xG 0.16
ボール保持率35%。
パス関連に至ってはガンバがファイナルサードでのパスが225/178(試行/成功)に対して名古屋は42/84。
2020年以降、xGを記録しているデータサイトによると、今回のガンバ戦でのxG 0.16は2024シーズンJ1第7節、名古屋対福岡戦で記録したxG 0.14に次ぐ低さである。
チームの顔として期待された看板FW2枚が2年連続で出遅れ、中心に据えると語っておきながら、その形でチームを構築できなかったことへの不運を嘆かざるを得ない。それでも、このチームでやるべきこと、そして試合で起きた事象を振り返っていく。
試合情報
ガンバの印象としては、開幕戦でのセレッソとのダービーが挙げられる。
打ち合いを辞さない姿勢が目立つ一方で、対人守備の強度が甘く、守備の規制がかけられない点が印象的だった。
一方、名古屋は横浜との2連戦ではボールを動かすことで守備に行きやすい形を作ることができたが、湘南戦では守備構造単体で挑む形となり、苦しい試合運びとなった。
今回の試合において名古屋が注力すべきポイントは、「自分たちが守備をしやすい形を攻撃でどう作るか」という点であった。
ガンバの土俵に立たされる
ガンバは試合開始直後から、名古屋のプレスを釣り出すための仕掛けを講じた。
その中でも顕著だったのがSB(サイドバック)の位置だ。ネタ・ラヴィがCB(センターバック)間に落ちた場合や一森がCBに入った場合でも、SBが極端にWB(ウイングバック)を押し込むことはなかった。
CB+αで名古屋の前線3人を誘い出し、SBにIH(インサイドハーフ)が寄せる動きを遅らせ、あるいはズラす形を作り出したのである。
これにより、SBがIHを制限できない状況となり、SB対WBのマッチアップが発生する。さらに、WBが高い位置に出ていくと、ガンバはWG(ウイング)とSBを大外に配置しているため、名古屋のWBがSBに対応した後のスペースを誰が使うのかが明確になった(黒川や半田が内側に逃げる動きや、ファン・アラーノが降りて半田が外に張り出す形が典型的である)。
さらに、CB間にいるのがラヴィなのか一森なのかという変化も重要だった。
一森がCB間に入る際はラヴィがボランチラインに並び、満田やアラーノが中盤で+αとして顔を出す形が生まれ、結果的に名古屋のラインが押し下げられることとなった。
ガンバが押し込んだ場合、ラヴィが最終ラインまで降りてボールを受け取り、アラーノや黒川が名古屋のIHの裏にポジションを取る形に切り替える。
このように、ビルドアップの構造自体は変わらないものの、選手を入れ替えることでピッチ上の目的を変化させていた点が印象的である(特に05:00~07:00の探り合いの場面が分かりやすい)。
このようなスタート構造により、名古屋はプレスをかける状況を作れず、守備に徹する形を選択することになった。
さらに、CBがIHに向かってボールを運ぶ動きも厄介だった。距離を縮めながら「SBに渡しますけどいいですか?」といった形で駆け引きを仕掛けてくる。
編注:中谷進之介がなんども持ち上がって上記のような駆け引きを演じていた
この駆け引きの有無で展開は大きく変わる。IHはCBに、SBはWBに対応することが求められるが、要するにガンバが出るタイミングを完全に掌握している状況だったのである。
味方の動きを見ながら、ジェバリやアラーノ、ラヴィ、満田が作るセンター周辺のエリアをケアすることは非常に難易度が高かった。
この難しさは試合後の選手インタビューでかなりの選手達が言及しているので是非読んで頂きたい。
土俵を作られても立ち回りが良ければ…
名古屋は自身の守備でガンバの攻撃セットアップに苦しんだが、試合は点を取ることができれば勝利できる。では、名古屋側のビルドアップはどのような展開になっていたのか。ここでは、時間帯を2つに絞って振り返る。
まず振り返る前に、ガンバの守備を整理する。
ハイプレスで常に相手に合わせていたかといえば、そうではない。特に試合序盤は強烈にプレスに来た印象はなく、4141のような形で名古屋に対応していた。
前線の1-4で中盤を「囲う」というより「埋める」に近い布陣を敷いていた。ラヴィと鈴木はボールサイドにいる方が前に出て椎橋や稲垣をマークする形をとり、RSH(右サイドハーフ)-OH(オフェンシブハーフ)-LSH(左サイドハーフ)の間に立つ稲垣と椎橋を一人が必ずケアしている状況だった。ただし、埋める意識があったとはいえ選手間のスペースが空いてしまい、稲垣と椎橋にとっては囲まれるよりも楽な状況であった。
そのような中で、名古屋は小野と野上をSB(サイドバック)として機能させる可変の4バックを採用した。中山が外側を押し込むことを前提とした、右CB(センターバック)がSBになるいつもの形だ。
この場合ガンバからすれば、小野と野上をどう処理するかがポイントとなる。3列目を1-4で埋めているため、SH(サイドハーフ)がWB(ウイングバック)に広がるべきかどうかという課題が生じていた。この形を象徴するのが15:27~のシーンだ。
直前に右サイドの人数が多い状況から縦方向の奥を狙うプレーを行った結果、ガンバは全体がスライドする形でスタートした。
名古屋は最終ラインからビルドアップを開始したが、椎橋が巧みにボールを引き出す動きを見せた。椎橋は山下、小野、河面にスライドさせないようにジェバリや満田、山下を背負いながらボールを引き取った。しかし前を向いた椎橋に受け手がいなかった。
この場面では河面や小野にボールを送る選択肢もあったが、椎橋自身が満田-山下の間にいたため、降りて受けて反転すれば満田-山下の間のスペースが見える状況だった。その視線の先には主審の後ろに隠れるようにポジションを取ったマテウスがいた。椎橋は無理にボールを出すことも考えながら、満田-ジェバリ間やさらに奥のラヴィの背後にいる和泉、そしてまだ姿を見せていない稲垣を探った。
しかし、ラヴィのスライドが間に合ったため、攻撃の起点を作ることができなかった。
佐藤-稲垣を経由して椎橋にもう一度スイッチを頼んだが、その頃にはガンバの守備が横移動を終えプレスを開始していた。ボールを通すスペースは消え、和泉が降りてきたものの手遅れだった。最終的にシュミットがロングボールを蹴り出す形でこの場面は終了した。
一つ目のターニングポイントはこのシーン。
ああいうタイミングでラヴィの脇に降りてくる選手がいて、そこを通ってWBが逃げ先で奥を取って。が出来たら変わってたかもしれない。
選手インタビューでもカウンターだけじゃなく状況判断しながら繋ぐ事も戦術としてあったというコメントがあったが、柔軟に選択する為には一個でも試合中にサンプルが作れないと判断材料が0では選択の余地がない。だからこそ“待ち”の選手を減らしたい。
前半のターニングポイントでビルドアップの逃げに野上と小野を使えなかったので、ハーフタイムに出した指示は
「野上のところにエスケープするというか、飛ばすことも考えようと。今のチームには前線にターゲットがいないので、ウイングバックのところで少しでも時間を作ることができればと思って指示を出しました。」
当然逃げる為にボールの当て所を作りたい。その為に森島が投入された。 森島が投入されてからの変化のシーンが分かりやすいのは55:16~の展開。
ガンバは相変わらず1-4でプレスに来る。
センターを埋めてる所からWBには出ていけないので、山下対河面の対面を作り、シュミットから小野にパスを飛ばす。
椎橋は前半のパスの受け手の様子を見てガンバの1-4の裏に立っていたので小野が内側に切り込んだ。この瞬間の森島の動きを見るとラヴィから外れてプレスとラヴィの間に入っていた。
その後の森島の選択はパスカットされたが、前半のボール前進すら困る所から何とか持ち直した形だった。
欲を言えばハーフタイムにWBの話が出たのに野上に逃げずに狭いところなんだ。感がこのシーンはあるが、サンプルを作ろうとしたのは対策した感じはあった。
兎に角もう少し早くこれに気づいて前半の段階で何回かチャレンジできていれば。
つぶやき
- ガンバが先に土俵を作ったわけだが、そこに乗っかると守備が後手に回る状況となる。それを避けるためには、自分たちが守備をしやすいように攻撃時にボールを保持し、相手の形を崩して守備の切り替えで優位を取る必要がある。この成功体験があったにもかかわらず、嫌な印象から逃れるために長いボールを増やしてしまったのは単純にもったいない。(インサイドインタビュー:シュミット談)
- 状況判断に応じたハイブリッド戦術。本来ならピッチ上の状況に基づいて有利な選択肢として活用されるべきであるが、現状では相手から逃げるための手段になっている。勝敗の状況が基準になっているため選択が曖昧となり、ピッチ上での「状況」をより明確にする必要がある。試合中に具体的なサンプルを作らなければ、試合はこのようにパニック状態になってしまう。
- 技術があれば、大局的な選択も容易になるはずであり、選手たち自身ができることはまだ数多くある。