Jリーグ育成組織(Jリーグアカデミー)の意義
Jリーグ公式に書かれていた(現在ページを工事中)Jリーグの育成組織(Jリーグアカデミー)の意義は、
- 日本サッカーの強化とリーグ水準の向上に貢献する
- 若年層の試合環境を整備する
と定義されています
各クラブとしては、当然地域全体のサッカー水準を上げることだけでなく、そしてトップチームに選手を輩出すること、育成することも求められます
たとえば浦和レッズの育成組織のコンセプトでは以下のように述べられています
◆サッカー(スポーツ)を通して豊かな人づくり、人間形成にあたります。
◆トップチーム(プロフェッショナル)で活躍できる選手および世界に通用する選手を、浦和レッズ下部組織から輩出するために一貫指導に基づいて選手の指導にあたります。
Jリーグクラブの育成組織のコンセプトは細かい表現の差こそあれ、各クラブほぼ同様です
リーグの掲げる「若年層の試合環境の整備」とは、地域の若年層が質の高いコンペティションに参加できる場を設けること。これは「地域貢献」であると考えられます。
ただ、それだけでは営利組織であるクラブチームにとって利益がなさ過ぎます。クラブチームが育成を行うメリットは、良い選手を「トップチームに送り出せる」ことです。
ですから「地域貢献」だけではダメで、「トップチームに送り出せる」の両立が必要なのではないでしょうか
名古屋グランパスU-18の実績
名古屋U-18から現役で各種トップチームに送り出せている人材は35名です。
特別指定・期限付き移籍を除くと、現所属選手は6名です。
(もちろん期待を以て期限付き移籍に送り出されている選手もいますので、プラスアルファがいるのは確かです。)
この数字が大きいかどうか、ということでいえば比較的多いほうです。とはいえ、レギュラーへの定着度ということで言えば昨年まで藤井陽也がいたものの今年はU18出身者のレギュラーは0。人数では柏レイソル・FC東京・ガンバ大阪・サンフレッチェ広島に負けています。
期限付き移籍に出している選手のなかで実績が多いのは東ジョン・石田凌太郎・甲田英將・成瀬竣平・久保藤次郎になると思います。成瀬竣平は一時期名古屋グランパスでレギュラーを獲得しましたが、その後J2の山形・水戸・長崎ではレギュラーを獲得できていません。石田凌太郎も監督交代後は試合出場が途絶えています。(6月中旬以降、1試合4分のみ)
安定して出場しているのは東ジョン・甲田英將・久保藤次郎くらいでしょうか。
現所属で出場時間が長いのは21試合718分出場の倍井謙、次が12試合567分出場の吉田温紀です。
サンフレッチェ広島ユースの実績
サンフレッチェ広島の場合、期限付き移籍を除いて、ユース出身者が15名です。
しかもユース出身者のなかで、大迫・荒木・東・川辺・満田・加藤と、6人がほぼレギュラー格です。
トップチームで現役で活躍できる選手が15名いるというのは、上記のアカデミーのコンセプトの2つ目の達成度としては広島のほうが上回っていると判断できます
サンフレッチェ広島ユースが多くのレギュラーを輩出できる理由の考察
実は賛否両論あるのですが、サンフレッチェ広島ユースは全国から選手を広く集めています
今年度登録されている選手のうち高校生は14名の県外選手がいます。
名古屋もかつての吉田麻也などもそうでしたが、近年は1年に1人から2人、しかも隣県からしか獲得できていません
名古屋グランパスU-18も一定の成績(プレミアリーグWEST優勝1回、2位2回)を残している強豪チームではあるものの、サンフレッチェ広島ユースの実績はものすごいものがあります
- 23年プレミアリーグWEST優勝
- 22年プレミアリーグWEST7位
- 21年プレミアリーグWEST優勝、ファイナル中止
- 20年スーパープリンスリーグ中国優勝
- 19年プレミアリーグWEST5位
- 18年プレミアリーグWEST優勝、ファイナル優勝
- 17年プレミアリーグWEST2位
- 16年プレミアリーグWEST優勝
- 15年プレミアリーグWEST5位
- 14年プレミアリーグWEST6位
- 13年プレミアリーグWEST3位
- 12年プレミアリーグWEST優勝、チャンピオンシップ優勝
- 11年プレミアリーグWEST優勝、チャンピオンシップ優勝
13年で6回の高円宮杯U-18サッカープレミアリーグ優勝とスーパープリンスリーグ優勝1回というのは素晴らしい成績です。
成績は選手の質だけで決まるものではありません。
しかし、これだけ圧倒的な成績が残せるのには、なんらかのヒミツの要素があるのではと考察します。
サンフレッチェ広島ユースの強さの仮説
ユースに限りませんが、一般論としてチームが良い成績を残すための要素を以下のように考えました
- 良い選手を集める
- 選手やチームに適切な指導を施す
- チーム内に適切な競争を構築する
これができたチームが良い成績を残せる可能性は高いと考えられます。
良い選手を集める
選手を全国から広く集める、というのは人口276万人の広島県という事情もあると思います(愛知県は755万人)。人口が少なければ若年層の人口も少ないわけで、そうなると優秀な人材を確保することは難しくなります。
一番の問題は、地域の選手だけを集めるとなると、選手層にムラがでてきてしまうことです。このポジションは多すぎる・・・このポジションは足りないなんていうことが普通にあり得ます。
神様が均等にちょうどよく育ててくれる、なんてことはないですからね。
そうなるとチームの選手の質を担保するには、手薄なポジションに全国から選手を集めなければならないということが考えられます。
そのためにはセレクションへの参加・練習参加などがあります。
その点で特殊な地域があります。それが関東圏です。1都3県には日本の総人口の約30%、約3500万人が住んでおり、その代わりJリーグチームもJ1に8チーム、J2に2チーム、J3に3チームと13チームあります。練習参加なども容易で、それだけでアドバンテージがあります。
チーム数だけでも過当競争になるというデメリットはありますが、実は高校や特に大学などにとってみると、気軽にJリーグチームと練習試合ができる=スカウトを受けやすいというメリットのほうが大きかったりもします
地方のチームの育成組織が、スカウトをしやすい関東のチームの育成組織に対抗するには、それなりの覚悟と仕掛けが必要です
私の友人の息子は関東に住んでいますが、関西・東海・中国地方のJリーグチームからU18チームへの加入を誘われましたが、実家から離れるのがイヤで関東の高体連強豪校(U-18プレミアリーグEAST所属)に進みました。家から離れたくないというのは地元以外のチームを断る理由としてはポピュラーなものだそうで、貴田遼河のように東京の中学生が名古屋に来てくれる、(同じようなことが吉田麻也などにも言えます)というのは本当に難しいことだということが判ります。
そういうときに重要なのが、チーム(スカウト)になります
地方チームがどうやってU15の有望選手を見つけるか?
U15年代で高い評価を得た選手を集めることによってチーム内の全体のレベルを向上する可能性があるというのは誰でもわかります
ではどうやって有望な選手を見つけるのでしょうか?
方法は3通りあります
- クラブユース選手権U15のようなところで選手を見つける
- 有力クラブの指導者とパイプを作り、推薦してもらう
- 掘り出し物をみつけるためにマイナーなチームを視察する
どれもスカウトの腕が試されるところです。3,.は宝くじみたいなものです。
1.は誰でも見れる環境で結果を残した選手を対象とするわけなので、昨年のFC多摩 吉田選手(現鹿島アントラーズユース所属)のように、競合が多数になってしまいます。名古屋グランパスも欲しかった人材ですね。
実は1.に至るときには、実はもう候補は絞り込まれているものです。有力クラブの指導者から、「コイツはいい」などの推薦があり、それで継続的におっかけるパターンです。関係性を築き、それでなんとか地方に来て貰う。関東以外のチームはみんなそのように長期間の苦労をしているようです。
おそらく、サンフレッチェ広島のスカウトの皆さんは、全国のクラブチームと本当に良い関係を築けているのだろうと想像します
良き指導者による適切な指導
これはサンフレッチェ広島ユースも、そして名古屋グランパスU-18もそうですが、良き指導者が適切な指導を施すことで、チームの質が担保されているという面は確実にあります。
サンフレッチェ広島ユースは立ち上げ時の監督が、その後Jリーグで多数監督を行うことになる小林伸二さん、またU17代表監督を務めた現ベガルタ仙台監督の森山佳郎さん、名古屋グランパスU18の2010年代半ばまでの強い時代を作った高田哲也さんらを起用しています。現在の野田さんも広島ユース出身者で固めたスタッフで良い指導を行っていると評判です。
名古屋グランパスも古賀聡さんと三木隆司さんという2人の優秀な監督に恵まれたことで近年良い成績をあげています。
チーム内に適切な競争原理が働くこと
これはサンフレッチェ広島ユースに限らない話ですが、ほぼ決まり切ったレギュラーメンバーを起用し続けると、競争原理が働かなくなり、競争による成長が望めなくなる可能性があります。
ですから、可能であれば2セット分に近いくらいのレギュラーメンバー候補を持ち、それぞれのポジションで競争をさせていると競争をしている選手に成長が見込める可能性があります
(当然競争に圧倒的に負けてしまうと腐ってしまう可能性もあり、指導者のチームマネジメント力が試されるシーンになります)
中学高校年代はどんどん入れ替わるので、3年生と2年生、2年生と1年生がそれぞれ競うようなかたちが一番望ましいカタチです。
ですから、ある程度質の高い選手を確保し続けることが重要になります。
県内選手だけでその質の担保が難しいときには、やはり県外選手のスカウトが必要になるのです。
強豪育成組織のヒミツ
サンフレッチェ広島のみならず、強豪育成組織というのは、上に挙げた3つ(良い選手を集める・良い指導を施す・適切な競争原理を働かせる)をうまく回せているチームがほとんどだと思われます
ただし注意しなければならないのは、良い選手を集めるということを外部からやりすぎると、同じアカデミーのU-15からの昇格のワクを削ることになりますし、県外から取り過ぎると県内のクラブチームとの関係性が難しくなるということもあります。
名古屋グランパスの場合、県内にフェルボール愛知のようなサガン鳥栖と密接なルートができてしまっている中学年代のクラブチームがいると、県内の有望株を確保しづらいという難しさもありますが、どうかスカウト陣は県内の選手を確保しつつ、うまく県外の有望株をバランスを取りながら獲得をして、チームとしての質を確保してもらいたいものです
育成組織の先にあるもの
毎年10名以上が卒業していくJリーグの育成組織。
直接Jリーグチームに昇格する選手は、年に1名から、多くても4名。いない年もあります。
多くは大学でサッカーを続けることもありますし、なかにはすっぱりと高校でサッカーを辞めてしまう選手もいます。それも人生ですから仕方ありません。
育成組織に求められるのは地域のサッカーの質の向上という地域貢献と、クラブのトップチームに良い選手を送り出すこと。これはある意味、まったく逆の目的とも言えるでしょう。そしてさらにはそこでサッカーをする高校年代の選手たちの成長という3つ目の要素も加わります。
ただ、それらをうまくバランスを取りながら、少しでも理想に近いレベルで実現に向かって努力していくしかありません
少しでも、Jリーグの育成組織がうまく行き、そこでサッカーをする選手たちのサッカー人生が良いものになりますように。