マッシモ フィッカデンティ監督 契約満了のお知らせ|ニュース|名古屋グランパス公式サイト
デスク:青天の霹靂、と言って良いだろう。一部の有料サイトで「そういう可能性がある」という情報は見ていたが、あくまでもフィッカデンティへの牽制だと思っていた。
編集A:Twitterなどでも「あーフロントとフィッカデンティさんがまたバチバチやってんなあ」って生暖かい目で見守っていた人が多かったみたいです。
デスク:退任に至る経緯をまとめてくれるか。
【事実と一部推測】フィッカデンティ退任の予兆
編集A:気づく人は気づいていたのが、最終戦後のセレモニーの様子でした。
昨日の会見で少し触れましたが、私は来季もやるものだと思っている。そういう気持ちでいます。それが口約束だけではなくて、どういった仕事をしなければいけないかを理解した上で、本気で、全力で取り組むつもりでいます。そういったものが口約束ではなく、現実的にここから数日の間にすべてのことがはっきりして、サッカーをすることに集中できることを望んでいます。
明治安田生命J1リーグ第38節 試合後セレモニー | インサイド・グランパス
デスク:口約束という言葉が2回出てくるのが印象的だったな。
編集A:契約まだしてないんだな、っていうのが正直な感想でしたね。
デスク:知らない人も多いようだが、実は口約束も立派な契約になる。
編集A:え!契約書も交わしてないのにですか?
デスク:そうなんだ。
編集A:ではなんで、「口約束ではなく」と何度も繰り返したのでしょうか?
デスク:実は、口約束が無効なケースがいくつかある。たとえばデート商法などによる勧誘などは無効にできる。しかし今回適用できるのは「会社が、会社の名前で取引相手と契約する場合には、その会社の代表権を持つ者か、代表者から契約締結の代理権を与えられている者が契約当事者となる必要がある」という点だ。
編集A:グランパスの場合は、小西社長が代表権を持っていて、あとは代理権を与えているのは山口素弘執行役員セネラルマネージャーですね。
(株)名古屋グランパスエイト 取締役人事のお知らせ|ニュース|名古屋グランパス公式サイト
デスク:それ以外の人が「契約延長の口約束をした」ということになるな。当然、無効になる。
編集A:なるほど、その約束しちゃった人はルヴァンカップの優勝が嬉しくて、つい気が大きくなっちゃった感じですかね。
デスク:誰がした約束かはわからないが、確実に怒られる案件だな。
編集A:ここは【推測】ですが、フィッカデンティさんはそれを素直に信じていたわけですね?
デスク:これはある方に教えて貰ったのだがニコロ・スキーラというイタリア・ガゼッタにも寄稿している記者がそれを聞きつけ、11月4日にこんなツイートをしている。
編集A:これは確実にフィッカデンティさんがニュースソースなやつ・・・。これも【推測】ですが、口約束を信じて最終戦前にも「延長なんだよね?」って契約交渉に臨み、「なんだそれ?」って言われて凹み、あの最終戦インタビューになった、と。
デスク:それが事実だとしてもおかしくないな。真相はわからないが。
【事実】フィッカデンティ退任報道
編集A:第一報はスポーツ報知でした。4日の最終戦セレモニーからわずか4日後の8日です。
J1名古屋とフィッカデンティ監督(54)との契約交渉が難航していることが7日、複数の関係者の話で分かった。交渉は条件面での合意を残すのみだが、折り合いがつかない可能性が出てきたという。
名古屋、新監督に長谷川健太氏急浮上! フィッカデンティ監督との交渉難航
デスク:「現実的にここから数日の間にすべてのことがはっきりして」と言っていたのだから、そろそろなにか起きるころだとは思っていた。気をつけたいのは「契約交渉が難航している」という書きっぷりから、報知側はチーム側視点なことだ。
編集A:たしかデスクも前日に心配していましたよね。
編集A:第二報はスポニチでした。
来季の契約を残しており、親会社のトヨタも全面的なサポートを約束するなど続投は既定路線だった。だが複数の関係者によれば、クラブ経営陣がルヴァン杯優勝後に約束した23年までの契約延長オファーをここに来て白紙撤回。両者の関係に亀裂が入ったという。クラブ側は関係を続けることが難しいと判断、タイトルを勝ち取った指揮官を事実上の解任とする前代未聞の方針を固めたという。
名古屋フィッカデンティ監督を電撃解任 新監督に長谷川健太氏招へい決定的― スポニチ Sponichi Annex サッカー
デスク:「契約延長オファーを白紙撤回」という書きっぷりは、フィッカデンティ側視点だな。スポニチと言えば、飯間健記者だ。フィッカデンティさんを代表監督に推薦するという以下の記事も飯間さんのものだ。
森保監督解任なら…後任候補はこの3人|日本人指導者にこだわる理由って? 選手はほとんど海外組だけに…【記者の視点】(SOCCER DIGEST Web) – Yahoo!ニュース
デスク:だからフィッカデンティ側と深いつながりがあってもおかしくない。
編集A:第三報は報知の2回目の記事でした。「決裂」という表現が使われています。
クラブ側は指揮官の手腕を評価。本人も続投に意欲を示し、クラブや親会社・トヨタとの信頼関係を強調していたが、契約期間の延長や強化方針、年俸など条件面で交渉が決裂した。
名古屋、長谷川健太氏が新監督就任の見通し フィッカデンティ監督と交渉決裂…条件面で合意ならず
編集A:12月8日の1日の間に交渉が行われていたわけですね。12月8日夜には共同通信がリリースを出します。そうなると共同通信の配信を受けている各社から配信されます。
デスク:プレス向けに配信があったんだろうな。
【主観】フィッカデンティという人物
編集A:デスクにはフィッカデンティさんはどう見えていますか?
デスク:まずプライドの高い人物という印象だ。
編集A:セリエAの監督をやっていた、ということはすごいことですものね。
デスク:あと、なにげに怖がりなところがあると思う。
編集A:怖がり?あんまりそういうイメージは湧きませんけど。
デスク:慎重と言い換えても良い。うまく行っているものを変えることを極端に怖がる。かつての日本代表監督であるジーコと同じだな。
編集A:あ、それはわかる気がします。大きく負けない限り、あまりスタメンをいじりませんでしたよね。
デスク:ただ、フィッカデンティが信頼する「小さなグループ」にいったん入れば、逆にそこに依存するようになる。
編集A:前おっしゃってましたよね。数少ないチャンスで「起用した俺スゴい!」ってドヤ顔出させないとダメって。
デスク:ドヤ顔をださせれば晴れてフィッカデンティの「小さなグループ」の仲間入りだ。
編集A:少ないチャンスを活かさないといけないっていうのは若手にとっては厳しいハードルですよね。
デスク:それをつかみ取ったのは成瀬竣平と森下龍矢だけだな。
【事実と推測】なぜ退任になったのか
編集A:就任初年度こそもたつき、ギリギリ残留という結果に終わりました。しかし2年目は3位、3年目の今年は5位とルヴァンカップ獲得という結果を残しました。それなのになぜ退任なのでしょうか。そこに納得がいかない人も多いのではないかと思います。
デスク:それには2つの理由があると思う。それを1つずつ考えてみよう。
【一般論】サッカーにおける長期政権の難しさ
デスク:Jリーグで同一の監督が指揮した連続シーズンは最高何シーズンだかわかるかな?
編集A:うーん、最近だと誰がいますかね。コンサドーレのペトロヴィッチさんは今年で4シーズン目でしたっけ。
デスク:正解は西野朗さんの10シーズンで、2002年から2011年という長期に渡ってガンバ大阪を率いた。この10シーズンで、3位より下だったことは2回しかないというすごい成績だ。
編集A:長く続けるためには成績を残し続けていく必要がある、ということなんですよね。あれ?でも最後の3年間も3位・2位・3位じゃないですか。なんでそれで退任になったんですか?
デスク:それはだな、「マンネリ」だ。
手法が型にはまり、独創性や新鮮味がないこと。マンネリ。マナリズム。「マンネリズムを脱する」
編集A:それが起きるとどうなるのでしょうか?
デスク:まず、サッカーがマンネリ化すると、相手は対策を採りやすくなる。対策が採りやすくなると、勝てなくなる。
編集A:ああー、名古屋対策で言えば「下平システム」ですよね。
デスク:それに対する対抗が3センターだったが、3センターというのはなかなかバランスが難しい。グランパスの場合はその実装(きちんとできるようになるまで仕込むこと)に苦労した。
編集A:米本拓司の守備能力は素晴らしいのですが、動き過ぎてセンターを空けてしまうことが多かったですものね。木本恭生をそこに置くことでバランスが取りやすくなりました。
デスク:俺の個人的感覚では、木本恭生を3センターの底に、米本拓司と稲垣祥をその前で「ルンバ」と化させるのが一番良いと思うのだが、怪我もあってほとんどその形はみれなかったな。
編集A:3センターをやるには、セントラルMFの数が足りませんでしたね。高齢なMFが多いので交代選手なしで実行はなかなかできない。
デスク:3センターが完成する前にフィッカデンティさんはいなくなってしまった。シーズン後半は怪我人もあって、3センターもやることがほとんどできず、下平システムの前に屈するということが多かった。
編集A:同じメンバーで長くやってきて、それで勝てなくなると微妙な空気になりますよね。
デスク:同じメンバー、同じやり方でやっているとどうしても緩みも出てくるしな。それでさらに勝てなくなり、もっと悪いサイクルにハマってしまう。
編集A:もしそうなってしまったらどうしたら良いのでしょうか。
デスク:方法は3つある。
- 人(選手)を代える=新陳代謝する
- 人(監督)を代える=やり方を変える
- プレーの質を上げて、勝ち続ける
編集A:なるほど。西野朗さんのガンバ大阪は、3:勝ち続けることで続いたんですね。でもグランパスは終盤負けが込んだ。そしてCOVID-19のこの状況では1:選手を大きく入れ替える(お金が掛かる)も難しい。
デスク:そうなると残るのは2だ。人は変わらなくてもいいかもしれない。でもやり方はアップデートが必要になっていた。
【推測】チームの方針転換
編集A:もう1つの理由はチームの方針転換ですか。こないだの記事に書かれていたヤツですね。
編集A:新しいミッションは「アフターCOVID-19の世の中で、厳しい状況のなかでも常に上位争いに加われるようになる」っていうことで、そのためには2冠を達成した現大学2年生組を中心に「名古屋U-18→名古屋トップ」もしくは「名古屋U-18→大学→名古屋トップ」のルートを整備して、自前で優秀な選手を育てて選手を賄う。そのためにアンダー年代のスカウトに、名古屋グランパスのワンクラブマン「中村直志」を配して、貴田遼河(きだ・りょうが)のような優秀な選手を獲得したり、U-15以下の鈴木陽人(すずき・はると)のような優秀な選手を引き上げるなど、継続的にアカデミーに逸材を獲得していこう、という理解で合ってますか?
デスク:よくまとめてくれた。そもそも山口素弘さんはアカデミーダイレクターとして2018年からグランパスに勤務していた。思い入れの強いU-18のメンバーを最大限活用したい、と思うのが自然だろう。
山口 素弘執行役員フットボール統括 執行役員ゼネラルマネジャー就任のお知らせ|ニュース|名古屋グランパス公式サイト
編集A:そうなると、フィッカデンティさんへのミッションも変わって来そうですよね。
デスク:そうなんだ。実は俺が一番決裂の原因になったのは、「来年度に監督に課せられるミッション」の設定内容だったんじゃないか、と思っているんだ。
編集A:どんな内容だったと推測しますか?
デスク:【推測】だが、おそらくこんな内容なのではないだろうか。
- 2021年のミッション:ACL出場権の獲得となんらかのタイトル獲得
- 2022年のミッション【推測】:現有の若手選手に一定のチャンスを与えながら、ACL出場権の獲得 or なんらかのタイトル獲得(=常に上位争いに加わる)
編集A:うわ!一気にそれってハードル高くなりますよね。
デスク:編成権を任されている山口素弘GMとしては、U-18二冠世代が2024年に戻ってくる前に、若手が活躍するチームという土壌を作りたいということなんだろうな。
編集A:ある意味、風間八宏元監督から、フィッカデンティさんに切り替わったときに近いくらい、「高低差で耳がキーンとなる」案件ですよね。
デスク:キーンとなるのは監督とコーチだけかもしれないがな。事実、チームは高齢の30代選手がとても多い。それだけに世代交代は必要なものだ。
【推測】解任なのか、退任なのか
編集A:記者としてはとても信頼の篤い岡島さんがいるスポーツ報知と、スポニチで報道のトーンが違います。これはなぜなんでしょうか。
デスク:まず、スポニチは「解任」という。解任は「雇用側が任務を解くこと」だ。辞任は「自分の意思で任務を辞すること」、退任は「双方合意の上で任務を退くこと」になる。
編集A:たしか解任だと、違約金が発生するんですよね。フィッカデンティさんがサガン鳥栖を辞めるときは4億円が発生したとも言われていますが・・・。
デスク:そうだな。しかし今回、山口素弘さんは「双方合意の上、契約満了」と言っている。
ー2シーズン連続で好成績を収めたフィッカデンティ監督は、続投に意欲を示しながらクラブを去ることになりました。改めて経緯を教えてください。
双方合意の上、契約満了という形となりました。
ー契約年数が1年残っていたかと思います。
契約年数についてクラブは公表していません。内容に関してはリリースのとおり、契約満了となります。それがクラブとして伝えられることになります。
山口素弘ゼネラルマネジャー オンライン囲み取材 | インサイド・グランパス
編集A:一部のタイムラインでは「お金で揉めたのでは?」という推測を述べる人もいました。
デスク:俺はそうだとは思わない。俺が【推測】する契約交渉上の争点は「契約年数」と「ミッションの内容」、そして「違約金の設定額」だったと思う。年俸の額は、二の次だ。
編集A:なぜその3つだと推測したのですか?
デスク:まず、契約年数だ。次が4年目になるフィッカデンティさんの場合、先ほど説明したマンネリに陥る可能性はある。
デスク:しかしCOVID-19がオミクロン株の影響でまだまだおさまらなそうな今、監督に新たに迎え入れることができるのは、今現在国内にいる監督だけだ。となるとマンネリ対策のところで説明した「監督を新しくする対策」はかなりリスクが高い。候補の数が少ないからな。
デスク:今はあまり長期の契約は結ばず1年延長し、マンネリが起きたりしないか、それともリフレッシュができるような環境に戻るのか、などの様子を見ていくのが適切な方法だろう。
編集A:冒頭で触れた3年延長なんてとんでもないですね。
デスク:そういう方針だとすると、マンネリに陥ったときに監督の入れ替えをすることになる。そこで効いてくるのが「違約金の設定額」だ。
編集A:なるほど、長くなればなるほどマンネリに陥る可能性が高く、マンネリに陥ったときに支払う違約金が大きいと影響が大きいっていうことですね。たしかにサガン鳥栖の4億円とかだとチームに影響大きそうですものね。
デスク:そして「ミッションの内容」だ。プライドの高いフィッカデンティさんのことだ。「自分のやり方を否定されている」と感じてもおかしくないと【推測】する。
編集A:フィッカデンティさんの立場からすれば、契約年数が長くて、万が一首になっても生きていけるくらい違約金が貰えればいいですものね。そして自分のやり方でサッカーをやりたい。それを全部否定されているようなものになりますね。もしそうだったら嫌だなあ。
デスク:どちらもおかしなことは言っていない。それぞれの立場で求められることを言っているだけだからな。だいたい年俸とかでそこまでケチっているチームじゃない。だから人件費がこんなことになっているんだがな・・・。
編集A:その3点で折り合わなかった、ということですね。推測としても納得感あります。ガッテンです。
【推測】なぜ長谷川健太さんだったのか
編集A:ではなんで長谷川健太さんが新監督に起用されたのでしょうか。
デスク:最初から長谷川健太さんありき、ではなかったのだと【推測】する。オミクロン株の影響がなかったら違った候補だった可能性もある。
編集A:まずはフィッカデンティさんのサッカーから大きく変わらないことですよね。堅守速攻のスタイルはFC東京も変わりませんから。
デスク:山口素弘GMも言っているように、「積み上げてきたものは大事にしながら闘っていくのが基本路線」だろうからな。あとは交渉したなかでグランパスの掲げる2022年のミッションを受け入れてくれるかどうかも問題になる。
編集A:方向性変えて、また「高低差で耳キーンとする」では選手がついてこれませんものね。
デスク:条件は
- いまフリーで
- 「アフターCOVID-19の世の中で、厳しい状況のなかでも常に上位争いに加われるようになる」という新ミッションを受け入れてくれて
- 世代交代のために若手の育成にも取り組んでくれる
デスク:という3つで、それを受け入れてくれたのが長谷川健太さんだった、ということなんだと思っている。
編集A:なるほど!わかりました。長谷川健太さんも新しい環境になって、簡単ではないと思いますが頑張って欲しいです。2022年のグランパスに期待します!
デスク:俺たちファミリーもしっかり整えて、2022年に備えないとな!