Twitterで以下のような投稿が出回っています。
永井の決定機のコントロールミスについて思うのはそもそもプレー姿勢が悪い。猫背で肩周りが固くなってるので、非効率な体の動きになってる。緊張しすぎて重心が前のめりになってるのも体の操作に悪影響。きちんとしたフィジカルトレーナーがおらんのかっていう。
— tetsuhiro horie (@tetsuhorie) 2015, 8月 4
なぜ永井謙佑選手は前傾姿勢を重視するのか
永井謙佑選手は以前放送されたテレビ朝日系サッカー情報番組「やべっちFC」のなかでも、自分の特徴である「速さ」を最大限にするためのトレーニングを欠かさないことを語っています。
http://datazoo.jp/tv/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E5%BF%9C%E6%8F%B4%E5%AE%A3%E8%A8%80+%E3%82%84%E3%81%B9%E3%81%A3%E3%81%A1FC/789376
永井謙佑選手はそのなかで、タオルなどを使った「地面を足指で掴むトレーニング」など、独自のトレーニングを紹介していました。なんでそのようなトレーニングを積むのでしょうか。その答えはこのビデオにあると思われます。
速く走るためには
●強い力を地面に伝える
地面に強い力を加えないと前へ進みません。もしも宙に浮くことができたとして、そこでいくら足を漕いでも先には進まないでしょう。空中でいくらもがこうと、前に進むのは地面に力を加えているとき、つまり接地中のみなのです。大事なのは地面にできるだけ強い力を加えてやること、前へ進もうとするのではなく、強い力を地面に加えた結果、前へ進むのです。
岡崎慎司選手(現レスター所属)は清水エスパルス時代、砂浜トレーニングを徹底的にやり込むことで、トップスピードは高くないものの、猛烈な一瞬のスピードを手に入れることができました。永井謙佑選手の地面を掴むトレーニングも同様な効果があると思われます。
●力の方向を考える
昔部活などを経験した人は「もも上げダッシュ」というトレーニングをしたことがあるでしょう。あれは足を前へ運ぶ力を強めるためのトレーニングですが、もも上げダッシュは普通のダッシュに比べて遅いです。これは力を加える方向が、真下になってしまっているからです。体が進むのは斜め後ろに力を加えるからです。上記のビデオでも加速度をつけていくには自重を使って前傾姿勢をとっていきます。前に進むために自重を活用して足を前に進めていくわけです。ただ、こちらばかり考えると足の回転数が落ちてしまいます。
●姿勢の制御
100m走などでも前傾姿勢から加速して、ある程度の加速がついたところで身体を上げていき、強い力で地面に接地しつつ足の回転数を上げていくようにします。最後の加速の伸びは、そういうところから生み出されます。
アイデンティティ
サッカー選手には武器を持つことは有利に働きます。それが永井謙佑選手にとってはスピードというわけで、100m走と異なり、30m前後のダッシュが命になってきます。永井謙佑選手が前傾姿勢をとるのは、必要なときにいつでも自重を活用したダッシュを開始できるようにすることが目的と思われます。
では結局、永井謙佑選手の前傾姿勢は悪なのか
整体師の方がこんな記事を書いています。
サッカーが上達したいなら猫背姿勢を治せ!
猫背の影響としてはマイケル・オーウェンを取り上げ、元Twitterの記事同様、視野が狭い、身体のバランスが悪くなるなどの影響を取り上げています。
それに対して、こんな記事もあります。ジュニアサッカーの保護者向けのサイト「サカイク」さんの記事です。
猫背でもいい!? 子どもにとって自然な姿勢とは
ここでは「猫背でもそれが子どもの自然な姿勢ならいい」と言っています。ジネディーヌ・ジダンなども例に取り上げられています。
また、NewsPicksには以下のような記事も取り上げられています。
なぜメッシは猫背でも超一流なのか?
この記事でも「無理に姿勢を良くしてもダメ」と言っています。骨盤の使い方ができているから問題ないという結論ですが。
永井謙佑選手には技術的に不足している部分があることは間違いないですが、姿勢が問題とも言い切れないと思われます。
プロを矯正することの難しさ
サッカーを離れた例えをします。私の母校には甲子園を沸かせて鳴り物入りで入学してきたピッチャーがいました。しかし大学時代に入り、指導者がかわったせいなのか「フォームの改悪」が発生してしまいました。
ある記事では「高校時代は理想的なフォームで、これはとんでもない投手が出てきたぞと思って楽しみにしていたが、大学に進んでから、まるで別人のようになった。正直これでは厳しいというのが感想だった」と書かれていたのを覚えています。その後プロ入りしましたが、あまり活躍することはできませんでした。
まず第一にプロレベルの選手は、基本的にそれなりの力を持っています。それを矯正することは上記のピッチャーのような悲劇を産む可能性も少なくありません。慎重にするべきです。矯正したコーチにもそれなりの理論があったのでしょう。しかし現実、その有名ピッチャーの方には適合するものではありませんでした。
また、フォームが崩れて復帰できないような悲劇はコーチの思う「理想」を理論的に理解せずただ鵜呑みにしてしまうとよく起きることです。上記のNewsPicksのメッシ選手の記事でもそうでしたが、猫背がダメなのではなく、使えるべきところが使えていないところが問題だったりします。アジャストしていく選手側の理解力や、理解させるコーチの力のバランスも考えていかなければならないでしょう。
一番最初にTweetで取り上げたコーチの方の書かれていることは、育成に携わるものの印象として、普段永井謙佑選手やそのコーチがやっていることを「ちゃぶ台返し」するように感じます。これまでの良さがあるから日本代表に選ばれているわけで、その良さを活かしつつどうやって改善をしていくのか、慎重に対処していくべきではないかと思います。
わたしはオールマイティーな指導者ではありませんし、またそんな完璧な指導者のかたをそんなにたくさんみたことはありません。「そんなことも教わってないのか」というような趣旨で切り捨てるのは早計です。プロのコーチであれば、根本的な問題があったとしても、まずは最初の助言でもあるワークアラウンド=一番最初に対処できることを指摘して、方向性を示せると良いのではないかと思います。
Twitterなどで書いていることは、ふっとした瞬間に自分の指導の際にも出てきてしまうものですから。