2016年J1リーグ1stステージ第12節・ヴァンフォーレ甲府戦終盤の、イ・スンヒ選手と保坂選手が交錯したプレーについて、一部で議論が行われています。なかにはイ・スンヒ選手のプレーを悪質として、非難する声もあがっています。
そのプレーの動画は下記の通りです。2分39秒くらいからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=RswhuK-nnzI
わからないことがわかるとストレスがなくなる
サッカーのプレーを語る上では2つの文書を知っておくと良いでしょう。
サッカーのルールは、野球に比べて項目数は少ないのですが、人間と人間との接触のように、きっちりと判定することが難しい項目が多く含まれています。そこで「ガイドライン」という文書がまとめられているのです。
サッカーの改善点と私が思うのが、ファールなどがあったときに何があったのか説明がないことです。ルールに詳しくないとまったく何がおこったのかわかりません。何がファールで、何がファールではないのか、正確に把握していない方も多いのではないでしょうか。(このあたり、よりルールの複雑なラグビーでは、審判からアナウンスがあって、何がおきたのかを教えてくれます。)
たとえば競り合いで選手が倒れたらすべてファールなのでしょうか?知識がつくと、なんでいまファールだったのかがわかります。余計なストレスなく観戦できたほうがいいですよね。
ファールにおける大事な概念
ガイドラインの119pに重要な概念が示されています。それが「不用意な」、「無謀な」、「過剰な力で」、という3つです。
〝不用意な〟とは、競技者が相手に挑むとき注意や配慮が欠けていると判断される、または慎重さを欠いてプレーを行うことである。
ファウルが不用意であると判断された場合、懲戒の罰則を追加する必要はない。
〝無謀な〟とは、競技者が、相手競技者が危険にさらされていることをまったく無視して、または結果的に危険となるプレーを行うことである。
無謀な方法でプレーした競技者は、警告されなければならない。
〝過剰な力で〟とは、競技者がはるかに必要以上の力を用いて相手競技者を負傷の危険にさらすことである。
過剰な力を用いた競技者には、退場が命じられなければならない。
この3種類の表現の違いと、それによって適用される罰について理解しておく必要がありますね。
直接フリーキックとなるようなファール
ファウルについては、競技規則の12条が適用されます。
特に、以下の7項目は直接フリーキックが与えられるとされています。
「競技者が次の7項目の反則のいずれかを不用意に、無謀にまたは過剰な力で犯したと主審が判断した場合、直接フリーキックが相手チームに与えられる。
・相手競技者をける、またはけろうとする。
・相手競技者をつまずかせる、またはつまずかせようとする。
・相手競技者に飛びかかる。
・相手競技者をチャージする。
・相手競技者を打つ、または打とうとする。
・相手競技者を押す。
・相手競技者にタックルする。」
これらが認められた場合です。
ちなみに、このファールの定義にも先ほどの3つの概念が適用されています。
よくテレビ中継などで「足裏を見せたらイエロー」と言われることがありますが、そのような具体的な規定やガイドラインはありません。
ただし、審判講習会などではビデオを見せて解説などもあるはずなので、そこでの説明に足裏を見せたら無謀・過剰と判断するという基準を示しているということはあるかもしれません。
今回はどうだったのか
今回の件は、ボールに対して二者が飛び込んで、その上で交錯するプレーになりました。
それに対して今回主審は保坂選手のファウルと判断しました。
ボールがルーズになった瞬間、スンヒ選手と保坂選手では1.5倍ほどもボールとの距離差があります。ただ、保坂選手はスピードが乗った状態です。審判はプレーの全貌がわかる位置に適切にポジションをとっています。
上記のスクリーンショットでもわかるように、スンヒ選手がボールに対してタックルをしており、先にボールに触っているところをはっきりと見える位置で審判は確認をしています。
そこで一瞬遅れて入った保坂選手側のファールと判定されています。主審はどちらにも警告は出していません。ほぼ五分に近いボールに対するプレーであり、先程の3つの概念で言うところの「不用意な」ファールであると解釈したものだと思われます。すなわち、「競技者が相手に挑むとき注意や配慮が欠けている」だけ、と主審は判断したということでしょう。
ちなみに競技規則の「相手競技者に対するタックル」とは、俗に言われるファウルタックル「ボールではなく人間に対するタックル」のことを指します。逆に言うと、ボールに行くタックルはファールではありません。今回は人よりも先にボールに触っているというのが判定の決め手なのではないでしょうか。
また、タックルが相手競技者に対するものかどうかに加えて、サッカーの反則としては、「ける」「つまずかせる」「飛びかかる」「チャージ」「打つ」「押す」の6項目は、「不用意に」「無謀に」「過剰な力で」行われなければ反則ではないことは理解しておく必要があります。
サッカーの審判は難しい
サッカーの審判は、とてもむずかしいものです。常に動き続け、しかもフェアなタックル、チャージなのか、不用意なファールなのか、無謀なファールなのか、過剰な力を用いたファールなのかを瞬時に判断する必要があります。
今回は後からボールに行った保坂選手のファールとされましたが、その後、保坂選手と交錯してしまったことは間違いありません。(わたしもグランパスサポーターですから、スンヒはなんとかボールを奪われないように必死だっただけだと信じています。)
ただ残念なことに、保坂選手はこの交錯プレーによって負傷してしまったことも事実です。わざとかどうかは別として、相手を傷つけることになったことは事実です。ですから主審がその後の交錯を重視して、無謀なプレーと解釈すればイエローカード、またはレッドカードもあったかもしれません。判断はどちらに転ぶ可能性もあったと思います。
さらに言うなれば、審判も人間です。一口に「不用意」「無謀」「過剰な力」といっても、その人によって基準が違ってしまってうこともあり得ます。だから、試合によって多少基準が変わることがあります。そこが難しいところです。審判も完璧ではありません。見えないプレーも当然あってしかるべしです。
はたして悪質だったのか?
ガイドラインに則って解釈をするのであれば、ボールに向かってタックルしている選手を、無謀、あるいは過剰な力でのタックルと判断する可能性は高くないと私は思います。今回は実際そうなりました。私は上記の位置からこのシーンを見ていた主審のジャッジは尊重されるべきだと思っています。
もちろん審判によっては無謀なプレーと判断する人もいる可能性もあります。まとめると、そういうレベルじゃないでしょうか。
敢えて悪質と断罪するには違和感があります。