ジョアン・シミッチ(João Schmidt)ことジョアン・フェリピ・シュミット・ウルバノ(ポルトガル語: João Felipe Schmidt Urbano、1993年5月生まれ)
ブラジルの名門サンパウロ出身。ユース時代からサンパウロにおり、シャビエルともその時代からの友人。2016年にはほぼレギュラーに近い出場機会を得て、その活躍を評価されてイタリア・アタランタに移籍も出場機会に恵まれず、ポルトガルでプレーしていたところを2019年2月に名古屋グランパスからのオファーを受け加入。1年目は不動のレギュラーとして32試合に出場、30試合に先発したが、フィッカデンティ監督政権下の2020年は先発はわずか9、途中出場が14と、評価の低さを示している。
#ファミリー の皆さんと📸✨
Jリーグ今シーズン最後のアウェイ戦、本当にお疲れ様でした👏
2020.12.5 #柏レイソル 戦🏟
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— 名古屋グランパス / Nagoya Grampus (@nge_official) December 5, 2020
このエントリーを書こうと決めたのは、このツイートの写真を見たときだ。
周囲の笑顔に比べて、真顔のシミッチ。その表情を見たらなんとも言えずにタイトルの言葉が出てきた。あなたともっと一緒にいたい、シミッチ。
プレーの特徴
グラぽやフットボリスタで、そのプレーについては何回も取り上げられている。
ジョアン・シミッチ。そのプレーの真髄は「捻り」にある。 | footballista
シミッチの特徴といえば、この4点だろう。
- 惜しみない動き直し
- 収めてボールをさばく
- 広い視野でパスを繋ぐ
- 高さでゴールを狙える
風間監督時代、特に2019シーズンの始めは守備ラインからの組み立てがうまくいかず、シミッチが守備ラインに下がって組み立てるということが数多く見られた。シミッチの広い視野と、パスを受けるための動き直しのチカラによって、グランパスの序盤の快進撃を支えた。
そこでサポーターからつけられた呼び名が「マエストロ(指揮者)」。同時期に所属していたエドゥアルド・ネットとはまた違ったタイプで、奇をてらったプレーはない。
事実シミッチの加入によって多くのチャンスが生み出され、攻撃の組み立ても安定するようになった。それがプレー集計データ(プレイングスタイル指標)に現れている。
https://www.football-lab.jp/player/1624648/
2019年シーズンのシミッチのプレー解析データを見てみるとわかるように、シミッチの強みは
- 「パスチャンス(決定機を演出するパスの多さ)」
- 「ビルドアップ(攻撃の組み立てへの関与)」
- 「チャレンジしてくれる米本拓司の存在による、カバーからのボール奪取」
にある。空中戦の高さも魅力だ。
逆に弱点と言えるところはなんだろうか。
- ヘディング以外のシュートに積極的ではない
- あまりクロスも入れない
- アジリティ(敏捷性)があまり高くない
- カバーによるボール奪取は上手だが、守備そのものは上手ではない
- ほぼ左脚しか使えない
上記の5点が挙げられると思われる。
結城康平氏はフットボリスタの記事でシミッチに対して以下のように評した。
一方で、「8番」のポジションで使うことの最大のデメリットとして「遅さ」がある。イタリア時代は「クラシックで静的なプレーを武器にするので、トランジションフットボールには不向き」と評価されており、監督としては悩ましい部分だったに違いない。
中盤の底で使うには守備・リスクマネジメント能力が足りず、8番のセントラルハーフ的なポジションでは上下動に耐え得るフィジカルに不安が残る。
アタランタ時代に監督ガスペリーニに下された評価が、またイタリア人監督フィッカデンティによって同様に下された。
昨季前半戦で活躍すると、後半徹底的に左脚のサイドを切られ、自由にプレーをすることができなくなった。無理目のプレーをすることによってボールロストも増え、そこが「リスクマネジメント能力の欠如」という評価になったのかもしれない。
なぜシミッチは使われなくなったのか
端的に言うと、開幕戦では勝ち取った先発のポジションを奪われた理由は「守備」だ。
ライバル2人とのプレイングスタイル指標を比較してみる。ライバルである2人より数値が低いのは「守備」と「カバーエリア」だけだ。
守備の項目の定義が「守備:相手のプレーの成功(味方へつなぐ、もしくはゴール)を阻止した場合に、成功していれば攻撃側に付与されていたポイントがそのまま守備側に与えられます。よって味方ゴールに近い方が高いポイントが付きます。奪取と違いマイボールにならなかったとしてもポイントとなりますので、クロスボールをクリアして相手にコーナーキックを与えたとしてもクロスを阻止したポイントが加算されます。」であり、
カバーエリアの定義は「カバーエリア:スタメン出場試合における「総走行距離」「一定以上の速度における走行距離」のデータから合成関数を作り「カバーエリア」としました。」となっている。
ただ、この2つこそがフィッカデンティ監督が重視しているところなのだ。
シミッチ自体はアジリティ(敏捷性)が余り高くないので、彼自身が相手ボールにチャレンジしてもかわされてしまうリスクが高い。なので昨季も米本拓司と組んでいるときには破綻がなかったが、米本拓司が負傷離脱した後は、エドゥアルド・ネットとの組み合わせで中盤の守備は決壊した。
フィッカデンティ監督は中盤の守備を重要視する。現在の稲垣祥・米本拓司はどちらがチャレンジにいっても、もう一方がカバーをするという役割分担の互換性がある。この2人のところでボールを奪い、前の4人のところにボールを繋げたい、というのがフィッカデンティ監督の基本姿勢だ。
そうなると、そこにシミッチのいる場所はないように見える。
本当にシミッチは要らないのか?
終盤戦、大分トリニータ戦、横浜FC戦と、ここで勝ち点3を取れれば2位を得られた、という試合を引き分けで終えている。
大分戦では95分のほとんどラストワンプレーの段階で投入。横浜FC戦では75分に投入。あわやPKというシーンを演出した。
ここでの使われ方はまるでパワープレー要員のようだ。(※横浜FC戦ではシャビエルの退場もあり、難しい状況になってしまったので、あまり長い出場時間を得た、という風には言える状況ではなかった。)
真っ当に90分プレーできたのは11月3日の鳥栖戦まで遡る。ただこの試合も金崎夢生が契約上の都合で欠き、山﨑凌吾が開始1分で負傷退場、中2日で相馬勇紀をフル出場させる必要のある試合で、いわゆる「結果」は出なかった。ただ、そんななかでも稲垣祥と並んで中盤を作り続け、決して悪い状態ではなかったと思われる。
しかし評価は覆らなかった。
ただ、どうだろうか。パワープレー的であってもあわや勝ち越しのシーンを演出できたり、チャンスを作り出す能力はある。ビハインドのときや攻めなければならない状況でこそ、シミッチは必要なのではないだろうか。そこはフィッカデンティ監督に再考を求めたい。
ただ、ここで重くのしかかるのが「リスクマネジメント能力の欠如」と評された部分だ。
最終戦でその価値を示した
最終戦でのシミッチのプレーはこれまでのプレーと一線を画すものだったと感じた。
- 60分台は広島の時間帯。そのなかでシミッチを投入する決断。
- 62分シミッチイン
- そのまま広島FK。DFラインの中央でFKに備える。FKは稲垣祥がサイドラインに逃れる
- 稲垣祥がチャレンジ、シミッチがカバーという型が明確に
- 64分中央にススっとあがってボールを収めて捌く
- 64分ロングフィード相馬勇紀へ出すがわずかにオフサイド
- 65分浅野の突破、吉田豊が振られたところをうまくカバーしてクロスを送らせない
- 67分広島CKはファーをケア
- 69分広島CKもファーをケア。ヘッドでクリアする。
- 71分アタッキングサードでポスト
- 73分飲水タイムでミッチと大きなリアクションで会話
今日のハイライト
これ、何を話していたんだろう? pic.twitter.com/1KqI3Ezw6s— やるせない鯱 (@yarusenaisyachi) December 19, 2020
- 73分ゴールキックを弾き返す
- 75分前線に出て荒木にプレスをかける
- 75分右サイド破られたところ、ドゥグラス・ヴィエイラへのパスをペナルティエリア内でカット
- 77分名古屋セットプレーは中央に構えるがボールは頭を越える
- 77分右サイドのスローイン受けるが2枚に囲まれてセーフティに外に出す
- 78分マテウスの失敗でカウンター受けるも中谷進之介のチャレンジ、シミッチのカバーで遅らせる
- 79分左サイド破られたところ、クロスを良い読みでカット
- 82分ボールホルダーにプレッシャーをかけつづける。動き直しを素晴らしい量繰り返す
- 83分広島CKは中央に構えるが頭を越えていく
- 84分クリアボールを良い読みでカット
- 85分(名古屋得点)
- 86分3枚に囲まれるが、セーフティにサイドに逃れる
- 88分広島FKは中央でセットもボールには合わず
- 89分広島クリアをヘディングクリア
- 91分ミッチのゴールキックをヘッドで繋ぐ
- 92分広島クリアをヘディングで戻す
- 92分広島CKを中央でセット(ニアで2本ともクリア)
- 93分広島右サイドからのクロスをヘディングでクリア
- 94分吉田豊のパスを追い越して受ける。前田直輝にピタリのクロス。
- 試合終了
試合終了時にパスを受けた前田直輝がシュートに行かず、ドリブルで時間を使いにいったことにも成長を感じたが、この試合、顕著だったのはシミッチのカバーというより素晴らしい読みでの「守備」と危ないところでのロストを未然に防ぐ「リスクマネジメント」だ。
どうだ、お前の心配していたところはちゃんとオレもプレーできるぞ。と言わんばかりのプレーだった。
Ver você de novo. Schmidt.
契約についてはもう決まっているはずだが、僕らにはわからない。ただシミッチも時間がかかったが、フィッカデンティ監督のサッカーにアジャストをしてきているということが見えてきた。今ならもっとやれるはず。
だからこそ言いたい。
”Ver você de novo. Schmidt.(また会いましょう、シミッチ)”