えた布陣を名古屋は取った。
不穏な前半
試合開始から苦しい時間が続く。柏が取った対名古屋のポイントは2つあった。
1つ目は「マテウスを外からスタートさせろ」
今シーズン、チームの攻撃の調子がいい時はマテウスのボールを持つスタートの位置が中央に寄った状態でスタートすると以前のレビューで書いたが、柏は高嶺、椎橋らが最初から中央を狭く取り、マテウスを外側へ追いやる事に成功。解説の佐藤さんも「中央もサイドもどうやってズレを作るのか?人をある程度動かしてズレを作ることが大事」とコメントしていたが、サイドに追いやられて枚数が不利の局面で悩ませられる時間を作らされた。
詰まらされる状況では名古屋はマテウスが内側にいる事で「ボールをもどしてやり直しても中央への楔が左右への展開の選択肢を迫ることが出来る」という選択肢をチームとして持つことが出来ていたが、マテウスが外側へ追いやられたことで配置だけでは中央の脅威を保つことが出来ずにいた。
その上ボールの展開も配置によって同数で待たれる事で苦しい状況が作られてしまった。
森下も藤井もインサイドグランパスのインタビューで「一枚剥がす」という事にかなり強く言及しているが、それほどに同数で当たられて「個人で一枚剥がすしかない」という意識を植え付けられたのだろう。
柏が取った二つ目のポイントは「名古屋の中央の選手達を動かす事」
最終ライン+椎橋、サヴィオを使い名古屋の守備と同数でボールの出所を探る柏だが、探る他にも椎橋とサヴィオがボールを出し入れしながら稲垣と米本をセットで誘導する形を取る。
そもそも柏が最終ラインを立田と古賀の2枚のような立ち方にしたことで名古屋の前線の選手は後ろが数的不利になる事を考慮して構えるスタンスを取った。名古屋の構えた選手の間で柏の選手がボールを受ける事で徐々に構えている選手達が我慢できずに釣られ始める。その釣る役割をしたのがサヴィオと椎橋だった。
稲垣と米本が左右に振られ始めると、特に稲垣の脇の部分からボールを進行されることが増えてくる。この場面では構える事をスタートにしてしまった事でカストロや永井といったシャドーの選手達がボールを奪うために必死に戻ってくるという意識付けが低くなった事もあってなのか、その二人が中盤を助けるために必死に降りてくるという前半では無かった。
稲垣と米本をボールサイドから離される以上、シャドー(カストロ&永井)が降りてこない間は高嶺、三丸、小屋松が森下と野上のサイドを数的優位で殴り放題となり前半は森下と野上が守備で悩む場面が多かった。
地味だが名古屋として厄介だったのが三丸と高嶺。最終ラインでボールを出し入れしている間に名古屋の最終ラインを三丸が押し込み、森下を下げる。三丸が押し込んだスペースに高嶺はボールが展開されるときに内側から外に流れて広がる流れがスムーズだった。(11:00~11:36)
これに小屋松が加わると為す術無しで右サイドは名古屋の深い位置を取られてしまった。
工夫と修正
得点シーンの直前の36:00〜から野上は前のスペースへの守備へのチャレンジが早くなった。そして永井がしっかり引いてくる場面も増えた。マテウスも永井が低い位置を取ることでスペースが空き、中央寄りに立つ場面も目立つようになる。
ボールを持つ局面ではマテウスが中央に寄り、稲垣もボールを受け取りに来る動きを見せる事で柏は明らかに意識が中央に寄りはじめる。
そして野上が大外に開いて、森下は高い位置へ。名古屋の基本の形をようやくこの試合で見せる事が出来た。
キャスパーのシュートは0から無理矢理1を生み出したようなシュートだが、キャスパーとマテウスがボールに絡むスペースは「自分達の工夫と修正で生み出した場所」というのは明確だった。
後半からの展開
永井が引いてブロックを組み構える事が増えて後半の頭からはサイドから攻められるシーンも。しかし、最終ラインがズレているわけでもないので安心感はある展開に。
唯一、名古屋キラーとなりうる存在だったのは仙頭。稲垣を剥がすときもボールにプレー基準がある稲垣の前を真横にドリブルして悠々と釣り出したり、プレスの始まる瞬間にできる中盤と最終ラインのズレを利用して細谷に鋭いパスを送ったりと対名古屋を熟知しているスキルを遺憾なく発揮した。
試合雑感
- 森下の思考を理解して肯定してサポートしてくれる野上の存在が森下を輝かせてるように見える
- 本人も課題にしていたが90分間でプレーのムラが出る藤井だが、和泉と米本に挟まれてこちらもプレーを肯定し理解してくれる選手の周りにいるのが良かった。
- 得点に隠れているが、尋常じゃない働きをしていたのは米本(パス64本:チーム内1位、タッチ78回:チーム内1位)
- 後半のクロスに対応している野上のポジションを見てほしい。必ず対応する選手の後ろに入ってくる。あの「たられば」まで想定しているプレーは今までの名古屋の守備陣には無かったエッセンス
さいごに
今回の試合後インタビューはかなり細かい部分まで踏み込んでいる。藤井や森下といった若手の選手達の考えや試行錯誤を垣間見える事が出来る良いインタビューだったので是非読んでほしい。
“勝ち”だからこそ貪欲に。