グラぽ

名古屋グランパスについて語り合うページ

メニュー

オフシーズンのためにサッカーのサポーターが知っておきたい 移籍と契約 のこと 2026-27シーズン版 #Jリーグ #grampus

毎年公開している「移籍に関してサポーターが知っておきたいこと」まとめを、アップデートして補足しました。

特に7月からキャンプインのチームが多いので、おそらく今日から1週間くらいが移籍の追い込みの時期です。国内移籍の80%は今月中に決まるでしょう。

今年はシーズン移行のため、変更点が盛りだくさんですので、是非ご確認いただければ幸いです。

第1部 いまの移籍・契約の仕組み

はじめに

契約更新は2026年6月24日現在、一部の選手のみ公開されており、半分くらいの選手は去就が不透明な状況が続いています。全員の残留が保証されているわけではなく、退団の可能性もゼロではありません。

他チームの景気の良い移籍ニュースが聞こえてきますが、名古屋グランパスにいい話はあまり見られません・・・。

こうした状況で悲しいニュースに直面した際、背景知識や情報が不足していると、以下のような状態に陥るリスクがあります。

  • 「知識がないと、なぜそんなことになったのかがわからない」
  • 「情報がないと、不安にしかならない」

主力の移籍に怒る人
主力の移籍に怒る人

心の準備をするためにも、移籍の裏側にある事情を押さえておきましょう。

2026夏オフのグランパスの変化

2026年夏オフのグランパスは、かなり静かな動きを見せています。

新加入で発表されているのは、期限付き移籍中だった高嶺朋樹選手が完全移籍しただけ。

2026年6月25日13時現在のIN/OUT
2026年6月25日13時現在のIN/OUT

35名いた総選手から新たに森・三國が追加で期限付き移籍となりましたが、全体としては動きの少ないオフとなっています。

2026夏オフの移籍の傾向

2026-2027シーズン以降の移籍タイムライン予想
2026-2027シーズン以降の移籍タイムライン予想

1. 世界基準に準拠のために6ヶ月前から移籍交渉解禁になった

  • 新しい移籍ルールに沿って、6ヶ月前から移籍交渉が解禁になりました。現所属チームに通知するだけで、現所属チームと同じタイミングでオファーをすることができるようになりました。(詳細は後述します)
  • 結果、守るべき選手を認識しているチームは重要な選手のプロテクトをかけています。6月中に発表されている契約更新は間違いなく、プロテクトのためにシーズン中(場合によってはシーズン前)から契約延長の打診をしていたものと思われます。

2. 欧州とシーズンが合致したわりには海外流出は増えていない

  • 目立った移籍は清水エスパルスの宇野禅斗と、水戸ホーリーホックの安藤晃希くらい
  • ワールドカップ期間中ということもあるが、例年に比べると少なくなりそう

発表日

選手

所属元

移籍先

種別・補足

5/23

川井 大地

奈良クラブ

C.F. CAN VIDALET

スペイン

2026/27シーズンから移籍加入。海外移籍前提で離脱していた選手の移籍先決定。(奈良クラブ公式Webサイト)

5/28

秋山 裕紀

アルビレックス新潟

SVダルムシュタット98

ドイツ

期限付き移籍中だった同クラブへ完全移籍。(〖公式〗Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp))

5/29

東川 続

栃木シティ

BG Tampines Rovers FC

シンガポール

期限付き移籍中だった同クラブへ完全移籍。(栃木市)

6/5

相澤ピーターコアミ

栃木シティ

Schwarz-Weiß Bregenz

オーストリア

オーストリア2部へ完全移籍。(栃木シティ)

6/7

山﨑 絢心

藤枝MYFC

タンピネス・ローバーズFC

シンガポール

期限付き移籍。期間は2026年7月1日〜2027年6月30日。(藤枝MYFC)

6/18

宇野 禅斗

清水エスパルス

ボルシア・メンヒェングラートバッハ

ドイツ

ブンデスリーガクラブへ完全移籍。(清水エスパルス)

6/23

安藤 晃希

水戸ホーリーホック

ロイヤル・アントワープFC

ベルギー

完全移籍。2026特別シーズンはJ1百年構想リーグ8試合2得点。(水戸ホーリーホック)

6/24

倍井 謙

名古屋グランパス

KVコルトレイク

ベルギー

期限付き移籍。Jリーグ公式移籍情報にも名古屋のOUTとして掲載。(名古屋グランパス公式サイト)

6/24

鷲見 星河

ファジアーノ岡山

タンピネス・ローバーズFC

シンガポール

期限付き移籍中だった同クラブへ完全移籍。(〖公式〗Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp))

3. 【引き続き】税制解釈の変更による「外国籍選手獲得のハードル上昇」

  • 税制解釈の変更により、契約が1年以上などの条件で「居住者(非永住者)」と判定されると、原則としてチームから支払われる年俸(日本国内で稼いだお金)に対して、日本人と同水準の累進課税が適用されると言われています。
  • 手取り額を重視する選手側への補填として、クラブ側が負担する額面金額が大幅に跳ね上がるため、新規の外国籍選手獲得が難しくなっていると言われています。

移籍ニュースのまとめはJリーグ公式サイト 【公式】明治安田生命Jリーグ移籍情報まとめページ が網羅されていて良きです。ただし、25-26の移籍と交じっているので注意です。

誤解しやすいプロ野球(NPB)とサッカーの移籍の仕組みの違い

「なんで○○を移籍させちゃうんだよ」

「チームは○○を要らないってこと?」

急な移籍が決まると、「チームが選手を追い出した(不要扱いした)のではないか?」という声が飛び交うことがあります。

実はこの感覚、昔から馴染みのある「プロ野球(NPB)の制度」が影響しているのかもしれません。

プロ野球はチームが選手を保留(保有)でき、サッカーはチームと選手は対等の関係

競技

関係性

移籍の決定権

プロ野球

保留(保有)制度

球団(チーム)にある

球団が選手を保有しているため、トレード等は球団の意思で行える。

サッカー

対等な契約関係

選手と合意が必要

チームの一存で選手を他クラブへ売ることはできない。

サッカーでは、契約期間中にチームが一方的に「君はもう不要だ(イラネ!)」として他チームへ強制的に移籍させることは、制度上ほぼ不可能です。

チームが選手を戦力外とする(契約を切る)ことができるのは、原則として「契約期間が満了するタイミング(0円)」だけです。毎年度末の「契約満了発表」がこれに当たります。

年度末に移籍をするパターンは複数あります。

1. チーム主導の別れ(戦力外)

チームが「来季の契約は結ばない」と判断した場合、選手には「契約更新の意思なし」という通知が渡されます。いわゆる「戦力外通告」です。

以下のようなケースで発生します。

  • 成績が落ちてきて、年俸と見合わなくなってきたベテラン
  • 思ったように成長を見せられていない若手

【事例】キャスパー・ユンカー選手の満了(2025-26冬)

キャスパー・ユンカー選手の年俸は1億円超、少なくともかなりの高額と想像されました。

  • 当時の状況: 16試合590分、大事な試合でレッドカード退場などがあり、首脳陣の信頼を失う。
  • チームの判断: 山岸祐也や木村勇大がいるなかで「出場機会を得るのは難しい」と考えた。控えに高額年俸は払えない。

2. 交渉の末の別れ(決裂)

一方、チームが契約更新を打診した場合でも、そこからシビアな交渉が始まります。 提示された「新年俸」や「契約条件」を、代理人(フットボールエージェント)が精査するため、タフな話し合いになることも少なくありません。

ここで最も重要な判断材料となるのが「来季構想」です。

  • 選手側の心理: 条件面での不満はもちろんですが、「来季の構想において、自分は本当に必要とされているのか?」「試合に出られるのか?」という点が、残留か移籍かの分かれ道になります。

【事例】加藤玄選手の期限付き移籍(2025-26冬)

将来の日本代表選出と、海外移籍を目標にしていると公言しているため出場機会が欲しい加藤玄選手にとって、森島・稲垣に加え高嶺まで加入し、ベンチ入りすら難しくなった

サッカーの移籍が発生する「2つの条件」

では、契約期間中の移籍はどうやって決まるのでしょうか? 基本的に以下の2つが揃った時のみ発生します。

  1. 選手の意思:「もっと試合に出たい」「新しい環境で挑戦したい」
  2. オファー:「獲得したい」という他クラブからの申し入れ

選手が移籍希望を出したのにオファーがない場合は、クラブや代理人(フットボールエージェント)がオファーを探すこともあります。

契約状況による移籍パターンの違い

他クラブからオファーがあり、選手本人も移籍を希望した場合、その時点の契約状況によって結末が変わります。

  • A. 契約の切れ目の場合
    • スムーズに移籍が成立します(いわゆる0円移籍)。
  • B. 契約期間中の場合
    • バイアウト条項(選手やクラブが契約を途中で解除したいときに、決められた金額を支払えば契約を終わらせられる仕組み)が契約に設定されている場合、獲得する側は契約で定められた「契約解除金(移籍補償金)」を払う必要があります。
    • 満額払える場合: 移籍成立(例:2021-22年の児玉駿斗選手)
    • 払えない場合:
      • 移籍破談・残留(例:2016-17年の田口泰士選手)
      • レンタル移籍へ切り替え(例:2021-22年の米本拓司選手)
    • 契約にバイアウト条項が設定されていない場合は、理論上青天井で契約解除金を請求することができる

まとめるとこうなります。

JリーグとNPBの選手の扱いの違い
JリーグとNPBの選手の扱いの違い

ごく稀なケース(例外)として、以下のような流れでチーム主導の移籍が動くこともあります。

  • チームの方針転換などが起きる
  • 高年俸の選手などが構想に合わなくなる
  • 「残っても出場機会が減る」と選手に伝える
  • 合意の上で、移籍先を募る

とはいえ、これは頻繁に起こることではありません。主にネームバリューの大きな選手を抱えられなくなった場合に発生します。

契約のしくみ

規約などは基本的に以下の2箇所にまとめられています。

Jリーグの規約は前者にまとめられていますが、移籍や選手契約については後者にまとめられています。

プロサッカー選手の契約

プロサッカー選手の契約は、JFAなどは、こちらに従う必要があります。

Jリーグでプレーするサッカーの選手は「日本サッカー協会選手契約書」を結ぶ必要があります。

この契約書は2026年度より、新たな契約書に切り替わりました。

最も大きな変更点は、「複数年契約に対応した報酬欄の改定」「契約更新手続きに関する条項の削除」、および「電子契約・電子署名への対応」です。

1. 報酬の記載形式(単年か複数年か)

報酬(基本報酬)の記載方法が、単年ごとの記載から、複数シーズンを一覧できる形式に変更されました。

  • 旧契約書(第4条):
    「総額」および「月額」を文章形式で記入するスタイルで、基本的に単年または更新ごとの記載を想定した形式でした。
  • 新契約書(第5条):「1シーズン目」から「6シーズン目」までの記入欄がある「表形式」に変更されました。
  • これにより、長期契約を結ぶ際の各年度の報酬額を契約当初から明記できるようになっています。
サッカー選手の契約書の複数年対応の変更箇所
サッカー選手の契約書の複数年対応の変更箇所

2. 契約更新手続きに関する条項の削除

旧契約書にあった「契約更新の通知期限」や「移籍リストへの登録」に関する具体的な条項が、新契約書の本文からは削除されています。

  • 旧契約書(第12条 第2項・第3項):クラブは協会の定める期限までに更新通知を行わなければならない。
  • 通知を怠った場合、クラブに契約意思がないとみなされ、選手は「移籍リストへの登録」を請求できるという権利が明記されていました。
    新契約書:第4条で「有効期間」の日付を指定するのみとなっています。
  • ※この変更により、契約満了時の取り扱いについては、個別の合意に委ねられる形になった可能性があります。

3. 有効期間の条文位置の変更

契約期間を定める条文の位置が変更され、より冒頭に近い位置に配置されました。

  • 旧契約書: 第12条「有効期間および更新手続き」として、契約書の後半に配置されていました。
  • 新契約書: 第4条「有効期間」として、義務・禁止事項の直後、報酬の直前に移動しました。

4. 署名欄および形式(電子契約・エージェント情報)

契約締結の証拠(署名・保管)に関する規定が現代化され、エージェント情報の詳細化が行われました。

  • 電子契約への対応:
    旧契約書: 「正本2通を作成し…それぞれ1通ずつを保管」と紙媒体を前提としていました。
  • 新契約書: 「本書の電磁的記録を作成のうえ電子署名を施し、各自保管する」という文言が追加され、電子契約が可能であることが明記されました。
  • フットボールエージェント情報:新契約書: クラブ側・選手側双方のエージェント署名欄に、新たに 「FIFA フットボールエージェント No.」 を記入する欄が追加されました。

契約期間の考え方

1. 基本的な契約期間のルール

JFA(日本サッカー協会)の規則により、選手の標準的な契約期間は以下のように定められています。

  • 期間: 7月1日 ~ 翌年6月30日(ソースが見つからないため、変化があるかもしれません)
  • 最長: 5年

2. 「本当の条件」は別の場所に

表向きの「日本サッカー協会選手契約書」に書ける内容はごくわずかです。 年俸や条件面の詳しい中身は、通常「付帯契約(個別契約)」という別の書類で細かく設定されます。標準フォーマットはないため、代理人(フットボールエージェント)ごとに書式が異なるようです。

【付帯契約に含まれる主な内容】

  • インセンティブ: 出場数や成績に応じたボーナス
  • 移籍補償金(契約解除金): 移籍する際に発生する金額の設定
  • 特別条項: 最低試合出場数の保証や、レギュラー確約など(稀なケース)
移籍補償金(契約解除金)の規程
移籍補償金(契約解除金)の規程

3. なぜ複数年契約でも「契約更新」が出るの?

ここで疑問が浮かびます。 「複数年契約を結んでいるはずの選手も、毎年『契約更新』のお知らせが出るのはなぜ?」

理由は2つ想像できます。

1つ目は、日本のプロスポーツの先駆けであるプロ野球(NPB)の慣習の影響です。 プロ野球の統一契約書が「1年単位」を基本としているため、「複数年契約であっても毎年契約更改(見直し)を行う」というスタイルが定着しました。メディアもサポーターもそれに馴れているため、

Jリーグでは、毎年の発表は「いまのところ移籍しないよ!」という発表になっていると思われます。

まだ実運用が始まっていないのでわかりませんが、日本サッカー協会選手契約書新フォーマットは複数年を前提にしているため、この習慣が変わる可能性もあります。

2つ目は付帯契約の見直しです。こちらが本命かもしれません。

能田達規先生のサッカー漫画『となりの代理人』第2話に、海外移籍が決まった若手選手のために代理人が「今日は契約書作りで徹夜だ!」と意気込むシーンがあります。

実はここで彼らが必死に作っているのが、先ほど説明した「付帯契約」なのです。たとえ複数年契約の最中であっても、毎年の交渉のメインはこの「付帯契約(条件面)」の見直しになります。

移籍に関する規則の改定

まず、2つの文書の役割を整理します。

  • br20_20241121.pdf(過渡期ルール)
  • 名称: プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則(2025年2月1日施行版)
  • 特徴: 従来の「プロA・B・C契約」制度が維持されているバージョンです。
  • 役割: 2025年シーズンまでのルール運用に使用されます。
  • br20_20260312.pdf(新ルール・抜本改正)
    名称: プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則(2026年3月12日版)
  • 特徴: 「プロA・B・C契約」の撤廃シーズン移行(秋春制)への対応報酬規定の全面改訂が含まれる、将来のルールブックです。

最大の変更点:契約区分の廃止(2026年〜)

最も大きな変更は、br20_20241121(旧)にあった契約区分が、br20_20260312(新)で廃止される点です。

項目

旧(2024/11/21版)

新(2026/03/12版)

契約区分

プロA、プロB、プロCの3区分が存在。

出場時間の実績により区分が変動。

区分なし(単一の「プロ契約」)

A/B/Cという概念自体が消滅。

新人・若手

実績のない新人は原則「C契約」からスタート(年俸上限460万円)。

出場時間を満たすとA契約へ移行可能。

初年度年俸上限 1,200万円

従来のC契約のような厳しい低額キャップが緩和され、実力ある新人を評価可能に。

人数制限

プロA契約枠は原則1チーム25名(または27名)以内という制限あり 。

人数の上限撤廃

代わりに、J1クラブは「プロ選手を20名以上」保有する下限義務が発生(2026/7/1〜) 。

報酬(基本報酬)のルール変更

契約区分の廃止に伴い、報酬の最低額・最高額の考え方が「契約タイプ別」から「所属リーグ別」等にシフトしました。

項目

旧(2024/11/21版)

新(2026/03/12版)

最低年俸

プロA契約のみ:年額460万円以上。

プロB・Cには下限規定なし。

リーグごとの下限設定

J1: 480万円

J2: 360万円

J3: 240万円

※18歳以下の選手等は対象外。

最高年俸

プロB・C契約:年額460万円以下

プロA契約(初年度):670万円以下

それ以外は上限なし。

原則上限なし

ただし、プロ初年度の選手に限り、年額1,200万円以下

シーズン移行(秋春制)への対応

新(2026/03/12)版では、Jリーグのシーズン移行(2026年から)に合わせた規定が盛り込まれています。

  • 登録年度(シーズン)の定義:
    旧: 2月1日〜翌年1月31日。
  • 新: 7月1日〜翌年6月30日
  • 登録ウインドー(移籍期間):
    新: 7月〜9月(夏のウインドー)がシーズンの「初回」登録期間となり、1月〜3月(冬)が「第2回」となります

支度金(引越し等の手当)の簡素化

選手が移籍や新加入する際に支払われる「支度金」の規定が大幅に簡素化されました。

  • 旧(2024/11/21版):
    家族構成(独身、既婚、子供あり)や費目(家具、家電、車など)ごとに細かく金額が設定された表(最大500万円)に基づいて支給
  • 新(2026/03/12版):
    費目ごとの上限表を撤廃。
  • 一律上限 500万円(税別) の範囲内で、住居費・家具等を支払うことができるというシンプルな規定に変更

トレーニング補償金(プロからプロ)

移籍時に旧所属クラブへ支払われる「トレーニング補償金」の算出額について、新ルールでは「契約ランク(A/B/C)」の概念がなくなるため、算出ロジックが変更されています。

  • 旧: 元の契約がAかBかCか、また提示された更新条件によって支払い義務や金額が変動
  • 新: 契約ランクによる分岐を削除。原則として「J1: 800万/年」「J2: 400万/年」「J3/JFL: 100万/年」×在籍年数 というシンプルな計算式に統一

削除された条項(旧規則との比較)

参考までに、旧規則(br20_20241121.pdf)には以下の期限が明記されていましたが、新規則ではこれらの記述が見当たりません。

  • 更新通知の期限: 「リーグ戦終了日の翌日から5日後」または「契約満了の30日前」までに通知する義務。
  • 交渉の期限: 「12月31日」または「契約満了日」までに交渉を終える規定。

したがって、新規則では契約更新の通知や交渉の期限に関する一律のルールはなくなり、個別の契約満了日や、FIFA規則に準拠した「満了6ヶ月前からの自由交渉」がベースになっていると考えられます。

契約のスケジュール

通常の契約更新・移籍の流れは、以下のようになることが予想されます。(※当たり前ですが個別の案件で時期のズレは発生します。)

契約終了6ヶ月前から他クラブは接触がカジュアルにできるようになってきたため、移籍のタイムラインはかなり前倒しになりつつあります。

2026-2027シーズン以降の移籍タイムライン予想
2026-2027シーズン以降の移籍タイムライン予想(再掲)

新ルールの影響

新ルールの影響で、契約終了半年前から移籍の交渉を開始することが可能になったため、契約更新の交渉・移籍の交渉がかなり前倒しにされていることが予想されます。

今年6月に入って比較的早い時期に契約更新が発表されているのはそういう理由でしょう。

チームとして厳しいのは、移籍の交渉と残留交渉を同時並行で行わなければならないところです。

2025-26オフまでは現所属チームの優先交渉期間が設定されていたため、現所属選手との契約更新交渉のあとに穴を埋める補強に動くという流れでしたが、すべてが並行で動くようになり、強化部の采配が難しい時代になりました。

代理人(フットボールエージェント)とは

法律や契約に詳しくない選手が、独力で契約交渉を適切に行うことは困難です。そこで選手の強い味方となるのが「代理人(正式名称:フットボールエージェント)」です。

2015年に導入された「仲介人制度」によって規制が緩和されましたが、その結果、国ごとに監督基準がバラバラになり、手数料の高騰や利益相反といった問題が深刻化しました。

実際、2025年12月発表の「FIFAフットボールエージェントレポート2025」によると、男子プロサッカーにおける代理人手数料の総額は、約13億7000万米ドル(約2156億円)に達しており、その額は年々増加の一途をたどっています。

本来、フットボールの発展や選手の育成に使われるべき資金が、手数料として外部流出してしまう状況は健全ではありません。 こうした背景から、FIFAによる国際的な統一規制「FFAR(FIFA Football Agent Regulations)」の導入が決定され、2023年10月1日より代理人制度が大幅に改定されました。

主な改定ポイントは以下の通りです。

フットボールエージェントは、JFAの定義する契約書に従って契約を行うことになります。ただこれも最低限のことだけを決めているものなので、チームとの契約同様、付帯契約があるかもしれません。

このフットボールエージェントは「サービスの内容」に記載された業務を行うことになります。

フットボールエージェント契約書フォーマット
フットボールエージェント契約書フォーマット

フットボールエージェントの報酬は、選手の報酬xこの契約書に記載された%になります。ただ、この額は昔から3%上限とされていましたが、守っていないケースが多数あります。

フットボールエージェント手数料の定義
フットボールエージェント手数料の定義
フットボールエージェント手数料の上限
フットボールエージェント手数料の上限

余談ですが、ここのサービス内容に書かれたものが業務対象となり、クラブとの契約交渉以外に税金対策や肖像権の管理など財政面のサポートやコンディション管理、移籍先の新居探しなどパーソナルな部分まで担当することもあるそうです。その場合の代理人の仕事ぶりは以下の記事をご覧ください

移籍におけるフットボールエージェントの立ち位置

上記では選手の代理人の話を書きましたが、実はフットボールエージェントはチームに付くこともあります。そのため、フットボールエージェントが以下の図のように存在することもあり得ます。

各ステークホルダーとフットボールエージェント
各ステークホルダーとフットボールエージェント

この図の場合はフットボールエージェント同士のやりとりによって移籍の交渉が行われます。さらに、外国籍選手の移籍の場合は現地のフットボールエージェントが絡んでくることもあり、そうなるとフットボールエージェントが最大4人登場することになります。こういった取引は奇々怪々です。

注意しなければならないこと

FIFAフットボールエージェント規則(FFAR)には「複数代理(デュアル・リプレゼンテーション)の禁止」という規程があります。

一言で言うと、「1回の移籍交渉において、エージェントは『1人のクライアント』の味方しかしてはいけない」というのが基本ルールです。

これまでは1人のエージェントが「選手」「売るクラブ」「買うクラブ」の3者すべてから手数料をもらうようなケースもありましたが、これが厳しく制限されました。

1. 基本ルール:原則「一人一役」

利益相反(あちらもこちらも立てて、誰の味方かわからなくなる状態)を防ぐため、エージェントは以下のいずれか1つの立場しか取れません。

  • 選手の代理人 として交渉する
  • 獲得するクラブ(買う側)の代理人 として交渉する
  • 放出するクラブ(売る側)の代理人 として交渉する

2. 「OK」な組み合わせと「NG」な組み合わせ

このルールにはたった1つだけ例外があります。それが「選手」と「獲得するクラブ」のペアです。

組み合わせ

OK / NG

理由

選手獲得クラブ

OK

(唯一の例外)

選手は「良い条件で入団したい」、獲得クラブは「その選手が欲しい」という点で利害が一致しやすいため、事前の書面同意があれば認められます。

選手放出クラブ

NG

放出クラブは「高く売りたい」、選手は「給料を高くしたい」と利害が対立しがちです。エージェントが無理に移籍を成立させるのを防ぐため禁止です。

獲得クラブ放出クラブ

NG

「安く買いたい」と「高く売りたい」の両方を担当するのは不可能です。談合や手数料の二重取りを防ぐため禁止です。

3者すべて

NG

もちろん禁止です。

3. 例外(選手&獲得クラブ)を認めるときの条件

唯一認められている「選手」と「獲得クラブ」の双方代理を行う場合でも、厳しい条件があります。

  • 事前の書面同意: 代理活動を始める前に、選手とクラブの両方が「同じエージェントを使います」と書面で同意する必要があります。
  • 手数料の上限: 双方から受け取れる手数料の合計には上限(キャップ)が設けられています。
  • 例:選手の年俸が20万ドル以下の場合、双方合わせて最大10%(選手5%+クラブ5%)まで。

この規制は、「エージェントが、自分の手数料稼ぎのために無理な移籍を成立させること」を防ぎ、選手を守るための仕組みです。

  • 「売る側のクラブ」に関わるなら、他の誰の代理もしてはいけない。
  • 「買う側のクラブ」と「選手」だけは、仲良く契約するなら一緒に担当してもいい。

と覚えるとわかりやすいでしょう。

チーム側の担当者:強化・編成部のお仕事とは

チームの強化を担当するのが強化・編成部(名古屋グランパスでは強化部)です。契約交渉の窓口はだいたいここの方です。GMや社長という存在は、強化部のお仕事に承認をするだけになります。ですから強化部のメンバーの良し悪しはチームの成績を左右することが多くなります。

有名な強化担当は1992年から2021年まで鹿島アントラーズの強化を取り仕切っていた鈴木満さんが有名です。

強化については以下に今年まとめてますのでよろしければお読み下さい!

チーム・代理人・選手の「三すくみ」。移籍と契約のメカニズム

1. チームが考えていること:すべては「勝つため」

チームが選手を集める最大の目的は、勝利することです。そのために以下のような戦略で契約を考えます。

  • 良い選手: 長期間安定して保有したいため、「長期契約」を結びたい。
  • 未知数の選手(高齢など): リスク管理のため、できるだけ「短期契約」にしたい。
  • 選手層の確保: 過密日程のJリーグを戦い抜くため、同ポジションに複数の選手を確保したい。
  • 戦術的な駒: レギュラーでなくとも、特定の戦術で輝く「オプション」としての選手も必要。

2. 代理人が考えていること:選手の価値と収入の最大化

代理人(フットボールエージェント)の使命は、担当選手の価値を最大化することです。彼らの収入源は、選手の年俸や移籍金の一部(手数料)です。

  • 収入の仕組み: 建前上年俸の最大3%、または移籍時の「移籍補償金(契約解除金)」の最大10%程度。

ここで「なぜ今?」と疑問に思うような移籍が発生する理由が見えてきます。 新しい規則により、選手の報酬に伴う手数料は「最大3%」に制限されました(年俸2500万円以上の選手の場合)。例えば年俸5000万円でも手数料は150万円止まりです。 そこで、代理人が収入を増やすには以下の2つの道しかありません。

  • 年俸を大幅に上げる(5000万→8000万になれば手数料も増える。150万から240万)
  • 移籍を成立させる(契約期間中の移籍で発生する高額な補償金の最大10%を得る)

特に手っ取り早いのが、「契約満了で0円移籍させ、浮いた移籍金分を選手の年俸(サインボーナス)に上乗せしてもらう」という手法です。そのため、積極的に移籍を推奨するエージェンシーも存在します。

ただし、無闇に移籍させて選手の価値(市場評価)が上がらなければ、選手から「この代理人ではダメだ」と解任されるリスクもあります。選手も代理人を厳しい目で見ているため、移籍はあくまで「選手の価値を上げられる」と確信した時の切り札なのです。

【参考】グランパス所属選手とエージェントの一覧表

エージェント

主な契約選手

R4SE

なし

スポーツソリューションインターナショナル(稲川朝弘)

マテウスカストロ・マルクスヴィニシウス

JSP

武田洋平・佐藤瑶大・榊原杏太

eAMA

永井謙佑

JEBエンターテイメント(田邊伸明)

野上結貴・三國ケネディエブス・森島司・浅野雄也・久保遥夢

アスリートプラス

山中亮輔

スポーツコンサルティングジャパン(佃ロベルト)

なし

UDN SPORTS

甲田英將・木村勇大

イマージェント

なし

Jプランニング

稲垣祥・行徳瑛・ピサノ

ユニバーサルスポーツジャパン

山岸祐也・ミシャ

フットステージ’(久米宏典・宮本行宏・吉崎博文・飯田正吾)※Webなし

和泉竜司・小野雅史

ODOROKI(石田博行)

なし

ヨコジスポーツマネジメント※Webなし

河面旺成

Mundo Rico(小島卓)※Webなし

なし

ジェイピーコンサルティング(坂井充隆)※Webなし

なし

CAA Base

内田宅哉・シュミットダニエル

グロボルフットビズコンサルティング

なし

シンプレ

貴田遼河

PLAYERSFIRST

なし

HEROE

原輝綺・加藤玄

Shuma

徳元悠平

3. 選手が考えていること:十人十色の「欲求」

選手がチームに何を求めるかは人それぞれです。主に以下の9つの要素から、複数を組み合わせて判断しています。

  • 自分のやりたいプレーができるか
  • 出場機会が多いか
  • 特定の選手(友人・尊敬する人)と一緒にプレーしたい
  • スキルアップできる環境か
  • 自分が中心となって責任ある立場で戦いたい
  • 昔から好きなチームである
  • 将来のキャリア(代表・海外)に繋がるか
  • タイトルが取れるか
  • より多くのお金が貰えるか

自分の仕事に置き換えてみれば、どれも納得のいく理由ではないでしょうか。

マッチング成功と「長期契約」の功罪

チームの「こういうプレーをしてほしい」と、選手の「こういうプレーがしたい」が合致し、条件面でも折り合えば、晴れて加入(マッチング成功)となります。

マッチング成功!
マッチング成功!

もちろんしたいことだけじゃなくて諸々お金などの条件も満たさなければマッチング成功とはなりません。

長期契約のメリット・デメリット

チームとしてスタイルが固まっている場合、良い選手とは「長期契約」を結ぶメリットがあります。毎年選手を探す手間が省け、戦力が安定するからです。しかし、長期契約には選手にとってメリットとデメリットの両面があります。

  • メリット: 長期間、雇用と給与が保証される(安定)。
  • デメリット: 活躍しても契約期間中は給料が上がりにくい。また、高額な契約解除金が設定されるため、他クラブからのオファーがあっても移籍しづらくなる。

最近では木村勇大選手や高嶺朋樹選手がグランパスに完全移籍した際、2億円超とも言われる契約解除金が発生したと言われています。

クラブとしては高額な契約解除金を支払ったのに、すぐに契約切れで出て行かれたら困ります。なので高額な契約解除金を払った場合は長期契約を結び、新しい契約解除金をさらに高額に設定することが一般的です。

そのため、「自分はもっと活躍できる(価値が上がる)」と自信を持っている選手の場合、あえて長期契約を結ばないよう代理人が助言するケースもあります。

なぜ「悲しいお別れ」は起きるのか

加入時は相思相愛(マッチング成功)だったはずなのに、なぜ別れが訪れるのでしょうか。それは「状況の変化」によってズレが生じるからです。

  • 「やりたいプレー」で選んだが、監督交代や戦術変更でできなくなった。
  • 「出場機会」を求めたが、ライバルの台頭や怪我で出られなくなった。
マッチングがズレてしまう
マッチングがズレてしまう

このズレが生じた時、選手には「契約満了を待つ」か「移籍オファーを受けて出る」かの選択肢しかありません

【近年のグランパスにおけるミスマッチの例】

  • 木本恭生 (2021-22): CBで勝負したかったが、ボランチ起用などが続き、やりたいサッカーとズレた。
  • 仙頭啓矢 (2022-23): 60分での交代や控えに回る機会が増え、出場機会や起用法に不満が生じた可能性。
  • 吉田豊 (2022-23): 怪我の間に相馬勇紀が台頭し、ポジションを失った。
  • 山田陸 (2023-24): 出遅れている間に米本・内田らが定着し、割って入る隙がなくなった。

このように、獲得後の活かし方やチーム事情の変化により、必然的にお別れが発生してしまうのです。最近はだいぶ減ってきましたが・・・。

ただし、情勢が予想もつかない方向にいってしまうこともあるのは、サッカーによくあることでもあります。

「悲しいお別れ」を減らすためにできること

お別れを減らすには、チームと選手が求めるものを「合致させ続ける」しかありません。しかし、それには2つの壁があります。

選手の求めるものが変わる

選手はキャリアを積み重ねます。

若い頃は

  • 「(4)もっと自分をスキルアップさせてくれるチームでプレーしたい」

と考えることもあります。

しかしキャリアの最盛期になると、

  • 「(7)将来のキャリアに繋がるチームでプレーしたい(代表、海外)」
  • 「(8)タイトルが取れるチームでプレーしたい」

などの欲が出てきます。

面白いサッカー、スキルアップできるサッカーだけではこれらの欲には対応できません。

そうなるとタイトルや成績などの「結果」をチームとして出していないと選手の欲に対応できないことになります。

もしもグランパスが成績が良くなくタイトルとは無縁で、日本代表などを輩出できていないチームだったら、

  • 「タイトルの取れるチームに行きたい」
  • 「日本代表に選ばれやすいチームに行きたい!」

と、選手が出て行ってしまう可能性があります

これを防ぐには

  • チームが強くなる
  • キャリアよりもチームを大切に想って貰う

くらいしかありません。

結局のところ、私たちサポーターにできることは限られています。

チームが強くなるように声を枯らして応援し、より良い補強ができるようにお金を落とし、そして所属してくれた選手を全力で大切にする。 そうやって、選手たちに少しでも「このチームが好きだ」という愛着を持ってもらうこと。それ以上のことはできないのです。

特に、海外移籍の流れは誰にも止められません。サッカーの中心がヨーロッパにある以上、そこを目指したいという選手の野心を完全に否定することはできないでしょう。 本音を言えば「行かないでほしい」と納得しづらい気持ちもあります。それでも、彼らの夢を理解し、送り出す覚悟を持つこともまた、サポーターの役割なのかもしれません。

チームの求めるものが変わる

こういうサッカーをするということが固まっているチームがあります。

  • 鹿島アントラーズならブラジル流の勝負にこだわったサッカー
  • FC町田ゼルビアならタイトな守備とカウンター速攻、セットプレー
  • 横浜Fマリノスならば、欧州最先端の戦術を取り入れる
  • 川崎フロンターレならば、パスサッカーで崩しまくる

チームスタイルが確立されている場合:鹿島や横浜FMのように戦術や方針が固まっていれば、選手は「自分がそこで活躍する姿」をイメージしやすく、チーム側も「この選手ならフィットする」という判断が容易になります。

方針がブレるチームのリスク:逆に、方針がコロコロと変わるチームは、選手にとって「リスクの塊」です。獲得された時点では必要とされていても、方針転換によってすぐにミスマッチ(構想外)になってしまうからです。

なぜ方針は変わってしまうのか?: 残念ながら、監督交代のたびにやり方が180度変わるケースは珍しくありません。 新監督にはプライドがあります。前任者の路線をそのまま継承すると「同じじゃないか」と思われかねないため、「俺は違うぞ!」と独自色を出そうとします。その結果、積み上げてきた良い部分までリセットしてしまうのです。

本当は、良いところは引き継いで、悪いところだけ直すのが一番賢いやり方なんですけどね……。現場の力学はそう単純ではないようです。

「継続」にも潜むリスク:一方で、同じコンセプトや体制を維持し続けることにもデメリットはあります。 同じメンバーが長く指導を続けていると、悪い意味での「馴れ」が生じ、組織全体がマンネリ化してしまう恐れがあるからです。

理想は「スタイルは維持、人は入れ替え」:そのため、チーム強化の定説として言われているのが、以下のバランスです。

  • チームのやり方(哲学): 統一して守り抜く
  • 指導者(監督・スタッフ): 適宜入れ替えて、マンネリや馴れ合いを防ぐ

つまり、芯となるスタイルは変えずに、指揮を執る人間を変えることで新鮮な空気を入れ続ける。これが最も健全な強化サイクルだと言われています。

第1部のまとめ

  • 移籍ルール、選手契約書はかなり世界基準に近づいた
  • 悲しいお別れを減らすためには、選手とチームのマッチングがうまくいくようにする
  • 選手の求めることは他人からは変えられないし、選手が歳を取るにつれてどんどん変わっていく
  • チームとしては選手が選びやすいように、チームとしての「やり方」「ビジョン」などを明確にして、コロコロ変えないようにする
  • ある程度タイトルや成績を伴わないと選手もついてこない

第2部 2026年の規則変更で、これから何が変わるのか

ここからは「これから」の話です。ルールが変わったからといって、その先にどんな未来が来るのかをはっきり言い切ることはできません。それでも、サポーターとして移籍報道を受け止めるために、今のうちにある程度の見取り図を持っておきたい。そう思って、自分なりに考えられる変化をまとめます。あくまで「こうなる可能性がある」という予想として読んでください。

大きな流れは「FIFA基準(RSTP)へのすり合わせ」

第1部で説明した今回の移籍関連規則の変更は、単にシーズンの時期が変わるという話だけではないと思っています。

大きな流れとしては、Jリーグの移籍・契約ルールが、FIFAの「選手の地位及び移籍に関する規則」、いわゆるRSTPに近づいていく。その一部として見たほうがわかりやすいはずです。(RSTPそのものについては、この第2部の最後でまとめます)

これまでのJリーグは、日本独自のルールや慣習にかなり守られていました。たとえば、他クラブの選手と交渉を始めるときには、現所属クラブへ事前に書面で通知する必要があります(第1部参照)。これによって、選手を持っているクラブは「うちの選手が狙われている」と把握できます。ただ、交渉を防ぐことはできません。通知さえすればokなのです。これは日本独自ルールなので、おそらくこれから削除されることになります。

もちろん、それで完全に引き抜きを防げるわけではありません。ただ、少なくともクラブ側には準備する時間がありました。しかしFIFA基準に近づいていくと、この仕組みが今後も同じように残るとは限りません。

これまでJリーグが抱えていた不利

そもそも、これまでのJリーグには構造的な不利がありました。

欧州のクラブが新シーズンに向けて選手を探す7月・8月は、Jリーグではシーズン真っ只中です。つまり、Jリーグのクラブから見ると、優勝争いや残留争いをしている最中に主力を抜かれるリスクがあったわけです。

しかも、選手本人に海外挑戦の意思がある場合、クラブとしては強く引き留めにくい。結果として、移籍金交渉でも強く出づらくなりがちでした。

反対に、Jリーグが欧州から選手を獲得しようとしても、欧州のシーズンを終えたばかりの選手が、いきなり日本の高温多湿な夏に入ってくることになります。コンディション面でも環境面でも簡単ではありません。

秋春制への移行によって、このズレはかなり解消されるはずです。そこは大きなメリットです。ただし、メリットばかりではありません。

契約満了6ヶ月前から自由に交渉できる世界

FIFAのルールでは、契約満了まで残り6ヶ月になった選手は、現所属クラブの許可なしに他クラブと交渉し、契約を結ぶことができます。

これは選手にとっては当然の権利です。契約が終わる見込みの選手が、次の職場を探すことを制限されるべきではない、という考え方です。

一方で、クラブから見るとかなり厳しい話でもあります。これまでなら、他クラブが接触する段階で通知が入りました。しかし今後は、選手がいつ、どのクラブと話をしているのか、前交渉段階では現所属クラブが把握できないケースが増えるかもしれません。

選手は普段通り練習場に来ている。試合にも出ている。でも裏では、すでに来季から別のクラブへ行くことで合意している。そういうことが普通に起こり得るようになります。

これは「タンパリングが合法化される」というより、契約満了が近づいた選手に対する接触が、不正ではなく正式な交渉として認められる範囲が広がる、と考えたほうがいいと思います。

主力選手が移籍金ゼロで出ていく可能性

たとえば、J1上位クラブにいる26歳の日本代表クラスのMFを想像してみます。契約満了が6月30日だとします。

1月1日になった時点で、契約満了まで残り6ヶ月。この選手は、海外クラブや国内のライバルクラブと自由に交渉できます。1月中旬には、ドイツのクラブと「7月から加入する」という契約を結ぶかもしれません。

その場合、2月から5月までのJリーグの0.5シーズンを、その選手は現所属クラブの選手としてプレーします。ですが、すでに次の行き先は決まっている。怪我を避けたい気持ちが出ても不思議ではありませんし、クラブとしても起用やマネジメントが難しくなります。

そして7月1日。契約満了なので、移籍金はゼロです。クラブは主力を失い、移籍金も得られない。これはかなり大きなダメージです。

このリスクを避けるには、クラブはもっと早い段階で判断しなければなりません。契約を延長するのか。移籍金が取れるうちに売るのか。それとも、移籍金ゼロで出ていかれるリスクを承知で最後まで残すのか。これまで以上に、契約年数の管理が重要になります。

選手は「戦力」であり「資産」でもある

サポーターの感情としては、活躍している選手にはできるだけ長く残ってほしい。これは当然です。ただ、これからのクラブ経営では、選手を単なる戦力としてだけではなく、クラブの資産としても見ていく必要が強くなります。

たとえば、移籍金を払って獲得した選手と3年契約を結んだなら、クラブはその投資を3年間でどう回収するかを考えなければなりません。活躍して市場価値が上がった。でも契約はあと1年しか残っていない。この状態で引き留めるのか、売却するのか。そこには強化だけでなく、経営判断も入ってきます。

これまでのように「チームに必要だから残す」だけでは済まなくなる。「価値が下がる前に売る」という考え方も、より現実的な選択肢になっていくはずです。サポーターとしては寂しい話ですが、クラブが長く生き残るためには避けて通れない視点だと思います。

複数年契約とバイアウト条項が増える

今後は、中心選手や有望な若手に対して、3年から5年の複数年契約を結ぶクラブが増えるはずです。単年契約のままだと、クラブはすぐに移籍金ゼロのリスクを抱えることになります。特に若くて価値が上がりそうな選手を単年で抱えるのは、かなり危険です。

一方で、選手からすると、長期契約には自由を縛られる面もあります。そこで重要になるのが、契約解除条項、いわゆるバイアウト条項です。「一定額以上のオファーが来た場合は移籍を認める」という条件をあらかじめ決めておく。これにより、クラブは最低限の移籍金を確保でき、選手も将来の移籍の道を閉ざされずに済みます。

ただし、金額設定はとても難しいです。低すぎれば簡単に引き抜かれてしまいます。高すぎれば選手が契約に応じてくれないかもしれません。このあたりの交渉力が、クラブの差になっていくと思います。

代理人の存在感はさらに大きくなる

第1部で代理人(フットボールエージェント)の仕組みを整理しましたが、この流れの中で、その影響力はさらに大きくなるでしょう。

契約満了6ヶ月前から自由交渉ができるようになると、代理人が水面下で複数クラブに声をかけ、条件を比較し、選手にとって最もよい選択肢を探す動きが強まります。有力な選手であれば、国内外のクラブによるオークションのような状態になるかもしれません。

また、欧州や南米に強い海外大手エージェントが、日本市場により深く入ってくる可能性もあります。日本の代理人と提携するケースもあれば、有望な若手を巡って競合するケースもあるでしょう。

名古屋グランパスでいえば、若い年代の代表に選ばれるような選手は、今後さらに海外から見られやすくなるはずです。クラブは、選手本人だけでなく、代理人との関係づくりも含めて戦略を考えなければならなくなります。

若手選手と育成クラブにも影響がある

若手選手にとっては、チャンスが増える面もあります。主力が海外へ移籍すれば、その穴を埋めるために若手が抜擢されることもあるでしょう。J1百年構想リーグでは、普段より思い切った起用が増えました。安藤晃希のアントワープ移籍はその典型例だと思われます。

一方で、18歳になったタイミングで海外クラブから声がかかる選手も増えるはずです。Jリーグのアカデミーで育った有望株が、トップチームで本格的に活躍する前に海外へ行く。そういうケースも出てくるでしょう。

ただし、すべてがクラブにとってマイナスというわけではありません。FIFAの仕組みには、育成したクラブへお金が戻る制度があります。

ひとつはトレーニングコンペンセーション、つまり育成補償金です。若い選手がプロ契約を結んだり、一定年齢までに移籍したりする場合、その選手を育てたクラブに補償金が支払われます。もうひとつは連帯貢献金です。移籍金を伴う移籍が起きたとき、その一部が過去に所属した育成クラブへ分配されます。

選手が大きな移籍をすれば、育てたクラブにもお金が戻る。この仕組みがきちんと機能すれば、育成に力を入れるクラブにとっては大きな支えになります。

Jリーグは「育てて送り出すリーグ」になるのか

これからのJリーグは、ベルギー、オランダ、ポルトガルのような欧州中堅リーグに少しずつ近づいていくのかもしれません。

才能ある選手を見つける。育てる。活躍させる。そして、より大きな市場へ送り出す。その移籍金を使って、次の選手を獲得し、また育てる。いわゆる「セリング・リーグ」と呼ばれる形です。

もちろん、「主力がすぐ抜けてしまうリーグ」だと悲観的に見ることもできます。ただ見方を変えれば、「次のスターが次々に出てくるリーグ」とも言えます。

Jリーグがアジアの最終到達点であり続けるのか。それとも、欧州へ向かうための登竜門として存在感を高めるのか。この変化をどう受け止めるかは、クラブにも、サポーターにも問われていくと思います。

クラブに必要なのは、より強いGM機能

第1部で強化・編成部の役割に触れましたが、ここまで移籍市場が複雑になると、現場の強化担当者の頑張りだけでは限界があります。

これから必要になるのは、法務、スカウト、データ分析、財務管理を一体で動かせるGM機能です。

契約書の条項ひとつで、数億円単位の差が出るかもしれません。主力が抜けたとき、すぐに次の候補を出せるスカウティング網も必要です。選手の契約年数、市場価値、年俸、将来の売却可能性を常に見ておく仕組みも欠かせません。

これからの強化部門は、「いい選手を連れてくる部署」だけではなくなります。クラブの未来の資産をどう守り、どう増やすかを考える部署になっていくはずです。

そう考えると、スカウトや編成の機能を弱めるような動きがもし本当にあるなら、それはかなり心配です。時代の流れとは逆に見えてしまいます。

サポーターも意識を変える必要がある

2026年以降、移籍市場は今よりもかなりシビアになると思います。

主力が突然いなくなる。期待の若手が海外へ行く。生え抜きのスターが契約満了で移籍する。クラブが「売り時」と判断して、人気選手を送り出す。そういう出来事は、今より増えるかもしれません。

そのたびに、サポーターは揺さぶられるはずです。寂しいですし、腹が立つこともあるでしょう。

ただ、その移籍が単なる「裏切り」なのか。クラブの経営判断として必要だったのか。選手のキャリアとして自然な選択だったのか。そこを少し冷静に見られるようになると、移籍報道の受け止め方も変わってくると思います。

選手を愛することと、クラブの経営を理解することは、必ずしも矛盾しません。

【参考】RSTPとは何か

最後に、第2部の前提になるRSTPについて簡単に整理しておきます。

RSTPは、FIFAが定める選手の契約や移籍に関する世界共通ルールです。サッカー界の移籍・契約に関する基本ルール、と考えるとわかりやすいと思います。

大事なポイントは主に次の通りです。

まず、選手とクラブの契約は原則として守られなければなりません。契約期間中に一方的に解除することはできず、特に契約後の一定期間は強く保護されます。

次に、契約満了の6ヶ月前になると、選手は現所属クラブの許可なしに他クラブと交渉できます。これはボスマン判決以降の考え方に沿ったもので、選手の移動の自由を守るためのルールです。

また、18歳未満の国際移籍は原則禁止されています。若い選手を過度なビジネスの対象にしないためです。

一方で、育成したクラブにお金が戻る仕組みもあります。育成補償金や連帯貢献金によって、選手を育てたクラブにも一定の利益が分配されます。

さらに、選手登録ができる期間は年2回に限られています。いわゆる移籍ウインドウです。原則として、クラブはこの期間内に選手を登録しなければなりません。

つまりRSTPは、契約の秩序を守り、選手の移動の自由を認め、同時に育成したクラブにもお金が回るようにするためのルールです。

最新版は以下の記事を参照ください。

【FIFA RSTPの改正】2027年1月版の解説(前編)|弁護士 馬淵 雄紀|Yuki Mabuchi @IMAGENT

第2部(これから)のポイント

  • 2026年からの変更は、Jリーグが世界基準(RSTP)の移籍市場に組み込まれていく流れの一部。
  • 契約満了6ヶ月前からの自由交渉が広がり、主力が移籍金ゼロで出ていくリスクが現実的になる。
  • クラブは選手を「戦力」だけでなく「資産」として捉え、複数年契約・バイアウト条項・契約年数の管理がより重要になる。
  • 代理人の存在感は増し、育成クラブには育成補償金・連帯貢献金という支えがある。
  • Jリーグは「育てて送り出すリーグ」へ近づくかもしれない。クラブには強いGM機能が、サポーターには冷静な視点が求められる。

毎年発生する移籍騒動も、こういうことを知っていると、ちょっと見方が変わってくると思います。覚えておいて下さると幸いです。

2026年は、Jリーグにとって大きな分かれ道になるかもしれません。その変化には痛みもあるはずです。でも、うまく対応できれば、Jリーグが世界の中で存在感を高めるチャンスにもなります。

クラブは契約と育成をもっと戦略的に考える。選手は自分のキャリアをより主体的に選ぶ。代理人は市場の中でより大きな役割を持つ。そしてサポーターも、移籍をただの別れとしてだけでなく、クラブが生き残るための循環として見る必要が出てくる。

厳しい時代になると思います。でも、その厳しさの中でどう強くなるか。2026年以降のJリーグは、そこを試されることになるのだと思います。

移籍については以下のような記事も作っています。よろしければお読み下さい。

About The Author

グラぽ編集長
大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

Leave A Reply

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

Share / Subscribe
Facebook Likes
Posts
Hatena Bookmarks
Feedly
Send to LINE