2023年2月21日公開のJリーグ ジャッジリプレイ 2023 #1にて、興味深い映像が表示されました。VARの見ている映像が公開されたからです。
引用元:Jリーグジャッジリプレイ 2023 #1 ©DAZN Inc.
え?画像粗くない?
そう思われたと思います。自分も思いました。多くの人が突っ込んでましたが、横浜FCの選手のつま先はユンカーのつま先と同列にあるように見えるのに、垂線は横浜FCの選手の肩から引かれています。
しかし、画像が粗すぎて本当はどうだったのかがわかりません。
さらに公開されたのはこの記事です。同じ日に行われたサンフレッチェ広島対北海道コンサドーレ札幌の試合のノーゴール判定についてで、これは番組中でもVARの映像のクオリティをジャッジリプレイで指摘されていました。
判定時の手続きに際しては、映像の不鮮明さも一部で議論を呼んでいたが、扇谷委員長はDAZNの中継映像に比べてビデオオペレーションルームの映像は解像度が落ちる可能性があることを指摘しつつも、今回の例は「それをもってしても判断できたと考えている」と映像のクオリティーは影響しなかったという見解を示した。
よく訓練された審判の方には十分なのかもしれませんが、我々素人にはこの画像の妥当性は判別つきません。他国で使っている画像はもっと鮮明に見えます。
なんでこんなことが起きたのでしょうか?
ちょっと考えてみました。
注意:ここの情報は公開されている情報からグラぽが組み立てた仮説です。内容の信憑性を保証することはできません
画像が粗くなる可能性のある場所
ポイント1:ピッチとの距離
Jリーグで解禁された試合の静止画撮影のおかげで、試合をスマホで撮影したことがある人も多いのではないでしょうか?
すると、画素数は1200万画素(画像的には4000×3000相当)とかもあるのに粗かったりしますよね。
上はメインスタンド中央からコーナー付近で挨拶する選手を撮影した画像です。
本当に4K画像・・・?ってなっちゃいますよね。これは望遠で撮っているためそうなっています。スマホなどのレンズはどうしても口径(レンズの大きさ)が限られてしまうので、同じような位置からちゃんとしたデジカメ(レンズがデカい)で撮った画像とは大きく異なってしまうわけです。
ポイント2:VARカメラ
いまどき4Kのビデオカメラなんて10万も出せば買えちゃうんじゃない?っていう疑問が湧いてしまうと思います。
では、なんでVARのカメラはそんなにスゴイものではないのでしょうか?
理由1:市販の屋外設置型カメラは防犯用カメラがほとんど
市販の屋外設置型カメラはだいたい防犯用カメラです。4Kのカメラもあるにはあります。
たとえばこういうカメラです。防犯用カメラは比較的近距離の撮影に特化しているので、遠距離だとスマホよりはマシなものの、ピッチのなかの撮影となるとポイント1の理由により、画像が粗くなってしまいます。
VARに適した中距離以上の撮影に特化したレンズを持つカメラは、今のところVAR以外に用途が見当たらず、そのため非常に高価であることが予想されます。それでは市営スタジアムなどでは導入することは難しいでしょう。よって安価な防犯用カメラを転用しているのでは、と推察します。
理由2:おそらく市営のグラウンドの場合、高級なカメラを購入するわけにはいかない
ニッパツ三ツ沢球技場だったり、今回ノーゴール判定で話題になったエディオンスタジアム広島は両方とも市営のグラウンドです。
市の持ち物であるグラウンドにJリーグの要請で設備を行う場合、それが承認されたとしても最高級の製品を揃えてくれるとは限りません。
おそらくJリーグからVARカメラの最低の要求仕様が示されていれば、その仕様を満たす、一番安い見積のカメラを購入しているはずです。
そうなるとワールドカップで使っているような高級品とは大違いの、レンズの小さいカメラが導入されていることになります。
これが攻劇さんのTweetで紹介されていた、ヤマハスタジアム磐田と味の素スタジアムのカメラです。
味の素スタジアムは高級なカメラを使っていそうですが、ヤマハスタジアム磐田ではそうではなさそうですね。
そして三ツ沢です。Jリーグでは5台のVARカメラを導入しなければならないはずなのですが確認できているのは2台です。やはりそれほど高級・高性能なカメラではなさそうです。
ポイント3:VARカメラとトラックを結ぶ回線
VARカメラは、だいたいネットワークカメラと呼ばれる、LANケーブルごしに映像を送るシステムになっています。
LANのシステムには規格がいろいろあるのですが、古いスタジアムではその規格が古い可能性があります。
作られた年代 | 規格 | 規格上の速度 | 実際の速度 |
1980年代 | 10BASE | 10Mbps | 2Mbps程度 |
1990年代中頃以降 | 100BASE | 100Mbps | 40Mbps程度 |
2000年代以降 | 1000BASE | 1Gbps | 400Mbps程度 |
三ツ沢球技場は作られたのは1955年ですが、Jリーグに対応してネットワークを整備しているはずです。Jリーグの始まった1990年代中頃ですと、100BASEの規格(実測40Mbps程度)が限界の可能性があります。エディオンスタジアム広島も同時期の開設ですね。
それに対して動画の解像度別に動画送信に必要な速度を見てみましょう。
解像度 | フレームレート(1秒あたり何枚の画像を送信するか:多いほどなめらか) | ビットレート(1秒あたりに送信するデータ量:多いほど画像が細密) |
4K (2160p) | 60 FPS | 53 ~ 68 Mbps |
4K (2160p) | 30 FPS | 35 ~ 45 Mbps |
Full HD (1080p) | 60 FPS | 12 Mbps |
Full HD (1080p) | 30 FPS | 8 Mbps |
HD (720p) | 30 FPS | 5 Mbps |
SD (480p) | 30 FPS | 2.5 Mbps |
実際にはVARは5台のカメラを繋いでいるはずなので、この数値x5が必要です。Full HD(一般的なテレビ映像)ですと、8Mbps x 5=40Mbps。これはかなりギリギリです。ひょっとするとフルHDでの映像よりビットレートを落として、粗い画像を送信している可能性があります。
DAZNもフルHDのはずなのに、なんだか画像が粗いことがありますよね?
あれはネットワークが混雑しているためにビットレートを落としているからです。
豆知識:マンションやアパートにお住まいの場合は、同じマンションにNetflixとかのヘビーユーザーとかがたくさんいると、ずっと粗い画面で見ることになります。
ポイント4:VARモニタ
VARのシステムはJリーグから委託を受けたSONY系列の会社が運営しています。ですので放送用の機材をふんだんに取り入れたものになっているはずです。
しかし、どんなに高精細なモニタを使っていても、元のデータが粗かったら映像はキレイになりません。
むしろ高精細なモニタで粗い画像を見ると、粗さのほうが目立ってしまうのです。
その現象をジャギーと言います。ジャギーは、デジタル化された画像や動画に発生する乱れ(ノイズ)の一種で、線や輪郭に現れる階段状のギザギザのことです。画像の解像度が画面の解像度と合っていないと、以下のような乱れが目立ってしまいます。
画像引用元:ジャギーとシャギーの違い | イチデザ
ジャギーが出ていると、かえって区切りの部分などで迷いが発生します。
隠れた要素:標準化
VARの設備は試合を行う度に設置することは難しいと思われ、常設になると思われます。
VARやAVAR、オペレーターがいるのはVORと呼ばれるトラックですが、Jリーグ(と、そこから委託されているSONY系列の会社)が責任を持つのは恐らくVORのみです。
実際、そこから先はスタジアムの管理になっているのだと思います。
先ほどの攻劇さんのTweetにあったように、スタジアムによってカメラやそこに影響を与える4要素に差があるようです。
高級な設備を揃えるには、当然ながらとてつもない予算が必要です。2022カタールワールドカップでは1スタジアムあたり数億円の設備費用が掛かったとも言われています。
現在の景気では、どこのスタジアムでもそんな設備をすることはできないでしょう。
VARを導入するには、予算の少ないであろう市営スタジアムでも導入できる設備であることが求められます。
おそらくVARのカメラに設定された要求仕様はかなり低めであることが想像されます。エディオンスタジアム広島やニッパツ三ツ沢球技場のような古めの市営スタジアムではミニマムな設備でも致し方ないと言えるのではないでしょうか。
環境を整える意味とは?
スタジアムによって差が出てくるのは仕方がないのですが、こうやって問題が出てくると、どこかのタイミングで設備の底上げを図っていく必要があるのではないでしょうか。
しかしどんなに高級なシステムを使っていても使うのは人間です。ですからVARを導入しても誤審はなくなりません。
たとえばこの記事のように、プレミアリーグでも人為的ミスによるVARの誤審が出ているようです。
ただ、人為的ミスを減らすのもやはり設備を含む環境だと思うのです。
厳しい経済状況のなかですが、少しずつ改善を図って欲しいものです。