加藤玄選手を理解するための記事2本目は、みぎさんから!
菊地泰智の紹介文以来でご無沙汰しております。
今回、筑波大学(以下、筑波)からまさかの「飛び級」しかも「正式加入」として加藤玄が加わり、偉そうにあーだこーだと書いておりましたら編集長からお声がかかりました。
しかし!さすがに「紹介文」を書けるほど彼の成長を追ってきておりませんから、そこは然るべき方にお任せをし、私は好き勝手に「加藤玄が加わった名古屋の中盤」を妄想する役目を担おうかと思います。
とはいえ、まずは加藤玄というプレーヤーを知ることから始めましょう。ここからは、彼のプレー面を掘り下げていきます。
加入が決まったその日の夜、今年の天皇杯から筑波の試合を二つ、眠い目を擦りながら再視聴し見事寝坊しました。この作業、てっきり来年の今頃にやろうとBlu-rayに残していたので、まさか今やることになるとは斜め上の展開です。
ちなみに、アカデミー卒とはいえ、「加藤玄がどんな選手か知らねえな」って方、結構いますか?
はいはい聞こえますよーわかりますええ。私自身、今偉そうに文章を綴っておりますが、実際は過去に現地でユースを数試合、あとは先ほど記載した筑波での天皇杯を二試合、さらに先日の全日本大学サッカー選手権大会より、東海学園大学とのゲームを観たのみです(いっそ開き直る)。
ただ、改めて数試合を観ただけでも、それなりに分かることはありました。
まず、彼は決して派手な選手ではありません。
誰が観ても華やかだとわかるプレーをするわけでもなく、かといって恐ろしいほどのフィジカルを駆使するわけでもない。一言でいってしまえば「玄人好み」な選手です。
最終ラインからボールを引き出し、受ける、それを散らす。この作業を淡々と、しかし誰よりも高精度に、しかも無駄なく(速く)こなしていく。この時点で断言しますが、そういった「ボールを循環させる技術」において、彼の右に出るものはおそらく名古屋には存在しません。例えば、名古屋でいえば森島司や菊地がときにボランチを務めることもありますが、やっぱり少し違うんですよね。あれは、「攻撃的で(アタッカーの)器用な選手」が、中盤の底に入った感が拭えない。ボランチというより、彼らはインサイド(もう一列前)の似合う選手だと思っています。つまり、「出す」だけではなく「レシーバー(受け手)」としての能力も際立っているのが彼らなのだと。その意味で、加藤玄に関してはこれまで名古屋にいない、しかしながら名古屋がなにより欲していたタイプだといえるでしょう。
とはいえ、加藤玄が得意とする分野は一見するとやっぱり地味なんです。派手なパスも出さないし、テクニカルにボールをこねるわけでもありません。
ただ、実はこれこそが最も高い技術だといえます。
筑波では、基本陣形4-4-2から、ボール保持になると3-1-4-2に可変するのですが(名古屋とは逆の可変ですね)、加藤玄の役割は「3」つまり2センターバックの間に降りて最終ラインの中央に陣取ることもあれば、「1」として3と4の間に立つこともある。
筑波の攻撃の発進基地、中心は他でもない加藤玄でした。
基本的には「ヘソ」と呼ばれるピッチ中央に陣取ります。相手のファーストプレッシャー(ボールを奪いにいく際の永井だと思ってください)の「背後」に立ち位置を取る。あるいは、最終ラインまで降りてきて、まずは自身がボールを左右に振っていく。観ていて感心するのは、そのあたりの状況判断や、ボールを「1」の場所で受ける際の立ち位置の取り方、要はピッチを俯瞰してみるその「目」にあります。とにかく、プレービジョンが素晴らしい。また、そこでボールを受けてから次のルートへボールを進める際の「無駄のなさ」にも特筆すべきものがある。
もう少し、ややこしい技術論をさせてください。
凄いんですよ(やめません最後まで聞いて)。ボールを受けた(立ち)位置から、彼はほとんど「動かずに」ボールを配ることが可能なんです。
分かりやすい例でいえば、一時期、川崎フロンターレのパス&コントロールの動画が流行ったじゃないですか。自分の周りをコーンで狭〜く囲って、その枠からはみ出ずに受けて、パスを出す。しかも高速で。
こういった、一見すると地味だけれど、実はめちゃくちゃ高い技術を要する術が加藤玄にはある。つまり、狭い(限られた)スペースでボールを受け、その場で無駄にボールをこねることなく次のルートにボールを展開することが出来るわけです。そのためには、当然「ボールを受けられる立ち位置」と「次のルートに進めるうえでボールをどの位置に止めるか(ボールを受ける瞬間、身体をどの角度に設定するか)」が問われます。その一連の動作に関わる技術がとにかく素晴らしい….もうね、惚れ惚れしますよ。ただでさえ立ち位置がいいのに、加えて無駄なタッチがないときた。それでは相手も寄せられません。ですから、観ているとスパーン!と気持ちいいくらいの縦パスを通すわけです。しかも、いとも容易く。決して簡単なプレーではありません。いや、簡単に見えるプレーにこそ、最上の技術が宿っています。
これ、伝わる人には伝わってほしいのですが、まさに「アンカー」に必要な資質なんですよ。
今「アンカー」と聞いて頭がウッ!となったそこの貴方。わかります今季の名古屋にとってそれは呪いの言葉。数試合でやめちまったしな!!(アッハッハ!)
だからでしょうか。加藤玄が「数多あるオファーの中から名古屋を選んでやったぞ(超意訳)」と語ってましたが、それ、すごく理解できるんですね。(オファーの有無はさておき)アンカーやりそうなクラブは皆欲しいはずで。例えば浦和レッズなら、グスタフソンの代わりになり得ます。あとは川崎フロンターレなら、アンカーらしいアンカーとして君臨する可能性すらある。それこそガンバ大阪なら、ポヤトスのフットボール(典型的なスペイン流)にこそ、一番ハマるのが加藤玄だと断言できる。
加入会見で「マンチェスターシティのロドリが目標」と話していましたが、もう首がもげるくらい納得しました。あれはロドリであり、元バルセロナのブスケツですよ。
だって彼、ボールを「運ぶ」ことも出来るんですよ!?(まだあった技術論)普通、最後尾からボール持ち上がります?奪われたら即死です。でも、彼は「イケる」と判断すれば躊躇なく目の前の相手を剥がしにかかれる。そんな選手、これまでの名古屋には皆無でした。ていうか、ピッチ上の風貌はこの時点で日本のロドリだといっていい(笑)。長身で、肉付きがよく、遠目でみると少し丸みを帯びたあの風貌。プレースタイルをもう少し身近な存在でわかりやすく例えると、徳島ヴォルティスの岩尾憲にそっくりだと思いました。ですから、要は岩尾憲が加入するみたいなものです(乱暴な結論)。
はい!そこで気づいた勘のいい貴方!
そうなんですよ(なにが)。いやつまりね、「岩尾憲が名古屋のダブルボランチやるんかい」「アンカーじゃないんかい」問題が発生するんですね。これは頭が痛い。
名古屋を振り返ると、古くは「山田陸を主力組にぶっこんでみるの巻」が存在しました(ここからは歴史の時間です)。
私も彼が大好きだったんです。ただ、健太の野郎が(訳:長谷川健太監督が)「陸はダラダラ走ることはできても、スプリント全然足りねえんだわ(超意訳)」と吐き捨てやがった(言い方)。しかし、彼のポテンシャルは買っていたし、彼のような存在を組み込むことにこそ、健太さん自身も「次のフェーズに突入する」ための起爆剤であることを理解していたのもたしかです。だからこそ、鍛えて鍛えて思いきってブチ込んだと。それがルヴァン杯で大成功したときは、皆で歓喜しましたよね。それなのに、次の大事なリーグ戦であの野郎(山田陸です)、あろうことかコンディションを崩しやがった。あのときはズッコケたなあ(遠い目)。正直にいえば、そこからのメンタリティが物足りなかった。それ以降は今日に至るまで、あの山田陸チャレンジが最初で最後、今もなお語り継がれる歴史となったわけです。
つまりですね、加藤玄の存在は、それ以来(一年ぶり二度目)のチャレンジだといえるでしょう。
正直、足は速くないです。どちらかといえば、ずっと一定の速度で走ります。「動きまわる」印象もない。もっといえば、圧倒的なスプリント力で相手との間合いを詰め、ボールを狩り取る印象もありません。そこだけ切り取れば、まんま山田陸のカテゴリーなんですよ。
じゃあ「アンカーやればいいじゃない」とつい口にしたそこの貴方。ほら、すぐ都合の悪い過去を忘れる!それ人間の一番愚かなとこね(辛辣)。
ここで悩ましいのは、稲垣祥にしろ椎橋慧也にしろ、俗にいう「スリーセンター」がいまいちハマらないんですよ。例えば、二人ともインサイドハーフ(一列前)で上手くボールを受けるタイプでもなければ、逆にアンカー(一列後ろ)としてパスを捌くタイプでもない。つまり、加藤玄をアンカーで起用すべくシステム変更してしまうと、今度は主力組であるこの二人の特性が活きづらい可能性があるわけです。ていうか、それで上手くいかなかったのが今季の開幕数試合ともいえるわけで、だからこそダブルボランチに戻して軌道に乗せたわけです。
そうなると、やはりダブルボランチ一択なのか。
そもそも、この文脈において「でも、筑波でもユースでもダブルボランチやってたわけでしょう?」なんて意見は当然といえます。
ただですね、「どういうスタイルのダブルボランチだったか」という視点も、同時に持ち合わせる必要があると思うのです。皆さんもご理解している通り、名古屋のダブルボランチって相当特殊というか、エグいタスクですよ。それこそ、先ほど挙げた川崎やガンバとはわけが違う(彼らのスタイルなら、当然ダブルボランチとしても欲しい人材です)。
あれだけ広大なスペースを管理し、走りまわって、しかも球際の争いには高い確率で勝利を求められる。挙げ句の果てには、相手ゴール前まで詰めてゴールまで決めるわけですよね。冷静に考えてバケモノです。だから稲垣は偉大なわけで、相棒は米本拓司しか務まらなかった。その代わりに台頭したのも椎橋だったと。もっといえば、だからこそ山田陸は最後までハマりきらなかった。必然的に「非保持に特徴(強み)のある選手」が生き残るシステムなのだといえましょう。
加藤玄の会見で彼が語った言葉、読みましたか?
「俺はとにかくボールを保持したい。ボール保持を前提に圧をかけまくって、相手陣地を支配したい。攻めて攻めて攻めたいんじゃ(超意訳)」そんな想いを語っていました。最高!最高なんだけど、ルヴァン杯決勝の相手と間違えてないですよね….。これ、おそらく来季の名古屋の基本的な発想と『真逆』なんです。
おそらくですが、現状の名古屋のベースは、そのルヴァン杯を勝ち獲った「徹底したハイプレス」の構造にあります。つまり、大前提は「非保持」での振舞いにある。
書き換えましょう。「俺はとにかくボールを『奪いたい』。ボール『非保持』を前提に圧をかけまくって、相手陣地を支配したい。『追って』『奪って』『攻めたいんじゃ』」これが今の名古屋における正解です。その前提において、現状の稲垣・椎橋コンビは個人的にも最強のペアだと考えます。
果たして、そこに加藤玄がどう絡んでいくのか。
どれほど期待値の高い選手とはいえ、現状は名古屋のスタイルにおいて「下剋上」していく立ち位置の選手だと考えるのが至極当然です。プロのスピードや強度にも慣れる必要がある。彼はまだ、何の実績もない「新人選手」に違いはありません。
ただ、一方ではこんな視点もあります。
それは、健太さんに「山田陸チャレンジ」を実施した実績があるという事実です。つまり、自身のスタイル、最もナチュラルに強みを発揮できる手法があるにも関わらず、あえて“異質”な存在をブチ込もうとする度量と、なにより自身のフットボールに対する「問題意識(課題)」がある。それは、「このスタイルだけでは頂点には立てない」そんなここ数年の自身に対する葛藤ではないでしょうか。だからこそ、今季にしても可変システムに挑み、内田宅哉をストッパーに置いたし、菊地をシーズン途中に補強したわけです。
断言しますが、きっと健太さんは加藤玄のようなタイプをチームに取り込みたい。取り込もうと試みるでしょう。
問題は、(そのプレースタイルのまま)加藤玄が名古屋にアジャストするのか、それとも、名古屋が加藤玄という「異才」を組み込むためにアジャストするのか。歩み寄るのはどっちなんだい!(きんに君乙)という話であります。仮に前者であれば(というか普通は前者です)、それは森島司や山岸祐也も歩んだ険しい道のりになるかもしれません。
ただ、そんなことはおそらく加藤玄だって百も承知でしょう。最もスタイルの順応に苦労するであろうクラブを、「あえて」彼自身が選んだわけです。
「それすら変えられる、変えてやる」
そんな自信と手応えを掴んで、彼は名古屋に帰ってきました。あの加入会見で口にした彼の言葉には、そう言い切れるだけの力強さと、なにより大きな野心が感じられた。そういった挑戦を、我々は応援することになります。
どうですか。来季、めちゃくちゃ楽しみになってきません?
なんとか、今季の終盤にチームのベースは出来ました。ルヴァン杯も獲った。さあ、来季こそはリーグタイトルだと、「現有戦力の維持と上積み」がオフのテーマとなりました。その文脈は、よく理解できます。
そこに、加藤玄。国内でも希少なタイプがやってきました。
私は「ボランチらしいボランチ」が大好きです。(ときにコンバートも経験したとはいえ)ボランチで生きてきた、しかもボール保持に強みを持って積み重ねてきた選手にしか感じられない所作がそこにはあります。ましてや、加藤玄の特徴に関していうと、繰り返しますが国内でもかなり稀有なものがあると感じます。あれほどアンカーが似合いそうな選手も珍しい。
名古屋にとっては、田口泰士や山田陸のような「生粋の日本人ボランチ」が加入すると考えていいでしょう。
そして、もう一つ期待するのです。
突如とした加藤玄の登場によって、同期である吉田温紀にも火がつくことを。ここまで書いてきたこと、これまでなら全て温紀に期待してたことやぞ。必要なのは「ライバル」そして「競争」です。
さて、加藤玄の挑戦と長谷川健太の決断やいかに。
ソウソウさん のU18時代の加藤玄選手のプレーに関する記事はこちらです。合わせてお読み下さい!