「絶望のような二週間〜」稲垣からあの言葉を聞いた時、「このチームが報われてよかった。」とこれほどに思ったことはない。
稲垣祥「自分たちはこの二週間、絶望のような時間を過ごしてきて、だけど苦しい中で全員が戦い抜いて、そしてファミリーの皆さんも本当に最後まで熱い応援を頂いて、力になりました。」
名古屋グランパスに関わってきた選手たちからのお祝いのツイート、インスタグラムのストーリー投稿。(みなさん沢山投稿されているので探してみてね!)その光でグランパスが歩いてきた道が照らされていた気がした。
「勝って兜の緒を絞めよ」浮かれてる場合じゃない。リーグ戦はまだ続く、1つでも上へ。カップウィナーとして恥じない戦いをする為に、こんな日でもしっかりと試合を振り返ってゆく。
スタメン
名古屋にボールを放棄させる枠組み
セレッソは試合開始直後から守備の時に433で組むことが多かった。
名古屋の最終ラインがボールを動かして縦方向やサイドバックへのパスを入れようとするがセレッソの中盤と前線の3枚のフィルターがふすまのようにズレて動いてパスのコースを消していた。
当然中盤のフィルターがスライドするという事は逆側に大きくスペースが出来る事になるので名古屋は後ろでボールを振りながら大きく空くスペースを探す。その時間が長くなるとセレッソの前線はプレスをスタート。プレッシャーで名古屋のロングボールの質を落としてボールを放棄させるのが狙いだった。
ボールを持ってるサイドには窮屈にしてスペースを消す。持ってないサイドにボールを動かさせてその道のりでプレッシャーをかける。あいてにボールを放棄させてマイボールに。
この大きい枠組みの中でセレッソは守っていた。
キーポイントは“外囲い”
一方セレッソの名古屋を攻める形としては「外を囲う」
このワードがポイントになってくる。
セレッソがボールを持つと、中盤。特にセンター二枚(稲垣と木本)の周りに人が密集している事が少ない。名古屋の攻略法としてはセンター二人から数的有利を取るために木本と稲垣の周辺に3枚配置する。といったような形を取るチームが多い中で、セレッソは乾が中央で受けに来るまでは中央には人があまりいない状態。名古屋の中盤と前線を選手で囲う形を取る事が多かった。
では、名古屋を攻略するときの鉄板である中央での数的有利を取って崩す!を何でしなくて、外で人を囲んでたのか?
一つ目の大きな理由は外で回せば人を足さなくても中央の二枚がズレてくれる。という事。
どういうことかというと、外で回せば回すほどそのボールの動きに合わせて縦パスやパスコースを切る為に中央の二枚(木本と稲垣)は横移動が増える事になる。スタミナもそうだが集中力もかなりいる事になる。判断ミスを起こさせるのには充分な相手の戦力の削り方だ。特に名古屋グランパスの選手は守備に「ボールを基準」に守る為、相手の思考より先にボールを動かし続ければ当然綻びは出てくる。
セレッソの「外囲い」による中央のズレを効果的にしたのはセレッソのサイドの選手が大きく外を取る事も関係していた。
サイドが絡むボール回しの時に中央が寄らないと、カットインするスペースが出来る。サイドで数的同数を取られるなど名古屋のサイドの守備が大変になる状況ができやすい。そういったセレッソのサイドが大外に陣取ってることもあり、「外囲い」でボールを回しているだけなのに中央がずれて斜め方向のパス(レーンをまたぐ楔)が度々入って来ることになった。
もう一つの外囲いの理由は、選手の意識を外側に向ける事で内側を使った時の効果を増幅させる事も狙いだったかもしれない。
主に乾が外囲いのセレッソの布陣から外れてボールを受けにフリーマン(自由な役割)として中央でボールを受ける事があった。
その際、何度か稲垣が乾に釣られて突っ込んでいき、そのままサイドへ流れたボールを追いかけて中央に木本しかいない!といった場面があった。普段中央にボールが来ないセレッソの布陣で急にボールを受けに来る乾。
名古屋の守備陣からすると「浮いてる選手に見えて、絶好のボール奪取のチャンス!」に見るが乾が降りているときには坂元が内側へ寄っていたり、それを囮にしたりとしっかりとセレッソは準備をしていた。
名古屋はなぜ前半耐えられたのか?
前半ここまで相手のやりたい形がはっきりと見えていて0-0で抑えられたのか?まずは「全員が個々人の守備技術でセレッソの個人を抑えた」事を大前提として、キーマンを3人ほど挙げていく。
マテウス:開花した守備意識
まずはマテウス。「リーグ戦でもここまで真面目に守り通してくれたら最強のサイドになるんだけどな。」というぐらいに真面目に守っていた。外回しされる都合上サイドが対人守備や守備意識で負けてしまうと厳しい事。そして、相手サイドバックに押し込まれて攻守の切り替え時に前目にいれずにカウンターに参加できないなど、攻撃面では本人の思う位置に立てないことがあったと思うが前半よく頑張って我慢してくれた。
マテウスが「攻撃のための守備」と割り切って頑張ってくれなかったら恐らく前半失点しても仕方ないぐらいだっただろう。
柿谷曜一朗:the「守備職人」
2人目は柿谷曜一朗。最早「攻撃の天才」という言葉より「守備職人」という言葉の方がしっくりくるかもしれない。前半は守備に回り続けて攻撃でボールのタッチ回数が少なかったり、セレッソの配置の都合上名古屋の選手間の距離が遠いこともあり、得意のパス交換での崩しや狭いところでの輝きが出ないことが多かったが、ピンチのシーンには鬼のようなスプリントで最終ラインまで戻って守備をしたり、稲垣が釣られても柿谷が常に守備のバランスを取るなど、奮闘していた。
木本恭生:#ヒーローはヤス!
3人目は木本恭生。「あなた木本応援してる記事出してるからでしょ!」と言われそうだが、忖度なしにMVP候補もあったと思う。周りのプレー判断のリスクを背負うスペースの管理。狭い所でのボールの扱い。ボールを奪う判断。
全てにおいていままでの木本は何だったんだ?というぐらいにキレキレだった。「準決勝で点を入れたら優勝する。」その神話は本当だった。
もういぶし銀や華がないとは言わせない。名古屋グランパスの立派なスーパーバランサー。
後半に向けて…
乾が降りてきて攻撃がスタートだったり、外囲いの都合上人が動いた時だけ名古屋は気を付ければよかったので「清武みたいに常に中央でボールを受ける為にうろうろする選手が出てこなければ行けそう。」なんて思っていたのは幻想だった。
後半に向けて円陣を統率する人影は10番を背負っていた。
一瞬の“勝ちたい気持ち”
セレッソは後半頭から山田に代わって清武を投入。清武と乾が名古屋のセンターの周りでボールを受ける形に。そして奥埜もセンターの裏に走ることが多くなった。
前半あれだけ“枠組み”で相手を翻弄していたが崩しきれ無かった事で、セレッソが一瞬見せた「勝ちたいという焦り」だったのかもしれない。
後半開始早々、楔を打ちに行ったセレッソに対して中谷がケア、こぼれ球をすかさず吉田に。吉田はダイレクトで木本へ。本来なら木本から直通で相馬でもよかったが木本のトラップはロングフィードを蹴れるような準備をした上で目線はすぐそばの前田へ。その目線が気になり松田は相馬に付いていたが一瞬前田の方へ付くか迷ったのである。
そこで勝負ありだった。木本の目線と選手の引き出しを利用したボールのキック前のボールの置き方の乖離で相手1人をずらし切った。
そこから相馬が仕掛けてセットプレーを獲得。得点へつながる事になる。
恐らくセレッソは奥埜が前半と同じ位置にいれば前田をケアしていたはずで、そうなると松田は全力で相馬につけばいいので、木本の釣りの効果は薄れていたかもしれない。
明らかにセレッソは清武が入った一瞬で決めに行った。そこが分かれ目だった。
得点につながったセットプレーは、あれだけ綺麗にボールの速度を変えずにストレートで逸らせる柿谷の「天才具合」それを信じて大外に飛び込んでいた前田の「献身性」その二つがゴールを生み出した。
斜めに走るという事
名古屋は後半からブロックの隙間にパスを出すことをやめた。名古屋は選手の位置が被るような前田の前線の裏へのランニングを使い、同じポジションで2人選手を被せる事で数的優位を取りに行った。センターが上がって数的優位を取らない名古屋の数少ない「数的優位を取る方法」だ。
後半になって「斜めに走る事」がかなり効果的に効いていた。
433への移行
前田、相馬に変えて長澤と齋藤が入る形に。守備時に4141のような形の433に。セレッソが奥埜も含めて中央の狭い場所にいよいよボールを通し始めたので中央を3センターにしてハーフスペースのコースを人で埋める。名古屋お得意の「人で守る形」そして脇をマテウスと齋藤にしてサイドバックが上がって来たところに対して引いて4141で構えることも出来るようにした。
「森下でもいいのでは?」という声も出そうだが、相手が負けている状況で齋藤という「前線から好きさえあれば早く相手に食いついてくれる守備」を何の躊躇もなくしてくれる齋藤のチョイスは「守りながら後一発を決める」フィッカデンティ監督の“欲”が珍しく出たところかもしれない。(森下は連戦で体力的にキツかった。という説も十分あり得る。)
守備での噛み合わせに見えるが、攻撃においても良さを産むことになる。
勝ちに来るセレッソは後ろが必ず薄くなる。そこに中央で推進力のあるセンター長澤と稲垣がアンカーの木本よりも前にいる事でセレッソは名古屋にボールを持たれたら「戻って構える」事が必要に。この形の変更は意図はどうであれ、あのタイミングでの得点も相まって監督のファインプレーとなった。
その後4141のアンカーの木本がセレッソのフリーでボールを受ける選手と最終ラインで駆け引きする選手の両方を見ながら上下に移動するような形で見かけが後ろ5枚になる。
ミンテが指示を出ししてるところを見ると明確な5枚というより木本が「人に付く係」として交代までプレーした。
その直後に得点。森下を入れて本格的な5バックにした。
名古屋の空気
2点目は「名古屋の空気感」が生んだものだった。齋藤のドリブルのタッチミスがあんな跳ね返り方するのも何百回に1回。それがシュヴィルツォクの足元にビタビタについてしまうのも何百回に1回、キムジンヒョンのスーパーセーブが稲垣の所に転がって行ったのも、あの難しい叩きつけるボレーが完璧にミートしたのも。非効率でもなんでもいいからチーム全員ががむしゃらに走り、身体を張り続けたのを見ていた「誰か」からの贈り物だった。
良かった所
- 天皇杯の時から目から光が消えていなかったランゲラック
- セレッソのサイドを完封し続けた宮原、吉田
- 中央でリスクを伴いながらも相手のボールにチャレンジし続けた中谷、キムミンテ
- 腐らずに走り続けた相馬とマテウス
- 出番が少なくても役割を果たしてくれた齋藤
- 12.367km(両チーム最長)走って決勝点を決めた稲垣
- チームの為に走った前田
- タッチ数が少なくてもチームの為に我慢に徹して最高の守備をしてくれた柿谷
- ポーランドの暴力!
- 途中からの難しいシチュエーションにも関わらずハードワークを見せてくれた長澤、森下
- チームのバランサーとして奮闘した木本
- 選手、スタッフ全員
- 声が出せない状況で限られた中でも精一杯手拍子をしていた現地の仲間達
- 予定や仕事があって観れなくても常に名古屋のことを思い続けてくれた仲間達
- 現地に行けなくても画面の前から応援してくれた仲間達
心配な所
- チャンピオンになった事のプレッシャー
- 燃え尽き症候群
最後に
グランパスの選手を目指して夢を追いかけていた頃、僕ら子どもの前で「この先のグランパスに光はない。トップの選手も下部も」と言って僕らをスタジアムから遠ざけたあの頃のお兄さん。
僕は未来に居ます。
僕の大好きなチームは大きい光を放ってみんなを幸せにしていますよ。
みんな笑ってますよ。
この先も名古屋グランパスに関わる全ての人が笑えますように。
僕らのヒーロー
#ヒーローは名古屋グランパス
FIN