プレーオフ1戦目はドロー。決着は2戦目に持ち越しとはいえ、やってきたことが無駄ではなかったと感じられる試合になった。 誰かのスーパーな能力に依存しない戦い。
試合情報
- 2026年5月30日
- 名古屋-町田:2-2
- 天候/気温/湿度:晴れ / 34.1℃ / 20%
- 主審:木村 博之
ビルドアップの性質
この試合は、同じ立ち位置・配置からのビルドアップが複数回ある中で、それぞれの性質が異なる状況が前半から目立った。タイムスタンプとともに振り返る。
その前、3分ごろのビルドアップの3v3でCBがワイドに出て行き、中のパスコースを広げないことがバレたので、4分7秒のところで町田はマンツーマンで潰しに来た。
森島vs藤尾のところで、藤尾を高嶺と一緒に挟んでやると、町田はボランチが前に出てくるか、エリキが下がるかの2択を迫られる。どのみちサイドへの浮き球でサイドに出しても、1枚剥がせるかどうかの勝負になる。
それならば、中で受けどころを作りながら、エリキが下がったときに佐藤が運べる展開も生まれる。内側で待ってやるのも良い選択だったかもしれない。
1センターの森島は、構造上、両サイド(左右のCB)から同時にアングルをつけて覗き込んでも引き出せない。だからこそ、内側で待つ形はそこの助けにもなった。18分0秒からの、佐藤-野上をSBの位置に広げながら、変則的ではあるが藤尾の周りに2センターが陣取り、和泉が深いところに降りてきて縦を割る展開は、しっかりとした修正、というより変化の打ち手としてよかったところだ。
用語解説:「アングルをつける」は、出し手から見て受け手が相手の真後ろ(一直線上)にいてパスコースが消されている状態に対し、受け手が斜めにポジションを取り直して相手の脇からパスラインを通す動きを指します。第一に、左右のCBがそれぞれ斜めにポジションを取って(=アングルをつけて)、相手の前線の脇から1センターの森島へのパスラインを探す。第二に、そのパスラインが通るかどうかを確認する動作が「覗く」。相手の陰に隠れた味方を、角度を変えて“見えるようにする”感覚です。第三に、その結果として森島が相手のマークから解放されてボールを受けられる状態を作ることが「引き出す」です。
高嶺がサイドに出るときのリスクという面では、14分11秒からが顕著である。
ラヴィが森島を捕まえに行く。ここは木村が降りたので、前が木村についた形だ。
木村が降りたことで、サイドでフリーになった高嶺に制限をかけに行きたい中村も出てこなければならず、大外の縦のレーンは高嶺ー中山で中村を挟む形になる。
中村の立っている位置から見ても、サイドチェンジで勝負してもよかったところだ。
センターがサイドに捌けている分、木村が受けるスペースはあるが、奪われてシュートまで持ち込まれるリスクのほうに転んだ形だった。
失点後のキックオフのタイミングは、高嶺が下がって佐藤が開く形で、4-1-5的な数字の上では同じ形だ。
だが、高嶺が下がると木村も降りるため、エリキと前が縦向きにスライドする。
配置は同じでも、名古屋のスライドの形と枚数が違う分、佐藤にボールが入るときの守備のベクトルの逆を突いている感覚が強い(縦向きにズレているのに、制限に出ていく動きは横向きだ)。
町田からすれば、3分~4分のピサノが参加した3枚とは守備の肌感が違うはずだ。

12分32秒からの町田の引き方などは露骨で、昨シーズンに名古屋も苦労した「4バックに前3枚がどう対応するか」への解決策が、2列目以降は固めようという形だった。
ただ、1センターの森島を人で捕まえていないため、2ボランチは「森島をどうしよう」とずっと迷っている。
森島のところで引っかけてショートカウンターにも行けない、という局面だ。それを変える手段は、密集にボールが入って回収するところから、という様相である。
ボランチがどの選手も掴めないため高さが明確にならず、佐藤のボランチ裏へのグラウンダーのパスの刺し込みが入る場面だ。
同じボランチ裏のところで言えば、15分48秒からは、藤尾が森島を消しながら町田が撤退を判断する中で、ボランチのシチュエーションごとの立ち位置のファジーさからくる縦パスが出て、そこからサイドへ展開し、ボランチ裏を取る展開になった。

とにかく、前とラヴィが「相手をどう制限しよう、どう捕まえよう」と悩む原因は、前線の選手の守備方針が名古屋の4バックに踊らされてしまうところから来ていたように感じた。
ここまでタイムスタンプで追ったビルドアップの形は、ほぼすべてが同じ配置・立ち位置から生まれた展開の解説だった。
しかし、すべての展開において、相手のプレー選択、選手の立ち位置の入れ替え、選手の動きによって、自分たちのゴールまでの道のりの設計がシチュエーションごとに違うことがよく分かる。
この試合であれば、相手のボランチのファジーさを軸に、どこからアプローチし、試合のタイムラインの1分1秒でどういう選択をするのか。
点が入るから面白い、というよりも、RTS(リアルタイムストラテジー)のようなマクロのライブ感こそが、今の名古屋が人を惹きつける理由なのではないか。
そう思える試合に感じた。(木村へのロブが奪われてシュートまで持ち込まれた、といった展開だ。)
👍ポイント
ビルドアップのよかったポイントとしては、19分11秒からのサイドへの展開から、高嶺がキャリーするところまでの形を挙げたい。
前もラヴィも引いたところから「出て行ってやろう」となった形で、前線3枚が降りるスペースがあるように見えて、後ろからチャージを喰らうことが想定される場面だ。
エリキの寄せもホルダーへ決め打ちで寄せ、藤尾は森島を消しながら藤井に詰める。
いつもなら中山か木村のところへ対角で出すことが多いが、この試合では前半20分間、相馬がエリキや藤尾に比べて守備での役割が浮いていた。
その、相手に制限をかけられていないところをしっかり勝負どころとし、和泉によるラヴィの釣り出しから、高嶺がCBから攻撃参加できる位置までキャリーできた。
この試合で初めて、プレス回避から2センターが攻撃参加の高さまで縦向きにプレーできたシーンだった。
対角、配置のズレ、もいいが、自分たちでずらすことだってできる。
それをこの試合で消化できていてほしい。
後半の修正と展開
後半に入ると、町田が前半より一段コンパクトになり、名古屋のビルドアップを締めにかかる(圧縮)。
森島に対して、藤尾ではなくボランチの1枚が前に出てくるようになった。
2CB-2FWの対面を作るので、浮いている相馬は和泉の顔出しを警戒するような形だ。
名古屋は、53分2秒からの展開のように噛み合ったら、2CBを広げて佐藤ー高嶺のSBの立ち位置の入れ替えを行う。
これで幅の広い3バックのような形にして、相馬を手前に引き出す。
相馬はIHへの縦パスを消す立ち位置から出てくる上に、森島にはボランチが張り付いているので、1ボランチの周りにさえパスが入れば、という展開になっていくのが理想的だった。
ただ、直後の56分0秒からの、相馬が野上に出て行って圧縮される展開も、前述した佐藤ー藤井間を広げながら高嶺が降りる形だ。
ボールホルダー側の相馬が出てきた段階で、似たような展開でエリキを高嶺につけているので、佐藤のサイドで木村を見てあげたかった。
その後の65分36秒からのところも、高嶺ー藤井が広く取る場面だが、直前にミドルシュートを打たれた影響なのか、町田はこの瞬間だけ藤尾が森島につく形に変わっていた。そのため、アングルをつけたCBと、覗き込む森島の関係性が生まれる。ここも町田からすれば、後半の方針からズレるような展開に見えた。
試合雑感
- お互いの1点目の失点のところは、守備ラインを下げる町田と上げる名古屋という、互いに逆を取るようなセットプレーから生まれた。町田はラインの高い名古屋に対してゴールへ向かうボールを、名古屋は下げる町田に対してショートコーナーでラインのギャップを誘った。どちらもコンセプトの裏を突いた形だ。
- 後半になると、町田も選手の立ち位置を入れ替えてマンツーマンを誘ってみたりしたものの、脅威にはならなかった。
- おそらく今シーズン初めてと言ってもいいくらい、「誰かの120%の能力」に頼らず、保持局面を継続して作れた試合だった。相手の守備構造との噛み合わせもあったが、プレーオフまでに着地点へたどり着けたのはよかったと思う。 第2戦は、町田のボランチがどう出てくるか、名古屋がプレスの出し入れをできるか、といった展開になりそうだ。
- カウンターからの失点については、谷があれだけしっかりキャッチしたことがスーパーだった、ということにしておく。強いて言うなら、打ち込むなら全力で。
最後に
いよいよシーズンラスト。
細部にこだわって、甘えずに、楽しんで。



