金Jに舞い降りた名勝負
2019年5月17日金曜日夜。
等々力陸上競技場で行われた川崎フロンターレと名古屋グランパスの試合は、記憶に残る素晴らしい試合になりました。
この試合が陸上競技場で行われていなかったとしたら、この試合を「別の国でおこなわれているフットボール」と言われても信じたことでしょう。
特に、名古屋グランパスファミリーにとっては、この2年と半年の間、焼野原から積み上げたものが、前年王者に肩を並べられるまでに大きくなったのだ、という自信になる内容。
「勝てた」「勝ちたかった」ということを考えられるこの現実を肯定的に捉えたい、そんな感想を抱きました。
データから読み解く昨季→今季
この「肩を並べた」ということは、選手の試合後コメントからもですが、データの面でもはっきり現れました。Football LABさまにまとめられている試合別データの、2018年9月22日の川崎名古屋戦と、今回の試合を並べて見てみましょう。(以下数値はFootball LABさまより引用)
2018年9月22日 川崎 3-1 名古屋
http://www.football-lab.jp/nago/report/?year=2018&month=09&date=22
2019年5月17日 川崎 1-1 名古屋
http://www.football-lab.jp/nago/report/?year=2019&month=05&date=17
※「30mライン進入」とは、相手ゴールから30mまでのエリアに進入した回数。相手ゴール近くにどれだけの回数迫れたかを表す指標の1つ。
2018年の試合は、シュートの本数、ボール支配率を見ても分かる通り、名古屋の完敗といってもいい内容でした。
パスの成功率だけは悪くありませんが、30mライン進入の数字やペナルティエリア進入の数字を見ても分かるように、攻撃に有効な形でパスを出せず、川崎の圧力の前にただ回すだけのパスの方が多かったのは間違いありません。
ボールを有効に保持できず、相手に保持され、一矢を報いるのが精いっぱいで敗れ去った、というのが2018年9月の川崎名古屋戦の結果でした。
その試合と2019年5月の試合を比較してみると一目瞭然。パス数、ボール支配率、30mライン進入やペナルティエリア進入については完全に逆転。ただ、ここでシュートの数が互角であるというところが、川崎が王者となった所以といえるのかもしれません。
鬼木監督のもと、少ない攻撃を得点に結びつける強かさをも身につけつつある川崎ですが、それでもこの試合前までの1試合平均の30mライン進入が58.1、ペナルティエリア進入が16.2と、数多くのチャンスを作るチームです。
そのチームが平均よりはるかに少ない進入回数でゲームを終えたこと。その裏付けとなる、昨年から大きく増加した、名古屋のタックルとインターセプトの数字。データを読み解いていくと、名古屋の進境はむしろ守備にこそ大きく現れていました。
積み重ねを自信に変えた瞬間
では、チームがこのような結果を残せるような振る舞いが出来る、自信をもつきっかけはいつだったのか。
個人的な見方にはなりますが、この試合の最初の15分だったのではないか、そのように見ています。
昨季の記憶が残っている部分もあるのか、大一番への堅さか、この時間帯はボールこそ保持していましたが、おっかなびっくりの状態だったように見受けられました。そう、それは昨季の試合でボールを持っていた時に似通っていたようにも思います。
もちろん試合に馴染み、落ち着くまでの時間にバタバタするのはある程度仕方がないこと。結果としてこの時間帯、ミドルサードでのロストから川崎のカウンターを3度4度と受けることになりました。
ここでもし川崎が得点、そこまでいかなくても、名古屋の腰を引かせるような危ないシーンを作っていれば、試合は昨年と同じように流れていったかもしれません。
しかし、この試合はそうはなりませんでした。川崎が発動したカウンターを、今季開幕当時と比較しても明らかに精度が増しつつある、ディフェンスライン+セントラルMF2人のネガトラからの守備によって再奪取もしくはクリア。ランゲラックの手を煩わせることもほとんどない形で相手の攻撃の芽を摘むことに成功していました。
この体験が「多少のやられ方をしても、積み重ねた通りのやり方で守れば大丈夫」という手ごたえになり、選手に攻守双方でよりアグレッシブな選択肢を選ばせる要因となったのではないでしょうか。
結果としてこの後しばらく、川崎と名古屋はお互いに腰を引かずに極めて狭い空間の中でボールをつなぎ、奪い合う濃密な時間を過ごすことになりました。
我慢比べで顔を上げさせた
試合の流れとしては先制されて何かを変えなければいけない川崎が先にレアンドロダミアンの投入という形で動きます。そして、第1プレッシャーラインと第2プレッシャーラインの間でボランチに入った中村憲剛と大島が受け、そこから正確な縦で直接的に最終ラインを叩くやり方に切り替え、実際に得点。名古屋も反撃を見せますがゴールを割ることが出来ず、引き分けとなりました。
ですが、昨季我慢比べにすら持ち込めなかったチームが、我慢比べを仕掛けて先に顔を上げさせたというこの試合は、昨季からの進歩と今季やっていることの証明という意味において、自信にすべき試合となったと思います。
川崎との次回対戦は8月20日、ホームであるトヨタスタジアムで行われます。この自信を糧にして、さらに大きなものを積み上げ、ハードルを乗り越えていったその先。恐らくその時も上位チームとして立ちはだかってくるであろう、彼らとの再戦が楽しみで仕方がありません。