時間は過ぎていく。この世のほぼ全てのものは時間とともに変化する。磐石と思われていたものがあっさりと壊れたり無くなったりすることもあるでしょう。『万年中位』と、畏敬の念を込めて、あるいは揶揄されたクラブが優勝してしまうことだってあるし、降格することもあります。変わって良い事もあれば、悪い事もある。
2019年3月17日、味の素スタジアムでのアウェー東京戦は名古屋グランパスの敗北で幕を閉じました。今回、試合の内容について語る前に、言っておきたいことがあるのです。
宮原和也の乗り越えるべき壁
2017年以降の名古屋グランパスで『絶対のレギュラーとは?』と問われれば、真っ先にファンから名前の挙がる選手の一人が宮原和也だ(断言)。ところが、この試合、後半21分に宮原和也が交代しベンチに下がった。負傷等の止むを得ない場合を除いて、宮原の途中交代は、なんと2017年4月の徳島戦(前半で交代)以来。代わって右サイドバックのポジションに入ったのは和泉竜司。宮原と和泉とを単純に比較すると、守備力では宮原が、攻撃力では和泉がそれぞれ優れていると言っても良いと思う。得点状況的には1-0とグランパスがリードを許していたから、風間ヤッヒーとしては宮原の守備力よりも和泉の攻撃力を優先したんでしょうね。
グランパスにとって理想のサイドバックとは
理想を列挙するとこんな感じ。
- 基本技術が上手い≒止める、蹴る適正が高い。
- プロとして平均以上の向上心を持つ。
- 走力(スピード、スタミナ)に優れる。
- 中でも外でも攻撃に関与できる。
- ゴールまでの道筋を考えられる。
- 状況に応じたクロスを入れられる。
- 場合によってはシュートも決めきれる。
- 個人守備力がある。
近年の日本人選手では、恐らく全盛期の内田篤人が最も理想に近いんじゃないだろうか。
ここ最近の宮原
宮原について言えば、基本技術、向上心、走力、攻撃への関与、個人守備力については『2019年のグランパス』においても及第点以上が与えられると思う。特に守備力は相変わらずで、最近の試合でも、1列前にいるシャビエルがだいたい右サイドからいなくなるので、守備時には広大なスペースを守るべくいつも躍動していましたよね。
しかし、攻撃時への貢献度はあまり高くなかった。宮原がボールを持っても、バックパスを選択する場面が目に付きました。
数字に表れる攻撃貢献度の低さ
Football LABで公開されているデータを見てみると、特に目を引くのは宮原のクロスからのチャンスの無さ。逆サイドの吉田と比べて1試合平均で0.5も低い。
http://www.football-lab.jp/player/1300182/
和泉もクロスからのチャンスは0.00なものの、宮原と比べてパス出しとドリブル突破力が高い。あくまで4節終了時点ではあるものの、現状では、宮原の攻撃力にはほぼ期待できない評価ですね。何故そうなるんでしょうか。
良い状況でボールを持てない宮原
サイドバックが上がった際、基本的には相手ペナルティエリアの脇に行くので(カットインして内側に入った場合を除く)、ペナルティエリア脇でフリーでボールを持てれば、良い・有利な状況と言えます。
ここでフリーでボールを持つためには、
- 自分のドリブルで相手DFを抜く
- 味方からのスルーパスで抜け出す
のどちらかが必要です。つまり、自分のドリブル能力 or 自分にパスを出してくれる味方選手&スルーパスに合わせ抜け出す走力がなければなりません。
ドリブルでの仕掛けが見られない
元々、前田、青木や榎本のような変態系ドリブラーではない宮原ですが、2017~2018までは緩急を使ったドリブル(ほぼ静止した状態から一気に加速してスピードで相手を抜こうとするドリブル)で相手DFを抜こうとする場面も見られました。今シーズンはそういう場面がありません。相手に研究されたせいか、去年の怪我の影響でコンディションにまだ不安があるのか不明ですが、できてないのは事実です。つまり相手を自力でドリブルで抜いて有利な状況でボールを持つことはできません。
スルーパスで抜け出せない
ガブリエル・シャビエルが右サイドの高い位置でボールを持った状態で宮原がオーバーラップしても、そこにパスを出さないシャビエルが東京戦でも目に付きました。
シャビエルの意図はわからない(好意的に解釈すると、外の宮原を囮にして中を崩すのを狙った)ながらも、とにかくパスが出てこなければ抜け出しようもありません。信頼関係に問題があるのか、たまたまシャビエルのプレー選択がやや悪循環していたのか、話し合いで改善してもらいたいところです。
和泉を右サイドバックに入れたヤッヒー采配
和泉は宮原と比べてドリブルでボールを前に運べますし、前方にスペースさえあれば1対1のドリブル勝負でもそれなり以上に勝てる選手です。宮原のプレーが悪かったとは思いませんが、リードを許した状態でチームの攻撃力を最大限まで高めようとした結果だったんでしょう。その采配は、攻守のバランスよりも攻撃力重視の選手起用をする場合、右サイドバックとして和泉>宮原だと、僕たちファンに示したものでもありました。
宮原の成長を願う
ひょっとして、グランパスに来てから初めての大きな壁が宮原の前に現れた第4節ではなかったでしょうか。これまで、特にその抜群の対人・対地守備力でもってグランパスの右サイドバックに君臨していた宮原和也に、明確に攻撃力と言う課題が突き付けられました。特にドリブルなんてのは一朝一夕で上手くなるようなものではありませんし、持って生まれた才能としか言いようのないものでもあります。であれば、あとはいかに相手PA付近で、相手の嫌がるところに侵入してパスを引き出せるかだと思うのです。クロスに期待できないならショートのラストパスを出せばいいじゃない。もしくはシュートを打ち込んでしまうか。宮原の成長に期待したい。
ところで試合は
事前のプレビューどおりビルドアップで引っ掛けられてカウンターで永井に走られて失点し敗北。しかし、失点したことよりも得点できなかったことが主な敗因ではなかったでしょうか。この試合では相手DFの裏をほぼ取れなかった≒DFラインを突破できなかった姿が目につきました。何故、突破できなかったのか? 僕は、『勇気』が大きな要因だったと考えています。
DFラインを突破するために必要なこと
ドリブルで無理やり抜いちゃうような変態選手を除いて、今のグランパスの様にパス交換で突破するためには、次の事項を満たしている必要があります。
- 相手DFの密集地帯であってもパスコースを見つける『目』
- 見つけたパスコースにパスを通す『技術』と『キック力』
- 通されたパスを『止める技術』
ポイントは、それらの要素を満たしていてもパスの成功率が一定ではないということ。東京さんのように堅い守備のチームを相手にしたら、例えば15㎞/hのパスは通るけど、12㎞/hのパスでは通らないなんてことがあり得ます。つまり、蹴る側はより強く蹴った上でコントロールを正確に、受ける側も速いパスを正確に止められなければなりません。当然、その分だけパス出しもトラップも難易度は高まります。仮に、守備のあまりよくないチーム相手なら90%くらい成功するパスであっても、守備のいいチーム相手なら70%くらいの成功率になったりするわけです。僕の感覚では、完璧なパス・トラップが3回連続で成功すれば、だいたいの場合に相手DFラインを突破できます。
1回のパス・トラップの成功率が90%の場合なら、3回連続で成功する確率は0.9×0.9×0.9=72.9%ありますが、1回あたりの成功率が70%なら、0.7×0.7×0.7=34.3%しかありません。
東京戦で相手DFラインを突破できなかったのは、怯えていたからではないのか
以降は完全に推測になります。沖縄での練習試合で9点取られた記憶が、選手たちに色濃く残っていたのではないでしょうか。パスをカットされればカウンターを受けて失点するという思いが無かったでしょうか。僕の目には、グランパスの選手たちが、ミスパスを恐れて必要以上に強いパスを蹴っていたように見えて仕方ありませんでした。ミスを恐れて強く正確なパスを蹴ろうとして猶更ミスしてしまう。これではいけませんよね。勇気と言うのは恐怖を知った上で尚且つ発揮されるもの。残念ながら、この試合でのグランパスの選手達からは、勇気をあまり感じられませんでした。
<編集による補足。こんな記事も出ていました>
相手が得意なプレーを押し出してきたのだから、こちらも自分たちの強みを出して粉砕する。強い思いがあったはずだ。だが、崩せなかった。米本もその原因を、風間監督と同じく技術に求めた。
「中をこじ開けていけなかったのが反省点。ブロックを作ってくるチームにも中を崩していかないといけない。外に逃げすぎた。ジョーのところにボールを先に入れすぎた。崩しにいってからジョー、ではなくて、最初からジョーばかり」
ゴールへの最短距離は真ん中を通っていくことで、そこを崩していくことが最優先、というのが名古屋の、風間監督のスタイルだ。やり方を変えない、と米本が言ったのはこのことで、だから、中央を割っていく技術が足りなかったために外を迂回しようとしたことに、自分自身とチームを叱責するようだった。
でも、どうして外に逃げたのだろうか。
「ビビってた、のかな…。ボランチもサイドハーフもビビらずにブロックの中で受けないといけなかった。相手はカウンターが得意だから、ビビって行けなかったのか。ビデオを見返してないから、これ以上は分からないけど」
技術を出す前に判断が間違っていて、さらにその前に、良い判断を促すメンタルが足りなかった。米本の悔恨の弁はそれを示している。
https://www.bbm-japan.com/_ct/17258692 より引用
勇気をもって主導権を握ろう
ミスは怖い。カウンターは怖い。当たり前です。しかし、だからこそ、勇気をもって『攻める(前方への)、かつ相手の止められるパス』を蹴ることが重要だと思います。恐怖に駆られて無意味に強いパスを蹴ったら相手の思うつぼ。勇気をもって止める・蹴るをしっかりやる。急がば回れのようでいて、このチームには結局それが一番早道なんじゃないかと。
勇気とは恐怖を知ること。恐怖を知らない勇気は無謀でしかない。
今シーズン初の公式戦敗北が、グランパスの成長を加速させますように。