らいかーるとさんが、浦和対名古屋を観戦して、上記のような感想をもたれたそうです。
外部から見ると、「イメージチェンジ」と思えるくらいの変化があるということです。
さらに言えば左サイドになにやら問題意識を持っている、ということも。
2023年前半のサッカーの特徴
名古屋グランパスは NeilSさんの記事でも取り上げたように、今年の前半のグランパスは以下の傾向が見られていました。
- ロングカウンターを磨いて、フィニッシュまで至れるようになりつつある
- しかしゴールに近づく回数の割合はリーグ最悪レベルに低い(23年前半17位/18チーム)
これが名古屋グランパスのプランAです。プランAがある程度うまく行っているものの、これ以上ロングカウンターを磨くのも限界があるのも確かです。
京都サンガ戦のように、カウンターをそもそも発動できないくらい「組み立てを崩壊させられてしまった」ら、いまの戦い方では負けてしまう。そんな現状に対して長谷川健太監督が問題意識を持っているのは確かでした。
プランB、可能ならばプランCを持つことで、相手はプランA対策に集中できなくなります。
そんななかで起きたのがマテウス・カストロのサウジアラビア移籍と、森島司の獲得です。マテウス・カストロを出したい、と思って出したわけではないでしょう。
キャスト(配役)変更により、ある意味名古屋グランパスの戦い方は強制的に変更を強いられたことになります。
即興で創られたプランBでの変化
マテウス・カストロへのオファーが明らかになったのはおそらく報道の数日前。マテウス抜きの戦術を仕込むにはあまりにも時間が足りません。
突貫工事、それどころか現場の即興でマテウス抜きプラン=プランBを作っていくことになったことが想像されます。
アルビレックス新潟戦
中2日で機動力を発揮することも難しく、そして国立競技場開催というホームとも言い難い状況。和泉竜司をトップ下に据えた新潟戦前半の前半は、それなりに機能していたものの、米本・内田・稲垣祥の3センターはあまり機能せず、アルビレックス新潟に蹂躙されてしまいます。
攻撃回数も89と今期最小レベル。30mライン侵入も少なく、相手ゴールに近づけませんでした。プランC候補でもある3センターはいったんはあと回しになった感があります。
以下特記ない場合のデータはFootball-LABとSofascoreから引用しています。
鹿島アントラーズ戦
森島司が加わった鹿島アントラーズ戦では変化が起きます。
- 攻撃回数:微増
- 30mライン侵入:48%増加
- PA内侵入:175%増加
NeilSさんの記事で、30mライン(ゴール近く)までいけたらペナルティエリア内に入れる(KPI2)が、そもそも30mラインまでたどり着くことができない(KPI1)のが問題、ということが明らかになっていました。
もう一度おさらいすると、
- KPI1(どれくらいゴール近くまで迫れているか):17位(24%:前半戦)
- KPI2(どれくらいペナルティエリアに侵入できているか):4位(35.7%:前半戦)
このKPI1が名古屋グランパスの問題で、そのKPI1がどう変化しているかを見てみましょう。
シーズン平均、マテウス・カストロ期に比べてKPI1は大幅に改善傾向にあります。
浦和レッズ戦
特筆すべきなのは浦和レッズ戦です。そもそも浦和レッズのセンターバック、ショルツとホイブラーテン、GK西川周作のトライアングルはJリーグでランゲラック・中谷進之介・藤井陽也のトライアングルに匹敵する、いや今年の実績では上であるチームです。
その相手に対して、いくら浦和レッズがリードしている状態とはいえ、KPI1が41.2%というのは素晴らしい値ですし、PAへの侵入52.4%というのは攻撃型のチームなみの数値です。
Jリーグ最少失点の浦和レッズ相手にこの数値を出せたこと、そしてゴールこそ決められなかったもののビッグチャンスを3つ創れたことはポジティブな変化と思って良いでしょう。
はたして選手はどう思っているのか?
サッカーダイジェストの「名古屋グランパス大解剖」特集号の稲垣祥インタビューにこんな文言があります。
「軸は変わりません。縦への速さは今のチームの強みです。でもそれだけじゃ対策されたり、厳しい面も出てくるはず。じゃんけんの話ではないですが、グー、チョキ、パーを全部出せるようになるには、やっぱりチームとしての積み重ね、成熟度が必要だと思います。ただそれができる土台は整いつつあるのかな、と。そこを大切にしながら、相手がどう出てきたら、どんなことができるのか、引き出しを増やす作業は、大切にしながらやっていきたいです。」
またタイムリーなことに、赤鯱新報に、この2試合を見たキャスパー・ユンカーのインタビューが掲載されています。
「カウンターの回数、頻度に関して言うと、そんなに変化は感じない。今もカウンターからのチャンスというのは作れているわけで、その点は問題はないと思う。そこはチームとして、速い攻撃と遅い攻撃を両方組み合わせられると、より相手チームにとっては脅威となるし、カウンターだけのチームだったらそれは相手チームも止めるのは簡単だ。それを両方できるポテンシャルはあるし、両局面で危険なアタックができるようになったと思う。相手はそうなればどうやって守ればいいかわからなくなるし、両方の面でもっと改善していく部分があるので、そこをしっかり突き詰めていきたいと思う」
この2試合の変化は、選手のなかでも感じていて、しかもポジティブに捉えていることが感じられます。
新たな問題
名古屋グランパスのプランBは、今のところうまく行っているように見えます。
ただ、手放しで褒め称えることができるか?というとそうではありません。
以下の2つが問題だと編集部は考えています。
- 今のところは2勝1敗だが、3試合で得点は2しか獲れていないこと
- 以下の記事でも挙げた、森下龍矢の強みを活かせない状況になっていること
実は、この2つの問題は、根っこのところでは一つなのかもしれない、と考えています。
すなわち、攻撃の大きな武器である森下龍矢の強みが活かせない状況だから、得点が獲れなくなっている、という仮説です。
上記の記事では、役割の変化なのでは?という仮説を挙げました。
それに対して、最初に取り上げたらいかーるとさんからもう1つ、意見の投げかけがありました。最初のツイートの重ねがけのような感じです。
最初のツイートのことがあったので、やはり左サイドに問題があるのでは?というところがひっかかりました。
すると森島司のデータを見ていると、浦和レッズ戦での森島司のポジションが変わって来ていることがわかりました。
浦和レッズ戦ではスタッツが大幅に改善していることがわかります。先ほどのNeilSさんのKPIの大幅改善には、新たに加わった森島司の影響が大きいことは火を見るより明らかです。
ただ、鹿島戦では右サイド中心だった森島司のポジションが、浦和戦では左サイド中心になっていることがわかります。
シーズンを通したヒートマップを見ていると、右利きだから、ということはありますがやはり左サイドに偏っていることがわかります。
そうなると、第4の仮説として「同サイドに森島司が来ていることで、アイソレーション(孤立化)できず、スペースがなくなっている」が考えられるようになります。(第1から第3はこの記事を見てね)
用語:アイソレーション:突破力の高い味方をあえて味方も距離をとることで、1対1に集中させること。一度スペースを与えてスピードに乗せてしまえば、1対1では止めることが困難な選手がいる場合、その選手が得意とするエリアで1対1で勝負させるほうが有利となるので、そこに敵選手があまり行かないように別の場所に味方選手を増やして距離を取る
これまで森下龍矢が攻め上がるときは、近くに内田宅哉か永井謙佑を置いてワンツーをしかけるか、そうでなければ、今あげたアイソレーションをしかけるという形を取っていました。
どうも森下龍矢が密集状態のなかで受けることが増えたように感じます。そうなると、
- 森島司を含む味方も寄ってしまって密集状態になっているので、ワンツーでも抜けられない
- =ボールキープをしながらパスをすることが増える
- =スプリントが減る
という森下龍矢の一番の強みを活かせない状況になっているのではないでしょうか。
しかし、チームの武器である森下龍矢の活かし方は、今挙げたワンツーとアイソレーションしかないわけではないはずです。
プランBをより成功させるには、このあたりの新しい方法を見つけることがカギになってくるのかもしれません。