出会い
最初の報道は、2021年の年明け早々だったと記憶しています。
正直なところ、僕自身彼についてはそれほど知らず、あくまでも対戦相手として、
- マリノスでドリブラーとして鳴らしたこと
- その後、あまりよろしくない経緯で川崎へ移籍したこと
- その中で少しずつプレースタイルが変わっていること
くらいの情報しかありませんでした。
そして2021年シーズン。新チームが始動し、実際にプレーしているのを見て感じたこと。それは、
「本当に楽しそうにサッカーをする選手だなあ」
でした。
練習中のきつそうなランメニューでも。試合前アップの簡単なパス回しでも。どこか楽し気に見えました。
影のヒーローとして
そして今シーズン。個人的に初めて練習場に足を運び、練習や練習試合、エリートリーグを生で見る機会に恵まれました。特に印象深かったのはELのマリノス戦。昨年からベンチスタートが多い選手でしたが、今年に入ってからはより出場機会が減少していた印象です。甲田や石田の台頭、システム変更などが理由でしょう。
そこで目撃したのは・・・腐るどころか、若手選手と共に出場し、ひたすらポジティブな声掛けと献身的なプレーでチームを支える齋藤学の姿でした。同じように覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
僕も(サッカーではありませんが)チームスポーツをしていた身として、「あんな先輩と一緒にやれたら得るものも多くて、伸び伸びプレーできるだろうな」と、若い選手が羨ましく思えた程です。特にその時期は中々チームとして意図している所を形にできず、また運にも恵まれず、ともすればチームが壊れてしまいかねない状況。だからこそ、その姿に心打たれましたし、チームとしても救われた部分があったのではないかと思います。
「それなりの待遇を得ているのだから目に見える成果を」というのは、確かにもっともな主張です。否定しません。
しかしあえて断言しますが、彼のチームに対する向き合い方は現状に甘んじるものでは断じてありません。むしろ、
「目に見える成果が無くても、このチームに対して自分ができることは全部やってやるんだ」
という明確な意志を感じるものでした。そしてそれは間違いなく、チームに伝わっているはずです。
【グランパス】今季昇格の豊田晃大が2得点に絡むも「得点の匂いがする選手ではなかった」と悔やむ
【動画】齋藤学「本当に名古屋に来られて良かった」 | インサイド・グランパス
齋藤学という選手は、酸いも甘いも経験した上で、サッカーをする喜びを誰よりも表現できる選手であるだけでなく、それを周りに分け与えられる選手でもあったのだと思います。
そして生まれた、あのゴール
【GOAL】90′ +1 #齋藤学|2022 Jリーグ YBC ルヴァンカップ プレーオフステージ 第2戦 「#京都サンガ vs #名古屋グランパス」
今さら説明するのもナンセンスでしょうね。90+1分。その美しいゴールは生まれました。
湧くゴール裏と、喜びを分かち合うフィールド上の選手たち。
客観的に事実だけを見れば、意味のないゴールかもしれません。このゴールが決まっていてもいなくても、勝ち抜けという結果は同じですからね。
しかし、語りたいのはその後。
リスタートを促されポジションに戻る直前、(誰に対してかは覚えていませんが)齋藤は近くの選手に何かを伝え、ベンチの方へ走って行きます。きっと「最後にあっち行ってくるわ!」とでも言ったのでしょう。
そしてベンチでそれを迎え入れるのは・・・ポテンシャルはありながらきっかけを掴み切れていない感のあるユース上がりの若手達。開幕以降、藤井と序列が入れ替わって来ているチアゴ。リーグ戦の裏で、TMやELを一緒に戦って来たメンバー。
そして僕は思ったのです。監督も選手も入れ替わり、少しづつ成果が出ているとはいえ未だ道半ば。順位表を見れば、今の所は自分たちが「強いチーム」では決してないと認めざるを得ません。しかしそうだとしても、少しずつ、しかし着実に「良いチーム」としてグランパスは成長しているし、今後もできるだろうと。そして齋藤学という男は、そのために不可欠な選手の1人だったのだと。
選手と僕達の、一期一会
そんな矢先の、まさに青天の霹靂というニュースでした。
実はこの記事、退団報道をきっかけに書き始めたものではありません。例の京都戦のゴールを見てお誘いをいただき、書き始めたものです。
その時には、こんな風にまとめるつもりでした。
- チームの方針、財政面・・・色々な事情を考えると、僕らが齋藤と共有出来る時間は、残念ながら多分そんなにない。
- というより、サッカー界全体で選手の移籍はどんどん活発になっていて、特定の選手をチームの枠組みの中で応援できる時間は、実は短い。
- だから、それぞれの選手の魅力に気づいて、その一瞬を楽しもうぜ!
残念ながら、言霊みたいになってしまいましたね。でも、言いたいことは変わりません。
このチームには、それぞれ表現の仕方こそ違えど、「俺がやってやるんだ」という意志を持った選手が揃っています。サッカーに限らず、短いスパンで常に目に見える成果を求められるのが厳しいアスリートの世界。しかし、選手との一期一会の中で、そこだけに目を奪われているのは、あまりにももったいないと思います。あの選手やこの選手の目には見えにくい魅力、あなたも気づいてみませんか??
おわりに
学、ありがとう。向こうに行っても、やることは何も変わらないのでしょうね。きっと文化や言葉の違いなんて簡単に飛び越えて、向こうでもチームに明るさを、前向きさを、喜びを分け与える存在になってしまうのでしょうね。こんなに悲しくなるならもっと応援しておくんだった・・・って、選手が移籍するたびに思っている気がします。
【GR YARIS × 名古屋グランパス】Yell of NAGOYA
「チームが一丸となってるって感じられた時って、強いチームって感じられますよね」
「ベンチ外でいる選手達が練習とか怠らない、怠けない。みんなが出るかもしれないっていう思い」
どこまでその後悔が晴れるか分からないけれど、君がグランパスに残してくれたあまりに大きなものを、力の限り愛していくよ。
アジアの舞台で会おうな。絶対に。