今節はyuttyさん都合で詳細レビューはおやすみ。編集長(デスク)の13節時点の振り返りをお届けします。(ほんとうはJ1百年構想リーグWEST地域リーグラウンドが終わったときにやろうとおもってたやつ)
13節終了時点の名古屋グランパス
13節が終わり、残り5試合です。ここまでWEST地域リーグラウンドで2位に付けています。いかがでしょうか。
事前の想像より、ずっといい。マテウス・カストロは最初からわかっていたが、小屋松知哉とヴィニシウスという補強の目玉の3人のうち2人を長期離脱で欠いていることを考えれば、上出来だと思う。
コンウェンさんの記事でおなじみの、チャンスビルディングポイント。右が2025年、左が2026年J1百年構想リーグのこれまでを見てみると、攻撃・パス・クロス・ドリブル・シュート・ゴール、攻撃系は全部上がっています。不思議なのは、奪取や守備も上がっていることです。
守備系指標が上がっているのは下の記事でも上げたが、ミシャ式らしい現象で、「攻撃に全振り」しているからカウンターを食らうことで守備系の値が上がってしまうという現象そのものだな。
攻撃系の指標が上がっているのはなんでなんでしょうね。
正直、去年からいるメンバーが中心で、去年居なかったのは甲田英將と高嶺朋樹くらいじゃないでしょうか
今回はそこを考察してみよう
2025年のサッカーとなにが変わったのか
まず、チームスタイル指標を比べてみましょう。
ほとんど同じメンバーなので、全体の傾向は変わらないんですが、
思ったほどポゼッションが上がらず、むしろカウンター系の数値やラインブレイクランが劇的に増えています。
用語解説:ラインブレイクランは以下のようなシチュエーションを積み上げた指標です
- 最終ラインの裏へ抜けるスプリント → スルーパスに合わせた裏抜け、いわゆるラインブレイクの王道。
- 中盤ラインの背後へ侵入するラン → シャドー(木村や和泉)が相手の中盤-守備ライン間で受けるための動き。
- 守備者の“死角”を突く斜めのラン → パスコースを開け、相手のラインをずらす目的のラン。
2025年はラインブレイクを永井謙佑が担っていたと思うが、2026年はWBかシャドーが担うようになったのが大きな変化の1つかもしれないな
WBが裏を取れば、そこで攻め上がる間にゴール前に人が飛び込めるわけですね
WBが裏を取って「クロス」、それを「シュート」という形ができているので、チャンスビルディングポイントの攻撃系の値は上がりやすい。
今までと役割が変わって、永井謙佑は適応するのに苦労が必要そうですね
プロだから、そこは乗り越えて欲しいところ。クロスに合わせて、とかになると山岸祐也や木村勇大のほうが上なことは間違いない
なんでWBがこれだけ裏を取れるようになったのでしょうか?
それは、技術面と、もう一つ指導面での違いがあるんだろうと思う。
先に技術面の違いを考えて見よう。それはサイドチェンジのロングパスだ。主に高嶺朋樹と原輝綺から出る。受けるのはだいたいWBになる。
ロングパス、総数も成功数も増えていますね。たしかに試合中も原が中山克広に、高嶺朋樹が甲田英將へ、というパスをよく見かけるように思います
高い位置でフリーでボールを受ければ、仕掛けることは簡単だ。ただ最近バレてきていて、サイドチェンジのパスを狙われている感じはある。J1リーグは「こうやってくる」ってわかってたら、それを潰せるだけのDFが揃っているからな
たしかに。岡山戦でも原輝綺のサイドチェンジを高さのある立田にインターセプトされるシーンが目立ちましたね。難しい。
もう1つの理由ってなんでしょうか?
技術面ではない「裏を取れるようになった」理由
その説明をする前に、4局面の話をしよう。
基本的にサッカーは90分ボールを握り続けて、相手に攻めさせないということは難しい。かならず攻撃から守備への切り替えが発生する。
逆もまたしかりで、90分守り続けるってことはなくて、守備から攻撃への切り替えが発生する。
この4つの場面(局面)を繰り返すことでサッカーの試合は進んで行くという考え方だ。
長谷川健太前監督は、組織化された守備を整備し、敵陣でボールを奪うことで速攻をかけ、相手が守備へのトランジションが完成する前に攻めたかったのですが、自分たちの攻撃へのトランジションがうまくいっていなかった感じですよね。
そう、そこの作り込みで、いろんなアプローチが行われていたことは感じたが、完成には至らなかった。
2026年になってミハイロ・ペトロヴィッチ監督が就任してからの13試合では、攻撃回数が昨年の110.5 (16位)から117.1(6位)に向上。チャンス構築率昨年の10.6% (9位)から(5位) 11.6%に向上しています。
攻撃の組み立てについて指示にミハイロ・ペトロヴィッチ監督の上手さがあったとしても、メンバーが変わっていない状態でこの変化は、指導力だけでは説明が付かないんじゃないでしょうか?
サポーターの目に見える変化は、CBやWB、シャドーも含めて攻めに枚数をかけろという意識付けだよな。
それだけで、変わるもんなんですか?
アフォーダンス理論(エコロジカルアプローチ)
「同じメンバーで短期間に急激な変化が起きる」という現象は、選手の技術や体力ではなく 認知と判断基準が書き換わった ときに起きるパターンと一致する。
「選手が急に上手くなった」のではなく、同じ景色の中から「何をチャンスとして見るか」が変わったのではないかってところだな
エコロジカルアプローチってやつですか? 聞いたことはあるんですが、よくわかんないです。
ちょっと新しい用語なんだけど、勉強になると思って読んで欲しい。それがアフォーダンスとconstraints-led approach(制約主導アプローチ)だ。エコロジカルアプローチっていう言い方をしている人もいる。
アフォーダンスは、ざっくり言うと 「環境がその人にもたらす行動の可能性」 だ。
たとえばサッカーなら、
| ピッチ上の状況 | 選手が感じ取るアフォーダンス |
|---|---|
| 相手CBとSBの間が空いている | そこへ走れる |
| 相手ボランチの背中側が空いている | 縦パスを入れられる |
| 味方が近くに2人いる | ワンタッチで逃げられる |
| 相手が前向きに寄せてきている | 逆を取れる/落として前進できる |
| 後ろが数的不利 | 今は無理せず止めるべき |
この選手が感じ取る、って、難しいですね
見てから動くまでって、どういう仕組みで動いてると思う?
見る
→ 情報を処理する
→ 判断する
→ 動く
ですかね?
普通はそうだよな。でもアフォーダンス理論では違う
見えているものが、「行ける」「出せる」「危ない」「待つべき」といった、自分にとって何ができるか/できなさそうか(アフォーダンス)として選手は理解するって考えるんだ。
たとえばここドリブルで「行ける」かどうかっていうのは、たぶん2025年前半までの中山克広だったら、同じシチュエーションでも「行けない」って感じていた。
ただ、2025年後半、その感覚が書き換わって、「行ける」の幅が拡がった
それが中山克広の成長の秘密だと思うんだ
ああー、なるほど。でもどうして書き換わったのでしょうか。
それは、左サイドで出たときにうまく行った。その成功体験が書き換えをもたらしたんだと思う。が、成功体験をするまで書き換えできないんじゃ困るよな。
そこで考えられたのがconstraints-led approach(制約手動アプローチ)だ。
constraint は「縛り」や「制限」って単語ですよね。-ledはそれをベースにした、みたいな単語でしょうか。ネガティブな意味も感じちゃいます。
選手の行動を形づくる条件くらいに考えるといい。たとえばこの3種類の制約がある。
| 制約の種類 | サッカーでの例 |
|---|---|
| 個人の制約 | 身長、スピード、技術、疲労、利き足、経験、心理状態 |
| 環境の制約 | ピッチ状態、天候、観客、相手の圧力、試合の文脈 |
| 課題の制約 | ルール、人数、ピッチサイズ、配置、練習メニュー、監督の指示 |
あ、ミシャさんが好きな縛りトレーニング!ダイレクトのみとかいろんな縛りつけてやりますよね
別にミシャじゃなくても課題制約は使ってるけど、確かにミシャは好きだよな
コーチが
* ここに立て
* こう動け
* このパスを出せ
なんて全部指示できるわけじゃないんだよ。
実際のサッカーは。ゲームじゃないですもんね。長谷川健太さんも清水戦の解説で「監督が全部細かく指示できるわけじゃない」って言ってました。
* そう動きたくなる状況を作る
* その選択肢が見えやすくなる練習環境を作る
* 選手の注意が向くポイントを変える
という発想なんだ。
制約主導アプローチでは、コーチが制約を操作することで、選手が有効な行動の可能性を見つけだしやすくする、つまりアフォーダンスを見つけやすくするっていう考え方をする。
なるほど、あの制約ってそういう意味があるんですか
いや、なかには制約だけ真似して、どういう意図なのかを理解していないコーチも多そうですけど
同じピッチ、同じ相手、同じ味方を見ていても、以前は「ここで出たら裏を取られるかも」が先に見えていた。
ところが監督が変わって、「ここに出れば前進できる」「ここに人をかければ逃げ道ができる」が先に見えるようになった。
だから、選手の技術が急に上がったというより、“見る順番”と“判断の基準”が変わったのではないか。
ってことだ
長谷川さんのときは
* ここに出すと奪われたら危ない
* SBが上がると裏が空く
* まずは失わないことが優先
とみんな考えていたってことですか?
ミシャさんのもとでは同じ場面でもこう見えるようになった。
* 前に人数がいる
* 斜めのパスコースがある
* 奪われても即時奪回に行ける
* ここは前進のチャンス
同じ景色なのに、選手にとっての「使える行動」が変わる。アフォーダンス理論っぽく言えば 知覚されるアフォーダンスが変わった ということだ。
じゃあ枚数をかけろ!ってミシャさんが言うことがどう影響していますか?
前に人数をかけると、実際にピッチ上の構造が変わる。たとえば以下の表みたいに変わる。
| 枚数をかけることで起きること | 選手に見えやすくなるもの |
|---|---|
| 近くに味方が増える | ワンタッチの逃げ道 |
| 相手が誰を見るか迷う | フリーになる味方 |
| 中央に人が立つ | 縦パス、落とし、3人目の動き |
| 前線が相手最終ラインを押し下げる | 中盤の受けるスペース |
| 奪われた直後に近くに人がいる | 即時奪回の可能性 |
つまり「枚数をかけろ」は、選手の心構えを変えるだけでなく、実際に前進のアフォーダンスを増やす制約操作になってるわけですね
フォーメーション図だけを変えても、選手が「危ない」「無理だ」と感じていれば選手は前には出ない。
逆に、味方の配置、練習のルール、監督の言葉、成功体験が積み重なると、同じ場面で「行ける」「出せる」「支えられる」と見えるようになる。
でも枚数をかけろ、って指示だけではすぐには変わりませんよね?
CBやWBが攻撃参加するためには「失っても怒られない」「リスクを取った判断が評価される」という心理的安全性が必要だ。自律性が担保されないと前向きな判断は出てこない。ミシャは伝統的に「攻撃参加しない方をむしろ叱る」スタイルで有名で、これは行動規範の書き換えをもたらす。「攻めるリスク」より「攻めないリスク」が大きいという逆転した規範が短期間で内面化されると、CB・WB・シャドーの判断は文字通り変わるようになる。
そういった指導はこれまでもされていたのではないでしょうか?
ミシャ式の最大の特徴は、攻撃時のポジション変化が「型」として明確に決まっていることだよな。WBが高い位置を取り、シャドーがハーフスペースに入る、という配置が反復練習で身体化される。繰り返しのトレーニングによって、選手のアフォーダンス「どこに行けばいいか分からない」が消えていく。
反復して同じ配置を練習すると、体が自然に動けるようになる。
「次はどこに走ればいいんだろう?」という迷いがなくなるから、攻撃に参加するための心の負担が一気に軽くなる。
「意識付け」が効くためには、それを支える型・反復・成功体験デザインが同時に必要で、ここはミシャの指導力の領域になる。
一般ビジネスでも言う、「型化する」ってヤツですね。
ミシャ式ではかなり型化を進めるので、自分のプレースタイルを強く持っているビッグネームの選手はなかなか輝きにくいのが難点だな。
ミシャ式そのものも、浦和や札幌でのアプローチと変わって来ている部分もありますが、全体的な傾向はわかりました。
少なくとも、2026-2027シーズンまではミシャで行くことは決まっているだろう。両刃の剣の部分はあるが、ミシャの指導力でアフォーダンスを増やした選手自体は大きく成長するはずだ。
残り5試合も期待して見ていこう。





