お題箱からのネタです。(スーパーレターありがとうございます)
ACL-Elite拡大
2026年4月21日付のゲキサカ/Yahoo!ニュースでは、AFCチャンピオンズリーグエリート、いわゆるACLEの参加クラブ数拡大について続報が出ました。 https://news.yahoo.co.jp/articles/0161179c8c9f03aeba8151430f81c155e221cc27
4月26日付けの報道では、ほぼ確定という話もでているので、この方向性は間違いないでしょう。
報道によると、AFCは2026-27シーズンからACLEを現行の24クラブから32クラブへ広げる案を検討しています。東西それぞれ12クラブずつだったリーグステージを、16クラブずつに増やす案です。
この案が実現した場合、日本には2025-26のストレートイン3枠に加えて、プレーオフ2枠が与えられる方向だとされています。つまり、最大でJクラブ5チームがACLEに関われる可能性が出てきます。
これはかなり大きな変更です。
ただし、単に「出場枠が増えてよかったですね」で済む話ではありません。お金、日程、国内カップ戦、サウジアラビア勢との競争、そして秋春制への移行まで、いくつもの問題が一気につながってきます。
ここでは、UCLの拡大で欧州に起きたことも参考にしながら、ACLE拡大がJリーグにどんな影響を与えそうかを整理します。
UCL拡大で欧州に起きたこと
ACLEの拡大案は、欧州のUEFAチャンピオンズリーグ(以降UCL)の改革をかなり意識しているように見えます。
UCLは2024-25シーズンから大会方式を大きく変えました。出場クラブは32から36に増え、従来のグループステージは廃止されました。代わりに、全36クラブが1つの大きなリーグ表で争う「リーグフェーズ方式」が導入されています。
この変更によって、試合数はかなり増えました。大会全体の試合数は125試合から189試合へ増え、決勝まで進むクラブは従来より多くの試合を戦うことになりました。
欧州で起きた変化を大きく分けると、次の3つが挙げられます。
1つ目は、収入の増加です。UCLに出場するだけで大きな収入が入り、勝ち進めばさらに巨額の賞金を得られます。2024-25シーズンには、優勝したPSGが1億4500万ユーロ規模の収入を得たとされます。これは、ACLEとは桁が違う金額です。
2つ目は、強いクラブがさらに強くなりやすいことです。UCL収入を得たクラブは、選手層を厚くし、ローテーションを組みやすくなります。すると国内リーグでも優位に立ちやすくなり、また翌年も欧州カップ戦に出やすくなります。これは、いわば「勝つクラブにお金が集まり、お金のあるクラブがまた勝ちやすくなる」流れです。
3つ目は、日程の過密化です。試合数が増えれば、当然ながら選手の負担も増えます。欧州でも、選手の負傷増加やカレンダーの限界が問題になっています。
この3点は、そのままJリーグにも関係してきます。ただし、UCLとACLEでは大会の規模も、放映権の大きさも、クラブを取り巻く環境もかなり違います。そこを分けて考える必要があります。
UCLとACLEは何が違うのか
まず、金額の規模が大きく違います。
ACLEは優勝賞金が大きく引き上げられ、参加するだけでも一定の収入が入る大会になっています。それでも、UCLと比べると規模はまったく違います。UCLは参加するだけで数十億円規模の収入になりますが、ACLEはJクラブにとって大きな収入ではあるものの、欧州トップクラブを動かすほどの金額ではありません。
放映権の基盤も違います。
UCLは欧州全体、さらに世界市場を相手にした巨大コンテンツです。一方、ACLEはアジア全体の大会ではありますが、UCLほどの放映権ビジネスにはなっていません。Jリーグの国内放映権料と比べても、欧州主要リーグの市場規模はかなり大きく、ACLEがUCLのような収入分配モデルをそのまま作るのは難しいと見ておいたほうがよさそうです。
そして、もう一つ大きいのがサウジアラビアの存在です。
近年のサウジアラビア勢は、資金力の面でJクラブやKリーグ勢を大きく上回っています。ACLEは「欧州の強豪リーグ同士が競うUCL」というより、「サウジアラビアの突出した資金力に、東アジアのクラブがどう対抗するか」という色合いが強い大会になりつつあります。
この違いを踏まえないままUCLとACLEを並べると、見立てを誤ります。
Jリーグにとってのプラス面
それでも、ACLE拡大がJリーグにもたらすプラスはあります。
一番わかりやすいのは、出場機会の拡大です。日本が最大5枠を得ることになれば、これまでならACLEに届かなかったクラブにもチャンスが生まれます。
たとえば、従来ならJ1の4位・5位あたりでシーズンを終えたクラブは、国内では好成績でもACLEには届かないケースがありました。そこにプレーオフ枠が加われば、中位上位のクラブにも「もう少しでアジア」という目標が見えてきます。
これはリーグの競争を活性化させます。
優勝争いだけでなく、3位、4位、5位あたりの争いにも意味が出ます。シーズン終盤に目標を持てるクラブが増えれば、リーグ全体の緊張感も保ちやすくなります。
収入面でも、JクラブにとってACLEの参加賞金や勝利給は小さくありません。UCLほどの巨額ではないにしても、数千万円から数億円規模の差は、Jリーグのクラブ経営では十分に大きな意味を持ちます。
さらに、ACLEで勝ち進めば、クラブの露出も増えます。国内のファン指標、スポンサー価値、アジア市場での認知にも影響します。特にアジアで事業を展開する日本企業にとっては、Jクラブが中東や東南アジアで露出することにも価値があります。
つまり、ACLE拡大は「Jリーグの外にある収入源」を広げる話でもあります。
格差は広がるのか
一方で、ACLEに継続して出られるクラブと、そうでないクラブの差は広がる可能性があります。
ACLEに出るクラブは賞金を得ます。勝ち進めばさらに収入が増えます。そのお金で選手層を厚くし、コンディショニングや分析体制にも投資できます。すると国内リーグでも上位に残りやすくなり、またACLEに出やすくなります。
この循環は、欧州ではすでにはっきり起きています。
ただし、Jリーグでは欧州ほど固定化が進むとは限りません。J1は順位変動が大きく、毎年のように勢力図が動きます。固定的な4強が長く支配するリーグではありません。
その意味では、5枠化は一部のクラブだけを強くするというより、6位から8位あたりのクラブにも現実的な目標を与える可能性があります。上位常連だけでなく、少し背伸びすればアジアに届くクラブが増えるからです。
それでも、ACLEで結果を出し続けるクラブが資金面で有利になることは避けにくいです。Jリーグが「均等配分」から「結果に応じた配分」へ軸足を移していくなら、この流れはさらに強まります。
だからこそ、ACLE拡大は「チャンスの拡大」であると同時に、「クラブ間格差の入口」でもあります。
一番重い問題は日程
今回の話で、最も実務的に重いのは日程です。
ACLEの出場枠が増えれば、Jクラブが戦う国際試合は増えます。しかも、Jリーグは2026-27シーズンから秋春制に移行します。ACLEの拡大と秋春制への移行が、ほぼ同じタイミングで来ることになります。
これは良い面もあります。これまでJリーグは春秋制、ACLEは秋春制というズレがあり、シーズンまたぎの問題がありました。秋春制に移れば、そのズレはかなり解消されます。
ただし、問題は試合をどこに入れるかです。
2026-27シーズンは、8月ごろに開幕し、冬に長めの中断を挟み、翌年5月ごろに終わる想定になります。日本では寒冷地の問題があるため、欧州のように冬でも広く試合を組めるわけではありません。
その限られた期間に、J1リーグ、ルヴァンカップ、天皇杯、ACLEを入れる必要があります。ACLEで勝ち進むクラブは、年間で60試合を超える可能性もあります。
欧州の強豪クラブも多くの試合をこなしていますが、Jリーグの場合は冬の中断期間が長く、実際に試合を組める週が限られます。そのため、1週間あたりの試合密度はかなり高くなり得ます。
ここがかなり厳しいところです。
ルヴァンカップと天皇杯はどうするのか
日程問題は、国内カップ戦の設計に直結します。
ルヴァンカップは、すでにACL出場クラブを途中から参加させる形で日程を調整しています。ACLE出場クラブがさらに増えれば、免除の範囲を広げる必要が出てきます。
ただ、免除を進めすぎると、今度は大会としての形が崩れます。極端に言えば、強豪クラブが準決勝や決勝だけ出てくるような大会になってしまうと、カップ戦としての説得力が弱くなります。
天皇杯はさらに難しいです。
天皇杯はJFA主催の大会で、Jリーグだけで日程を決められるものではありません。長い歴史があり、正月決勝のイメージも強い大会です。秋春制に移行したあと、どの時期にどう組み込むのかは、かなり大きな論点になります。
ACLEプレーオフ、リーグ戦、ルヴァンカップ、天皇杯が重なれば、選手の負担は一気に増えます。若手起用やターンオーバーで吸収する方法もありますが、日本ではルヴァンカップも天皇杯もタイトルとしての価値がまだ強く残っています。
欧州のように「国内カップ戦は若手や控え中心で」と割り切れるかというと、Jリーグではそこまで簡単ではありません。
この意味で、ACLE拡大は単なる国際大会の話ではなく、国内カップ戦文化そのものを問い直す話になります。
サウジアラビア勢との競争
もう一つ避けて通れないのが、サウジアラビア勢との競争です。
ACLEでは、サウジアラビアの存在感がかなり強くなっています。準々決勝以降の集中開催もサウジアラビアで行われており、東アジアのクラブにとっては移動や環境面でも簡単ではありません。
資金力の差もあります。サウジアラビアの上位クラブは、選手人件費の面でJクラブを大きく上回ります。Jクラブが組織力や育成、戦術で対抗できる余地はありますが、長期的に見れば厳しい相手です。
日本の出場枠が増えること自体は前向きな話です。しかし、枠が増えたからといってタイトルに近づくとは限りません。
むしろ、Jクラブ全体がAFCランキングを維持するために、今まで以上に安定して勝ち点を取る必要が出てきます。日本が東地区の上位を保てなければ、将来的に枠が減る可能性もあります。
ACLE拡大は、日本にとってチャンスであると同時に、アジアで勝ち続ける責任が重くなる話でもあります。
まとめ:お金よりも、制度設計の問題
ACLE拡大によって、Jリーグには確かにプラスがあります。
出場クラブが増えれば、賞金やスポンサー価値、アジアでの露出は増えます。J1中位上位のクラブにとっても、ACLE出場がより現実的な目標になります。リーグ終盤の競争も活性化するでしょう。
ただし、それ以上に重いのは日程です。
秋春制への移行とACLE拡大が同時期に来ることで、Jリーグは国内リーグ、ルヴァンカップ、天皇杯、国際大会をどう並べるのかを本気で考えなければいけなくなります。
特に、ルヴァンカップと天皇杯をどう位置づけるかは避けられません。タイトルの価値を守るのか。ACLE出場クラブの負担を軽くするのか。若手育成の場として割り切るのか。ここを曖昧にしたままでは、選手の負担だけが増えていきます。
また、サウジアラビア勢との資金力差も現実的な問題です。Jクラブは、ただ出場するだけではなく、アジアで勝つための選手層、医療・コンディショニング体制、分析体制、商業面の強化まで求められます。
つまりACLE拡大は、Jリーグにとって「収入が増える話」であると同時に、「30年続いてきた国内サッカーの仕組みを組み替える話」でもあります。
ここをうまく設計できれば、Jリーグはアジアでの存在感をさらに高められます。逆に設計を誤れば、日程過密と選手負担だけが残る可能性もあります。
賞金の額以上に問われるのは、Jリーグが次の時代に向けて、どんな大会設計を選ぶのかという点です。そこを注視していきましょう。
