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選手への誹謗中傷とは何か 「正当な批判」との違いと、それがもたらすもの

選手への誹謗中傷とは何か 「正当な批判」との違いと、それがもたらすもの

人間、聖人でもなければ愚痴の1つもこぼすことがあると思います。でもその愚痴は家族だったり、親しい友人にクローズドな場所で吐き出すなら問題ありません。それくらいは程度はあれど、普通は許されるものです。

結論から言うと、SNSに書くことは、渋谷や栄の街中で、拡声器を使ってその人への非難に見える愚痴を叫んでいるのと同じことだ、ということです。そんな人見かけたら、やべーヤツだな、って思いますよね?そうなってるということです。

DMで送るなら、本人の目の前で、拡声器を使って本人に非難を伝えるのと同じです。

よりヤベーヤツじゃないですかね。

そしてそんなことしたらどうなるのかっていうことをまとめたいと思います。

また、以下マンガの31話くらいからを読むと、かなりリアルなエピソードが感じられます


2026年6月4日、名古屋グランパスが「試合後にSNS上で所属選手へ向けられた、安心・安全を脅かす悪質なDMや投稿が確認された」として、弁護士など外部専門家と連携のうえ発信者情報の開示請求・損害賠償請求・刑事告訴を含む法的措置の検討に入った、という主旨の声明を出しました。

こうした声明は、もはや珍しいものではなくなりました。プロ野球選手会も2023年に対策チームを立ち上げ、複数の発信者情報開示請求が認められて示談・損害賠償に至ったことを公表しています。

グラぽは以前、批評・批判・非難の線引きについてのガイドラインを書きました。今回はそこから一歩進めて、「誹謗中傷」とは法的に何を指すのか/「正当な批判」とどこで分かれるのか/もし誹謗中傷と判断された場合に何が起こりうるのかを、訴訟の事例も含めて整理しておきます。

グラぽとしてのスタンスは以下の記事でまとめています。

今回はグラぽと関係なく、クラブやサポーターの個別の話ではなく、サッカーを見る私たち全員に関わる一般論として読んでいただければと思います。

※本記事は一般的な情報をまとめたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応を検討する際は弁護士にご相談ください。

そもそも「誹謗中傷」は法的に何にあたるのか

「誹謗中傷」という言葉自体は法律用語ではありません。実際に問題になるとき、その中身は主に次のいずれか(または複数)に整理されます。

名誉毀損

具体的な事実を公然と示して、人の社会的評価を下げる行為です(刑法230条)。事実が本当か嘘かは問わず、社会的評価を下げれば成立しうる点が重要です。

選手に当てはめると、こんなものが典型です。

  • 「あの選手は裏で八百長をしている」
  • 「金で動いて手を抜いた」
  • 「素行が悪く、私生活はこうだ(根拠のない断定)」

それぞれ「具体的な事実の指摘」の形をとっており、根拠なく広めれば名誉毀損になりえます。

侮辱

具体的な事実を示さずに、公然と人を侮辱する行為です(刑法231条)。「事実を示しているかどうか」が名誉毀損との分かれ目で、示していなければ侮辱にあたります。

  • 「無能」「下手くそ」「消えろ」「いらない」「顔が不快」
  • 容姿や人格そのものへの罵倒

中身のない悪口・人格否定がここに入ります。後で触れますが、この侮辱罪は2022年に厳罰化されました。

脅迫・業務妨害・プライバシー侵害など

つまり「誹謗中傷」とひとくくりにされるものは、実際には複数の異なる権利侵害・犯罪の束です。重いものほど刑事事件に直結します。

「正当な批判」と「誹謗中傷」はどこで分かれるのか

ここがいちばん大事なところです。「批判してはいけない」という話ではまったくありません。プレーや戦術、起用への批評はむしろ歓迎されるべきものです。

法律も同じ考え方をしています。社会的評価を下げる内容であっても、次の条件を満たす意見・論評は「違法ではない」と扱われます(最高裁 平成9年9月9日判決などが示した枠組み)。

  • 公共性:公共の利害に関わる事柄であること。プロ選手のプレーや起用は、興行として公に開かれているので、ここは比較的認められやすい領域です。
  • 公益目的:もっぱら公益を図る目的であること(私怨で叩くためではない)。
  • 真実性/真実相当性:前提にしている事実が、重要な部分で真実である(または真実だと信じる相当な理由がある)こと。
  • 論評の域を逸脱しないこと:人身攻撃(個人攻撃)に及んでいないこと。

逆に言えば、この4つのうち1つでも外れると、批評は誹謗中傷のになってしまいます

実務上、プロ選手のケースで線引きが難しくなりやすいのも事実です。チームが負けていたり成績が振るわなかったりするときの「プレーそのものへの評価・感想」は、ある程度受け入れるべきものと捉えられる傾向があります。一方で、プレー評価を離れて選手個人の人格攻撃に向かった瞬間、話はまったく変わります

これは、グラぽが前のガイドラインで書いた「矢印をヒトではなくコト(現象)に向ける」という発想とそのまま重なります。

  • 「この局面はWBの立ち位置が内に寄りすぎて背中を使われた」→ 現象への批評=正当な批判
  • 「あいつは無能、消えろ」→ 人格への攻撃=侮辱・誹謗中傷

法律の言葉に翻訳しても、結論は同じです。仕組みを語ると議論が始まり、人を責めると事件になる。 前者は守られ、後者は守られません。

投稿前の3つの問い(法的な観点版)

  • 事実の指摘なら、その根拠を自分は示せるか?(示せないなら名誉毀損のリスク)
  • プレー・判断・現象に向いているか、人格・容姿・存在に向いているか?(後者なら侮辱のリスク)
  • 危害をほのめかしていないか?(脅迫は最も重い)

誹謗中傷と判断されると、何が起こりうるのか

「匿名だからバレない」は、もう通用しません。ここ数年で、特定する仕組みも、罰則も、削除の枠組みも、すべて被害者側に有利な方向で整備されました。

1. 投稿者が特定される(発信者情報開示命令)

2022年10月施行の改正で、発信者情報開示命令という新しい裁判手続が始まりました。従来は「サイト運営者への開示請求 → プロバイダへの開示請求」と何段階も別々に裁判を起こす必要がありましたが、新制度では一つの手続でまとめて進められるようになり、匿名投稿者の特定が現実的に早くなりました。

実際、プロ野球の関根大気選手(横浜DeNA)が2024年にX社(旧Twitter)への開示命令を申し立て、8件すべてが認められたことを自ら公表しています。

特定には弁護士費用と時間がかかります(投稿1件あたりおおむね20〜25万円から、特定まで数か月という相場が紹介されています)。これは「お金がかかるから泣き寝入りする」という話ではなく、かかった費用が、最終的に投稿者への損害として上乗せ請求されうるという意味でもあります。

2. 民事:損害賠償・慰謝料を請求される

特定された後は、慰謝料を含む損害賠償請求に進みます。裁判上の相場の目安は次のとおりです。

  • 名誉毀損:個人で10〜50万円程度。内容によっては100〜200万円程度まで。
  • 侮辱:数万〜数十万円程度。
  • プライバシー侵害:10〜50万円程度。

ここに、前述の開示請求にかかった調査費用・弁護士費用が加算されることがあり、また選手のように社会的評価が活動に直結する立場では、額が高くなる傾向があります。「悪口ひとつ数万円」と侮るには、トータルのコストは小さくありません。

なお、リツイート(リポスト)など拡散行為だけでも責任を負いうるとした裁判例があります。「自分で書いたわけではない」は免罪符になりません。

3. 刑事:前科がつく可能性

名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪(被害者の告訴が必要)ですが、クラブや選手会が組織的に対応する流れが強まっており、「告訴されないだろう」という前提は崩れています。

4. 削除そのものも速くなった

2024年5月公布・2025年4月施行の「情報流通プラットフォーム対処法」(旧プロバイダ責任制限法の改正)により、大規模なSNS事業者には、削除申出への迅速な対応や削除基準の公表が義務づけられました。投稿の削除も、以前より進みやすくなっています。

スポーツ界で実際に起きていること

そして、この一連の厳罰化・制度整備の大きなきっかけになったのが、2020年にSNSの中傷を受けて亡くなった女子プロレスラーの事案でした。**「言葉で人は死ぬ」**という現実が、社会と法律を動かしました。

ファンとして、私たちにできること

誹謗中傷をなくす一番確実な方法は、罰則を恐れることではなく、「批評の言葉」を増やすことだと思います。

選手が安心してプレーできる環境を守ることと、私たちが思い切り批評を楽しむことは、まったく矛盾しません。むしろ、人を傷つけない批評の文化があるクラブほど、長く強く応援され続けます。

好きだから、もっと良くなってほしいから、言葉を選ぶ。 それが、私たちにできる一番のサポートだと思います。


主な参照

  • 刑法230条(名誉毀損罪)・230条の2(違法性阻却)・231条(侮辱罪)
  • 最高裁 平成9年9月9日判決(意見・論評型名誉毀損の判断枠組み)
  • 2022年7月施行 改正刑法(侮辱罪の厳罰化)
  • 2022年10月施行 改正プロバイダ責任制限法(発信者情報開示命令の新設)
  • 2025年4月施行 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法の改正・名称変更)
  • 日本プロ野球選手会の各公表(2024年3月・5月)、関根大気選手の公表(2024年)
  • 総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応」

About The Author

グラぽ編集長
大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

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