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阿部のゴラッソを紐解く~ハンドオフというプレー

素晴らしいゴールでした。

7月12日セレッソ大阪戦の2点目、阿部浩之のミドルシュート。

速い脚の振りで巻いたグラウンダーでゴール隅を射抜いてみせたそのシュート自体もすごかった。
ですが、他競技クロスオーバーのファンとしては、その前に阿部がボールを受ける過程に、ちょっとした感銘を受けました。

他のいくつかの競技で言う、「ハンドオフ」というプレーとよく似ていたからです。

「ハンドオフ」とは何か

実は一口で「ハンドオフ」と言っても、表されるプレーは2つあります。

  1. アメリカンフットボールやバスケットボールにおいて、ボールを投げずに別の選手に手渡しでパスするプレー
  2. ラグビーにおいて、タックルに来た相手守備を手で突き放すプレー

今回は1を表すプレーと考えてください。

アメリカンフットボールにおいては、ランニングバックと呼ばれるボールを持って走ることで陣地を獲得するポジションの選手が、クオーターバックと呼ばれる司令塔役の選手からボールを受け取るときによく使われるプレーです。

バスケットボールにおいても、パスの一つ、そして攻撃を組み立てる一つの手段として使われています。

いずれにおいても、「ボールを保持している選手のところに保持していない選手が近づいていき、手渡しでパスを受け取って次の行動に移るプレー」と定義することができます。

「ハンドオフ」のメリットと今回のプレー

「ハンドオフ」というプレーの大きなメリットは2つです。

ひとつめは、ボールを投げずに味方にボールを渡すプレーであるがゆえに、パスをカットされたりキャッチをミスしたりでボールを失う可能性が非常に小さいということ。

ふたつめは、現在ボール保持する選手と次にボールを保持する選手のどちらがボールをもって次のプレーを行うかが、守備側からは分かりづらいということです。これによって、守備側に次にどう対応すれば良いかを迷わせることができ、遅くさせる、つまり、一瞬ではありますが「剥がす」ことができるわけですね。

今回の阿部のプレーはこの「ハンドオフ」によく似ていました。この時の動きを図に起こしてみましょう。

(1)カウンターのボールが中央に流れたところを稲垣が回収し、前を向いてボールを持ちます。相手は間合いを詰められずに中間距離にポジション。これを見た阿部が稲垣のもとに猛ダッシュしました。

ボールを奪取して正面を向いた稲垣祥のもとに阿部浩之が走り寄る
ボールを奪取して正面を向いた稲垣祥のもとに阿部浩之が走り寄る

(2)阿部がボールに到着したタイミングはこのようになっています。ここでは守備側は次のアクションを稲垣が起こすのか阿部が起こすのかが分からず、一瞬動きを止めます。そこで阿部はワンタッチ横方向にドリブルし、シュートコースを作ります。

阿部浩之と稲垣祥がクロスした状態。どっちがボールにプレーするのか周囲はわからない
阿部浩之と稲垣祥がクロスした状態。どっちがボールにプレーするのか周囲はわからない

(3)対面の選手が阿部の意図に気づきコースを塞ぎに動きますが間に合わず、ボールは振り抜かれた右足から美しい弾道を描いてゴール隅に突き刺さりました。

阿部浩之の意図に気づいたときにはDFは遅れている
阿部浩之の意図に気づいたときにはDFは遅れている

このプレーの肝となったのは(2)で阿部と稲垣双方がボールの近くにいる状態です。画面上でもこの前後はC大阪の守備陣は対処に迷い、脚を止めてしまったように見えました。これは先ほど言った、ハンドオフのメリットの二つ目とほぼ同じと言って良いでしょう。

また、今回は稲垣がしっかりとボールを静止させていたことも、その後の阿部のボールコントロールには良い影響があったのではないでしょうか。ハンドオフのメリットのひとつめに近い効果が望めるシチュエーションだったと言えるかもしれません。

こんなプレーも考えられますよ、というお話

今回のプレーは状況を読み切った阿部の判断と技術が噛み合ったゴラッソでしたが、阿部と稲垣の意識が合っていれば、阿部の動きを囮にしたプレーも可能です。

例えば、今回の阿部の動きにC大阪の守備陣が動かされて中央の金崎へのコースを空けてしまうことがあれば、稲垣がそこにスルーパスを送り込む、ということも可能になるでしょう。

稲垣祥のif (ブートレッグ)
稲垣祥のif (ブートレッグ)

ちなみに、このようなハンドオフをしたふりをして、元々のボール保持者がそのままプレーすることをアメリカンフットボールでは「ブートレッグ(bootleg)」と呼ぶそうです。次に似たようなシチュエーションが出現した場合、阿部が囮になって稲垣がプレーして得点につながったら、なんて考えたらワクワクしませんか?

このプレーに限ったことではありませんが、阿部のプレーは攻守にわたって敵味方及びボールの配置と前後の流れを読み切っていて、技術だけでなく頭脳面においても素晴らしい選手だと感じています。過密日程で大変なシーズンではありますが、怪我無く、我々が感嘆するようなプレーを魅せ続けてくれることを期待したいですね。

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