曺貴裁vs風間八宏。進化を見せられるのはどちらだ
いきなり個人的な話になって申し訳ないのだが、この名古屋vs湘南、言い換えれば風間八宏vs曺貴裁の対戦は自分にとって“J最高のカード”だと思っている。
その背景には個人的なものがある。
自分がエル・ゴラッソにていわゆる“番記者”を務めていた5年間で密に取材させてもらったのがこの2人なのだ。
2012年~2013年は曺貴裁監督の初年度(J1昇格)と2年目(1年でJ2に降格)、そして2014年~2016年は風間八宏の川崎フロンターレにおける最後の3年間を取材させてもらったのだが、今思えばとても貴重な経験ができたと思う。
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この2人から多くのことを教えてもらい、ときには叱責されることもあった(22そこらの自分にとって曺さんにタイマンに取材し全否定されるのはなかなかメンタルに来る)。
その中で大学時代から見ていた縁もあり、エルゴラの番記者を離れたからも風間監督を“追う”ことを選択し、幼少期に少し住んでいたくらいの名古屋という街に再びの縁が舞い降りた。そして今回、グラぽに初めて寄稿させてもらうことになった。
特別な思い入れのあるこの2人の対戦について書かせて欲しい、という思いを快く受け入れてくれた編集長には感謝したい限りである。
話を戻すと、互いにサッカーを愛してやまず、自身の哲学を持つこの2人の対峙はとても魅力的で記憶に残る試合が多く、ゆえに自分の中で特別なカードと言える。
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と、ここまで書いた中でふと「この2人の対戦成績はいかほど?」と感じたので、調べてみたら面白い結果が出た。ここはグランパスサポのページでもあるので、“風間八宏視点”で“対曺貴裁湘南”の成績を記してみる。すると…
日時 | 試合 | 勝敗 |
2013年 4月6日(川崎) | J1第5節 | 1-1△ |
2013年 5月22日(川崎) | ナビスコ杯 | 1-1△ |
2013年 7月31日(川崎) | J1第18節 | 1-2● |
2015年 6月7日(川崎) | J1 1st 第15節 | 2-1○ |
2015年 8月22日(川崎) | J1 2nd 第8節 | 1-2● |
2016年 3月5日(川崎) | J1 1st 第2節 | 4-4△ |
2016年 7月30日(川崎) | J1 2nd 第6節 | 3-2○ |
2017年 7月1日(名古屋) | J2第21節 | 1-2● |
2017年 10月15日(名古屋) | J2第37節 | 3-2○ |
2018年 3月11日(名古屋) | J1第3節 | 0-0△ |
2018年 12月1日(名古屋) | J1第34節 | 2-2△ |
2019年5月4日(名古屋) | J1第10節 | ? |
こうなった。2012年、2014年は互いにカテゴリが異なった(川崎FはJ1,湘南はJ2)ため対戦はなし。それ以外は全てドローか1点差なのである。
そして、勝敗などの数字を見ると、11試合で3勝5分3敗。19得点19失点と完全なるイーブンなのだ。
調べてみて驚いた。毎度手に汗握る試合を展開してきたわけだが、それもそのはずだ。
風間八宏にとって“好敵手”と言えるチームであることは間違いないし、今日行われる平塚での試合も面白いものになるだろう。とはいえ昔は昔、今は今。また1点差の接戦になるかと言われたらそうとは限らないし、今回の試合は“成長を見せつけ合う”試合になると考える。
湘南の変化と狙いどころ
おさらいまでに今回の相手である湘南について語ると、2012年に就任して今や湘南の顔ともなっている曺貴裁監督は“ハイプレス、高い強度の球際、スピード感”を重視し手数をかけずにゴールに迫るスタイルをベースにチームを作り上げてきた。Jリーグファンにとってもおなじみかと思う。
特に最終ラインのビルドアップに対して思い切り1トップ2シャドーが食らいついて“奪ってからのショートカウンター”を狙う形に風間監督は幾度も苦杯をなめさせられている。相手陣内に人数をかけて攻め込んでいる間に悪い失われ方をして、そこから大ピンチに、という場面にこれまでに何度も肝を冷やされたものだ。
ただ、今年の湘南は“それだけ”を狙うチームではない。というかこれは2年前から変わってきた部分でもあるのだが、下からの素早いショートパスの連動で崩していく形や3バックの一角である山根視来が持ち運び、味方を使って相手ボックス内まで侵入するというような攻撃が見られるようになった。“自分たちが主体的にボールを持って攻撃をする”ことに注力をしたと言えば良いだろうか。とはいえ「ポゼッション」とは明言していない。これは風間監督と同じ部分でもある。
グランパスにとって注意すべきは、もちろん最終ラインでの不用意なロストを極限までなくすことだが、加えてこの“山根に剥がされない”という点である。彼の突破からPKを許した昨年の最終節も記憶に新しいが、対面の可能性がある長谷川、和泉がこの湘南の13番に侵入の制限をかけられるか。これが1つのポイントになる。
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【昨年の最終節】
https://www.youtube.com/watch?v=QFHZaPVbAS0&feature=onebox
鍵を握るは9番と29番
そして、攻撃面においてもこの2人の役割は大きい。曺監督は相当グランパスを研究してくるだろうし、その中でチームの心臓である米本・シミッチというダブルボランチへのパスコースを封じることと彼らに前向きにプレーをさせない策を講じてくるだろう。
ボール奪取力に長ける齊藤未月をシミッチに、豊富な運動量を誇る松田天馬を米本に当てるということが考えられる。彼ら2人がグランパスのボランチを“食い”にくることで必然的にその後ろは空くのだが、ここのスペースを長谷川が取れるかどうか。
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そしてダブルボランチ引いては最終ラインの丸山・中谷がこの位置取りをする長谷川に配給できるかも同時に鍵となる。
また、風間監督が今季頭に強く口にしていた“ボックス内の仕掛け”を体現している和泉竜司の動きの質がこの試合を左右するだろう。
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磐田が露骨に敷いた5バックのような形を一時的にはあるかもしれないが、湘南が90分間その形をとってくるとはまず考えられないし、両WBふくめた5枚の守備ライン間に生まれる隙間を和泉は絶対に逃さないはず。そこに入りこむことができれば、前節の広島戦で幾度も見られた長谷川の狭き門を通すスルーパスも発揮されるに違いない。
“風間グランパス”の進化を見せる
上に上げた和泉と長谷川、そして米本とシミッチ。彼らが今年のグランパスの躍進を支えている選手達の一部でもあるが、最終ラインの4人についても言及させていただきたい。
吉田、丸山、中谷、宮原の4枚が見せる攻撃参加(相手のボックス内まで入っていく)は、これまで自分が見てきた風間監督が率いるチームのDF陣の中で最も多い。前述した山根の話ではないが、湘南サイドからしてもこのDF陣の攻撃参加には手を焼くに違いないし、“未体験”の部分でもあると思う。
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個人的には今年の“風間サッカー”において特筆すべきはこの部分。これに対して“引いて守る”策をとることはないであろう曺監督がどう応対するのか。非常に楽しみである。
最後に当てにならないことを承知で見てもらいたいが、初めてこの二者の対戦で2点差がつく試合になると自分は考えている。
もちろん勝者は、グランパスだ。