あけましておめでとうございます(ついさっき年が明けたような物言い)。
2020年、名古屋グランパスは年間失点数28点という堅守をベースに3位でフィニッシュ。結果的にはアジアチャンピオンズリーグへのストレートインの権利も勝ち取るなど、大きく飛躍した年になりました。
もう既に2020年が「昨季」、2021が「今季」になっている現在ではありますが、昨季全体を見た印象について振り返り、さらなる進境へ今季加えてほしいものについて書いてみたいと思います。
昨季のグランパスの「4つの局面」
レナート・バルディの『モダンサッカーの教科書』にも分析のフレームとしてあった通り、サッカーの局面はセットプレーを覗くと4つに分かれます。その4つの定義が
- 攻撃
- ネガティブトランジション(攻撃→守備への切り替え)
- 守備
- ポジティブトランジション(守備→攻撃への切り替え)
です。
さてここで皆さん、少し2020年のグランパスの戦いぶりを思い出してみてください。この4つの要素の中で、どれをより重視した戦い方だったと、皆さんの目に映ったでしょうか。
守れなければ勝てない。守って勝ち取った2020
多くの方が、前任の風間監督時代からは格段に整備された守備、と言う意味で「3.守備」だと回答されるのではないか、と思います。実際、最後の砦にランゲラック、最終ラインに吉田、丸山、中谷、ジェソク、その前に米本と稲垣を並べた後ろ7人の守備力はすさまじく、また、その前に居る4人のアタッカーの守備も実に献身的。相手にボールを奪われた後、速やかにセットされる4-4-2のラインは美しさすら感じるものでありました。最後の6試合をセットプレーからの僅か1失点に抑えたのは、守備の局面の整備が要因であることは間違いがないところです。
しかし、いかに守備の局面が整備されていても、その前の、「2.ネガティブトランジション(攻撃→守備への切り替え)」が整備されていなければ守備は安定しません。今季は昨季までに比べて、この部分も格段に整備されていました。というよりむしろ、この部分を安定させるために、今季は多くのことを変えてきた、そのように見えました。それはおそらく、「1.攻撃」の局面の組み立てから始まっていたのではないでしょうか。
昨季の攻撃面で、それ以前から大きく変わったのはボールを中心とした選手同士の距離感であり、最終局面における人数のかけ方です。ともすれば「狂っている」という程の人数のかけ方で、バランスを崩してでも最終局面のチャンスを作ろうとしていた風間監督時代。これに比べると、今季の攻撃は逆サイドの選手がバランスを崩して逆サイドに出張るようなことも少なく、またそういう時には必ずカバーリングする選手が存在するなど、ネガティブトランジションを常に頭に置いた形での攻撃となっていました。
また、もう一つ、後ろ6人が足元の技術も非常に高く、後方でのビルドアップが高精度だったことも守備の安定性に大きく寄与していたと思われます。攻撃局面の中、ビルドアップの段階で引っかけられてショートカウンターで攻められるのは最も危険で失点につながりやすいものです。
ただ、昨季は後ろでボールを持って組み立てること自体は十分以上に行えていました。それどころか、「最悪、相手ライン裏やセンターフォワードに蹴っていい」という選択肢が、特にCBの2人に与えられていたと思しき昨季はむしろ、奪われないビルドアップとしては一昨季以上のものがあったように思います。
徹底して「守備のための攻撃」を研ぎ澄まし、その結果として生まれたのが「クリーンシート17試合」「複数失点試合は僅か8」という堅守。これが勝ち点63稼いでの3位フィニッシュの原動力であったことは疑いようのないところです。
攻められなければ勝つ資格はない。攻めて勝ち取りたい2021
さて、守備で結果を残した一方、攻撃に閉塞感が感じられる2020だったこともまた事実。得点は46点で下から数えた方が早いリーグ12位。2ケタ得点をとった選手は存在せず、CFを務めた選手の得点は合わせても僅か2点。規格外のシーズンだったとはいえ、川崎の88点とは42点もの差があります。失点の差が僅か3点しかないにもかかわらず、です。
得点が取り切れなかった理由には様々なものがあります。前述した、守備へ戻ることができるバランスを優先した結果として、相手の予測を上回り切れなかった、ということもそうですし、相手の予測の中でも力づくで点を取ってしまうような個の強さに欠けていたこともそうでしょう。
奪われないビルドアップ、バランス優先の攻撃、は無論のこと誉め言葉ですが、リスクを取ることとのトレードオフでもあります。そして昨季のリスクの取り方では得点をとることが出来なかった。結果だけでなく脅威を与える回数自体が少ない印象だったことは、勝利に向けても、そしてエンターテイメントとしても大きな問題だと私は考えます。
また、「4つの局面」でいえば、「4.ポジティブトランジション(守備→攻撃)」において、良い形の守備から攻撃に移るような形での得点がなかなか形にできなかった、という部分も見逃せないところです。(この辺りはNeilSさんが以前の記事でデータから語っていらっしゃいますね)
これらの反省材料は当然のことながらチームとしては認識をしているはずで、そこをどのように補い、固い城壁の上に攻撃力を積み上げるのか、このオフにはそこに注目していました。といっても、フィッカデンティ監督が今更バランスを崩してまで攻撃をさせるようになるとは全くもって思えません。となれば手段は自ずと、個の強さを揃えること、そして今年やりきれなかったと思われる、良い形の守備からの攻撃で刺す力を強化することの二つに絞られることになるでしょう。
そんな中、アタッカーとしては柿谷、齋藤が加入。狭いところでの違いを見せたり、ボールをもって仕掛けたり、というところで、少なくとも「実績のある」選手を連れてこられたと言えるでしょう。また、新体制発表会に絡んでも「あと2人足りない」というコメントがありました。金崎の復帰が相当先となる現状において、センターフォワードが山﨑しかいない現状が心もとない……と書いていたところ、あながち根拠がないわけでもない噂話が流れてきた様子。新たな選手も含め、得点の匂いのする前線の組み合わせが見つかるのか、そしてこの超過密日程、怪我や疲労で爆死しないためにも、その組み合わせが複数見つかることを祈りたい、そのように思っています。
久々のアジアの舞台、そして、「3年目のフィッカデンティ」のデータを打破し、タイトルをつかむことが出来るのか。週2試合開催が常態化すると、クラブ・チームだけでなく試合を見る側も(そして記事を書く側も)大変ですが、全員で乗り越えて、シーズンを笑顔で振り返りたいものですね。