はじめに
スペインの4大会ぶり2度目の優勝で、北中米ワールドカップが幕を閉じました。1カ月間、世界最高峰の戦いを見続けて、多くの方がこう感じたのではないでしょうか。「4バックのチームばかりだったな」と。
その印象は正しいのか。正しいとして、なぜそうなったのか。そしてそれは、8月に開幕するJ1リーグ2026-27シーズンを、20年来の「415の使い手」ミハイロ・ペトロヴィッチ監督とともに戦う名古屋グランパスにとって、何を意味するのか。
この問いに、3回に分けて答えていきます。前編はW杯です。全48チームの成績を集計して、3バックに何が起きたのかを確かめます。中編で名古屋の百年構想リーグ20試合のデータと、7月25日の北海道コンサドーレ札幌とのプレシーズンマッチを見ます。後編で来季の課題と提言をまとめます。
前編の結論を先に書いておきます。データからは「3バック時代の終わり」と「5バック攻略法の確立」が読み取れました。どちらも、あとで名古屋の話につながります。
データ検証1:W杯2026、3バックに何が起きたか
まず、W杯に出場した全48チームを、基本システムの最終ラインの枚数によって「3バック(12チーム)」と「4バック(36チーム)」の2グループに分け、それぞれの全成績を合算して集計しました。結果が下の表です。
3バック(12チーム) | 4バック(36チーム) | |
|---|---|---|
総試合数 | 42 | 166 |
勝敗 | 8勝8分26敗 | 72勝40分54敗 |
勝率 | 19.0% | 43.4% |
勝ち点/試合 | 0.76 | 1.54 |
得点/試合 | 1.00 | 1.60 |
失点/試合 | 1.86 | 1.39 |
得失点差/試合 | -0.86 | +0.22 |
表の読み方をひとつだけ補足します。2つのグループはチーム数も試合数も違うため、そのまま合計を比べても意味がありません。そこで「1試合あたり」に換算した数字(勝ち点/試合、得点/試合、失点/試合)で比較しています。勝ち点/試合は、勝ちを3点・引き分けを1点として、1試合平均でどれだけ勝ち点を稼いだかを表す数字です。
数字の差は、かなりのものでした。3バック勢の勝率は19.0%と、4バック勢の43.4%の半分以下。勝ち点を稼ぐペースも0.76対1.54で、およそ2倍の開きがあります。内訳を見ると、得点は1試合あたり1.00対1.60で3バック勢の方が0.6点少なく、失点は1.86対1.39で逆に0.47点多い。3バック勢は点が取れておらず、同時に守れてもいませんでした。攻守の両面で数字が悪かったことになります。守備の人数を増やすためのシステムであるはずの3バックの方が、失点が多かった。ここは後ほど触れる「5バック殺し」の話につながるので、頭の隅に置いておいてください。
さらに、それぞれのチームがどのラウンドまで勝ち残れたかを調べると、もっとはっきりした事実が浮かび上がります。ラウンド16(ベスト16)に進んだ3バックのチームは、ひとつもありませんでした。
3バックの12チームのうち半分の6チーム(日本、クロアチア、オーストラリア、スウェーデン、南アフリカ、コンゴ)は、決勝トーナメント1回戦にあたるラウンド32までは進みました。しかし、そこで6チームすべてが敗退。今大会は、ベスト16から決勝までのすべての試合が、4バックのチームだけで戦われた大会でした。ベスト4に残ったのもスペイン(4-3-3)、フランス(4-2-3-1)、アルゼンチン(4-4-2)、イングランド(4-2-3-1)の4カ国で、当然ながらすべて4バックです。
この数字だけで「3バックは弱い」と言ってしまってよいのか
ただ、この成績差から「3バックというシステムが劣っている証拠だ」と受け取るのは、少し早い気がします。
そもそも、4バックのチームでも4-3-3のサイドバックが高い位置を取り、中盤3枚のうち1枚がDFラインに落ちる変形をするチームも多かったので、これは3-2-5になります。4-3-3 → 3-2-5変形はよくある形です。
3バックを採用した12チームの顔ぶれを、あらためて眺めてみてください。チュニジア、ヨルダン、ウズベキスタン、パナマ。失礼な言い方になってしまいますが、優勝候補と目されていた国はひとつもありません。今のサッカーで3バックを選ぶのは、格上との対戦が続くことを前提に、後ろの枚数を増やして耐える道を選んだ中堅国が多いのです。
だとすると、順序が逆かもしれません。3バックだから勝てなかったのか。それとも、勝つのが難しい立場だったから3バックを選んだのか。この2つは、成績表を眺めているだけでは区別がつきません。システムの優劣を測ったつもりが、実は出場国の力関係を測り直しただけ、ということが起こり得ます。
日本の結果だけ見ると3バックの12チームの中で、4試合8得点・得失点差プラス3は群を抜いた数字でした。得失点差がプラスだったのは、12チームの中で日本だけです。同じ3バックでも、日本の3バックは(ブラジル戦以外では)機能していたと言えるのではないでしょうか?
ここで少し寄り道をして、日本の4試合を並べてみます。この大会の3バックを考えるうえで、いちばん参考になる材料だと思うからです。
結果 | どんな試合だったか | |
|---|---|---|
オランダ | 2-2 | 打ち合って引き分け。守りを固めた試合ではない |
チュニジア | 4-0 | 5-3-2で守る相手を崩しての快勝。W杯1試合最多の4得点 |
スウェーデン | 1-1 | ポゼッションも決定機も上回る。 |
ブラジル | 1-2 | ボールを譲り、自陣にブロックを敷いて耐える展開 |
こうして見ると、日本を「引いて守るチーム」と呼ぶのは正確ではありません。
守りを固めて耐えたのはブラジル戦だけで、それ以外の3試合では、むしろ日本のほうがボールを持って攻めていました。とりわけチュニジアは5-3-2でゴール前を固めてくるチームで、この試合の日本は、まさに5枚のブロックを崩す側に回っていました。83分の4点目が佐野のクロスを上田がヘディングで合わせたものだったことも、後で触れる話につながってきます。
では、日本の何が「引いた」のか。日本が自分から引いたというより、相手に押し込まれた結果でした。ブラジルという格上と当たった瞬間、3-4-2-1は自動的に5-2-3へと姿を変えました。今大会の3バックを見るうえで、ここがいちばん大事なところだと思います。
今大会で姿を消したのは、3バックで引きこもる、あるいは5バックで引きこもり、守って引き分け(あるいはPK戦での勝利)を狙うという戦い方です。日本のようにボールを持って攻めることもできる3バックは残りましたが、格上と当たると強制的に5枚まで押し下げられました。そうなると引きこもったチームの戦い方と変わりません。
3バックは、どうやって狩られていったのか
2020年代の前半、クラブサッカーの世界を席巻した3-2-5という攻撃の形があります。ピッチを縦に5本の帯(レーン)に分けて考えたとき、その5本すべてに1人ずつ選手を立たせてしまう。前に5人、その後ろに2人、いちばん後ろに3人。だから3-2-5です。
守る側は困ります。4バックでは横に4人しかいないので、5人に攻められると数が足りません。誰かがどこかで浮いてしまう。この「どうやっても足りない」という状況を作り出したことが、3-2-5が4バック殺しと呼ばれた理由でした。
3-2-5は2パターンあります。3-4-3の両WBが大外ウイング化するパターン。
もう一つが上でも書いたように4-3-3の中央のMFが1枚DFラインに落ち、代わりにサイドバックがFWラインの大外ウイングの位置まで上がるというパターンです。
結果的に同じかたちに変形するのに、なぜ3-4-3ベースのチームは結果が出なかったのでしょうか?
その違いは、守備時が3バック(5バック)なのか、4バックなのかにあるのでは?というのが私の仮説です。
ひとつ目は、今回比較的多かった4-3-3という並びが3-2-5の弱点をきれいに突いてしまうことです。3-2-5の怖さは前の5人にありますが、その5人にボールを届けるのは、後ろに残った3人と2人、合わせて5人の役目です。ここに4-3-3で守りに行くと、前線の3人が相手の3バックにそのまま1人ずつつくことができ、中盤の3人は相手の2人に対して1人多い状態になります。ボールの出どころを人数で上回れるわけです。
前に運べなくなったチームに残された道は、両サイドのウイングバックを下げて受けさせることぐらいしかありません。しかしウイングバックが下がった瞬間、最終ラインは3人から5人に増え、前の5人は3人に減ります。3-2-5だったはずのチームが、気づけば5-2-3。押し込まれた形に変わってしまうのです。
ここで注目したいのが、両サイドのウイングバックです。3-2-5で前に並ぶ5人のうち、いちばん外側で幅を作っているのはこの2人でした。そして押し込まれて5枚で守るとき、最終ラインの両端に立って幅を埋めるのも、やはりこの2人です。攻めるときは相手陣の深いところ、守るときは自陣のゴール前。同じ選手が、ピッチの端から端まで往復しながら、まったく違う2つの仕事を兼任していることになります。
そう考えると、3-2-5が5-2-3に変わるといっても、11人が総入れ替えになるわけではありません。動いているのは、基本的にこのウイングバック2人だけです。2人が高い位置に立っていれば3-2-5、下がれば5-2-3。前の5人は3人に減り、後ろの3人は5人に増える。たった2人の立ち位置で、チーム全体の姿がまるごと切り替わってしまいます。
相手にしてみれば、これはありがたい話です。チーム全体を押し込む必要はなく、この2人を自陣に釘付けにするだけで、相手を守備的な形に変えてしまえるのですから。しかも一度下がってしまうと、前線に残るのは3人だけ。相手の最終ライン4人に対して数が足りず、ボールを預ける先がありません。前に運べないからウイングバックも上がれず、上がれないから前が3人のまま。こうして、下がった状態から抜け出せなくなっていきます。
そして、押し込まれ方にはもう一段先があります。前に残った3人のうち、両脇のシャドー2人まで守備の手伝いに戻ってしまうと、中盤に4人が並ぶ5-4-1になります。前線に残るのは、たった1人です。
ここまで下がると、守備は別の意味で苦しくなります。1人で相手のセンターバックを追いかけても、横パス1本で簡単に外されてしまうからです。プレスというのは、味方が連動して逃げ道を消すから成立するもので、1人ではどうにもなりません。相手のセンターバックは誰にも追われないまま、顔を上げて好きなだけボールを持てます。急かされないので、こちらの守備が整っていない瞬間を探しながら、じっくり狙いを定めて配球できる。守る側は、ボールを奪いに行く手段そのものを失ってしまいます。
しかも、たまたま奪えたとしても、前には1人しかいません。せっかく奪ったボールを預ける相手がおらず、すぐにまた奪い返されて、また押し込まれる。5-4-1まで下がると、守備を固めた見返りに、攻め返す手段まで自分で手放すことになります。
攻めるときの幅と、守るときの幅を、同じ2人にまとめて担ってもらう。人数を無駄なく使えるという意味では、これは3-2-5のよくできたところです。ただ、その2人が下がらされた瞬間から、同じ仕組みが今度は上がれない理由になります。
ふたつ目は、3-2-5が想定していた「相手」が、もういないことです。この形が流行った頃、守る側の標準は4-4-2で場所を守るやり方でした。4人と4人が横に並んだ2本のラインの間に立てば、誰も捕まえに来ない。5レーンを埋めるという発想は、その隙間を突くためのものでした。
けれど今の守り方は違います。人につく守備が増え、必要とあれば守備のときだけ後ろを5人にするチームも当たり前になりました。メンバー表に4バックと書いてあっても、実際に4人で守っているとは限らないのです。そうなると、3バックで並び続けることの見返りは目減りしていきます。相手が数を合わせてくれば、こちらが人数で作った差は消えてしまうからです。
3つ目は、代表チームという環境そのものです。3-2-5で相手を崩し切るには、選手同士が言葉を交わさなくても動きが噛み合うくらいの反復練習が要ります。ところが代表は集まれる時間が短く、代表活動の度に顔を合わせるメンバーで相互理解を深めるのは難しいのが正直なところでしょう。メンバーを大きく入れ替えたチュニジアが日本に対してあっさり敗れたのも、そのあたりに原因がありそうです。
日本のように、格下相手にはボールを持って攻め、格上相手には5枚で耐える。そうやって相手によって表情を変えられる3バックだけが勝ち点を拾えたのも、この事情を考えれば自然なことだったのだと思います。
ただし、ここには続きがあります。相手によって表情を変えられるということは、裏を返せば、相手が強ければ表情を変えさせられるということでもあります。日本もブラジル戦では、自分から選んだというより、押し込まれて5-2-3になりました。そして押し込まれた5枚に何が起きたのかが、次の話です。
そして今度は、5枚のブロックが狙われはじめた
3-2-5を5-2-3に押し込む方法が広まると、次の宿題が生まれます。押し込んだあと、その5人が並んだ壁をどうやって破るのか。ゴール前に人が敷き詰められた状態から、どうやって点を取るのか。W杯2026は、その答えらしきものを見せてくれました。大きく外を経由して、遠いサイドへ放り込むクロスです。
印象に残った場面が2つあります。ひとつはラウンド32の日本対ブラジル。5-2-3で押し込まれた日本は、大外から逆サイドを狙って繰り返し放り込まれ、そこから失点しました。
もうひとつは決勝です。終盤に退場者を出して5-2-2で守りを固めたアルゼンチンに対し、スペインは延長で大外からのクロスを逆サイドに送り、その折り返しをフェラン・トーレスが押し込みました。この試合唯一のゴールが、そのまま優勝を決めました。
なぜ、このクロスが5人の壁に効くのでしょうか。
5人で守ることの利点は、ピッチの横幅をカバーできることです。ただしボールが右に寄れば、5人はそろって右へスライドします。このとき左端のウイングバックは、相手の選手を前に置いたまま、味方から離れてぽつんと取り残されがちです。
そしてクロスが上がる瞬間、5人の視線も体の向きも、いっせいにボールへ向きます。人間なので当然です。
ところがその一瞬、いちばん遠いサイドのゴールポストの奥、そこは誰の目にも入っていません。横幅を埋めるために5人並べたのに、その5人がそろってボールを見ています。しかも押し込まれているぶん、クロスを上げる相手のところまで誰も寄せに行けません。
名古屋グランパスのように人につく守り方をしていても事情は同じです。ボールが右から左へ大きく移動する数秒のあいだ、自分のマークを見失わずについていくのは、守備のなかでもとりわけ難しい作業だからです。
押し込んで5人を並ばせる方法と、並んだ5人を遠いサイドから崩す方法。この2つがそろったことで、「5-2-3に押し込んで、そこから逆サイドへ放り込む」は、5枚のブロックを壊すための定石になりました。ワールドカップという舞台で、全世界に共有されたことになります。
次回、中編へ
この話は名古屋にも跳ね返ってきます。ミシャ式の名古屋は、押し込まれれば5枚で守るチームです。J1に「5-2-3に押し込んでから逆サイドへ放り込む」を持ち込むクラブが出てきたとき、いちばん分かりやすい標的になりかねません。逆に、5枚で撤退するチームだらけのJ1で、この定石を先に使う側に回ることもできます。そう、北海道コンサドーレ札幌戦で白男川選手が何度もこのファーサイドクロスを狙っていたのを覚えているでしょうか。
ただ、そこへ進む前に確かめておきたいことがあります。去年の名古屋は、実際のところどれくらいのチームだったのか。中編では百年構想リーグ20試合のデータを開きます。首位に立ったあの2試合が何だったのか。第17節からの失速が不運だったのか、それとも対策だったのか。数字は、けっこうはっきりした答えを返してきました。お楽しみに


