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梅雨休み課題図書 らいかーるとさんの「アナリシス・ブレイン」を読む (2) 前著 アナリシス・アイはどういう内容だったかを振り返る 第2章以降

らいかーるとさんの新刊『アナリシス・ブレイン』が刊行されました。

この機会に、2019年に刊行された前作『アナリシス・アイ』からあらためて読み直し、その内容を単純な書籍紹介ではなく、「名古屋グランパスに置き換えるとどう見えるのか」という視点でかみ砕いていこうと思います。

本シリーズでは、7月のキャンプインまでの間、『アナリシス・アイ』と『アナリシス・ブレイン』を手がかりに、サッカーを見るための視点、そして名古屋グランパスを見るための補助線を整理していきます。

なお、この記事にアフィリエイトの意図はありません。グラぽの記事ややわらかめコラムを読む目も変わってくる本だと思いますので、興味を持った方はぜひオリジナルを手に取ってみてください。

アナリシス・アイ ~サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます~(小学館新書) 

  • 著者:らいかーると 
  • 出版:小学館新書(2019年)

第1章の記事はこちら

『アナリシス・アイ』第2章:試合観戦のフレームワーク(手順の言語化)

第1章で整理した概念(時間・スペース・配置・選手)を実際の試合観戦にどう使うか、具体的な手順として落とし込む章です。

「試合を通して何を・どの順序で観るか」の7ステップを解説する構成になっています。個人の感覚に任せずに、再現性のある観察手順に落とし込んでいます。

ステップ1:選手の配置図を知る

FC町田ゼルビア・名古屋グランパスのスターティングメンバー・ベンチ
FC町田ゼルビア・名古屋グランパスのスターティングメンバー・ベンチ

試合前に中継で表示されるスターティング配置が分析の基準点になります。

ただし「中継の配置図と実際の配置がずれていることは往々にしてある」と書かれています。特にCBとCHの左右は特にチェックが必要とされます。試合が始まったら実際の配置と照らし合わせ、正しい配置図に修正することが最初のタスクです。

確認すべきポイントは2つ。「普段と同じポジションで起用されているか」(例:ラモスが右CBに入っているなら何らかの意図がある)と、「ボール保持・非保持で配置が変化するか」(例:2019年日本代表は保持時4231・非保持時442)です。

名古屋グランパスでは上記の図のように3-4-2-1の配置で表示されることが多いのですが、3-4-2-1のフォーメーションでいることはそれほど多くありません。変形を重ねていきます。

グランパスのボール保持の際にはまず高嶺朋樹か稲垣祥が下がって4-1-5になります。中盤にボールが出るとさらに変形していきます。ほとんど藤井陽也1バックのような形になって、1-4-5のような形に変形します。

やっかいなのは3-4-2-1から4-1-5変形の際に、高嶺朋樹がサイドに出るパターンと、サイドCBがサイドに出るパターンがあることです。FC町田ゼルビアとのプレーオフでは第1戦では高嶺朋樹が外に捌けることが多く、第2戦では高嶺朋樹が守備ラインに落ちてパス出しに回ることが多くありました。

どちらを採るかは状況による、としかいいようがないのですが、どういう意図で初期配置があり、どういう意図でどのように変形しているのかは「考察のポイント」になります。

ステップ2:キックオフを見逃さない

キックオフはそのチームがその試合でどういうプランで臨むかが透けて見える最初の場面です。繋ぐチームはキックオフから丁寧にパスを回し、速攻志向のチームは相手陣地に蹴り込みます。ゴールキックやGKがボールを持ったときの振る舞いも同様に、チームの意図を読む手がかりになります。

この件、ラグさんの #やわらかめコラム でも試合に言及するとき必ずキックオフの状況から触れていることに気づく人もいるはずです。

最近の流行はサイド奥に大きなボールを送ることです。名古屋グランパスの試合でも、名古屋グランパスの右・左のサイドCBはそれほどサイズがないので、そこを狙って蹴り込むケースが多いと思います。そうするとサイドラインを割ってもゴール近くからのプレー再開になります。そのメリットは大きいです。

WEST地域リーグラウンドのチームはほぼすべてのチームがキックオフから蹴り込んでくるような状況ですので、かつての川崎フロンターレのように繋ぐオンリーのチームは少なくなっているのだと思います。

ステップ3:偽りの序盤戦に注意する

序盤15分は「試合の真の姿」ではないことが多いため、この時間帯の現象から断定するのは危険だと強調されます。奇襲、探り、通常とは異なる慎重な立ち上がりなど、様々な意図で序盤の展開が作られる。試合が「その試合で何度も繰り返される局面のかみ合わせ」に落ち着くまでに最大15分かかると定義し、その後の展開で序盤の現象を答え合わせするよう求めています。

らいかーるとさんは、特に奇襲のパターンを取り上げていました。思い返すとグランパスは風間八宏・フィッカデンティ・長谷川健太、そしてミシャとあまり奇襲をかけるタイプのチームではありませんでした。むしろかけられる側。

ただ長谷川健太前監督のサッカーでは勝負どころでハイプレスをかけることがありましたが、そのハイプレスも90分かけつづけることは体力的に難しいです。

戦い方も時間に寄って変化していくもので、最初のほうは時間限定で仕掛けられることもある、という風に考えておけば良いでしょう。

ステップ4:局面の繰り返しと内容の評価

15分を過ぎると試合は一定の繰り返しに落ち着きます。ここで「内容が良いかどうか」を判断することが分析の肝です。

らいかーるとさんは内容の評価基準を明確にしており、「ボール保持しているから良い」ではなく「チームの狙いが実行できているか」が基準だ、と書いています。

名古屋グランパスもボール保持しているだけ、というときもありました。ボールを持たされているという言い方もできます。第3章以降で語られる崩しができているかどうかのほうが大事なわけです。

具体的には「決定機の数」と「決定機に至る再現性」で判断します。

決定機を狙いをもって繰り返し作れていれば内容は良いと言えます。

ボール非保持でもカウンターで相手ゴールに迫れ、相手に決定機を作らせていなければ内容は良いと評価できます。

再現性を見つけるコツとして「相手の配置に対してどのルートで前進しているか」「相手のプレッシングルールに対してどう局地戦を攻略しているか」を手がかりにすることが薦められています。

ここはわたしの私見で追記しますが、再現性の反対になるのが即興性だと思います。しっかりとした再現性のある攻めがある程度研究されると対策ができます。その研究による対策を打ち破るのが即興性です。

天才による即興性頼りのチームはほとんどの場合あまりうまくいきませんが、きちんとした再現性のなかにスパイスを加えられる天才の即興性だと思います。ただ、こういった即興性をもたらせる選手は希少で、しかも再現性の枠に入ってくれないため使われない、ということがよくあるので難しいなと思います。

ステップ5:移動による変化を見逃さない

試合の均衡、悪く言うと膠着状態が続くとき、なにかを変えなければなりません。自分のバランスを崩すことで相手のバランスを崩すのが1つの方法です。

らいかーるとさんはそれを「移動」による状況打開と説明しています。移動とは選手の配置変更のことで、列移動・レーン移動・斜め移動の3種類が体系的に説明されています。

「列移動」は、前線・中盤・最終ラインを移動する縦の移動になります。その代表はゼロトップ(CFが2列目に下りてCBの守備の基準点をなくし中盤の枚数を増やす)とサリー(中盤の選手が3列目に下りCBのビルドアップを助ける)です。ミシャ式で高嶺朋樹や稲垣祥がCBのラインに降りることも列移動の1種でしょう。

「レーン移動」はSBが内側に入りSHが外に出るような横の移動で、マークの混乱が期待できます。SBを担当した守備者はSBが内側に入ってくると自分がそこに着いていくべきなのか、それとも自分の場所を守ればいいのかという選択肢で迷うわけです。また、もともと自分が見ていた場所に別の選手が入ってくればどちらを基準点とすればいいかで迷わせます。これをらいかーるとさんは「(相手の)思考の時間を削る」と説明しています。「選択を迫る」ことで相手のキャパシティを越えさせようというプランですね。この選択を迫ることは重要な要素で、相手が「こうくる」というのがわかっている状況ではプロのDFはほとんど止めてしまいます。相手が迷っている状態では止められる確率を下げることができます。ミシャ式は単純なレーン移動は決まり事としてはしません。(前線の3枚はかなり入れ替わりますが)ミシャ式でよく次に紹介する斜め移動が行われます。

「斜め移動」は「列移動」と「レーン移動」の要素を組み合わせたものと言えます。簡単に言うと、「前後のポジションを変えながら、同時に左右の立ち位置も変える動き」です。

つまり、単なる「縦に上がる・下がる」でも、単なる「横にずれる」でもなく、

  • 「1列前へ出ながら、外レーンからハーフスペースへ入る」
  • 「1列下がりながら、中央レーンから外レーンへ逃げる」
  • 「相手の背中側へ斜めに消えて、別のレーン・別の列で受け直す」

といった動きです。

例1:ウイングが大外からハーフスペースへ斜めに入る

一番わかりやすい例です。甲田英將が得意な動きです。

右WGが大外で幅を取って相手SBを外に広げます。そこから、パスの出し手が前を向いた瞬間に、SBとCBの間へ斜めに走る。

この動きの効果は絶大です。

相手SBからすると、最初は「外の選手」として見ていた相手が、急に自分の内側・背後に入ってきます。CBからすると、自分の外側から斜めに入ってくるので、マークを受け渡すか、自分でついていくかの判断が難しくなります。

いわゆる「CB-SB間を突く動き」です。

例2:CFが中央からハーフスペースに下りる

CFが中央の前線にいる状態から、斜め後ろに下りて受ける動きです。これは山岸祐也が得意なプレーです。

これは、

  • FW列からMF列へ下りる=列移動
  • 中央から右ハーフスペースへ移る=レーン移動

です。

この動きの狙いは、相手CBを迷わせることです。

CBがついてくれば、最終ラインに穴が空きます。
CBがついてこなければ、CFが中盤で前を向いて受けられます。

特に、トップ下やシャドー、インサイドハーフがその空いたスペースに飛び出すと効果的です。

例3:インサイドハーフ(シャドー)が中央から外の高い位置へ出る

中盤の選手が、中央寄りの位置から斜め前に外へ流れる動きです。これは木村勇大が左サイドでよくやる動きです。相手の中盤のマークから逃げながら、サイドで数的優位を作ります。

たとえば、左WB中山がボールを持っているときに、左IH木村勇大が中央近くから左大外寄りへ斜めに出ます。すると、相手の中央の選手はついていくべきか迷います。ついていけば中央が空き、ついてこなければサイドでフリーになります。相手のバランスを崩すことでフリーの選手を創る仕組みなわけです。

これはミシャ式の典型的な動きと言えるでしょう。ミシャが強い影響を受けているイタリアASローマの監督ガスペリーニはさらにこれを進化させ、サイドの三角形を作ってボールを前進させる動きを仕込んで来ます。

例4:WBが大外から内側へ入りながら前進する

ウイングバックが大外に立っていたところから、斜め前にハーフスペースへ入る動きです。これは、相手のサイドハーフやSBの視野から消えやすい動きです。浅野雄也がやろうとしていることがこれなのですが、少々バレバレ気味なのですが、それをチカラでこじあけているのが現状の浅野雄也のプレーです。

大外にいる間は「サイドの選手」として認識されますが、斜めに内側へ入ることで、相手SB・CB・ボランチの中間に立てます。そこで受けられれば、クロスだけでなく、シュート、スルーパス、落としの選択肢が生まれます。

例5:ビルドアップ時にCBが外から内へ運ぶ

ボール保持者の斜め移動もあります。たとえば右CBが右外寄りでボールを持ち、相手FWのプレスを外しながら、斜め前の中央寄りへ運ぶ。これもミシャ式のサイドCBの典型的な動きです。特に原輝綺がこのあたりが上手ですね。

この運びによって、相手の1列目を越えたり、相手セントラルを引き出したりできます。CBが斜めに運べると、単なる横パスよりも相手の守備ブロックを動かしやすくなります。

なぜ斜め移動が有効なのか

一番大きい理由は、相手のマーク基準をずらせるからです。

縦だけの移動なら、相手は「ついていくか、受け渡すか」を比較的判断しやすいです。
横だけの移動も、同じ列の中でスライドすれば対応できます。

でも斜め移動は、列とレーンを同時にまたぎます。

そのため相手からすると、

  • 「これはCBが見るのか?」
  • 「SBがついていくのか?」
  • 「ボランチが受け渡すのか?」
  • 「ラインを下げるのか?」
  • 「スライドするのか?」

という判断が複数発生します。

守備側の判断が一瞬遅れる。その一瞬に、受け手がフリーになったり、背後を取れたりします。

斜め移動は、単なる「斜めに走ること」ではなく、「列を変えることで相手の前後関係をずらし、レーンを変えることで相手の左右の担当をずらす動き」です。「相手の誰が対応するのか」を曖昧にするための動きとも言えるでしょう。
列移動だけ、レーン移動だけよりも、相手の認知と受け渡しに負荷をかけられるのが強みです。

ピンどめ

逆に移動しないことで相手を困らせる「ピンどめ」概念も紹介されています。ピンどめとは、特定の選手を配置することで相手の守備の基準点を引きつけ、別の選手に時間とスペースを与える作戦です。初期グアルディオラのWGをCB・SBの中間ポジションに置く形(2人で4人をピンどめ)が具体例として挙げられています。

ボール非保持側の移動については、相手のビルドアップ配置に同数でプレッシングをかけるための調整移動と、「慣れ」を壊すための配置変更(アトレティコ型の442→451切り替え)が説明されます。

ステップ6:局面変化を見逃さない

選手の立ち位置や動きを変える「移動による変化」が、ある特定の局面における改善・修正だとすれば、もう一段階大きな発想として、局面そのものをひっくり返して状況改善を狙う作戦があります。これが「局面変化」と呼ばれる手段です。

ミシャ式で、速攻を決められずボールを持たされているときには何故か点があまり入りません。ミシャ式にはこんな壁がつきまといます。ボールを握り続けていても決定機が生まれる気配がなく、立ち位置をずらして打開を図っても相手にすぐ対応され、移動による変化がまるで予想されていたかのように無効化されてしまう……。町田のように引いて構える相手に対しては、まさに起こりうる展開と言えます。

そんなとき、「ならば、いっそ相手にボールを与えてみよう」と発想を切り替えるのが局面変化です。つまり、〈自分たちがボールを保持し、相手は保持しない〉という局面の噛み合わせを、〈自分たちが保持せず、相手が保持する〉という逆の噛み合わせへと、意図的にひっくり返す作戦です。

なぜ、わざわざボールを手放すのか

狙いは明確です。相手の保持者からボールを奪い返し、相手の配置がまだ整っていない瞬間にゴールへ迫る。これができれば理想形ですよね。

名古屋が自分たちの保持と循環だけで相手の配置を崩しきれないのなら、いったん相手にボールを渡し、そこから奪い返すことで相手の配置を壊す。これも立派な作戦になります。整った相手を正面から崩すのが難しいなら、相手が前に出てボールを持った「守備が整っていない状態」を、こちらから作り出してしまえばいい、という理屈です。

ただし、ここには絶対の前提があります。奪い返す術がなければ、すべては絵に描いた餅になってしまいます。相手の保持に対抗できる非保持時の振る舞い(プレッシングの設計や奪いどころの共有)が準備されていなければ、とてもできる芸当ではありません。保持の局面だけでなく、ボールを手放した後にどう奪い返すかまでがセットで設計されて、初めて成立する作戦なのです。

奪えそうにない相手への、もう一つの手

では、相手からボールを奪えそうもない場合はどうするのでしょうか。実は、まだ残された手もあります。保持からロングボールを連発し、ボールが行ったり来たりする状況を作為的に生み出すのです。互いに蹴り合う展開になれば、相手の配置もまた整わなくなり、こちらが付け入る隙が生まれていきます。

結局のところ、これら一連の局面変化は、すべて同じ目的のもとにあります。整った相手に何度も真正面から勝負を挑む消耗戦から抜け出し、「相手の配置が整っていない状況に、自分たちが遭遇するにはどうすればいいか?」

その問いに答えるための手段なのです。

ステップ7:残り時間とスコアを考慮する

スコアと残り時間は試合の現象を大きく変える変数です。

この局面であればどうすれば勝利をに繋がるのか、ということを考えながら試合を見てみましょう。

リードしたらボールを保持し続けるのか撤退するのか、ビハインドで残り時間が少ない状況でパスをつなぎ続けることの是非など、両チームがスコアと時間に応じてプレーの優先順位をどう変化させたかを観察することが求められます。

名古屋グランパスがミシャ監督政権下でも正直上手ではない部分です。たとえば1点差で勝っている試合終盤の進め方はもっと考えても良いのではと感じることは多々あります。

『アナリシス・アイ』第3章:「ゾーン1 〜ビルドアップとロングボール〜」概要 

第3~5章では、ピッチを「ゾーン1(ビルドアップ)→ゾーン2(崩し)→ゾーン3(ゴール前)」に三分割し、各局面で何を見ればよいかを丁寧に説明しています。「列とレーン」「ピンどめ」「ゼロトップ」「サリー」「偽SB」など、現代サッカーの戦術概念を豊富に導入しながらも、すべて「時間とスペース」という共通言語で説明し直しています。

ゾーン1・2・3の役割
ゾーン1・2・3の役割

第3章ではゾーン1の分析が詳述されています。

ゾーン1の攻防は「ボールを前進させたいvs前進させない」のせめぎ合いです。前進の成否は「フリーな選手にボールを届けられているか」で判断できますが、らいかーるとさんからは「ボールが前進しても受け手に時間もスペースもなければ良い前進とは言えない」という基準も示されています。

前進の手段は大きくビルドアップ(ショートパス)とロングボールの2種類に分けられます。

ビルドアップ(ショートパスによる前進)

地道にショートパスで相手の1列目を無効化していく作戦で、シティや川崎の代名詞として紹介されます。数的優位を前提に行われるため、ボール保持側の注目ポイントは「フリーマンを発見できるかどうか」にあります。

分析チェックポイントは2点です。

チェックポイント1はCBの距離です。CB同士が近すぎると相手は1人で2人のマークを担当でき、プレッシングの過負荷が生まれません。距離を広く取ることで相手を横に引き延ばし、中間ポジションでのプレーを可能にします。単純に相手の移動距離を伸ばす効果もあり、CBのボール保持能力が足りない場合は他の選手が移動して3人で横幅を確保する対応になります。

チェックポイント2は列の移動の有無です。DHが下りる形・IHが下りる形・片方のSBが上がる形など多様なパターンがあります。移動が起きるトリガー——2CBでは繋げないからか、相手プレッシングの枚数に合わせた変化か、機械的にやっているだけか——を見極めることが求められます。ビルドアップ時の移動は基本的に数的優位を作るため2バック→3バックへの変化が主流ですが、近年はDFラインの選手が列を上げてプレッシング回避を狙う逆パターンも出てきています。

「サッカーは11対10」という整理も本章で登場します。相手GKはFWのマークに参加しないため、GKをフィールドプレーヤーとして計算すると自陣ゾーン1では常に数的優位にある。この前提があるから、ボールを繋ぐことはリスクに見えても理論上は高確率で可能だ、という考え方です。

ここからは名古屋グランパスのビルドアップに関するグラぽ編集長の私見のブロックです。

昨年までの名古屋のビルドアップが苦しかった理由は、単に後方のパス能力だけではなく、守備時の配置と攻撃開始時の配置がつながっていなかったことにあったと思います。守備ではWBや中盤の選手が最終ライン近くまで下がり、サイドで挟み込んで奪う形が多かった。これは守備としては堅実でしたが、奪った瞬間に中央で前向きに受ける選手がいなくなる。つまり中盤の選手はいるけれど、前進のための位置ではなく、守備対応のための位置に置かれていたわけです。

その結果、ボールを持ったCBやGKからすると、中盤に差し込むパスはリスクが高く見える。仮に入っても受け手は後ろ向きで、すぐに潰される。そうなると、比較的安全に見えるサイドへ逃がすか、前線へのロングボールで局面を飛ばすしかなくなる。サイド経由そのものが悪いのではなく、中央を使ったうえで外へ展開するのではなく、中央を使えないから外へ逃げる形になっていたことが問題だったのだと思います。

その意味で、昨年までの名古屋にも「中盤の空洞化」はありました。ただし、ミシャ式のように前線へ人を送り込んだ結果として中央が空くのではなく、守備のために人が下がり、奪った後に前進の足場がなくなるタイプの空洞化でした。だから、ボールを持っても中盤を経由できず、サイドかロングボールに偏る。ロングボールで失えばまた守備に戻る。この循環こそが、昨年までの名古屋がビルドアップで苦しんだ大きな理由だったのではないでしょうか。

本論ではありませんが、個人的な解釈として、5-2(CB3枚+下がったWB2枚とセントラルMF2枚)のブロックが3-4ブロックのように網を張るかたちにならず、ほとんど線のようになっていたことが守備ブロックが低い割りに失点が多かった理由だと思っています。ライン1つだけの守備はラインを抜ければ打破できてしまいます。さらには5~6枚下がっていると、前にいる選手の数が少なくなり、そうなるとパスコースもありません。これらは長谷川健太前監督が意図したものではなく、押し込まれた結果そうなっていた、というのが個人的な解釈です。

網で守るか、線で守るか
網で守るか、線で守るか

さて、名古屋グランパスの話はおいておいて、らいかーるとさんの本に戻ります。

ロングボールによる前進

ビルドアップによる前進のチェックポイントを確認したところで、次はロングボールによる前進を見ていきます。ポイントは二つ、「何を目的にロングボールを選んだのか」と、「そのボールが届いた先で何が起きるのか」です。

名古屋は地上戦での素早い崩しを志向するチームですが、ロングボールを「保持の放棄」ではなく素早く「崩しができるだけのスペースがある場所に届ける」という「目的を持った一つの選択肢」として整理しておくことには意味があります。

目的1:マイボールのまま前進する

ロングボールの目的がマイボールのままの前進であれば、蹴った後も自分たちがボールを保持していなければなりません。そのために重要になるのが、「どのエリアへ蹴り込むか」です。

最近の流行は、空中戦に強い選手を相手のSBと競り合わせるパターンです。これを成立させるには、「ここなら空中戦で勝てる」というエリアを事前に見つけておく必要があります。さらに、そのエリアの周辺に、こぼれ球(セカンドボール)を拾う選手を配置できているかどうかも欠かせません。海外でいえば、ユベントス時代のマリオ・マンジュキッチがよく相手SBと競り合っていました。らいかーるとさんはこれを「マンジュキッチ大作戦」と呼んでいます。

名古屋で言えば、2025年グランパスでは空中戦に強さのあるFW山岸祐也を相手SBの頭上で起点にし、その周囲にセントラルMFや和泉がセカンドボールの回収役として陣取るという形が、地上のビルドアップが詰まったときの一つの逃げ道になっていました。

なお、この作戦への対策はシンプルで、空中戦に強い選手をSBに置くことです。らいかーるとさん指摘の2019年当時の日本代表でいえば酒井宏樹がその典型で、かつてアーセナルにいたバカリ・サニャも、空中戦に強いSBとして存在感を発揮していたとのことです。

目的2:局面を移行させる

前章のステップ6で書いたことの繰り返しになりますが、ロングボールの目的が局面の移行にあるなら、必ずしもマイボールになる必要はありません。自分たちの保持局面から相手の保持局面へ移すことが目的なのですから、むしろ「相手にボールを渡す」というプレーをあえて選ぶことになります。

ただし、自陣ゴール前で相手にボールをプレゼントすればゲームオーバーです。ですから、「ボールはあげますが、あなたの陣地から攻め直してくださいね」というメッセージ付きのロングボールこそが、局面移行を狙うチームの最善手になります。

もちろん、蹴った先の相手陣地でマイボールになれば、それに越したことはありません。しかし、相手ボールになっても構わないと割り切っているので、狙ったエリアでの成否そのものには、それほどこだわりません。こだわるべきはただ一点、「自分たちの非保持時の配置が整った状態で相手にボールを渡せているか」です。そもそも相手にボールを渡す行為自体に、陣地の回復や、自分たちのハイプレス局面への移行という目的があるからです。

逆に、「相手に渡したのに、こちらの守備の準備が整っていない」となれば、一気に試合の流れを持っていかれかねません。また、「渡したうえでプレッシングで勝負だ」と意気込んでも、相手のほうが保持に活路を見いだしてしまうようだと、せっかくの局面移行がかえってネガティブな状況を招きます。現代サッカーは、あらゆる局面の噛み合わせに対応できるよう幅を持つか、「この局面なら我が軍は最強だ」と、一点を磨き込むか、そのどちらかを求められているように感じます。

名古屋グランパスにとって重要なことは、相手にボールを渡す前提でロングボールを蹴るなら、ミシャ式の保持の設計と同じだけ、ボールを手放した後の奪い返しの設計が整っていなければ成り立たない、ということです。

目的3:背後を狙う

ロングボールは空中戦のためだけにあるわけではありません。相手のディフェンスラインの裏へ蹴り込むパターンもあります。狙いは、快速FWを走らせること、あるいは相手にボールを渡して相手陣地からプレッシングを始めることです。

これはゴールを直接狙うというより、ボールを相手陣の奥深くへ送り込むことで、自陣から遠いエリアでのプレー時間を増やす狙いがあります。かなりの安全志向の選択といえます。

ただ、名古屋グランパスの場合はここについてはそこまで有効に使えていない印象です。大きすぎてラインを割ってしまうことが多く、そこのコントロールは要改善です。

ロングボールを蹴る選手

ボールを持つ選手がフリーな状況であれば、質の高いロングボールを蹴ることが求められます。ここでいう質とは、チームの狙いに合ったボールを蹴れるかどうか、という意味です。

空中戦で優位に立てる選手がいるなら、競り勝ちやすい、ふわっと滞空時間のあるボールを。スペースへの走り込みが得意な選手がいるなら、走り出すタイミングに合わせて、狙ったエリアへ置くようにボールを送る。狙いごとに、蹴るべきボールの質は変わってきます。

また、相手の守備が捨てているエリアがあるときは、そこへ正確に供給できるかどうかが重要になります。ゾーンディフェンスの泣きどころである逆サイドへ、正確なロングボールを安定して届けられる選手がいれば、それは特別な存在といえるでしょう。

最近はキック精度が桁外れのGKが続々と登場しています。元祖は元アルゼンチン代表のロベルト・アボンダンシエリ、書籍執筆当時(2019年)の最新型はブラジル代表のエデルソンでした。ロングキックの精度は、いつのまにかGKの標準装備になりつつあります。この進化が続けば、ボール非保持側が常にGKまでプレッシングに行かざるを得ない未来が来るかもしれません。名古屋にとっても、シュミット・ダニエルやピサノアレクサンドレ幸冬堀尾の正確な配球は、ロングボールを「逃げ」ではなく「攻撃の起点」に変える大きな武器です。

クリアー

同じロングボールでも、例外として扱うべきなのがクリアーです。クリアーは、選手の配置が崩壊し、今にも失点しそうな状況を立て直すために行われます。

混乱を整理する時間を稼ぐため、クリアーはピッチの外、あるいは相手陣地まで蹴り出す必要があります。つなぐかクリアーするかの判断基準は、周囲の配置が整理されているか否かです。配置が整理されていれば、自陣からつなぐ判断は、一見危険に見えても正しい選択といえます。

しかし、配置が整理されていなければ、自分はパスを出せても、受けた次の選手にさらにつなぐ選択肢があるとは限りません。ですから選手は、チーム全体の配置が整っているかを常に認知している必要があります。ボールをつなぐときは、自分の未来だけでなく、隣の選手の未来まで見ながらプレーしなければなりません。隣の選手の未来が見えないのであれば、何かアイデアを提供するか、あるいはパスを出さないと判断することが、正しい選択といえるでしょう。

『アナリシス・アイ』第4章:「ゾーン2〜スペースの出と配置の破壊〜」

第4章と第5章は第3章で導入したゾーン分析の続きで、ゾーン2(中盤エリア)とゾーン3(ゴール前)における攻防の分析手法を扱います。ゾーン1(ビルドアップ)が「どう前に運ぶか」であるのに対し、ゾーン2は「どう相手を崩すか」、ゾーン3は「どうゴールを奪うか」がテーマです。

ゾーン2は、試合中に最もボールが存在するエリアです。ゾーン1からのビルドアップで前進に成功すれば、時間とスペースを持ったままゾーン2へ突入できるのが大きなメリットです。一方、ロングボールで運んだ場合は、空中戦になったり、相手がそばにいる状況でのプレーを余儀なくされたりします。名古屋が地上での前進にこだわるのは、まさにこの「良い状態でゾーン2に入る」ためでもあります。

ゾーン2におけるボール保持側の目的は二つ、「相手ゴール前にスペースを作ること」と、「相手の配置をイレギュラーな形に崩すこと」です。

そのためには、相手の2列目と3列目の間でボールを受ける、相手の2列目を越えるボールを通す、ゴール前へのパスコースを作る、といった作業が必要になります。

対するボール非保持側は、ボール奪取からのカウンターを狙います。

では、ゾーン2でこの目的を達成するために、相手を「崩す」手段にはどういったものがあるでしょうか。ここでらいかーるとさんは5つに整理してくれています。

崩しの手段1:ボールの横移動

ピッチの横幅は広く。これを4人でカバーするのは物理的に不可能だ、とらいかーるとさんは言います。1人の受け持つエリアは17メートル。隣の選手とそれだけ離れていては、カバーリングと一口でいっても相当難しいことなのが想像できるでしょう。

そのためボールの非保持側は、外のレーンやボールサイドでないエリアを捨て、味方同士の距離を縮めます。これを「圧縮」と呼びます。誰かが突破されても、すぐカバーに行ける協力体制を作るわけです。

この原則に対してボールの保持側は、相手同士の距離を広げ、その協力体制の無効化を狙います。相手が密集しているところへ突っ込むのは、どう考えても非効率です。(ちなみに元名古屋監督の風間八宏氏の理論では、その狭いところを抜ければフリーのスペースがあるぜ理論をお持ちの方で、いやたしかにそうですが難易度高いですよねというものでした。)

だからこそ、相手が捨てているエリア、ピッチの横幅ぎりぎりまでボールを運び、相手を動かす必要があります。「タッチラインを選手に踏ませろ」とよく言われるように、サイドに選手を置くことが何より重要です。浅野・甲田・中山が重用されるのはそういうところです。運びたくても、そこに誰もいなければボールはタッチラインを割っていくだけだからです。

さらに重要なのが「飛ばすパス」です。元日本代表監督のイビチャ・オシムは「各駅停車でボールを回すな」と言いましたが、隣のポジションに渡すのではなく、もう一つ奥の選手へ通すことで、相手をより大きく動かせます。

それを踏まえてミシャ式でも、そしてミシャ式に限らず重要視されているのが「サイドチェンジ」です。一気にサイドを変えるロングのサイドチェンジは、ボールの前進を可能にし、数的・質的優位で相手を殴る一対一にもつながります。相手がピッチのどこかを圧縮すればするほど、それ以外の逆サイドにスペースが生まれます。だからこそ、そのエリアへ正確に届けられるロングボールの蹴り手は、希少価値が高いのです。名古屋でいえば、シュミット・ダニエルや左右のCBから逆サイドへ一発で展開できるかどうかが、相手の圧縮を逆手に取る鍵になります。守備だけで言ったら三國ケネディエブスや佐藤瑶大らが左右のCBになりそうですが、原輝綺や徳元悠平が多くの試合で出場している理由はここにあります。

崩しの手段2:ボールの縦移動

崩しには横幅だけでなく縦幅も必要です。縦にボールを動かす最大の利点は、相手の視野を、ひいては身体の向きを動かせる点にあります。自分の列を越えるパスが通れば、DFはボールへ身体を向けて走らざるを得ません。「背後を取る」という言葉には「相手の向きを変えさせる」という意味が含まれている点が肝心です。

非保持側には「マークとボールを同一視野に収める位置に立つ」という原則があります。どちらかを選べと言われればボールが優先されます。だからこそ保持側の破り方は二つに集約されます。

一つは相手の視野外にボールを運ぶこと、

もう一つはマークされた味方が相手の視野外へ動くことです。

視野外にボールが出れば、相手はまずボールを見ようと向きを変え、本来見るべきマークは一旦後回しにせざるを得ません。

要するに保持時は、ボールを動かすこと以上に「相手を動かすこと」が重要です。走らせるのと同じくらい、視野を動かし向きを何度も変えさせることが大切で、その連続が集中力の欠如と疲労を生みます。そして「相手が視野を確保しようと向きを変えた瞬間にマークを外す」のが保持側の原則です。向きをひっくり返すほどの楔でなくとも、ボールが動けば人はそれを見ます。パス交換で視野を揺らし続け、その過程でフリーな味方を生み出すこと。これも保持側の狙いの一つです。

名古屋グランパス目線の事例:ミシャ式の「縦パス→背後」のメカニズム

この原則がそのまま設計図になっているのが、2026シーズンからミシャが名古屋に持ち込んだサッカーです。基本は「3-4-2-1」で、攻撃のスイッチが入った瞬間にウイングバックが高い位置を取り、5トップに近い形へ可変するのが真骨頂です。横幅は両WBが大外で確保し、縦の楔を刺す担い手としてシャドー2枚がライン間に立ちます。ここに、らいかーるとさんの言う「縦移動で相手の向きを変える」構図をそのまま落とし込めます。

具体的には、次のような一連の動作になります。ボランチ(森島のような配球役)が一列降りてボールを引き出し、相手2列目の脇からライン間のシャドーへ縦パスを差し込みます。すると相手ボランチかCBは、そのボールを視野に収めようと身体を内側へ向け、食いつかざるを得ません。らいかーるとさんの言う「ボールを優先して見る」瞬間です。マーク対象だったはずの選手は、その一瞬だけ視野から外れます。このズレが生まれた刹那に、逆サイドのシャドー、あるいは大外を駆け上がるWBが相手の背後(視野外)へ走り込みます。これが名古屋の狙う「縦パスで向きを変えさせ、空いた背後を突く」典型パターンです。Football LABでいう Line Break Run の価値も、まさにこの「相手が向きを変えた瞬間」に最大化されます。

視線の移動で背後を取る
視線の移動で背後を取る

このとき重要なのが、最終ラインからの配球の質です。フィジカルタイプでパス出しの質が低い選手をセンターCBに置くと、フィジカルの強さでハイラインは維持できる一方、ボランチへの単純なパスが増え、相手守備を動かす配球は期待しにくい傾向があるというところです。

「縦に動かして相手の向きを変える」という今回の原則に照らせば、CBの配球が横(安全)に流れるほど、相手は身体の向きを変えずに済み、視野を保ったまま守れてしまいます。だからこそ展開力のあるボランチを置いてビルドアップの負担を肩代わりさせる設計が必要になります。奪取や守備の能力が決して高いわけではない森島司が効く理由がここにあります。

らいかーるとさんの言う「相手を動かす」という発想が、名古屋のメンバー選定論にまで直結しているわけです。

まとめると、ミシャ式の可変は「横幅(WBの幅出し)で相手を広げ、縦パス(シャドーへの楔)で相手の向きを変え、その向き替えの一瞬で背後を取る」という、らいかーるとさんの原則を90分間ループさせる装置だと言えます。

崩しの手段3:リズムチェンジ・テンポチェンジ

「ずっと攻め続けているのに点が入らない」というのは、サッカーでよく見る光景です。理由の一つは、自分たちの攻撃に相手が慣れてしまうこと。慣れはプレーの馴れにつながり、繰り返しの判断による疲労を選手に与えます。

だからこそ、「これくらいのスピードで攻めてくるだろう」という相手の予測を裏切る必要があります。一定のスピードで回し続けるのではなく、パスの強弱を意図的に使い分け、「スピードが変わるかもしれない」という意識を相手の脳に刻み込むのです。

パススピードの変化を見せると同時に、同じ距離のパスを続けないことでも追い打ちをかけられます。選手の配置を変えて選手間の距離を変えれば、パスのテンポにも変化が生まれます。保持のリズムとテンポを変え続け、相手に慣れさせない。

これがゾーン2では大切になってきます。

ミシャがよく言う、もっとアイデアを!という言葉はこのような工夫ができる余地が残っているという伸びしろなのだと思います。

崩しの手段4:複数の選択肢

ゾーン1からビルドアップで持ち上がってきた場合、その良い流れを切らないためにも、相手陣に入ったフリーの保持者に対して、味方がどれだけ多くの選択肢を提供できるかが、このエリア攻略の鍵になります。要は「パスを受けられる選手をどれだけ用意できるか」です。

選択肢が多いほど、保持者は相手と駆け引きができます。相手からすれば「誰に出すのか」を読みながらのプレッシングになるので、選択肢が多ければ多いほど、守備側の苦悩は続くことになります。

崩しの手段4-1:三角形(外か内か)

パスコースを作る動きで最もよく見られるのが、保持者を頂点とした「三角形」です。保持者の右斜め前と左斜め前に選手を置き、二つの選択肢を与えます。

真正面ではなく斜め前に立つ理由は、受け手の身体の向きにあります。真正面で受けるとゴールを背にすることになり、視野が狭くなります。斜め前で待ち、ゴールに対して半身の姿勢を取れれば、その分だけ視野を広く保てます。また非保持側にとっても、斜めのサポートのほうが、相手とボールを同一視野に収めにくい厄介な形になります。

外の選手にボールが出たら、内側にいた選手が一気に外の選手の前方へ走り抜け、新たな選択肢を生む、ここまでが一連の流れです。

崩しの手段4-2:ひし形(外か内か奥か)

近年流行しているのが、保持者を頂点とした「ひし形」です。三角形に縦幅を加えることで、選択肢をさらに増やします。

しかし、ひし形の本当の怖さはそれだけではありません。この配置関係がさらに乱れていくことで、非保持側はいよいよ困った状況に追い込まれます。

たとえば、横幅を取っているSBが上下に動く。このとき非保持側はどう対応すればいいのか。さらに、奥のCFが横のSHと入れ替わったり、シンプルに列を下りてきたりすれば、プレッシング側は「人を見るか、場所を守るか」という難しい決断を次々と迫られます。

相手に、変化なしには対応できない状況を突きつけることがこの戦術の狙いです。相手の初期配置や守備ルールを壊せる準備ができているかどうかに、日々の練習の成果が表れます。試合分析の際は、その準備をしっかり見抜けるようになりましょう。

崩しの手段4-3:ポジションチェンジ(旋回)

とはいえ、こちらが用意した戦術に相手がまったく対応できない、ということはサッカーでは滅多にありません。だからこそ、準備した配置をさらに改良する必要が出てきます。

単純に人数を増やして形を変える(三角形→ひし形)のはスタンダードな策です。ただし、カウンターのリスクを考えれば、人数を増やすのはどのチームでも気軽にできるわけではありません。そこで、人数を増やさずに配置を改良する最もポピュラーな策が「ポジションチェンジ」です。

三角形の配置に対して、非保持側がよく取る対策が、マンマーク気味の対応です。そのルールを逆手に取り、三角形を構成する選手たちが立ち位置を入れ替えます。これがポジションチェンジの基本です。その動きがくるくる回っているように見えることから、私はこれを「旋回」と呼んでいます。相手はマンマークで対応しようとしても、持ち場を離れてどこまでもついていくのは困難です。相手の対策を逆手に取った、きわめて戦術的な作戦といえます。

この「旋回」こそ、ミシャ式の中心的な概念です。ミシャのサッカーは、可変的な配置と選手の絶え間ない入れ替わりによって相手のマークの基準点を消し続けるところに本質があります。

基本布陣は「3-4-2-1」で、攻撃のスイッチが入った瞬間に前述の通り5トップに近い形へ可変します。この可変の本質は、旋回の連続です。 

森島がパスコースを作り、サイドCB佐藤瑶大が幅を取り、本来のサイドCBの位置に高嶺朋樹が落ちて立ち位置を入れ替える、前段でも触れた一連の動きは、まさにこの旋回の実装にほかなりません。

さらに重要なのは、選手を入れ替えると、それぞれに与えられた役割も変わるという点です。選手は駒ではなく、一人ひとりに個性の違いがあります。ですから、入れ替えた後も今まで通りの機能性が保たれるかというと、それはなんともいえません。しかし、その個性の差異こそがピッチ上の現象に影響を与え、相手の「慣れ」を崩す要因にもなります。

たとえば、攻撃の起点となる選手がうまくプレーできていないとします。その場合、フリーの味方を見つけて届けられる選手や、相手を自分に引きつけて周囲に時間とスペースを供給できる選手と入れ替える、という修正が必要になります。この種のポジションチェンジは、相手対策というより、自分たちの修正という意味合いが強いものです。

ちなみに補強の文脈で面白いのは、高嶺朋樹が2026年1月に北海道コンサドーレ札幌から期限付きで加入した選手だという点です。高嶺朋樹はコンサドーレでキャリアを積んでおり、ミシャが札幌で確立した可変システムの「旋回」を、いわば原産地で体に入れてきた選手と言えます。立ち位置を捨ててマークの基準点を消す動きに違和感がないこと。これは旋回をグランパスに実装する上で重要な要素でした。

らいかーるとさんの「入れ替えれば役割も変わる」という指摘に照らせば、高嶺のように複数ポジションをこなせる選手が旋回の要になるのは理に適っています。 

崩しの手段5:複数の守備の基準点で生まれるズレ

話はゾーン1に戻りますが、「3バックに対して、2トップでどうプレッシングをかけるか」という命題があります。2人で3人に守備の基準点を置き、ボールを奪いきるのはなかなか難しい。そこで非保持側は、数的不利では奪取を諦める代わりに、「相手に自由な前進だけはさせない」という狙いへ切り替えることが多くなります。たとえば、攻撃の起点づくりが苦手な選手のほうへボールを誘導する、といった形です。

これと同じ状況を、「ゾーン2の非保持側の2列目でも起こしたい」と狙うことがあります。相手の2列目が4枚なら5枚、3枚なら4枚を用意すれば、このエリアでも「3バックに2トップでどうプレッシングするんだ問題」と同じ構図が生まれます。

ただし、これが狙えるのは、相手の1列目がプレッシングに熱心でない場合に限ります。狙うのは相手の1列目と2列目の間なので、1列目のFWが戻ってくると、この作戦は使えません。とはいえ、「スター選手ほど熱心に守備をしてくれない問題」は、ビッグクラブの悩みの種として存在し続けています。彼らの1列目は守備をしない、あるいは免除されていることが多い。つまり、そうした相手を前にしても勇敢にボールを握るチームにとって、ここは“ご褒美”のようなエリアになるわけです。

名古屋グランパスならではの逆説があります。ミシャ式は守備では札幌時代に確立したオールコートマンツーマンを基本とするシステムを採るため、CFと2枚のシャドーにも前線から人を捕まえる仕事が求められます。つまり名古屋の前3枚は、相手の3バックにも3つの基準点を置けるので、純粋な2トップのチームが抱える「3バックに2トップ問題」を相手に起こさせにくい構造です。らいかーるとさんの言う「ご褒美」エリアを相手には献上しない。そのため攻撃で2列目に枚数を足す思想と、守備で前から人を捕まえる思想が、ミシャ式という一つの設計思想になっている点が読みどころになります。 

『アナリシス・アイ』第5章:「ゾーン3〜ゴール前の攻防〜」概要

いよいよゴール前、ゾーン3に到達しました。ここで最も大切なのは、当然ながらゴールを決めることです。時間もスペースもなく、決めたい側と決めさせたくない側のせめぎ合いが最も白熱するエリアでもあります。

らいかーるとさんが繰り返し強調するのは、「役割分担の線引き」です。シュートまでの設計図づくりはチーム全体の仕事だが、最後にゴールを沈めるのは選手個人の能力次第。

「決定機を作るところまでは準備する、決めるのはお前たちの仕事だ」というのが世界中の監督の本音だ、というわけです。

だからこそ、監督のプランや試合内容を評価するときは、ゴール数そのものではなく決定機の数を基準にすべきだ、という主張につながります。

ここには、チーム作りの順序という重要な示唆もあります。「どう繋ぐか」「どう守るか」から考え始めると、最後に「で、誰がどう点を取るの?」と行き詰まるのです。

だからゴールの取り方から逆算せよ、と。

ビッグクラブなら年20点取れる選手を札束で連れてきてそこから逆算できますが、そうした絶対的な得点源がいないチームは、全員で得点数を賄うしかありません。名古屋グランパスの売上高はJ1で10位。金満のイメージがありますが、実はJ1では飛び抜けた補強費を持っているわけではありません。若手の有望株は名古屋グランパスU-18卒頼り。数多く補強しているように見える実績ある選手も、実は年齢が高めでベテラン頼りです。移籍金(契約解除金)も実は安めなわけです。まさに後者のクラブであるというところです。

そこで頼りになるのが、相手に新たな問題を突きつけて解決を強いる「戦術的なプレー」です。この章のテーマは自チームの得点設計そのものと言えます。

ビエルサゾーンから打て

近年のCFは攻撃だけでなく、守備でも忙しい。時にはボールを貰いに中盤まで降りる。そうなると仕事量が過剰です。そうして走り回った結果、肝心の場面でゴール前にいない、あるいはキャプテン翼のゲーム風に言うと「くっ、ガッツが足りない」という現象が頻発します。

くっ!ガッツがたりない
くっ!ガッツがたりない

ですから、CFをゴール前に留め置くか、CFに多くの役割を担わせるなら、代わりにゴール前へ侵入する選手をあらかじめ用意しておく必要があります。ここを曖昧にすると、ボール周辺は人が多くて保持は安定するのに、ゴール前は無人で得点の気配がまるでない、という典型的な袋小路に陥ります。ミシャ式のように可変的でCFも流動的に動く名古屋にとって、「誰がフィニッシュの局面でゴール前を埋めるのか」は、保持の心地よさに溺れないための生命線です。

次に問題になるのが、どこから打つかです。

コンウェンさんの記事を読んでる方はご存じかもしれません。

コンウェンさんが気づいたのが、「名古屋グランパスって正面からのシュート多くない?」です。

順位決定プレーオフFC町田ゼルビア戦のシュートマップ
順位決定プレーオフFC町田ゼルビア戦のシュートマップ

先日の順位決定プレーオフのシュートマップです。FC町田ゼルビアも良い位置から打っていますが、名古屋グランパスもかなり正面からのものが多いことにお気づきでしょう。

このゴール正面に近い、左右のゴールポストとペナルティエリアの角を結んだ台形のエリアを、「ビエルサゾーン」と呼んでいます。マルセロ・ビエルサが定めたとされ、ここからのシュートは決まる確率が高い、というより、これ以外のエリアからは確率が大きく下がります。

ビエルサゾーンと非ビエルサゾーン
ビエルサゾーンと非ビエルサゾーン

ビエルサゾーンが重要な理由をらいかーるとさんは次のように説明しています。

「GKの視点から見て、ビエルサゾーン以外からのシュートは、正しいポジショニングにいれば止めることはそれほど難しくはありません。シュートに対して、左右に飛んでボールを止める作業をすることなく、少し動くだけでボールを止めることができるからです。」

逆に言えば、このゾーンに侵入してから打つことに価値がある、ということです。

移動、移動、移動

ではビエルサゾーンで打てる状況まで、どう持ち込むか。ここでも相手を苦しめるのは「移動」です。レーンを横断するドリブルや移動は、味方や自分にわずかな時間を生みます。列を越える移動、とりわけシンプルな裏抜けは、相手に「ついていくか、いかないか」の二択を強います。

らいかーるとさんの鋭い指摘は、こちらの移動に対して相手の反応は常に2種類しかない、という点です。

ついていくか、いかないか。

だからこそ、こちらの行動に相手がどう出るかを事前に整理しておけば、試合中の判断は速くなります。これは選手だけでなく、私たち分析する側の視点としても有効です。

この列移動を使った代表的な攻撃が二つ挙げられています。

一つは「IH突撃」とらいかーるとさんが呼ぶ、マンチェスター・シティの代名詞とも言える攻撃です。

曖昧な位置のインサイドハーフがペナルティエリアへ飛び出し、相手に「誰がついていくか」を瞬時に決断させる形です。

もう一つは「高速ワンツー」。バルセロナの得意技で、縦パスをスイッチに出し手が猛スピードで前進し、さらに別の選手も走り込めば守備は大混乱に陥ります。

そして合わせ技として、おびき出して仕留める形です。一人が下りてボールを受けようとし、相手がついてきたら、空いた場所へ別の選手が侵入する。2010年代以降の人基準(マンツーマン志向)の守備に対して生まれた策です。

名古屋目線で言えば、森島やシャドーが下りて相手を引き出し、空いた背後へ別の選手が走り込む。

この「おびき出し」は、まさにミシャ式の旋回が狙う現象と地続きです。

クロス、クロス、クロス

クロスも立派な作戦です(モイーズ時代のマンチェスター・ユナイテッドが1試合81本を記録した、というのはやりすぎの例として紹介されています)。

2026年J1百年構想リーグの名古屋グランパスは、パスだけでなくクロスのチームでもありました。

項目CBP生値CBPリーグ平均との相対値
攻撃20.831.55
パス17.391.65
クロス2.791.63
ドリブル0.650.52
シュート10.291.45
奪取61.630.72
守備20.671.58

パブリックイメージではミシャ式はパスサッカーというイメージがありますが、ほぼ同じくらいクロスも多用されているわけです。なぜクロスが重要なのでしょうか。

クロスの本質的な利点は、相手の視野にあります。クロスが来る局面で守備者は確実にボールを見るため、その瞬間、自分のマークとボールを同一視野に収めるのが難しくなる。つまり相手が自由になる一瞬を作り出すのがクロスだ、というわけです。

高さが武器になるのは言うまでもありませんが、空中戦で優位に立てる選手がいなくても、スペースへ蹴る「アーリークロス」という選択があります。相手が戻りきる前に、低い位置からGKとDFの間へ速いボールを入れる形で、高さではなく位置取りとスピードで勝負します。

高さで挑む場合のセオリーは、自軍で最も空中戦に強い選手を、相手で最も弱い選手にぶつけることです。

らいかーるとさんは、セルビア代表がドイツ代表と対戦時、202センチのニコラ・ジギッチを170センチのフィリップ・ラームにぶつけた例を紹介しています。

狙いどころとしてはファーサイドが有効です。ボールサイドのSBはクロスを上げさせまいとエリア外におり、逆サイドのSBはファーで対応に追われがちで、そもそもSBは空中戦に強くない選手が多いからです。ただしファーサイドはビエルサゾーンから外れることになりがちなため、直接狙わずゴール前へ折り返す形も多くなります。

守備側の視点も押さえておくべきです。

守備者はクロスをまず「クリアー」したい。

繋ごう、止めて味方へ渡そう、というのは高リスクだからです。

では繋がせず、かつクリアーも困難なクロスとは何か?

らいかーるとさんは「自陣に下がりながらの対応を強いるクロス」と指摘します。

下がりながらでは強くアタックできず、身体の向きを変えさせられ、マーク対象も見失う。さらにGKとDFの間に入ればオウンゴールの危険まで生まれます。

ペナ角とペナルティーアークの間を通ってSBの守るファーサイドへ飛ぶボールは、守備者にとって最悪の一本だ、というわけです。

視野の大外からの奇襲

クロスとは別物として、「視野の大外からの奇襲」も保持側の最終手段として使われます。グアルディオラ時代のバルセロナが得意とした形で、IHがボールを持つ→相手がゴール前に密集する→その守備配置の外から主にSBが相手の背後へ走り込む→そこへ送球してフィニッシュ、または中央へ折り返す、という流れです。

通常のクロスとの違いは、上げる位置にあります。クロスがペナルティエリアの幅より外から上がるのに対し、奇襲は内レーンの、エリア少し手前からパスを出します。受け手までの距離が遠すぎると相手に対応されるので、近すぎず遠すぎずが肝心です。要は「相手が中央を固めるなら外から」という定跡の応用であり、名古屋がゴール前を固める相手を崩す際、大外のSBの位置に張りだした高嶺朋樹の背後への走り込みが、まさにこの奇襲の実装になり得ます。これはJ1百年構想リーグの名古屋グランパスの大きな武器になっていました。

天才を解き放て

第1章でも書かれたことですが、フリーになれるスペースの広さは選手によって違います。

最もスペースのないゴール前でも平然とプレーできてしまう選手がいます。技術がずば抜けていれば、狭いエリアでも広いエリアと同じプレーができてしまうのです。ドラガン・ストイコヴィッチ、ウェズレイ、マルケス。

天皇杯の決勝、サンフレッチェ広島の選手を何人も転ばせて優雅にゴールを奪ったピクシーの姿を知っているとイメージがつきやすいかもしれません。

ストイコビッチ 超フェイントゴール 2000/1/1 Dragan Stojković /amazing feint goal 

ただし、そうした選手は徹底マークを受けるため、その選手にボールを届ける出し手の技術もまた問われます。視線や身体の向きで相手と駆け引きし、相手を動かせるパサー。あるいはドリブルで相手を引きつけられる選手。最後は個の能力、という章題に立ち返れば、その「個」を解き放つための設計こそがチームの仕事だ、という結論になります。

分析の心構え

最後に、らいかーるとさんは分析者としての姿勢を説いて締めくくられています。

分析の手順は二段階です。

まず、起きている現象が「何がどうしてそうなったのか」を理解する。

次に、その現象の意図を探る。個人の意図かチームの意図か、何を狙ったのか、それは上手くいったのか、いかないならなぜか、理由は自分たちにあるのか相手にあるのか。

この解釈こそが最も面白い作業だ、とらいかーるとさんは言います。

そして締めの一文。

「答えは必ずピッチに落ちている」

私たちグラぽが日々のレビューで大切にしている姿勢そのものです。同じ場面を何度も繰り返し見れば、自分なりの答えは必ず見つかる。

この本で自分が一番大切にしている言葉です。

最後に

ここまで、名古屋グランパスを題材として、『アナリシス・アイ』を読み直してきました。ミシャ式は、9割方のグランパスファミリーの方が気づいているとおり、万能の戦術ではなく、かなりピーキーで、ほかの監督にはなかなか真似できない戦術です。

そして、現場の人が気になるであろう論点や「こういう実装があるぞ」という勘所の多くが、『アナリシス・アイ』の枠組みで説明できることもわかりました。もっとも、オリジナルのミシャ式をそのまま実装する監督は多くなく、サンフレッチェ広島時代の森保一監督のように、いいとこ取りをした監督のほうが結果を出しているのは皮肉なところです。

我々サポーターにできるのは、失点の多さにストレスを溜めることではありません。選手や監督がどういう意図でプレーを組み立てているかを知ることで、「何故だ、どうしてこんなことを」という不安や不満を減らし、「この狙いをうまくこなせた」という瞬間に拍手を送れるようになることだと思います。サッカーを知ることで、感情をプラスの方向へ持っていけるようにしましょう。

ただ、『アナリシス・アイ』は2019年の書籍です。ミシャ式も古くからある戦術なので、その文脈でほとんど説明できてしまいました。では7年が経った2026年、サッカーはどう変わってきているのか

次回は『アナリシス・ブレイン』を読みながら確認していきましょう。

About The Author

グラぽ編集長
大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

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