テキストメディアは終わり!
2026年ワールドカップの終了後から、メディア関係者のXポストなどでそういう趣旨の発言が相次ぎました。
グラぽのような文字だけで構成されるテキストWebサイトは、もう終わりなのでしょうか。
そんな問いかけを真剣に考える理由があります。
去年から今年にかけて、グラぽの月間アクセス数は半分ほどになりました。広告収入はもっと落ちています。不思議なのはユーザー数は2割強減で、半分にはなっていないのです。見ようとしたのに離脱してしまった。だからいままで10本の記事を出していたら7~8本は読んでいてくれた方が、4本くらいしか読まなくなった、というシナリオが考えられます。その時、この記事は読もう、と全部の記事を読むのではなく、それぞれの好みで選別したのが今も続いている、そう考えると納得感があります。
その原因の一部ははっきりしています。一時期、記事を開くと画面全体を覆う広告が出る状態になっていました。また、一時期サイトに適切ではない部品が組み込まれていたせいで、表示がノッキングするようなこともありました。
あれで不快な思いをされた方には申し訳ありませんでした。どちらもご意見をいただいて止めたのですが、アクセスはその後も戻っていません。
ちょうど同じ頃、世の中では「テキストベースのインターネットメディアはもう終わりだ」という話をよく見かけるようになりました。ユーザーはYouTube動画、TikTok動画に本格的に移行し、AIがGoogleの検索結果に答えを直接出すようになった(Google AIによる概要)ので、誰もリンクを踏まなくなり、テキストメディアにたどり着かなくなった、という話です。
自分のところの数字が半分になっている状態でこれを読むと、ものすごく納得できるんですよね。私も最初はそう受け取りました。ただ、データを見る仕事を長くやってきた人間としては、納得しやすい説明ほど疑ったほうがいいというのも知っています。全部を都合よく説明してくれる原因は、だいたい何かを隠しています。
というわけで、うちで何が起きたのかを公開したうえで、この先どうなるのかを考えてみます。
全面広告の話
グラぽの広告はGoogleのAdSenseです。ある時期から、設定が全面広告(インタースティシャル広告)を自動的に出す状態になっていました。ページを移動するときに画面いっぱいに広告が出て、閉じるボタンを押さないと先に進めない、あれです。
収益は伸びました。数か月のあいだ、それまでとは明らかに違う水準でした。一説では広告単価はヒトケタ違うのだそうです。
収益をあげなければならないWebサイトだと、これは入れたくなるだろうな、と思うくらいの金額です。
同時にクレームが激増しました。読みづらい、記事にたどり着けない、スマホだと閉じるボタンを押したつもりが広告を踏んでしまう。全部その通りです。止めました。
全面広告を止めたら収益は5分の1以下になりました。アクセスのほうは、全面広告を入れる前の月間60万PV前後には戻らず、その半分あたりで止まったままです。
PVは全面広告を入れたあたりから、どんどん減り始めていて、それなのに収益だけ伸び続ける状態でした。
他のWebサイトでもおそらくGoogle自動広告を設定している場合、同じ時期に全面広告が配信されるようになったはずです。自分がユーザー側に立ったときに、はじめて辛いなと思ったのが、全面広告は違う記事に行くとまた表示されるということです。全面広告を消すのに疲れて、複数の記事を読もうとしなくなったのもうなずけます。
でもユーザーが減ったことだけに絞って考えると、グラぽの2割減ったユーザー=全面広告で「面倒だな、このサイト」と思った読者の皆さん、ということかもしれません。
グラぽの広告収益は、読者に我慢を強いる広告を出していた期間だけ成立していた、ということになります。普通のフォーマットの単価では、この規模のサイトは運営費に届きません。
そもそもグラぽは何がしたいのか
数字の話をする前に、思い出したことがあります。
2022年に、グラぽが何のためにあるのかを書いた記事があります。
「グラぽ」はなんのために活動しているのか #grampus
目的を3つ挙げました。
- グランパスの話題を広めて、グランパスの名前が皆さんの目に入りやすくする。そのことでグランパスのことを考えるきっかけになること。
- サッカーを深く知ることでグランパスをもっと好きになってもらうこと。
- 参加してもらって、盛り上げる当事者になってもらうこと。
1つ目のところで、こんなことを書いていました。究極、サイトを読んでもらわなくてもいい。
「グランパスにこんな話題があるんやー」って目にとまれば、それで目的は達成されている、と。名古屋のスポーツ情報はどうしても野球に寄るので、タイムラインにグランパスの話題が流れている状態そのものに意味がある、という考えでした。
そのうえで、こう続けています。目的1の最大の阻害要因は、うちのツイートが読まれなくなったりミュートされたりすることだ。グラぽなんて見たくないと思われるような振る舞いはしないように気をつけたい、と。
全面広告、まさにそれです。
自分で書いておいて、自分でやっていました。アクセスが半分になったことより、こっちのほうが恥ずかしい。
「テキストメディアは終わった」って本当か
外の話も見ておきます。
最近Googleは検索結果にAI Overview(AIによる概要)を出しています。(内容の間違いが多いのが物議をかもしていますが) AI Overviewでユーザーは事が足りてしまっているのでは?という説が唱えられています。
計測会社のChartbeatが今年3月にAxiosへ出したデータでは、1日1万PV未満の小さいサイトの検索流入が2年で60%減っていました。1万から10万PVで47%減、10万PV超で22%減。小さいところほど深く刺さっています。そう考えてみると30万PVのグラぽの検索流入が16.4%減、というのは業界平均の低下率に比べるとかなり影響は軽いのかもしれません。
ロイター・ジャーナリズム研究所が51か国280人の報道関係者に聞いた調査だと、今後3年で検索流入は43%減という見込みでした。ジャーナリズムという職業の先行きに自信があると答えたのは38%で、4年前は60%だったそうです。
読んでいると気が滅入ってきます。
ただ、逆を向いたデータもあって、SEOツールのSemrushの調査では、AI Overviewが表示される検索語のゼロクリック率(検索してもどのWebサイトも開かない割合)は、2025年1月以降、上がり続けているわけではなく、むしろ低下傾向を示しました。同じ検索語を導入前後で比較した分析でも、33.75%から31.53%へわずかに低下しています。ただし、検索意図の構成が変わった影響もあるため、これだけで「AI要約がクリックを増やした」とは言えません。
※ちなみにAI Overview経由でアクセスされた、と想像できるGoogle Analyticsの数値、グラぽではわずか1ヶ月で13件/30万件でした。AI Overview経由でお客様が離脱したのかどうかはわかりませんが、AI Overviewを見てうちにアクセスしようという人はそれくらいしかいない、という証明です。
同じものを測っているはずなのに、調べる会社によって向きが逆になる。この分野のデータはまだそんな段階です。
うちの数字を疑う
で、グラぽのアクセス半減を「AIとSNSのリンク規制のせいで読者さんがこなくなった」で説明していいのか。
都合の悪い事実がいくつかあります。
まず、グラぽはそもそも検索にあまり依存していません。流入の大半はSNSです。検索から来るのは主に新規の方で、量としてはたいしたことがない。検索流入が全部ゼロになったとしても、半減の説明にはなりません。
そのSNSの主力でもあるX.comが、外部リンク抑制(外部リンクをたくさん貼っているアカウントはタイムラインから消すようにした)が顕著になったのが2026年の傾向です。SNSからの流入、特にXからの流入は割合的には8割前後と変わりませんが、実数としては半減しています。やはりXの外部リンク抑制の影響はあると思っていいでしょう。
また、検索順位はむしろ上がっています。Search Consoleで見ると平均掲載順位は50%ほど改善しているのに、クリック数は25%減っている。
一見するとAIの影響そのものに見えます。
ただ、平均順位が上がる経路は3つあって、それぞれ意味が全然違うんですよ。
個々の検索語の順位が本当に上がった場合。下位で細々と表示されていた検索語が表示されなくなって、平均を取る母集団から抜けた場合。競合が撤退したり質が落ちたりして相対的に上がった場合。
2番目が起きているとき、平均順位は上がり、表示回数は減り、クリックも減ります。うちの症状と一致します。一つの可能性として、下位で表示されていた検索語の表示機会が減り、平均順位だけが押し上げられたことが考えられます。
ただし、現時点では仮説です。実際には表示回数の減少以上にクリック率が落ちているため、検索結果上のAI要約や動画、SNS枠などによって、同じ順位でもクリックされにくくなった可能性も調べる必要があります。
そして、まだ確かめていない要因があります。
1つはGoogle DiscoverのようなAndroidやChromeの新規タブのところに表示される記事紹介です。バカにできないレベルで流入元となる存在です。そこに一時期グラぽも表示されていたようなのですが、最近はかなり減りました。表示されるかどうかはGoogleの評価次第です。グラぽのノッキング・全面広告の問題からか、「Googleの評価が下がった」ことにあるかもしれません。
もう1つは、名古屋グランパス起因の部分です。
グラぽみたいなクラブのファンメディアのアクセスは、チームの成績と試合日程に強く引きずられます。好調期と低迷期、シーズン中とオフ、移籍や監督交代のあるなし。これだけでPVは倍半分に動きます。
全面広告を出していた期間に、どんどんPVが落ちていったのは確かです。その前後で、グランパスの状態が同じだったわけがない。むしろチームは比較的好調で、盛り上がりはありました。SNSのリポストも一番盛り上がっていた時期よりも減ってはいるものの半減まではしてはいません。半減した分のどこまでが広告のせいで、どこからがその他の理由なのか。分けないまま「広告で読者が離れた」と言うのは、自分で言うのもなんですが雑です。
試合単位で正規化して前年の同じ節と比べる。勝点や順位を説明変数に入れて、そのうえで広告期間ごとの比較を見る。ここまでやらないと本当のところは分かりません。やってみたら、また書きます。
さて、ここまで挙げてきた要因は、どれも単独では半減に届きません。ただ複数要因の合わせ技ではどうでしょうか?
仮の数字で置いてみます。リポストされる回数が2割減る。そのリポストがタイムラインに出てくる率も、Xの抑制で2割減る。これだけでSNS経由の到達は0.64です。うちのユーザー数の減少は2割強で止まっているので、差の分は検索と直接来てくれる方が埋めているんだと思います。そこに、来てくれた人が読む本数の減少が掛かります。0.78かける0.64で、だいたい0.50。
半減の説明としては、これで足りてしまうんですよね。1つずつは2割の話で、どれも言われてみればそんなものかという規模です。AIだったり、YouTubeっていう犯人を1つ見つけようとしていたのが、そもそも間違いだったのかもしれません。
サッカーのファンメディアはちょっと事情が違う
一般的なウェブメディアの話をそのままサッカーに持ってくると当てはまらない場合も多いのでは?と考えています。
サッカーのコンテンツは需要が試合に張り付いています。試合終了から数時間に速報系が。翌日にはレビューやコラムが流れるという形で、その時間帯の読まれ方は検索経由ではありません。タイムラインに流れてきたものを読む形です。もともと検索エンジンが主戦場ではないんですよね。
試合結果や各種データ、日程、移籍情報は、どのメディアが伝えても内容に大きな違いが出にくい情報です。クラブやリーグの公式発表で確認できますし、AIも整理や要約を得意としています。そのため、こうした情報を伝えるだけで独立メディアが独自の価値を出すのは、AIが登場する前から難しいことでした。
それから、読む目的が情報の取得だとは限らない。
負けた試合のレビューを開くとき、何が起きたか知りたくて開いている人は少ないと思うんです。試合中に自分の中で処理しきれなかったものに、言葉が与えられるのを待っている。読み終わって「そうだ、これが言いたかった」と思えたら、その記事は役目を果たしています。
ChatGPTに「昨日の名古屋の試合は、なぜ負けたのか」と聞けば、もっともらしい分析は返ってきます。ただし、AIは名古屋を応援しているわけではないので、負けた悔しさやサポーターの気持ちまでは共有できません。どうしても、さまざまな見方を並べた無難な説明になりがちです。試合直後のサポーターが本当に読みたい文章とは、少し違うものになります。
効いているのは、たぶんAIじゃない
こうして考えると、うちのようなサイトが苦しくなっている理由は、世間で言われているほど単純ではなさそうです。
いちばん大きいのはクラブとリーグの自社メディア化です。AIよりずっと前から進んでいた話です。クラブ公式は公式だからこそ得られる情報にアクセスできます。選手インタビュー、練習の映像、監督コメント。特にクラブ公式が強いところがあります。赤鯱新報はJリーグの公式戦の試合後インタビューには参加できませんが、クラブの自社メディアにはそういう制限はありません。
グランパスの公式メディア「INSIDE GRAMPUS」は月550円(税込)の有料ですが、一次情報を持っていること、特に練習やインタビューの動画が使えるということは、本当に価値があります。サイト運営者としては羨ましいばかりです。
ただ、グラぽの目的から見ると評価が逆になります。目的1はグランパスの話題が世の中に流れていることなので、公式が強くなってグランパスのコンテンツが増えるのは、単純にありがたい話です。
ただ懸念として1つあるのは、有料の壁のなかに入っているコンテンツは、お金を払っていない人には読めない。結果としてその話題が世の中に流れることはありません。まだ目的1を掲げるグラぽの存在意義はありそうです。
一方でINSIDE GRAMPUSに550円を払う人が増えるというのは、グランパスに時間とお金を使う人が増えるということですから、それ自体はグラぽがずっと目指してきた状態そのものです。
公式が邪魔になるのは、うちが同じ商売をしようとしたときだけなんですよね。
その次に効いているのがAIで量産された記事です。スタッツと結果を入力すれば、それらしい試合レビューはもう作れます。(内容はいまのAIではおかしなものになりますが)試合結果やスタッツを一定の型に流し込んだ記事については、文章の外形だけでは、人が書いたものかAIで生成したものか判断しにくくなっています。
何が困るかというと、読者が「読んでみるまで質が分からない」状態に置かれることです。そうなると試し読みのコストを払わなくなって、すでに知っている書き手のものしか読まなくなる。新しい書き手が見つかる経路が細ります。既存の書き手には追い風で、無名の新規参入にはかなり厳しい話です。
あとはSNS依存の脆さで、これは今回痛い目に遭いました。
SNS流入は、読んだ人が共有して、そのフォロワーが読んで、その一部がまた共有する、という連鎖で成り立っています。
グラぽが感想のポストを間隔をあけてリポスト(リツイート)しているのも、この連鎖を回すためです。
リポストをお願いするのは、共有をしてもらうことで、放っておけば流れてしまうSNSのタイムラインに、グランパスの話題が現れる率を上げるためです。
全面広告はこの「共有する」ところを直撃します。広告だらけのリンクを人に送るのって、送る側が自分の評判を賭けることになりますから。
共有が止まると連鎖が止まる。止まったまま低い水準で落ち着いてしまうと、広告をやめても勝手には戻りません。読者が怒って去ったというより、輪が切れたまま回っていない、という感じです。輪を切ったのはこっちなので、掛け直すのもこっちでやるしかない。
広告モデルそのものについては冒頭に書いた通りです。月間数十万PVの規模だと、読者体験を守れる強度の広告では成り立たない。PVをこれ以上増やす経路も見当たらないので、この方向は行き止まりだと思っています。
それでも死んでない部分
悲観だけ並べても正確ではないので、逆も書いておきます。
有料の深掘り型スポーツメディアは伸びています。The Athleticは2026年1月に月間1690万ユニークユーザー(※Similarweb)で、前年比59%増。ニューヨーク・タイムズに買収される前は広告なしで黒字化できていなかったそうですが、有料で読まれる形そのものは機能しています。
日本でも、フットボリスタが2023年末に月刊誌としての刊行を終えてWebに移り、有料会員制でやっています。サッカーダイジェストは東京ヴェルディやFC東京の徹底読本を紙で組んで売っている。クラブ単位の濃い内容にお金を払う人は、今もそれなりにいるということです。
INSIDE GRAMPUSが月550円で成立しているのも、同じ話の一部だと思います。1クラブ分のファンベースで、コンテンツに毎月お金を払う人がいる。サッカーの文字コンテンツにお金が回る余地は、まだ残っています。
「サッカーのテキストメディアが終わる」というのは、たぶん違います。終わりつつあるのは、PV連動の広告で回している月間数十万PV規模の独立メディアという、かなり限られた形です。うちですね。
この先どうなるか
3年から5年くらいで、こんな形に分かれると思っています。
層 | わたしの予測 |
|---|---|
クラブ・リーグ公式 | 拡大する。 一次情報を持っていて、チケットやグッズと合わせて回せる |
大規模の無料Webメディア | 残る。 物量とYahoo!ニュースなど配信網で当面は持つ |
大規模の有料メディア | 残る。 母数があるので課金が成立する |
引用と転載でできているサイト | 検索ルートと配信網ルートで結果は分かれる。 検索結果ルートはAIに食われて消える。 配信網ルートで、煽情的なタイトルでクリックを得て収入を確保する方向により特化して細く生き残る |
中小規模の独立メディア | 消える。 収入源は広告だが、広告収入はどんどん減っていく コンテンツに工夫がないとAIに食われる 工夫したコンテンツはAIに学習されて、さらに難しくなる |
極小の個人・コミュニティ | 残る。 コストがほぼゼロなので終わりようがない |
大規模なところ、ゲキサカのような無料の広告メディアは当面残ると思います。規模があると広告の在庫も単価も違いますし、Yahoo!ニュースやスマートニュースへの配信網を持っている。さっきのChartbeatのデータでも大手の落ち込みは22%で、小規模の60%とはだいぶ差がありました。
ただ、中身が速報とまとめに寄っているところほど条件は厳しくなります。スコアと移籍情報はAIがいちばん得意な領域なので。
逆に、ゲキサカが高校サッカーや育成年代に取材網を持っているような、自前で取ってきたものがある媒体は残るはずです。配信先のプラットフォーム側がAIの要約を挟み始めたら、そこでまた話が変わりますが。
真っ先に消えるのは、たぶん引用だけで成り立っているサイトです。よそのニュースを引いてきて、少し言い換えて出し直すだけのところ。この手のサイトはニュース配信網と、検索結果に依存しています。ニュース配信網で喜ばれるような形に適応していき、Webとしては消えていくと考えます。
移籍情報の転載、SNSの反応まとめ、他媒体の記事の要約。ああいうサイトが成り立っていたのは、情報が一か所にまとまっていること自体に価値があった時代だからで、AIに聞けば5秒で同じものが出てくるようになると、わざわざ踏む理由がなくなります。
Googleで検索するのではなく、チャッピーに相談する。
そんな若者の行動変化の影響が一番に出るように思います。
一次情報も署名もコミュニティもないので、落ちたときに戻る場所がない。とはいえ、うちも記事によっては人のことを言えません。
消えるのは「中規模の独立メディア(収入を広告に依存する)」で、グラぽはそこにいます。
読者側の変化も来ると思っていて、「今週のグランパス関連で読むべきものをまとめて」とAIに頼む使い方が広まると、個別の記事にアクセスが発生しなくなります。要約だけが消費される。そのとき何が残るかというと、たぶん署名です。要約された中身より、誰の見立てかが単位になる。書き手の顔が見えるところは、この移行ではむしろ有利かもしれません。
グラぽはどうするか
フットボリスタのように有料化することは考えていません。(配信網は募集を受け付けていないので、スカウトしか筋はないですが、来ませんし、そういう類いのコンテンツではありません)
お金を払った人だけが読める形にすると、届く範囲がそこで狭まります。目的1「グランパスのことを考えるきっかけになること。」と真っ向からぶつかる。参加してもらうという目的3も、会員かどうかの線を引いた瞬間にやりにくくなります。ハードルは低いほどいいので。
商売としては合理的な手なんですけどね。うちがやろうとしていることとは向きが逆です。さっきの表でいうと、上には行けないので下に行くことになります。
有料化を外すと、じゃあ何が残るのかという話になります。
The Athleticは11本のニュースレターで合計1000万人を超える購読者を持っています。看板の「The Pulse」だけで440万人。これは課金の話ではなくて、検索やSNSを通さずに届く相手を1000万人分確保している、ということになります。Googleの順位が動こうが、Xがリンク付きの投稿を絞ろうが、その人たちには届く。
うちが全面広告やノッキング、X運用の変化の遅れでやってしまったのは、共有の輪を自分で切ることでした。切れたら戻せないのは、届ける手段を全部よそに預けていたからでもあります。
ただ、規模が違いすぎるので、そのまま真似はできません。1000万人いるからニュースレターに広告が入るのであって、うちの規模でメールを始めても収益にはなりません。
なによりも、メールは拡散しません。目的1は話題が世の中に流れている状態のことなので、直接届く読者が増えても目的1は前に進まないんですよね。届く相手を確保することと、話題を広げることは別の話です。
共有の輪が止まったときに何も残らないという状態は、もう一度やりたくない。
追う数字は変えるつもりです。
PVより、タイムラインでどれだけ表示されたか、どれだけ共有されたかのほうが目的に近い。共有の輪が切れているという話は、そのまま目的1が止まっているという話でもあります。
当面の目標はここですね。
AIが来てもたぶん平気なのは、参加してもらう部分だと思っています。AIは記事を書けますが、人が語りたくなる場所は作れません。レギュラーメンバーがいて、寄稿してくれる方がいて、質問箱があって、たまにオフラインの集まりもある。この形は公式メディアにも作れません。クラブは「クラブへの批判も含めて何でも語ってください」という場を運営できる立場にないので。
逆にいちばんAIの影響を受けるのは、深く知ってもらう部分です。ルール変更の説明もクラブ財務の読み方も、AIに聞けば返ってきます。残るとしたら、一般論としての知識より、グランパスの話に落ちている知識のほうでしょう。ルールの解説より、あの試合のあの場面がどうしてああなったのかという形。
あとは何シーズンも同じ定義で積み上げたデータ。単発の分析はAIに真似されますが、11年分の蓄積は真似されません。過去はコピーできますが、我々レギュラーライターも歳を追うごとに成長していきます。
お金の話は残ります。有料化しないなら、広告以外で細く回すか、規模を追うのをやめるか。編集部の各自が別のところで稼いでグラぽは持ち出しでやる。これまでも実質そうやってきました。
60万PVを取り戻すのを目標から外す、という手もあります。
ただグラぽの目的1は届く範囲が広いほどいいので、これは目的とのトレードオフになる。
どこで折り合いをつけるか、まだ決まっていません。
おわりに
テキストメディアが終わるのか。終わりはしないけれど、規模は小さくなっていくだろう、というのが今のところの私の答えです。
大手配信網というAIが今のところ入ってこない収入源を持っているサイトだけが生き残り、あとは採算がとれなくなっていくことは間違いありません。この事態に、どう解決策を考えるのか。
有料化なのか、それとも経営的なダイエットなのか。The Athleticのように、自前のプラットフォームを用意して、広告出稿も自前で受け付けるというような方法もありますが、これも大きめの資本がなければ無理です。かといって、一部のサイトがやっている、広告をベタベタ貼りまくる方法は客離れを産むだけで、緩慢な自殺とも言える方法だと思います。読者が離れるだけです。
動画へと逃げる手も、たぶんもう遅いです。YouTubeも今は定期的に広告が入って、以前ほど気持ちよく見続けられなくなりました。収益化の条件も昔ほどよくありません。動画一本でメディアを回すのは厳しいと思います。
オールドメディアの強いところはCMとイベントにより、確実に集金できる仕組みが用意されていたところでした。そういったビジネスモデル作りにWebメディア業界は失敗しているように思います。
Webを中心としたインターネットメディアは、プラットフォーマーと大手だけが儲かる仕組みになっています。そのプラットフォームの上で事業を行おうとすると、今の私たちと同じようにメディアだけで採算を取ることは難しい時代なのではないでしょうか。
用語解説:プラットフォーマー
インターネット上で、多くの人や企業が情報を発信したり、サービスを利用したりするための「場所」を提供する企業のことです。Google、X、YouTube、Instagramなどが代表例です。
ニュースサイトや個人メディアは、検索結果やSNSから多くの読者を集めています。そのため、プラットフォーマーが表示の仕組みやルールを変えると、アクセス数や広告収入が大きく変わることがあります。
ただ、これは戻ったと言うべきなのかもしれません。個人や少人数が書いたものでお金が回っていた期間のほうが、たぶん短い。たとえばほぼプロと言える一部を除き同人誌は、採算を取るために作られてはいませんでした。Webサイトも広告が効いていた十数年のあいだだけ、趣味で書いていたら食えるかもしれない、という話が成り立っていました。
そう考えると、記事そのものを商品にしようとしたのが無理だったのかもしれません。さっき書いたように、テレビや新聞はCMとイベントで回収していました。記事や番組が収入の主体ではなかった。だとすると、読み物は無料で広く配って、そこで生まれた関係のほうから細く回収する形しか残らない気がします。
あと1つ確かなのは、プラットフォームは必ず条件を変えるということです。Xがそうでした。どこに乗るかを考えても仕方がなくて、変わったときに移れるかどうかのほうが問題になります。移れるのは、読者がその媒体なり書き手なりを覚えている場合だけです。
グラぽをどうしていくか
コンテンツとしての質にはこだわりたい。
文字を読む人はちゃんといます。読まない人もいます。
私は文字を好む民なので、これからも文字でやっていきます。そのクオリティにはこだわりたい。
2022年の記事の最後に、グランパスを盛り上げるのはどんなカタチでも構わない、と書きました。
その気持ちは変わっていません。テキストメディアが終わるかどうかという話も、結局はグランパスの話題が世の中に流れ続けるにはどうするか、という話です。グラぽがその役を担えなくなる日が来るかもしれませんが、誰かがやってくれるならそれでいい。
とはいえ、まだしばらくは自分たちでやります。
全面広告の件では、ご迷惑をおかけしました。ただ、あの失敗のおかげで、うちの収益が何の上に成り立っていたのか、何を先に守るべきだったのかがはっきりしました。
面白いと思った記事があったら、SNSで共有していただけると本当に助かります。今のうちにはそれがいちばん効きます。それはそのまま、グランパスの話題が誰かの目にとまる回数を増やすことでもあります。
そして、語りたいことがある方はいつでも声をかけてください。ここは2022年から変わってません。