はじめに~もしくは宣伝
いきなりの宣伝で申し訳ありませんが、昨夏に続いて機会に恵まれまして、footballista Webに、このような記事を書かせていただきました。
(名古屋グランパスの好調の要因は守備戦術にあった~風間八宏の挑戦)
【NEW】名古屋グランパス好調の要因は守備戦術にあった~風間八宏の挑戦(文 青井高平 @Nacky_FENGCD)https://t.co/hS3V2HlEWx
開幕からの4試合ではジョアン・シミッチと米本拓司の加入による能力の向上だけでなく、守り方そのものが昨年と大きく違うことが明確に見えてきた #jleague #grampus
— footballista (@footballista_jp) March 29, 2019
開幕からの4試合で見えた、名古屋グランパスの今の守備を分析した記事になっております。
読んでいただけましたか?
読んでいただけましたよね?
強権発動して、読んでいただけたという前提で話を進めさせていただきます。
そして、盟友みぎさんから発信された、札幌戦のプレビュー。
(【ミシャ式とはつまり合コン方式】第三回vs札幌-みぎブログ)
代表戦も終わり、Jリーグが帰ってくる。次の相手はコンサドーレ札幌。ミシャ式をどう説明しようか..悩み抜いた先にあったのは「合コン」だった。
はてなブログに投稿しました #はてなブログ
【ミシャ式とはつまり合コン方式】第三回 …https://t.co/a8rGKJbKw2— みぎ (@migiright8) March 26, 2019
コンパという一見軽い話題にまぶしつつ、その実札幌の攻撃の特徴と名古屋の守備との噛み合わせの悪さを軽やかに論じきって見せた名記事です。
札幌戦のプレビュー、という意味で言えばこのブログを読んでいただければ大体終わってしまうほどクオリティの高い記事なので、ぜひお読みください。
その上で、この数週間上記のfootballistaの記事の準備のために開幕からの4試合を見て、その上で札幌の攻撃を思い浮かべて、風間監督の考え方の一端に触れられた気がしたので、ここでプレビュー代わりに書かせていただくことにしました。
ミシャスタイル、風間スタイル
私がfootballista Webに書かせていただいた記事の要旨は、「名古屋グランパスが対人の強さやセカンドボール奪取の強さを前提にした人に強い守備戦術を導入し始めた」というものでした。そして、みぎさんがブログで論じたのが「札幌はいわゆるミシャ式で、前線にたくさん枚数を集めて人を余らせて攻撃を行ってくるけど、引いた状態での守備組織があまり整備されていない名古屋は守るのが難しくなりそう」という内容でした。
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私が見たところでも札幌攻撃陣と名古屋守備陣は間違いなく噛み合わせが悪いのですが、その原因は単純な人数の話だけでないように思います。札幌というかミシャ式がよく使うプレーと、そのプレーに対する風間監督のスタンスが、噛み合わせの悪さに拍車をかけているように感じるのです。
それのプレーとは、いわゆるワンタッチプレーと言われるものです。ミシャ式は前線に人数をかけたうえで、余らせた選手の走りこむ先にフリックやワンタッチの落としでボールを送り込んで崩す、という手法がよく使われます。そして最終的にそのズレを利用して得点チャンスを作り出すのです。
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一方、風間監督はご存知の通り「止める、蹴る」を最重要視することでよく知られています。さすがにワンタッチプレーを禁じるほどのことはしませんし、時には崩すときに必要になることを認めてはいます。しかし、その一方で、難易度が高く、タイミングの調整も出来ないワンタッチプレーを交えることで、攻撃が不正確で偶発的になることをあまり良く思っていないようです。「そんなに簡単にワンタッチプレーが正確に続けられるわけがない」「自分たちは偶発性に頼らず、ボールをしっかり扱って攻撃するのだ」というポリシーが、風間監督の言動からは感じられます。
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偶然性を味方につけるか、偶然性を排除するか
ワンタッチプレーのように常に正確に行うことが難しいプレーは、偶然性に頼ったものです。例えるならば「サイコロを振って1か2の目を出せば成功」という確実性の少ないものです。これは、ワンタッチプレーだけではなくて、密集に蹴り込んでこぼれ球を作ろうとしたり、逆にスペースに蹴り込んでヨーイドンで誰かを走らせたりするプレーも、通常であれば同じことでしょう。
例えば、FC東京は明確に、永井やディエゴオリベイラに、最終ラインへの裏抜けや中途半端なワンバウンドボールを供給して競らせることで生まれる偶発的なチャンスを得点に結びつけようという狙いをもってプレーしています。札幌は、ワンタッチプレーが精度とタイミング両面でピタッとハマった時に最大のチャンスが迎えられるようにプレーが設計されています。
いずれのチームも守備を含めたそれぞれのスタイルから導き出されているものであって、実際に結果にもつながっています。それとは違ったサッカーを展開している名古屋も、今年はその攻撃性にふさわしい守備の考え方を取り入れはじめ、序盤は好調に過ごしています。サイコロを振るサッカーも、サイコロを振らないサッカーも、そこに上下は存在しないのです。
風間監督からの挑戦状
この「サイコロを振る、振らない」の考え方を通して見て、ここまで読まれた皆さんは、風間八宏監督の組み立てた守備戦術の狙いが想像ついたでしょうか?風間監督は、サイコロを振るほう?それとも振らないほう?前段で書いた通りに、振らないほう、で確定でしょうか。
実は今のグランパスが指向しているのは
- 「ボールを保持して正確にプレーができる状況は最優先して守り」
- 「ロングボールなどの不正確なプレーに誘導する」
守り方です。
つまり、「相手にサイコロを振らせる」守り方なのです。ちょっと意地悪な問いかけでしたね。
そしてなぜこの守り方になったか、というのを考えてみてみましょう。
私はfootballistaに風間八宏監督の守備戦術に関する記事を書くなかで、一つの推論に行き着きました。「止める蹴るを磨き上げて、ボールを大事にする」の裏返しとして、「相手にサイコロを振る=不確実なプレーの連続に誘導すれば、どこかで綻びが生まれる可能性が高い」という考えがあるのではないか、と。
これは、ある意味で人を食ったというか、不敵な考え方です。「不確実なプレーを連続して成功させて得点に結びつける、やれるものならやってみろ」という挑戦状を叩きつけているに等しいのですから。それでも実際のところ、そのやり方で相手に与えたのはまだ3点のみであることも事実なのです。
この風間監督からの挑戦状。中断期間を経て、これに挑戦するのが、リスクをとって何度もサイコロを振るチーム作りが誰よりも上手い、ミハイロ・ペトロビッチ率いるコンサドーレ札幌というのが実に面白いところです。
冒頭に触れたとおり、前線に多くの人数をかけた上でフリックや落としを利用した崩しを仕掛けるミシャ式が、今のグランパスが指向している守り方の前にどの程度の精度を維持できるのか。
そして、グランパスの守備陣は崩されかかったときにも、確実に得点とはならない「サイコロを振らせる」粘り強い守備ができるのか。お互いに攻撃的だけど目指すのは両極端な、「サイコロを振るサッカー」と「サイコロを振らないサッカー」の2チームの熱戦に期待しましょう。