NSM~あるいは負けず嫌い王風間八宏の発したメッセージ
- 「NSK不発」
- 「武蔵の三連装主砲直撃により風間丸沈没」
とでも見出しをつけたくなるような、そんな敗戦。
試合前の雨に加え敗戦による疲労で足取り重く帰宅された皆様、お疲れ様です。言いたいことは色々あるでしょうが、ぐっと飲みこんで前を向くことといたしましょう。
そんな手痛い敗戦となった今節ですが、2-4となった後半86分の小林から新井への選手交代に伴う配置換えは、少なからぬ意外さを伴ったものでした。
通常時のこの交代の場合、風間監督と目が揃ってきたグランパスのファンサポーターであれば、「ああ、3バックというか1バック状態の3-1-4-2みたいな形で前に人数をかけるつもりだな」と予想したする方が多いのではないかと思います。
しかし、この試合の采配はその予想の斜め上を行くものでした。3バックのうちの1人を前に張らせてパワープレーを仕掛ける、というだけでも十分意外なのですが、そのこと以上に意外と思える選手が、指示を受けて前線へ向けて駆け上がって行きました。
その選手の名前は、丸山祐市。ご存知の通りのロングフィードの名手。本日の2点目となったジョーの得点を引き出したのは彼の正確なフィードだったこともあり、パワープレーに彼のロングフィードが必要だと思った皆様は、私と同様このように思ったことでしょう。
- N なぜ
- S そこで
- M 丸山
まさにNSKならぬNSM。しかし、この時間帯のプレーについて少し時間を置いて考えてみると、風間監督なりの勝負へのこだわり、そしてその選択に至った思考の一端が垣間見えたように感じました。そして、恐らく今日のあの状況では、丸山を上げてのパワープレーがもっとも可能性のある選択肢だったのだろう、ということも。どのような部分からそう感じたか、推論を重ねてみたいと思います。
まず前提として、風間監督はゴールから逆算して攻撃を組み立てている、ということを考える必要があります。その際、通常時であれば先日コンウェンさんがこのエントリで説明していた通り、「パスを出した先が正しくコントロールできるのであればその長短は問わない」ということ、そして実際に、7連勝中は実にバリエーション豊富な崩しでもって、相手ゴールを陥れることに成功していました。
しかし、この試合においては、シャビエルの負傷欠場、連勝の後半は極めて効果的だった特別指定選手の相馬がチームに戻ったことが響き、交代のカードによるテコ入れがそれまでよりも行いにくい状況となりました。そして実際、この試合では1枚目の和泉の交代こそチームの攻撃を活性化させましたが、2枚目の交代カードである八反田は残念ながらチームの苦境を覆すほどのインパクトは示せず、決め手を欠いたまま後半86分を迎えることとなりました。
この時点で風間監督は「長崎が11人全員引きこもる上から、残り4分+αで最低2点、できれば3点を取り切る」という目的をはっきり定めたうえで、最後の1枚の交代カードを切るにあたり、「前線に秋山や佐藤寿人を投入して中で崩し切る」可能性と、「DFを前に上げてパワープレーで得点を取る」可能性とを天秤にかけたのだ、と推測しています。そして恐らく、「この時点ではDFを上げてパワープレーを行う方が目的を達成できる可能性が高い」と判断したのだと思われます。
では、誰を上げるべきか。それを考えるには、「上げる選手のターゲットマンとしての能力」「後方に残す選手の能力」「後方に残す選手の能力によって、どのような状況が生まれやすいか」を吟味する必要があります。
この中で、一つ目の「ターゲットマンとしての能力」については3人の差異は外からでは分からない状況でした。3人とも移籍選手なので、それぞれにそういう状況の経験を持っているとは思いますが、実感として横の比較がしようがないというのが正直なところです。
しかし、「後ろに誰を残すかとその影響」については、普段のプレーぶりから推し量ることが出来ます。「丸山を後ろに残した場合」と「丸山を前に上げた場合」で考えてみましょう。
丸山を後ろに残す最大のメリットは、彼の蹴るボールが極めて良い、ということになります。しかしそれは長崎サイドも分かっている話。2点目こそジョーの得点に繋がりましたが、基本的にはこの試合の長崎はビルドアップ時の丸山のケアはかなり気を使っており、余裕をもってピッチの奥を見ながら蹴りこめるというシーンはけして多くはありませんでした。そして、この選択肢を選んだ場合、長崎はもともと準備していた対策をそのままパワープレー対策に流用できることになります。時間との勝負でビルドアップの時間を省略してゴール前まで押し込みたい状況において、丸山に蹴らせたいがために蹴るまでに時間をかけてしまうのでは本末転倒ですし、蹴った結果もある程度対策できている、という状況では有効な攻めにはつながりません。また、DFを前に張らせる以上必然的に後ろの枚数が1枚減った状態となるわけで、十分なボールを蹴らせるためにパス交換を行うこと自体が被カウンターリスクを増やすことにもなりえます。
一方、丸山を前に上げる場合、必然的に後ろは中谷と新井という組み合わせになるわけですが、後ろが丸山から入れ替わることで、利き足もプレーの質も違う選手を相手にぶつけることになります。特に利き足の違いは大きく、実際のプレーで新井はその違いを上手く活かしつつ、またターゲットに張り付きたいがために前後が分断されやすい状況を考慮に入れつつ、前に持ち出したうえでボールを入れるという形が上手く作れていました。
また丸山が前に上がってからはそれまでよりも長崎のプレスをかける基準点がブレていました。もちろん、新井や中谷であれば丸山より蹴らせてもいいという長崎の判断もあったような気がしますし、長崎がそう考えてくることを見越し、より可能性の高いパワープレーを行うために、相手の守り方の混乱を狙うほうが得点に繋がる可能性が高いと風間監督が判断したということは、十分にあり得るのではと思っています。
このように丸山を前に置きつつロングボールで相手を押し込んだところから、本日の3点目は生まれました。4点目を奪えずに敗北を喫する形となりましたが、「勝利という目的に向かって、どんな形ででも点を取りに行くんだ」という強烈なメッセージは、ピッチ内外ともに十分に伝わったのではないでしょうか。
今回のこの采配で、風間監督は、最善と思しきプレーがパワープレーであるならば、それを選ばせることを躊躇しないということが改めてはっきりしました。それは同時に「こだわっているのはスタイルではなく、勝利という結果に向けて得点を取ることそのもの」「このチームはこのように勝ちに行くのだ」という、ファンに向けた宣言のようでもありました。負けはしましたが、また一つこのサッカーの行く末が楽しみだという思いを新たにする、そんな試合となったように思います。
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